オプションの持ち高を持つ金融機関では、ヘッジや限度の管理にあたる人が、ガンマとベガを使います。デルタ・ヘッジの後にも日々の損益が残る理由を、ガンマとセータに分けて説明するためです。

デルタ・ヘッジ後の損益(ガンマとセータ)

デルタに合わせて原資産を売買し、デルタを 0 にしたオプションの持ち高でも、損益は 0 になりません。原資産の価格が大きく動くとガンマの分の利益か損失が出て、時間がたつとセータの分だけ価値が減るためです。デルタ・ヘッジの手順とヘッジの量の直し方はデルタ・ヘッジのページで扱います。

デルタ・ヘッジしたオプションの買いの持ち高の、短い期間 Δt\Delta t の損益は、次の式で近似できます1。

損益≈12 ΓS2[(ΔSS)2−σ2Δt]\text{損益} \approx \frac{1}{2}\,\Gamma S^2 \left[\left(\frac{\Delta S}{S}\right)^2 - \sigma^2 \Delta t\right]

SS は原資産の価格、ΔS\Delta S はその期間の値動き、Γ\Gamma はガンマ、σ\sigma はオプションの値付けに使ったインプライド・ボラティリティです。かっこの 1 つ目の項は実際に起きた値動きの率の 2 乗で、ガンマによる利益を表します。2 つ目の項はインプライド・ボラティリティが見込んだ値動きの率の 2 乗で、セータのうち、デルタ・ヘッジの現金につく金利に見合う分を除いた価値の減りを表します。セータの残りの金利の分は、その現金につく金利と打ち消し合うため、損益はこの 2 つの項の差になります2。

このページでは、原資産の価格 100、行使価格 100、残存期間 1 年、金利 1%、ボラティリティ 20% のコール・オプション(コール)を、例のコールと呼びます。例のコールの 1 日のセータ −0.0121 のうち、−0.0108 が 2 つ目の項にあたる価値の減りです3。

値動きの率が σΔt\sigma\sqrt{\Delta t} と同じなら、2 つの項は打ち消し合って損益はおよそ 0 です。この値動きを、損益が 0 になる値動きと呼ぶことにします。インプライド・ボラティリティ 20%、1 日(1 年を 365 日とする)では 0.2×1/365=1.0468%0.2 \times \sqrt{1/365} = 1.0468\% で、原資産の価格 100 なら 1.05 ほどの値動きです。

深掘りセータのうちガンマの分と金利の分

ブラック・ショールズの偏微分方程式から、配当のない原資産のオプションの価格 VV、デルタ δ\delta、ガンマ Γ\Gamma、セータ Θ\Theta(1 年あたり)には次の関係があります2。

Θ+rSδ+12σ2S2Γ=rV\Theta + rS\delta + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2 \Gamma = rV

オプションを 1 単位買い、原資産を δ\delta 単位売ると、手元の現金は δS−V\delta S - V になり、金利 rr で増えます。期間 Δt\Delta t の損益は、オプションの値上がり(ΘΔt+δΔS+12Γ(ΔS)2\Theta\Delta t + \delta\Delta S + \frac{1}{2}\Gamma(\Delta S)^2)、原資産の売りの損益(−δΔS-\delta\Delta S)、現金の金利(r(δS−V)Δtr(\delta S - V)\Delta t)の合計です。上の関係で Θ\Theta を置き換えると、デルタの項と金利の項が消え、本文の式が残ります。

本文の −0.0108 はガンマの分(12Γσ2S2÷365\frac{1}{2}\Gamma\sigma^2 S^2 \div 365)で、例のコールの 1 日あたりのセータのうち残る −0.0013 が金利の分です。金利の分は、デルタ・ヘッジの現金につく金利とちょうど打ち消し合います3。

例のコールを 1 単位買ってデルタ・ヘッジし、1 日後に原資産の価格が動いたときの損益を比べます。比べるのは、式による近似と、ブラック・ショールズ・モデルで計算し直した結果です。計算し直すときは、1 日後の価格を残存期間 364 日で求め、原資産の売りと現金の金利 1 日分を足します。例のコールのガンマは 0.0197 です3。

