オプションは、原資産の値動きに備える事業会社や、オプションを売買する金融機関の業務に出てきます。権利を持つ買い手と義務を負う売り手のどちらの立場かで、損失の大きさと証拠金の要否が変わります。

決めた価格で買う権利と売る権利

オプションは、ある商品を決めた価格で売り買いする権利で、使うかどうかは権利を持つ人が選べます。権利を手に入れるには、代金を払います1。先渡取引や先物取引との違いと、デリバティブ全体の中での位置づけは、デリバティブとはで扱います。

オプションには、買う権利と売る権利の 2 種類があります。あらかじめ決めた価格で買う権利をコール・オプション(コール)、売る権利をプット・オプション(プット)といいます2。オプションで売買の対象になる商品を原資産、あらかじめ決めておく売買の価格を行使価格といいます3。

権利の代金をプレミアムといい、権利料やオプション料とも呼びます4。1 つのオプションの条件は、次の 5 つで決まります。A 社の株式を、3 か月後に 1 株 1,000 円で買う権利を、1 株あたり 50 円で買う架空の例で考えます。原資産は A 社の株式、種類はコール、行使価格は 1,000 円、満期は 3 か月後、プレミアムは 50 円です。

条件 決めること 例
原資産 何を売買する権利か A 社の株式
種類 買う権利(コール)か、売る権利(プット)か コール
行使価格 権利を使ったときの売買の価格 1,000 円
満期 権利を使える期限 3 か月後
プレミアム 権利の代金。買い手が売り手に払う 50 円

プレミアムは、株式の取引での株価にあたる、オプションそのものの価格です5。取引所のオプションは、株式や先物と同じく、売り手と買い手の需給で価格が変わります6。

取引を始める時点で動くお金はプレミアムだけで、原資産と行使価格の代金が動くのは、買い手が権利を使ったときです。

買い手の権利と売り手の義務

オプションの買い手は権利を使うかどうかを選べますが、売り手は買い手の選んだとおりにする義務を負います。コールの売り手は、買い手が権利を使えば行使価格で売る義務を負い、プットの売り手は、行使価格で買う義務を負います3。買い手が権利を使って、行使価格で原資産を売買することを権利行使といい、使わないことを権利放棄といいます71。

コールの買い手は、満期の原資産の価格が行使価格より高ければ権利を行使し、市場の価格より安い行使価格で買います。行使価格より低ければ、市場で買うほうが安いため、権利を放棄します。プットの買い手は逆で、原資産の価格が行使価格より低ければ行使して市場より高く売り、高ければ放棄します3。たとえば、行使価格 1,000 円、プレミアム 50 円の A 社の株式のコールで、満期の株価が 1,200 円なら行使して 1,000 円で買い、800 円なら放棄します。放棄したときの損失は、払った 50 円だけです。

−1000+100+200+300+4001,000損益(円)満期の株価(円)利益損失損益分岐点 1,050
図 1A 社の株式のコールの買いの満期の損益
図の説明

A 社の株式のコールを 1 株買ったときの、満期の損益です。横軸は満期の株価、縦軸はプレミアムを含めた 1 株あたりの損益で、条件は本文の例と同じです。行使価格までは権利を放棄するため損益は一定で、行使価格を超えると、株価が上がった分だけ損益が増えます。損失はプレミアムまでに限られ、利益には上限がありません。損益がゼロになる損益分岐点は、行使価格 1,000 円にプレミアム 50 円を足した 1,050 円です。

買い手は得になるときだけ権利を行使し、損になるときは放棄できるため、損失は払ったプレミアムまでに限られます1。一方で売り手は、買い手が得をする場面、つまり自分が損をする場面で行使に応じなければなりません。そのため、売り手の損失は受け取ったプレミアムを大きく上回ることがあり、コールの売り手の損失には上限がありません8。

損失の大きさが違うため、取引所のオプションでは、買い手は証拠金を差し入れる必要がなく、売り手は取引を始めるときに証拠金を差し入れます89。

コールとプットの 4 つの持ち高

コールとプットにそれぞれ買い手と売り手がいるため、どちらを買っているか売っているかで、オプションの取引には 4 つの持ち高があります10。それぞれが持つ権利か義務と、原資産の価格がどちらに動くと得をするか、損失が限られるかは、次のとおりです11。

持ち高 取引を始めるとき 満期まで持つもの 得をする値動き 損失
コールの買い プレミアムを払う 行使価格で買う権利 原資産の値上がり 払ったプレミアムまで
コールの売り プレミアムを受け取る 行使されれば行使価格で売る義務 原資産が行使価格を上回らないこと 受け取ったプレミアムを上回ることがある
プットの買い プレミアムを払う 行使価格で売る権利 原資産の値下がり 払ったプレミアムまで
プットの売り プレミアムを受け取る 行使されれば行使価格で買う義務 原資産が行使価格を下回らないこと 受け取ったプレミアムを上回ることがある

