仕組債を組成する発行体と、反対側に立つディーラーは、クーポンの条件と満期のノックインから商品の損益を組み立て、評価とヘッジを行います。

観測日ごとに決まる早期償還とクーポン

オートコールは、あらかじめ決めた観測日に原資産の価格が決めた水準以上になると、仕組債が満期の前に自動で償還される仕組みです1。償還されると、投資家は額面とクーポンを受け取って取引が終わります。EB 債との関係はエクイティ・エキゾチックの全体像で扱います。

受け取りは、次の 3 つの水準で決まります。Bank Vontobel AG の最終条件書(CH1512011946。3 銘柄を参照するワースト・オブ型。以下「Vontobel の条件書」)では、3 つとも当初の株価に対する割合で決めています2。

水準 判定する日 判定の結果
早期償還の水準 早期償還の観測日 以上なら、額面とクーポンで償還して取引が終わる
クーポンの水準 クーポンの観測日 以上なら、その回のクーポンを払う
ノックイン水準 満期(期間中に判定する型もある) 以下なら、満期の償還額が額面を下回る

クーポンの観測日のうち、途中の観測日から早期償還の判定を始める契約があります(Vontobel の条件書の例)2。水準を観測日ごとに変える型もあり、Huang と Luo の論文の例では、早期償還の水準が観測日ごとに 3,050 から 3,250 まで段階的に上がります(資料は単位を書いていません)3。複数の銘柄を参照して最悪の銘柄で判定するワースト・オブ型もあります。

クーポンの形

クーポンには、観測日の株価が水準以上のときだけ払う条件付きの形があります4。クーポンの水準を早期償還の水準より低く置けば、株価が償還の水準に届かない観測日にもクーポンを払えます。

条件付きクーポンの変種が、払われなかった分を後で受け取れるメモリー付きクーポンです。払い方は商品の条件で決まり、ここでは Vontobel の条件書の払い方を例にします。この条件書では、ある観測日に株価が水準以上になったとき、直前にクーポンを払った日以降に払われなかった回数の分を、その回の分と合わせて払います5。

Ct=A×c×(Nt+1)C_t = A \times c \times (N_t + 1)

これは Vontobel の条件書の式です。AA は額面、cc は 1 回分のクーポン率、NtN_t は観測日 tt より前に、直近のクーポンの支払い以降でクーポンを払わなかった回数です。この条件書では、早期償還の日にも、額面に加えてこの式のクーポンを払います5。後の観測日に一度も株価が水準以上にならなければ、払われなかった分は受け取れません(式の帰結です)。

満期の償還とノックイン・プット

満期まで早期償還されなかったときの償還額は、ノックインしたかどうかで決まります。ノックインの判定には、期間中の株価で見る型と、満期の株価だけで見る型があります67。ここでは満期の償還額への効き方だけを見ます。

型 ノックインの判定 満期の償還額
満期の株価だけで判定 満期の株価がノックイン水準以下 ノックインなら A×ST/S0A \times S_T / S_0、しなければ AA
期間中の株価で判定 期間中に一度でもノックイン水準以下 ノックインしていて、満期の株価が当初を下回れば A×ST/S0A \times S_T / S_0、そうでなければ AA

S0S_0 は当初の株価、STS_T は満期の株価です。期間中に判定する型の EB 債では、償還額が株式などで渡されることがあり、金額にすると上の式と同じです6。

投資家は、ノックインしたときに限って、満期の株価が当初の水準を下回った分の損失を負います。これは、当初の株価を権利行使価格とし、ノックインして初めて効くプット・オプション、つまりノックイン・プットを売ったのと同じ形です6。例えば、当初の株価が 100 で満期に 70 になると、プットの売り手は 100 で買う義務を負って 30 の損失を負います。ノックインした EB 債の償還額も 100 の額面に対して 70 で、損失は同じです6。

満期の株価だけで判定する型では、満期の株価がノックイン水準を少し下回るか上回るかで、償還額が大きく変わります。次の例で示します。

数値の例:2 年、4 回の観測

R 社の株式に連動する、額面 100 万円、期間 2 年のオートコールの架空の例で考えます。観測日は 6 か月後、1 年後、1.5 年後、2 年後(満期)の 4 回で、R 社の当初の株価は 3,000 円です。クーポンはメモリー付きで、ノックインは満期の株価だけで判定します。