1 日の値動き 式による近似 計算し直した損益
0 −0.0108 −0.0108
+1 −0.0009 −0.0011
−1 −0.0009 −0.0008
+2 0.0286 0.0280
−2 0.0286 0.0293
+3 0.0780 0.0761
−3 0.0780 0.0797

値動きが 1 では損益 0 になる値動き(1.05)に届かず、わずかな損失です。2 と 3 では、上げでも下げでも利益になります。式による近似は、上げと下げで同じ値になります。計算し直した損益との差は、値動きが大きいほど広がりますが、3 の値動きでも 0.002 ほどです。

ガンマの買いと売り

オプションの買いはガンマがプラスで、デルタ・ヘッジすると、値動きが大きい日に利益、小さい日に損失が出ます。この持ち高をガンマの買い(ロング・ガンマ)といいます。ガンマの買いの対価は、買うときに払うプレミアムです。デルタ・ヘッジした持ち高では、その対価が、値動きの小さい日のセータの損失として少しずつ表れます4。

オプションの売りはガンマがマイナスで、損益の向きが逆になります。デルタ・ヘッジしたオプションの売りは、原資産の値動きが小さい日は利益になりますが、上げでも下げでも大きな値動きがあると損失になります。ただし、その損失は、ヘッジをしないで売ったままにしたときより小さくなります5。前の節の表で符号を逆にすると、例のコールを 1 単位売ってデルタ・ヘッジした持ち高の 1 日の損益は、値動きのない日に 0.0108 の利益、2 の値動きで 0.0280〜0.0293 の損失です。

1 日ごとの損益を満期まで足すと、満期までに実際に起きた値動きの大きさ(年率。以下、実現ボラティリティ)がインプライド・ボラティリティを上回ればガンマの買いは平均して利益になり、下回れば平均して損失になります6。次のシミュレーターで、立場と 2 つのボラティリティを変えて確かめられます。

例のコールと同じ条件(残存期間 1 年、インプライド・ボラティリティ 20%)で、コールを買い、1 年に 250 回(時点 0 を含む)デルタ・ヘッジします。実現ボラティリティが 25% の 2,000 本の経路では、損益の平均は 1.99 です。損益の 90% は 0.60 から 3.82 の間に入ります7。実現ボラティリティを 15% にすると損益の平均は −1.97 になり、立場を売りにすると、同じ条件で符号が逆になります。

シミュレーターガンマの買いと売りの損益
入力
立場
オプションの種類
デルタを求めるボラティリティ
年
%
%
%
回
本
02468100123456割合(%)ヘッジした損益(1 単位あたり)
0510152050100150200250損益の標準偏差ヘッジの回数
  • 損益の標準偏差
  • 1/√回数 に比例する線(250 回に合わせる)
オプションの価格(インプライド・ボラティリティ)
8.43
実現ボラティリティで値付けした価格
10.40
損益の平均の理論値
1.97
損益の平均(± 標準誤差)
1.99 ± 0.02
損益の標準偏差
1.01
損益の 5% 点 / 95% 点
0.60 / 3.82

単純化している点

  • 原資産の価格は、実現ボラティリティの幾何ブラウン運動に従い、期待収益率は金利と同じとします(リスク中立の測度)。配当はありません。
  • オプションはインプライド・ボラティリティのブラック・ショールズの価格で売買し、デルタは選んだボラティリティで求めます。
  • ヘッジは、時点 0 から満期の前までを等しい間隔に分けた時点で行います(回数は時点 0 を含みます。1 回なら時点 0 にだけヘッジし、その後は直しません)。売買の手数料と売値と買値の差は考えません。
  • 損益は時点 0 の価値に割り引いた、オプション 1 単位あたりの値です。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

立場(買いか売り)、インプライド・ボラティリティ、実現ボラティリティを変えると、デルタ・ヘッジした持ち高の損益の分布と平均が変わります。初期値は、残存期間 1 年のコールを買い、1 年に 250 回ヘッジし、実現ボラティリティがインプライド・ボラティリティより 5 ポイント高い場合で、損益の標準偏差は 1.01 です。立場を売りにすると、分布の左右が入れ替わります。どの場合も、損益は経路によってばらつきます。