売り手の利益は、受け取ったプレミアムまでです11。4 つの持ち高の満期の損益と、損益がゼロになる価格(損益分岐点)、利益と損失の上限は、数値の例とペイオフの図を使って、オプションのペイオフと損益で比べます。

オプションの 3 つの状態

オプションは、行使価格と原資産の今の価格の関係から、3 つの状態に分けて呼びます。プレミアムを考えに入れずに、買い手が今権利を行使したとすると利益が出る状態をイン・ザ・マネー(ITM)、損益が出ない状態をアット・ザ・マネー(ATM)、損失が出る状態をアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)といいます12。

原資産の価格が 10,000 円で、行使価格の違う 3 つのコールと 3 つのプットがある架空の例で考えます。それぞれの状態は次のとおりです。

行使価格(円) コール プット
9,500 イン・ザ・マネー アウト・オブ・ザ・マネー
10,000 アット・ザ・マネー アット・ザ・マネー
10,500 アウト・オブ・ザ・マネー イン・ザ・マネー

コールは、行使価格が原資産の価格より低いとイン・ザ・マネー、高いとアウト・オブ・ザ・マネーです。プットはその逆で、行使価格が原資産の価格より高いとイン・ザ・マネーになります。行使価格と原資産の価格が等しければ、コールもプットもアット・ザ・マネーです12。取引所の行使価格は刻みで決まっているため、原資産の価格にいちばん近い行使価格をアット・ザ・マネーと呼ぶこともあります6。

この 3 つの状態は行使したときの売買だけで決まるため、イン・ザ・マネーでも、払ったプレミアムを差し引くと損益がマイナスのことがあります。

本質的価値と時間的価値

オプションのプレミアムは、本質的価値と時間的価値の 2 つに分けられます5。本質的価値は、今権利を行使したとすると得られる値打ちで、時間的価値は、プレミアムのうち本質的価値を超える部分です6。

原資産の価格が 10,000 円のときの内訳は、次のとおりです。

オプション 行使価格(円) プレミアム(円) 本質的価値(円) 時間的価値(円)
コール(イン・ザ・マネー) 9,500 700 500 200
コール(アウト・オブ・ザ・マネー) 10,500 150 0 150
プット(イン・ザ・マネー) 10,500 650 500 150

コールの本質的価値は「原資産の価格 − 行使価格」、プットの本質的価値は「行使価格 − 原資産の価格」です。計算した値がマイナスのときは、本質的価値はゼロです13。上の表で、行使価格 9,500 円のコールの本質的価値は 10,000 − 9,500 = 500 円、時間的価値は 700 − 500 = 200 円です。アウト・オブ・ザ・マネーのオプションは本質的価値がゼロなので、プレミアムはすべて時間的価値です。

時間的価値は、満期までに原資産の価格が有利な向きに動くことへの期待の値打ちです。今の価格より高い行使価格で買う権利にもプレミアムが付くのは、この期待があるためです6。時間的価値を主に左右するのは、満期までの残りの期間とボラティリティ(値動きの大きさ)です。残りの期間が長いほど、またボラティリティが高いほど、時間的価値は高くなる傾向があります。満期が近づくと時間的価値は減り、その減り方は満期の直前ほど速くなります6。

プレミアムは、原資産の価格、ボラティリティ、満期までの期間が変わると上下します4。

値上がりや値下がりに備える使い方

オプションの買いは、将来売買する予定の原資産の値動きに備えるのに使われます。将来買う予定の原資産の値上がりが心配なときはコールを買い、将来売る予定の原資産の値下がりが心配なときはプットを買います3。

3 か月後に原資産を買う予定の会社が、A 社の株式のコールの例と同じ条件(行使価格 1,000 円、プレミアム 50 円)のコールを買っておく架空の例で考えます。3 か月後に原資産が 1,200 円に値上がりしていれば、会社は権利を行使して 1,000 円で買えるので、1,000 円を超えた分の値上がりの影響を受けません。900 円に値下がりしていれば、権利を放棄して市場の 900 円で買えます。どちらの場合も、払ったプレミアムは戻りません。そのため実質の買値は、行使価格か市場の価格にプレミアムを足した額で、この例では 1,050 円か 950 円です114。

先渡取引で買う価格を決めておく方法では、値上がりしたときの損を避けられる代わりに、値下がりしたときの得もなくなります。オプションの買いは、プレミアムを払うことで、損を限る一方、得をする余地を残します14。値上がりや値下がりを見込んでコールやプットを買う使い方もあります。見込みと反対に動いたときの損失は、払ったプレミアムまでです14。

満期までの決済と、取引所のオプションの例

オプションの取引を終える方法は、満期まで持つ方法と、満期の前に反対の売買をする方法の 2 つです。取引所のオプションでは、買った人は同じオプションを売り(転売)、売った人は買い戻して(買戻し)取引を終えられます。このとき、プレミアムの買値と売値の差額を受け払いします415。

