期間を通じて売上や仕入れが発生する企業が、価格変動のヘッジに使います。売り手の金融機関は、平均で決まる受け取りの評価とヘッジを組みます。

観測した価格の平均で受け取りが決まる

アジアン・オプションは、受け取りが満期の価格だけでなく、期間中の価格にも依る経路依存型オプションの 1 つです。原資産の期間中の平均価格に依るため、平均価格オプション(average-price options)とも呼ばれます1。エキゾチック・オプション全体の分類と、評価とヘッジの一般論は、エキゾチック・オプションの全体像で扱います。

平均の取り方は、観測日と、平均の種類で決まります。観測日は契約で決めます。連続して観測する型は理論の上で扱われますが、実務では一定の間隔の離散的な観測日の平均がふつうに使われます2。この記事では、観測日を t1,t2,…,tnt_1, t_2, \dots, t_n、その日の原資産の価格を S(ti)S(t_i) と書き、最後の観測日 tnt_n を満期とします。最初の観測日から最後の観測日までを平均期間と呼びます3。

平均には算術平均と幾何平均があります。算術平均は観測した価格を足して回数で割ったもの、幾何平均は掛け合わせて回数乗根を取ったものです。算術平均が一般的で、幾何平均は使われることもある、という位置づけです2。

A=1n∑i=1nS(ti)A = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} S(t_i) G=(∏i=1nS(ti))1/nG = \left(\prod_{i=1}^{n} S(t_i)\right)^{1/n}

AA は算術平均、GG は幾何平均です。以下、単に平均と書くときは算術平均を指します。

受け取りの決め方は 2 つの型に分かれます。行使価格 KK を決めておく型を、この記事では平均価格型と呼びます。平均を行使価格の代わりに使う型は、平均行使価格型と呼びます2。

型 コールの受け取り プットの受け取り
平均価格型 平均が行使価格を上回った分 平均が行使価格を下回った分
平均行使価格型 満期の価格が平均を上回った分 満期の価格が平均を下回った分

いずれも差がマイナスになるときの受け取りは 0 です。平均価格型のコールの受け取りは、式では次のとおりです3。

max⁡(A−K, 0)\max(A - K,\ 0)

平均価格型は、バニラのコール・オプションで満期の価格と比べるところを、平均と比べる形です。平均行使価格型は、満期の価格が期間中の平均と比べて高いか低いかを受け取りにします。決済は差金決済が一般で、原資産の受け渡しはありません1。

受け取りの決め方と数値の例

原資産の価格を毎月末に 6 回観測し、6 回目を満期とする架空の例で考えます。A 社が、行使価格 200 円の平均価格型のコールを 1 単位買います。比べるために、行使価格 200 円のバニラのコール(満期の価格だけで決まるヨーロピアン・オプション)と、平均行使価格型のコールの受け取りも並べます。受け取りの欄は、プレミアムを払う前の金額です。

経路 月末の価格 6 回(円) 算術平均(円) バニラのコール(円) 平均価格型のコール(円) 平均行使価格型のコール(円)
P 190、210、230、250、240、230 225 30 25 5
Q 200、210、240、260、220、190 220 0 20 0
R 160、170、180、190、230、270 200 70 0 70
S 190、180、170、160、150、140 165 0 0 0

経路 P では、満期の価格 230 円が行使価格 200 円を 30 円上回り、バニラのコールは 30 円です。平均価格型は、平均 225 円が行使価格を上回る分の 25 円です4。経路 Q は途中で 260 円まで上がり、満期は 190 円に戻っています。バニラのコールは 0 円ですが、平均が 220 円なので、平均価格型は 20 円を受け取ります。経路 R は満期に近づいて急に上がり、満期の価格は 270 円です。バニラのコールは 70 円ですが、平均はちょうど 200 円で、平均価格型の受け取りは 0 円です。同じ経路で平均行使価格型は、満期の価格が平均を 70 円上回るので 70 円です。

買い手には得になる経路と損になる経路の両方があります。途中で上がって戻る経路 Q では、平均価格型のほうがバニラより受け取りが大きくなります。満期の直前に上がる経路 R では、バニラのほうが大きくなります。どの型も、価格が下がり続ける経路 S では受け取りが 0 で、払ったプレミアムは戻りません。