条件 内容
早期償還 観測日の株価が 3,000 円以上(当初の 100%)なら、額面とその回のクーポンで償還
クーポン 観測日の株価が 2,100 円以上(当初の 70%)なら 3 万円(額面の 3%)。払われなかった分は、後の観測日にまとめて払う
ノックイン 満期の株価が 1,800 円以下(当初の 60%)
満期の償還 ノックインなら 100 万円 × 満期の株価 ÷ 3,000 円。それ以外は 100 万円

お金の時間価値(割引)、発行体の信用、手数料と税は考えず、発行価格は額面と同じ、受け取りは各観測日に払われるものとします。

場合 4 回の観測日の株価(円) 受け取りの内訳(万円) 合計(万円) 額面との差(万円)
A 3,300(償還) 1 回目に償還。額面 100、クーポン 3 103 +3
B 2,400、3,100(償還) 1 回目にクーポン 3。2 回目に償還し、額面 100、クーポン 3 106 +6
C 1,900、2,200、2,700、2,800 2 回目にクーポン 6(1 回目の分を含む)、3 回目に 3、満期にクーポン 3 と額面 100 112 +12
D 2,500、2,300、2,200、1,650 クーポン 3 を 3 回。満期はノックインして 100 × 1,650 ÷ 3,000 = 55 64 −36
E 1,900、1,700、1,600、1,500 クーポンなし。満期はノックインして 100 × 1,500 ÷ 3,000 = 50 50 −50
F 1,900、2,000、2,050、1,900 クーポンなし。満期の株価 1,900 円はノックイン水準 1,800 円を上回り、額面 100 100 0
↑ 受取 ↓ 支払オートコールを買った投資家から見た受け払い購入時6 か月後1 年後1.5 年後2 年後−100 万円額面の払い込み+6 万円クーポン 2 回分+3 万円クーポン+103 万円クーポンと額面
図 1場合 C で投資家が受け取るクーポンと額面
図の説明

投資家は購入時に額面 100 万円を払います。6 か月後は株価が 1,900 円でクーポンの水準 2,100 円を下回り、受け取りはありません。1 年後は株価が 2,200 円でクーポンの水準を上回り、1 回目の分と合わせてクーポン 6 万円を受け取ります。1.5 年後にクーポン 3 万円を受け取り、満期の 2 年後は株価が 2,800 円でノックインせず、クーポン 3 万円と額面 100 万円の合わせて 103 万円を受け取ります。矢印の長さは金額の大きさの目安です。

C では、メモリーがなければ 6 か月後の分の 3 万円は受け取れず、合計は 109 万円です。メモリー付きなので 112 万円になります。A では株価が 10% 上がっていますが、受け取りは額面と 1 回分のクーポンの 103 万円までです。D は 3 回のクーポンで 9 万円を受け取っても、ノックインした満期の償還額が 55 万円なので、合計は額面を 36 万円下回ります。E は株価が当初の半分になり、償還額も額面の半分の 50 万円です。F は一度もクーポンを受け取れませんが、満期の株価がノックイン水準を上回るため、額面は戻ります。満期の株価が 1,800 円ちょうどなら償還額は 60 万円で、1,800 円を少しでも上回ると 100 万円です。

評価:離散の観測日は閉じた式で解きにくい

オートコールの償還の時期とクーポンは、観測日ごとの株価で決まり、価格は途中の株価の動きに左右されます。経路依存型オプションの一種で、評価には原資産、金利、ボラティリティが関わります8。

ブラック・ショールズ・モデルの枠組みでは、株価を連続して監視する型の価値には単純な閉じた式があります。観測日が離散の型は、式が多重積分になり、観測日が 5 回を超えると数値で積分するのも難しくなります9。実務では、離散の型の評価にモンテカルロ法が広く使われます。収束が遅いため分散低減法などの工夫が要ります。偏微分方程式を差分法で解く方法もあります9。受け取りが株価に対して不連続に変わるため、差分法では受け取りを滑らかにするなど、精度を保つ工夫が要ります9。詳しくはモンテカルロ法で扱います。