損益は値動きが起きた場所で変わる

同じ大きさの値動きでも、損益はそのときのガンマで重みづけされます。1 つ目の節の式で、値動きの率にかかる 12ΓS2\frac{1}{2}\Gamma S^2 は、原資産の価格が行使価格の近くにあるときに大きく、行使価格から離れると 0 に近づきます8。そのため、満期までの実現ボラティリティが同じでも、大きな値動きが行使価格の近くで起きたか、離れたところで起きたかで、損益は変わります。

ガンマが原資産の価格によってどう変わるかを、残存期間 3 か月と 1 年のコールで描くと、次の図のとおりです。

ガンマ残存期間 3 か月残存期間 1 年0.000.010.020.030.040.05708090100110120130行使価格 100原資産の価格
図 1原資産の価格とガンマ
図の説明

行使価格 100、金利 1%、ボラティリティ 20% のコールのガンマを、原資産の価格を横軸にして 2 本の曲線で描いた図です。どちらも行使価格 100 の近くで高い山の形をしています。3 か月は離れると 0 に近づき、1 年は山がなだらかで、描いた範囲の両端でも 0 までは下がりません。原資産の価格 100 での高さは、残存期間 3 か月が 0.0398、1 年が 0.0197 で、残存期間が短いほど山は高く、狭くなります。大きな値動きの損益が行使価格の近くで大きくなるのは、ガンマがこの形をしているためです。

残存期間 3 か月、行使価格 100 のコールを 1 単位買ってデルタ・ヘッジし、原資産の価格が 1 日で 2% 動いた場合を、動く前の原資産の価格ごとに比べます。ほかの条件は例のコールと同じです3。

動く前の原資産の価格 ガンマ 12ΓS2\frac{1}{2}\Gamma S^2 2% の値動きの日の損益
80 0.0049 15.60 0.0045
90 0.0275 111.22 0.0323
100 0.0398 198.91 0.0578
110 0.0214 129.34 0.0376
120 0.0055 39.50 0.0115

行使価格と同じ 100 で 2% 動いた日の利益 0.0578 は、120 で 2% 動いた日の 0.0115 の 5 倍ほどです。ガンマの売りでは、行使価格の近くで起きた大きな値動きが大きな損失になります。

たとえば D 銀行が、このコール(3 か月、行使価格 100)を 100 単位売ってデルタ・ヘッジし、原資産の価格が 100 または 120 のときに 2% 動く日を考えます。2% 動いた日の損失は、表の 2% の値動きの日の損益を 100 倍し、売りなので符号を逆にした値です。値動きのない日の利益は、表の 12ΓS2\frac{1}{2}\Gamma S^2 に σ2Δt=0.22÷365=0.0001096\sigma^2 \Delta t = 0.2^2 \div 365 = 0.0001096 と 100 をかけて求めます。

動く前の原資産の価格 値動きのない日の利益 2% 動いた日の損失
100 198.91×0.0001096×100=2.18198.91 \times 0.0001096 \times 100 = 2.18 0.0578×100=5.780.0578 \times 100 = 5.78
120 39.50×0.0001096×100=0.4339.50 \times 0.0001096 \times 100 = 0.43 0.0115×100=1.150.0115 \times 100 = 1.15

どちらの価格でも、2% の値動きの損失は値動きのない日の利益の 2 倍を超えます。

深掘りヘッジを続けたときの損益の式

デルタ・ヘッジを連続して続けたときの、オプションの買いの満期までの損益は、次の式で表されます8。

損益=∫0T12 ΓtSt2(σt2−σ2)dt\text{損益} = \int_0^T \frac{1}{2}\,\Gamma_t S_t^2 \left(\sigma_t^2 - \sigma^2\right) dt

σt\sigma_t は時点 tt の実際の(瞬間の)ボラティリティ、σ\sigma はインプライド・ボラティリティ、Γt\Gamma_t と StS_t は時点 tt のガンマと原資産の価格です。実際のボラティリティとインプライド・ボラティリティの差に、そのときの 12ΓtSt2\frac{1}{2}\Gamma_t S_t^2 を掛けて足し合わせる形で、損益が経路によって変わることを表しています。