行使できる時期は商品によって違います。満期の日にだけ行使できるものをヨーロピアン・オプション、満期までいつでも行使できるものをアメリカン・オプションといいます1。

日本の取引所のオプションの例として、大阪取引所の日経225オプションを見ます。日経平均株価を原資産とし、SQ 日(満期の月の第 2 金曜日。休業日なら前の営業日)に行使価格で買う権利(コール)か売る権利(プット)を取引します。1989 年 6 月 12 日に取引が始まりました16。主な条件は次のとおりです(2026 年 9 月時点)17。

項目 日経225オプションの定め
原資産 日経平均株価(日経225)
権利行使日 SQ 日だけ
取引単位 オプションの価格の 1,000 倍

行使価格は、日経平均株価に近い値を中心に、一定の刻みで複数が設定されます17。

プレミアムが 100 円のオプションを 1 単位買う架空の例で考えます。取引単位がオプションの価格の 1,000 倍なので、払う代金は 100 円 × 1,000 = 10 万円です。

満期の決済には、SQ 値を使います。SQ 値は、SQ 日の各構成銘柄の始値から出す、特別な日経平均株価の値です17。反対の売買をせずに満期を迎え、イン・ザ・マネーになっていれば、買い手は行使価格と SQ 値の差額だけを受け取ります。権利を行使して原資産と代金を受け渡すことはしません1518。イン・ザ・マネーでなければ権利は消え、払ったプレミアムが損失になります15。満期に受け払いするのは本質的価値にあたる差額だけで、時間的価値は残りません。

注

  1. 金融広報中央委員会「3-1 オプション取引とは?」(やさしいデリバティブ)の「デリバティブのオプションは?」、「オプション取引のイメージ」のパターン(1)とパターン(2)、「先物取引とオプション取引の違い」、「権利行使できるオプションのタイプ」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. 日本取引所グループ「コール・オプション(用語集)」と「プット・オプション(用語集)」の見出しと本文の 1 文目。 ↩

  3. 金融広報中央委員会「3-2 コールオプションとプットオプション」(やさしいデリバティブ)の冒頭、「コールオプション」「プットオプション」と「まとめ」の表。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. 金融広報中央委員会「3-3 オプション・プレミアム」(やさしいデリバティブ)の冒頭、「プレミアムの価格が変化するタイミングの例」、「オプション取引の反対売買」。 ↩ ↩2 ↩3

  5. 日本取引所グループ「プレミアム(用語集)」。 ↩ ↩2

  6. 大阪取引所「プレミアム」(北浜投資塾)の冒頭、「銘柄によって違うプレミアム」、「本質的価値と時間的価値」、「時間的価値はどのように決まるのか」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  7. 日本取引所グループ「権利行使(用語集)」。 ↩

  8. 金融広報中央委員会「3-4 オプション取引の損益」(やさしいデリバティブ)の「オプション取引の買い手の立場」と「オプション取引の売り手の立場」。 ↩ ↩2

  9. 大阪取引所「オプション取引とは」(北浜投資塾)の「オプションの買い手の特徴」と「オプションの売り手の特徴」。 ↩

  10. 大阪取引所「オプション取引とは」(北浜投資塾)の「オプション取引には4つの立場がある」の表。 ↩

  11. 金融広報中央委員会「3-4 オプション取引の損益」(やさしいデリバティブ)の「各オプションの買い手・売り手の双方の損益」の、コールとプットのそれぞれの買いと売りの説明。 ↩ ↩2

  12. 日本取引所グループ「イン・ザ・マネー(ITM)(用語集)」、「アット・ザ・マネー(ATM)(用語集)」、「アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)(用語集)」。 ↩ ↩2

  13. 日本取引所グループ「本質的価値(用語集)」。 ↩

  14. 金融広報中央委員会「3-5 オプション取引活用の例」(やさしいデリバティブ)の「ヘッジング」の「通貨オプションの例」と「先行きの予測に応じた投資」。 ↩ ↩2 ↩3

  15. 大阪取引所「決済方法(オプション)」(北浜投資塾)の「反対売買による決済」、「SQ値による決済」の「権利行使」と「権利放棄(権利消滅)」。 ↩ ↩2 ↩3

  16. 日本取引所グループ「日経225オプション 商品概要」の本文と、「日経225オプション 制度概要」の取引開始日、取引最終日、SQ 日の行。 ↩

  17. 日本取引所グループ「日経225オプション 制度概要」の原資産、SQ 日、権利行使日、取引単位、権利行使価格、オプション清算数値(SQ値)の行。2026 年 9 月 24 日に確かめた。 ↩ ↩2 ↩3

  18. 日本証券クリアリング機構「指数オプション取引の決済方法」の「指数オプション取引の決済方法について」。 ↩