反対側のディーラーのヘッジが難しい点

投資家がノックイン・プットを売るため、反対側に立つディーラーは、そのプットを買った形になります。ディーラーのヘッジの一般は、「エクイティ・エキゾチックの全体像」の「ディーラーに残るリスク」の節で扱います。オートコールに固有の点は、観測日の近くで感応度が大きく動くことです。

3 銘柄を参照するオートコールの数値実験では、観測日の近くでデルタとガンマが大きく変わり、デルタとガンマを中立に保つのが難しくなります10。原資産を売買して動的にヘッジする発行者の採算は、市場が不安定なとき、受け取りが複雑なとき、投資期間が長いときに大きく下がります11。

投資家の損益の形

投資家の最大の受け取りは、額面とクーポンの合計です12。株価が値上がりしても、受け取りは早期償還の額面とクーポンまでで、値上がり益はクーポンを超えて得られません6。この点は株式を持つ場合と違います。

損失は、ノックインした後の株価の下落から生じます。損失の大きさは、満期の株価が当初の水準を下回った割合に等しく、株価がゼロになれば、クーポンを受け取っても投資した元本のすべてを失います12。ノックインしなければ、クーポンの有無にかかわらず、額面は戻ります(場合 F)。投資家は、発行者の信用リスクも負います13。

ノックインしていなくても、期間中の商品の価格は、発行価格を大きく下回ることがあります12。金融庁は、早期償還の後に買い替えると、株価が上がった後で買うことになり、ノックイン水準も上がりがちだと指摘しています14。

注

  1. The Options Industry Council「Analysis on Structured Products and Listed Equity Options in Europe(Part 1)」(SRP、2015 年)の 39 ページ、Glossary of Terms の「Autocallable」。 ↩

  2. Bank Vontobel AG「Final Terms Barrier Reverse Convertible with Conditional Coupon」(CH1512011946、2026 年)の 2 ページ(Barrier、Coupon Level、Autocall Level)と 3 ページ(観測日の違い)。 ↩ ↩2

  3. Min Huang、Guo Luo「A simple and efficient numerical method for pricing discretely monitored early-exercise options」の 1〜2 ページ(1.1 節)と 14 ページの Table 1(7.1 節)。 ↩

  4. Anil Sharma ほか「Hedging and Pricing Structured Products Featuring Multiple Underlying Assets」(ICAIF 2024)の 3 ページ(3 節)と Table 1 の Coupon Barrier。 ↩

  5. Vontobel の条件書の 2 ページ(memory effect)と 3 ページ(Coupon Payment の式、Early Redemption)。式の記号は Nominal Value と N(クーポンを払わなかった回数)に対応します。 ↩ ↩2

  6. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29 ページと脚注 26、27、図表 22。期間中にノックインした EB 債の償還と、プットとの損失の対応。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  7. Bank Vontobel AG「Final Terms Barrier Reverse Convertible with Conditional Coupon」(CH1512011946)の 2 ページ(Barrier Monitoring)と 3 ページ(Redemption)。満期の株価だけで判定する型の例。 ↩

  8. Anil Sharma ほか「Hedging and Pricing Structured Products Featuring Multiple Underlying Assets」(ICAIF 2024)の 3 ページ、3 節。 ↩

  9. Min Huang、Guo Luo「A simple and efficient numerical method for pricing discretely monitored early-exercise options」の 2 ページ、1.1 節。ブラック・ショールズの枠組みでの記述。 ↩ ↩2 ↩3

  10. Anil Sharma ほか「Hedging and Pricing Structured Products Featuring Multiple Underlying Assets」(ICAIF 2024)の 3 ページ、3 節。3 銘柄を参照するオートコールの数値実験の記述。 ↩

  11. The Options Industry Council「Analysis on Structured Products and Listed Equity Options in Europe(Part 1)」(SRP、2015 年)の 22 ページ、「Dynamic hedging」。 ↩

  12. Bank Vontobel AG「Final Terms Barrier Reverse Convertible with Conditional Coupon」(CH1512011946)の 5 ページ、Prospects of Profit and Losses。 ↩ ↩2 ↩3

  13. Bank Vontobel AG「Final Terms Barrier Reverse Convertible with Conditional Coupon」(CH1512011946)の 1 ページと 2 ページ、「The investors bear the Issuer's credit risk」。 ↩

  14. 金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(2022 年 6 月)の 29〜30 ページ。 ↩