ベガと満期ごとのベガ

ベガは、インプライド・ボラティリティが 1% 上がったときのオプションの価格の変化です。ガンマが原資産の値動きによる損益を表すのに対し、ベガは、原資産の価格が動かなくても、市場で値付けに使うボラティリティが変わると生じる損益を表します5。

ベガは、残存期間が長いオプションほど大きくなります9。例のコールと同じ条件で、残存期間だけを変えた値は次のとおりです3。

残存期間 価格 ガンマ ベガ セータ(1 日)
3 か月 4.1089 0.0398 0.1989 −0.0231
6 か月 5.8760 0.0281 0.2805 −0.0167
1 年 8.4333 0.0197 0.3945 −0.0121
2 年 12.1527 0.0138 0.5516 −0.0088
3 年 15.0758 0.0111 0.6681 −0.0073

残存期間が短いほどガンマとセータが大きく、長いほどベガが大きくなります。ベガとガンマの比(ベガ ÷ ガンマ)は 5 倍(3 か月)から 60 倍(3 年)で、この比が残存期間に比例します。この比は、後の計算例でヘッジに使うオプションを選ぶときに使います。

インプライド・ボラティリティは満期ごとに市場で値が付き、残存期間の違うオプションに同じボラティリティが使われるとは限りません(ボラティリティ・スマイルとサーフェス)。そのため、持ち高のベガは、オプションの満期ごとに分けて測ります。たとえば、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)が 2016 年 1 月に公表したマーケット・リスクの規則文書は、標準的方式のベガのリスクファクターを、オプションのインプライド・ボラティリティを満期で分けたものとしています。区切りは 0.5 年、1 年、3 年、5 年、10 年です10。満期ごとに分けたベガを、満期ごとのベガといいます。

ガンマとベガをオプションで打ち消す計算例

原資産のガンマとベガは 0 なので、原資産を売買してもデルタが変わるだけで、ガンマとベガは変わりません。ガンマとベガを減らすには、オプションを売買します。例として、ある金融機関が例のコール(残存期間 1 年、行使価格 100)を顧客に 100 単位売ったとします。持ち高のガンマは −1.9724、ベガは −39.4479 です。ヘッジには、残存期間 3 か月・行使価格 100 のコール(A)と、残存期間 2 年・行使価格 110 のコール(B)を買います。ほかの条件は例のコールと同じです。1 単位あたりの値は次のとおりです3。

オプション 価格 デルタ ガンマ ベガ セータ(1 日)
売った 1 年のコール 8.4333 0.5596 0.0197 0.3945 −0.0121
A(3 か月、行使価格 100) 4.1089 0.5299 0.0398 0.1989 −0.0231
B(2 年、行使価格 110) 8.1840 0.4503 0.0140 0.5598 −0.0087

A だけでガンマを打ち消すと、A を 49.58 単位買うことになり、ベガが −29.59 残ります。B だけでベガを打ち消すと、B を 70.47 単位買うことになり、ガンマが −0.9862 残ります。1 つのオプションでは、ガンマとベガの一方しか 0 にできません。

2 つを同時に 0 にするには、A の数量 nAn_A と B の数量 nBn_B について、ガンマの合計とベガの合計がそれぞれ売った分と釣り合う 2 本の式を解きます。

0.0398 nA+0.0140 nB=1.97240.0398\,n_A + 0.0140\,n_B = 1.9724 0.1989 nA+0.5598 nB=39.44790.1989\,n_A + 0.5598\,n_B = 39.4479

解は nA=28.33n_A = 28.33、nB=60.40n_B = 60.40 です(係数は丸めずに解いています)。A を 28.3 単位、B を 60.4 単位買ったときの持ち高は次のとおりです3。

値 売った 1 年のコール A(28.3 単位) B(60.4 単位) 合計
デルタ −55.962 14.996 27.200 −13.766
ガンマ −1.972 1.126 0.845 −0.001
ベガ −39.448 5.629 33.813 −0.006
セータ(1 日) 1.211 −0.655 −0.524 0.032

