金利オプションの評価モデルを実装するときや、モデルが出したキャップ、スワップション、バリア・オプションの価格を検証するときは、このモデルの前提と限界を踏まえる必要があります。

今の市場のイールドカーブから出発し、時点ごとの関数 θ(t)\theta(t) を決めて、モデルが今の割引債の価格を再現するようにします。ここから先は、ヨーロピアンの債券オプション、キャップ、スワップションのように価格を式で書けるものと、バリア・オプションのように書けず、数値計算で評価するものに分かれます。

短期金利の動きを決める式と平均回帰

ハル・ホワイト・モデルは、ごく短い期間の金利 rtr_t の動きを、平均回帰を持つ確率過程で決める短期金利モデルです。式は次のとおりです1。

drt=(θ(t)−art) dt+σ dWtdr_t = (\theta(t) - a r_t)\,dt + \sigma\,dW_t

WtW_t はブラウン運動です。aa は平均回帰の速さで、正の定数です。σ\sigma は短期金利の変化幅の標準偏差を年率で表すボラティリティで、ここでは定数にします。θ(t)\theta(t) は時点ごとに決める関数で、次の節で扱います。1990 年にハルとホワイトが、バシチェック・モデルのドリフトに時間の関数 θ(t)\theta(t) を入れて拡張した形で示しました。資料は aa と σ\sigma も時間の関数にした形を扱いますが、ここでは定数で書きます1。

ドリフトは θ(t)−art\theta(t) - a r_t なので、rtr_t が θ(t)/a\theta(t)/a を上回ると下向きに、下回ると上向きに引かれます。短期金利は、この水準に向けて速さ aa で引き戻されながら、σ dWt\sigma\,dW_t の分だけランダムに動きます。ドリフトが rtr_t の 1 次式で σ\sigma が一定のため、rtr_t は正規分布に従います2。そのため、短期金利がマイナスになる確率は 0 になりません3。

同じ σ\sigma でも、平均回帰が速いほど短期金利のばらつきは小さくなります。tt 年後の短期金利の標準偏差は σ(1−e−2at)/(2a)\sigma\sqrt{(1 - e^{-2at})/(2a)} です4。σ\sigma を 1% にして 10 年後の標準偏差を比べる架空の例で考えます。

平均回帰の速さ aa(年あたり) 10 年後の短期金利の標準偏差(%)
0(極限) 3.16
0.1 2.08
0.3 1.29

aa が 0 の極限では標準偏差が σt\sigma\sqrt{t} になり、10 年後に 3.16% まで広がります。aa が 0.3 なら 1.29% にとどまります。

ドリフトの関数を今のカーブに合わせる

θ(t)\theta(t) を、市場の割引債の価格から求めた今のフォワードレートに合わせて決めると、モデルは今の割引債の価格をすべて再現します5。σ\sigma が定数のとき、θ(t)\theta(t) は次の式で表せます6。

θ(t)=∂f(0,t)∂t+af(0,t)+σ22a(1−e−2at)\theta(t) = \frac{\partial f(0,t)}{\partial t} + a f(0,t) + \frac{\sigma^2}{2a}\left(1 - e^{-2at}\right)

f(0,t)f(0,t) は、今のイールドカーブから求めた、時点 tt の瞬間のフォワードレートです(ゼロレートとフォワードレート)。第 1 項は今のカーブの傾き、第 2 項はカーブの水準に aa を掛けたもの、第 3 項は σ\sigma による項です。カーブが急に折れる場所では、第 1 項の微分が数値計算の障害になります。資料は、ほとんどの用途では θ(t)\theta(t) 自体を使わずに済む表し方があると書いています7。

連続複利のゼロレートが 2% で平らなカーブに、a=0.1a = 0.1、σ=1%\sigma = 1\% のモデルを合わせる架空の例で考えます。f(0,t)f(0,t) は 2% で一定、傾きの項は 0 なので、θ(t)=0.002+0.0005 (1−e−0.2t)\theta(t) = 0.002 + 0.0005\,(1 - e^{-0.2t}) です。

時点 tt(年) θ(t)\theta(t) θ(t)/a\theta(t)/a(%)
0 0.002000 2.000
1 0.002091 2.091
5 0.002316 2.316
10 0.002432 2.432

カーブが平らでも、θ(t)\theta(t) は一定になりません。σ\sigma の項が時間とともに効き、θ(t)/a\theta(t)/a は 2% から上がって、十分先では f+σ2/(2a2)=2.5%f + \sigma^2/(2a^2) = 2.5\% に近づきます。割引債の価格は、金利の積分が正規分布に従い、その平均を mm、分散を vv とすると e−m+v/2e^{-m + v/2} で、分散 vv が大きいほど高くなります。そのため、平らなカーブの価格に合わせるには、金利の平均を 2% より高くする必要があります。

深掘りドリフトの関数を求める手順

G(t,T)G(t,T) を G(t,T)=(1−e−a(T−t))/aG(t,T) = (1 - e^{-a(T-t)})/a とします。θ(t)\theta(t) は、割引債の価格が市場の価格 P(0,T)P(0,T) に一致する条件から求めます5。

  1. 短期金利の式を積分し、rsr_s を r0r_0 と θ\theta と σ dW\sigma\,dW の積分で表します。
  2. 短期金利の積分 I(0,T)=∫0Trs dsI(0,T) = \int_0^T r_s\,ds は正規分布に従います。平均 mm は G(0,T) r0+∫0TG(u,T) θ(u) duG(0,T)\,r_0 + \int_0^T G(u,T)\,\theta(u)\,du、分散 vv は ∫0T[G(u,T) σ]2 du\int_0^T [G(u,T)\,\sigma]^2\,du です8。
  3. 割引債の価格は E[e−I(0,T)]E[e^{-I(0,T)}] なので、正規分布の性質から、exp⁡(−m+v/2)\exp(-m + v/2) に等しくなります。
  4. これがすべての TT で P(0,T)P(0,T) に一致するという条件を、TT で微分して解くと、上の θ(t)\theta(t) になります。