020406080200満期の受け取り(円)観測した価格の算術平均(円)受取
図 1行使価格 200 円の平均価格型コールの満期の受け取り
図の説明

行使価格 200 円の平均価格型コールを 1 単位買った場合の、満期の受け取りです。横軸は満期の価格ではなく、観測した価格の算術平均です。プレミアムは含めていません。平均が 200 円以下では 0 円、200 円を超えると平均が 1 円上がるごとに受け取りが 1 円増えます。形はバニラのコールと同じですが、横軸が満期の価格でなく平均である点が違います。

平均にならされてプレミアムが低い理由

平均価格型の受け取りは、満期の価格より値動きの小さい平均で決まります。このため、アジアン・オプションはバニラ・オプションより低いプレミアムで取引される傾向があります1。平均は 1 時点の価格より変動が小さい点が、この型の利点です5。

前の節の 4 つの経路で見ると、満期の価格は 140 円から 270 円まで 130 円の幅に広がります。同じ経路の平均は 165 円から 225 円で、幅は 60 円です4。平均のほうが経路による散らばりが小さいことが、プレミアムを低くする要因です。

ただし、プレミアムが低いことは、受け取りが常にバニラより小さいことを意味しません。経路 Q では平均価格型が 20 円、バニラが 0 円で、平均価格型が上回ります。買い手にとっては、プレミアムが低いことと、満期の直前に上がったときの受け取りが小さいことが、同じ仕組みの両面です。

幾何平均は式、算術平均は近似か数値計算

評価の考え方は、原資産の価格が対数正規分布に従うというブラック・ショールズ・モデルの前提から始まります。この前提で、幾何平均は満期に対数正規分布になるため、ブラック・ショールズ型の式で価格を求められます5。対数正規分布に従う価格を足した算術平均は、対数正規分布になりません。算術平均は相関のある対数正規分布の変数の和であり、その分布は一般に分かっていないため、価格を式で書き下せません5。

算術平均のオプションを評価する方法として、次のものがあります5。

  • 偏微分方程式を数値的に解く方法
  • モンテカルロ法。幾何平均のオプションの式を、分散を減らす道具(コントロール・バリアット)として使う方法がある
  • 平均の最初の 2 つの積率(平均と分散)が合うように、平均の分布を対数正規分布で置き換える近似(ウィルキンソン近似)

連続して観測する算術平均については、解析的な式が示されています2。実務で使う離散的な観測日の算術平均では、近似か数値的な方法になります。観測の途中で評価するときは、評価日までに観測した価格の平均と今の価格が分かれば、残りの期間の評価ができます6。

同じ観測した価格では、算術平均は幾何平均以上になります。たとえば、観測した価格が 100 円と 400 円の 2 回なら、算術平均は 250 円、幾何平均は 200 円です4。このため、同じ行使価格と観測日の平均価格型のコールは、算術平均のほうが受け取りが幾何平均のコール以上になり、価格も幾何平均のコールを下回りません4。どの経路でも観測した価格がすべて同じなら、2 つの平均は等しく、受け取りも価格も等しくなります。

どの方法でも、使うモデルの前提によって評価額が変わります(モデル・リスク)。モンテカルロ法の考え方はモンテカルロ法で扱います。

満期に近づくと受け取りの感応度が下がる

観測済みの価格は、後から変わりません。平均を動かせるのは、まだ観測していない価格だけです。

6 回の観測のうち 4 回が終わった時点を考えます。残る 2 回の価格が、どちらも 1 円上がると、平均は 2/6、約 0.33 円しか上がりません4。平均価格型のコールの受け取りは、平均が行使価格を超えているとき、平均と同じだけ動きます。受け取りが原資産の価格の動きに反応する大きさ(デルタに当たるもの)は、最大でも 0.33 円です。最後の観測日の 1 回前になれば、この上限は 1/6 になり、全部の観測が終われば、受け取りは確定します。バニラのコールは、行使価格を超えているとき、満期の価格が 1 円動けば受け取りも 1 円動きます。

つまり、受け取りが原資産の価格に反応する大きさの上限は、観測が進むほど下がります。ただし、これは平均価格型の話です。平均行使価格型の受け取りは「満期の価格 − 平均」で、最後の観測の価格が 1 円上がると、受け取りは 5/6 円動きます4。観測が進んでも感応度の上限が下がらないため、同じ見方は当てはまりません。