残るデルタ −13.766 は、原資産を 13.766 単位買って打ち消します。ガンマがほぼ 0 になったため、セータも 1.211 から 0.032 に小さくなりました。セータの大部分はガンマの分だからです(1 つ目の節)。

満期の違うオプションを使うのは、同じ満期で同じボラティリティのオプションでは、ガンマに対するベガの比が行使価格によらず同じになるためです。この例の条件では、ベガ(1% あたり)はガンマの 20 × 残存期間(年)倍で、A は 5 倍、売った 1 年のコールは 20 倍、B は 40 倍です9。比が同じオプションどうしでは 2 本の式が解けないため、ガンマの割合が大きい短い満期と、ベガの割合が大きい長い満期を組み合わせます。

合計のベガは 0 になりましたが、満期ごとのベガは、3 か月が 5.629、1 年が −39.448、2 年が 33.813 残っています。3 つの満期のインプライド・ボラティリティがそろって 1% 上がれば損益はおよそ 0 です。一方で、1 年のボラティリティだけが 1% 上がると、およそ 39.45 の損失になり、1% 下がると、およそ 39.45 の利益になります。前の節で満期ごとにベガを測るのはこのためです。

深掘りボラティリティが同じとき、ガンマとベガの比が満期で決まる理由

配当のない原資産のオプションのガンマとベガ(ボラティリティ 1.00 あたり)は、次の式で表されます9。ϕ\phi は標準正規分布の密度関数、d1d_1 はブラック・ショールズの式と同じです。

Γ=ϕ(d1)σST\Gamma = \frac{\phi(d_1)}{\sigma S\sqrt{T}} ν=ST ϕ(d1)\nu = S\sqrt{T}\,\phi(d_1)

2 つの式の比をとると ϕ(d1)\phi(d_1) が消え、ν=Γ σS2T\nu = \Gamma\,\sigma S^2 T になります。行使価格は d1d_1 の中にしか出てこないため、ボラティリティ σ\sigma が同じなら、比は行使価格によりません。ボラティリティ・スマイルがあって行使価格ごとに σ\sigma が違えば、比も変わります。この例では σS2=0.2×1002=2,000\sigma S^2 = 0.2 \times 100^2 = 2{,}000 で、ベガを 1% あたりにするため 100 で割ると、比は 20T20T です。

ポートフォリオでの管理

金利や為替のように流動性の高い市場でオプションを取引する金融機関の多くは、取引ごとに反対の取引を見つけるのではなく、持ち高全体に残るリスクを測り、先物、スワップ、上場オプション、原資産などで打ち消します。これをポートフォリオでのヘッジといいます。金融機関は顧客の求めに応じた取引を受けやすくなり、取引ごとにヘッジするより費用も小さくなります11。持ち高全体のガンマとベガは、取引ごとのガンマとベガに数量を掛けて足したものです。

米国の連邦準備制度理事会(FRB)の検査の手引きは、オプションの持ち高には、デルタ、ガンマ、ベガ、セータ、ローのそれぞれに対する限度を設けるべきだとしています12。多くのトレーディング部門は、日々の損益を、デルタ、ガンマ、ベガ、セータ、ローといった管理しているリスクごとに分けて説明しています。手引きは、説明できない損益が大きければ、管理部門がその原因を調べ、必要に応じて評価のモデルや入力(ボラティリティなど)を見直すべきだとしています13。

ガンマの売りの持ち高は、市場の流動性に左右されます。そのヘッジは、大きな値動きのときに原資産をすぐに適正な費用で売買できることを前提にしています。流動性が失われてヘッジの取引ができないと、実際のリスクは見込みより大きくなります。流動性が失われたときに最も影響を受けるのは、オプションを売ってボラティリティとガンマを売っている金融機関です14。

前提と限界

このページのガンマ、ベガ、セータは、ブラック・ショールズ・モデルで、ボラティリティが一定としたときの値です。ガンマの利益がセータの損失と釣り合うという関係は、オプションの値付けに正しいボラティリティを使っていることが前提で、モデルが現実と合わないところがあるため、直感をつかむためのものとして使います2。市場のインプライド・ボラティリティは行使価格と満期で違い、原資産の価格が動くとボラティリティも動くことがあるため、実際の損益にはベガを通じた分も加わります。

ガンマの近似は小さな値動きに対するものです。値動きが大きいほど近似の誤差は広がり(1 つ目の節の表の ±3 で 0.002 ほど)、原資産の価格が 1 日で大きく飛ぶと、ヘッジを直す前に、近似では表せない損益が出ます。ガンマがあるため、デルタ・ヘッジは原資産の価格の大きな変化には効きにくくなります5。

注

  1. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University、2013 年。以下、Haugh)の 11〜12 ページ。本文の式は、資料の式からデルタの項をヘッジで消し、Δσ=0\Delta\sigma = 0 として、式 (23) のセータの項を足したものです。 ↩

  2. Haugh の 11 ページ "The Relationship between Delta, Theta and Gamma" の式 (23) と (24)。デルタ・ヘッジした持ち高ではガンマの利益がセータの損失と釣り合うが、正しいインプライド・ボラティリティが前提で、直感のために使うものと述べています。 ↩ ↩2 ↩3

  3. このサイトのブラック・ショールズの計算で求めました。金利 1%(連続複利)、配当なし、ボラティリティ 20%。ベガは 1% あたり、セータは 1 日(1 年を 365 日)あたりで、小数第 4 位(計算例の持ち高の表は第 3 位)に丸め、合計と比は丸める前の値から求めています。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  4. Haugh の 9 ページ。ガンマの買いはデルタ・ニュートラルに保つ持ち高の直しで利益を得られるが、その対価として先にプレミアムを払う、という説明です。 ↩

  5. Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual"(以下、FRB の手引き)の Section 4330.1(1998 年 2 月の版、6 ページ。PDF の 615 ページ目)。 ↩ ↩2 ↩3

  6. Haugh の 13 ページ "Some Answers to Delta-Hedging Questions"。 ↩

  7. このサイトのデルタ・ヘッジの計算で、経路 2,000 本、乱数のシード 1、デルタはインプライド・ボラティリティで求めた値です。損益は時点 0 に割り引いた 1 単位あたりで、小数第 2 位に丸め、90% の範囲は 5% 点と 95% 点です。 ↩

  8. Haugh の 13 ページの式 (27) とその後の段落。資料の式は売った側の損益で、本文の式は買った側から見て符号を逆にしたものです。ダラー・ガンマが、オプションが大きくイン・ザ・マネーかアウト・オブ・ザ・マネーになると 0 に近づく説明もあります。 ↩ ↩2

  9. Haugh の 8 ページのガンマの式と、9〜10 ページのベガの定義と式、ベガが残存期間とともに大きくなる説明。資料の式は配当利回り qq を含み、本文は q=0q = 0 としています。 ↩ ↩2 ↩3

  10. 野村資本市場研究所 小立敬「トレーディング勘定の抜本的改定(FRTB)に関するバーゼル委員会の最終規則の概要」(『野村資本市場クォータリー』2016 年春号)の 90 ページの図表 7(PDF の 15 ページ目)。 ↩

  11. FRB の手引きの Section 4330.1 "Options" の "Hedging on a Portfolio Basis"(2003 年 4 月の版のページ、7 ページ。PDF の 616 ページ目)。 ↩

  12. FRB の手引きの Section 2010.1 "Market Risk" の "Limits on options positions"(1998 年 2 月の版のページ、7 ページ。PDF の 51 ページ目)。 ↩

  13. FRB の手引きの Section 2100.1 "Financial Performance" の "Unexplained Profits and Losses" の前後(2003 年 4 月の版のページ、9 ページ。PDF の 150 ページ目)。 ↩ ↩2

  14. FRB の手引きの Section 2030.1 "Market Liquidity Risk of Trading Activities"(2006 年 9 月の版のページ、2 ページ。PDF の 85 ページ目)。 ↩