売り手が原資産やバニラ・オプションでヘッジするとき、組み直しの費用とヘッジの誤差が残ることは、他のエキゾチック・オプションと同じです。

企業の収入や費用との相性

売上や仕入れの代金を期間を通じて受け払いする企業にとって、1 時点の価格で決まるバニラ・オプションより、期間中の平均で決まるアジアン・オプションのほうが、ヘッジの対象と合いやすくなります2。満期の 1 時点の価格を動かして受け取りを左右することが難しい点も、利点として挙げられます5。

前の節の例を使います。A 社は、6 か月の間、毎月末に同じ量の原材料を、その月末の市場価格で仕入れるとします。原材料の価格は、前の表の原資産の価格と同じに動くとします。仕入れ費用は、1 単位あたり、6 回の仕入れ価格の平均です。A 社が行使価格 200 円の平均価格型のコールを買った場合と、行使価格 200 円のバニラのコールを買った場合を比べます。表の数値は、プレミアムを除いた 1 単位あたりの金額です。

経路 仕入れ費用の平均(円) 平均価格型の受け取り(円) 平均価格型を受け取った後の仕入れ費用(円) バニラの受け取り(円) バニラを受け取った後の仕入れ費用(円)
P 225 25 200 30 195
Q 220 20 200 0 220
R 200 0 200 70 130
S 165 0 165 0 165

平均価格型を持っていると、価格が上がった経路 P、Q、R では、受け取りの後の仕入れ費用が行使価格の 200 円になります4。仕入れ価格が平均で動くので、受け取りとぴったり合うためです。バニラの場合は、経路 Q のように途中で上がって満期に戻ると、仕入れ費用の上がり分が受け取りに入らず、220 円のままです。経路 R のように満期だけが上がると、受け取りが仕入れ費用の上がり分を超え、仕入れ費用が 130 円に下がります。

価格が下がった経路 S では、どちらの場合も受け取りは 0 円で、仕入れ費用は 165 円に下がります。ただし、A 社はこの場合もプレミアムを払っているので、払ったプレミアムの分だけ、オプションを買わなかった場合より費用が大きくなります。

この例は、仕入れる量が毎月同じで、仕入れ価格がオプションの原資産の価格と同じに動くという前提で成り立っています。仕入れの日や量が観測日と合わないとき、仕入れ価格と原資産の価格がずれるときは、ずれた分が残ります。

注

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System "Trading and Capital-Markets Activities Manual"(1998 年 2 月)Section 4330.1 の "Exotic Options"(Page 2)。期間中の平均に依ること、低いプレミアムの傾向、現金決済の根拠です。 ↩ ↩2 ↩3

  2. Mark Broadie、Jérôme Detemple "Option Pricing: Valuation Models and Applications"(Management Science 50(9)、2004 年)の付録 A.2.3 "Asian Options"(1171 ページ)。受け取りの定義、平均の種類、離散的な観測、企業のヘッジ、連続観測の算術平均の解析式の根拠です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  3. Steven Kou "Discrete Barrier and Lookback Options"(Handbooks in Operations Research and Management Science Vol. 15、2008 年)の 1 節 "Introduction"(343 ページ)。離散的な観測日の平均価格型のコールが、満期に平均と行使価格の差を受け取る式の根拠です。 ↩ ↩2

  4. 本文の計算です。平均は合計 ÷ 6 で、幅は 270 − 140 = 130 と 225 − 165 = 60 です。感応度は 2/6、1/6、平均行使価格型は 1 − 1/6 = 5/6 です。100 と 400 の算術平均は 250、幾何平均は √(100 × 400) = 200 で、大小は相加平均と相乗平均の関係によります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7

  5. Manuel Moreno、Javier F. Navas "Australian Asian Options"(Universitat Pompeu Fabra、Working Paper 680、2003 年 2 月 25 日の版)の 1 節 "Introduction"(1〜3 ページ。PDF の 3〜5 ページ目)。平均の利点、幾何平均と算術平均の分布、算術平均の評価方法の根拠です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  6. Broadie と Detemple の同論文の 5.1.1 節 "Path-Dependent Options"(1165〜1166 ページ)。アジアンの評価には、現在の価格と評価日までの平均を追えばよいことの根拠です。 ↩