平らな 2% のカーブの例で、TT が 5 年と 10 年のとき、上の式の θ(t)\theta(t) から exp⁡(−m+v/2)\exp(-m + v/2) を数値積分で求めると、e−0.02Te^{-0.02T} に一致します(0.904837、0.818731)。

割引債の価格の式

将来の時点 tt の割引債の価格は、そのときの短期金利 rtr_t の指数の形で書けます。満期 TT、額面 1 の価格 P(t,T)P(t,T) は次の式です9。

P(t,T)=P(0,T)P(0,t)exp⁡{−G(t,T) [rt−f(0,t)]−G(t,T)22 y(t)}P(t,T) = \frac{P(0,T)}{P(0,t)} \exp\left\{ -G(t,T)\,\bigl[r_t - f(0,t)\bigr] - \frac{G(t,T)^2}{2}\,y(t) \right\}

G(t,T)G(t,T) は上の節と同じで、y(t)=σ2(1−e−2at)/(2a)y(t) = \sigma^2(1 - e^{-2at})/(2a) です4。右辺の最初の分数は、今のカーブから決まる時点 tt から TT までの割引です。短期金利 rtr_t が今のカーブの値 f(0,t)f(0,t) より高いと価格は下がり、低いと上がります。G(t,T)G(t,T) は、満期までの期間が長いほど大きくなる感応度です。右辺に θ(t)\theta(t) は現れません。価格は、今のカーブと aa と σ\sigma だけで決まります9。割引債の価格が A eBrA\,e^{B r} の形で書けるモデルは、アフィン・モデルと呼ばれ、このモデルはその 1 つです10。

平らな 2% のカーブ(連続複利)、a=0.1a = 0.1、σ=1%\sigma = 1\% で、1 年後に満期 2 年の割引債を評価する架空の例で考えます。G(1,2)=0.951626G(1,2) = 0.951626、y(1)=0.00009063y(1) = 0.00009063、P(0,2)/P(0,1)=0.980199P(0,2)/P(0,1) = 0.980199 です。1 年後の短期金利 r1r_1 が 3% なら、指数の中は −0.951626×(0.03−0.02)−0.452796×0.00009063=−0.009557-0.951626 \times (0.03 - 0.02) - 0.452796 \times 0.00009063 = -0.009557 で、価格は 0.980199×e−0.009557=0.9708750.980199 \times e^{-0.009557} = 0.970875 です。

1 年後の短期金利 r1r_1(%) 満期 2 年の割引債の価格(額面 1)
1 0.989530
2 0.980158
3 0.970875

債券を持つ側は、金利が 1% に下がると今のフォワードの値 0.980199 より値上がりし、3% に上がると値下がりします。

債券オプションとキャップの解析解

満期 TET_E のヨーロピアンの債券オプションの価格は、ブラックの式の形で求まります11。対象は、満期 TMT_M(TM≥TET_M \ge T_E)の割引債で、行使価格を KK、コールを ϕ=1\phi = 1、プットを ϕ=−1\phi = -1 とすると、満期の受け取りは max⁡{ϕ (P(TE,TM)−K), 0}\max\{\phi\,(P(T_E,T_M) - K),\,0\} です。評価は、満期 TET_E の割引債を基準となる資産(ニューメレール)に選んで行います。この確率の測り方(満期 TET_E のフォワード測度。リスク中立測度とは別のものです)では P(TE,TM)P(T_E,T_M) が対数正規分布に従うため、ブラック・モデルの式(ブラック・モデルとバシュリエ・モデル)がそのまま使えます11。

今(t=0t = 0)の価格は、次のとおりです11。

V=P(0,TE) ϕ [F N(ϕd1)−K N(ϕd2)]V = P(0,T_E)\,\phi\,\bigl[F\,N(\phi d_1) - K\,N(\phi d_2)\bigr]

F=P(0,TM)/P(0,TE)F = P(0,T_M)/P(0,T_E) はフォワードの債券価格、NN は標準正規分布の累積分布関数です。d1=(ln⁡(F/K)+ν2/2)/νd_1 = (\ln(F/K) + \nu^2/2)/\nu、d2=d1−νd_2 = d_1 - \nu で、ν\nu は債券価格の対数の標準偏差です(SABR モデルの ν\nu とは別の量です)。年率ではなく満期 TET_E までの値で、次の式で決まります11。

ν=G(TE,TM)y(TE)\nu = G(T_E,T_M)\sqrt{y(T_E)}

平らな 2% のカーブ(連続複利)、a=0.1a = 0.1、σ=1%\sigma = 1\% で、1 年後に満期 2 年の割引債(額面 1)を行使価格 0.98 で売買するオプションを評価する架空の例で考えます。F=0.980199F = 0.980199、ν=0.951626×0.009520=0.009060\nu = 0.951626 \times 0.009520 = 0.009060 なので、結果は次のとおりです。

項目 コール プット
ϕ d1\phi\,d_1 0.026904 −0.026904
ϕ d2\phi\,d_2 0.017845 −0.017845
N(ϕd1)N(\phi d_1) 0.510732 0.489268
N(ϕd2)N(\phi d_2) 0.507119 0.492881
価格(額面 1) 0.003570 0.003376

価格は、丸める前の値で計算して丸めています。コールの買い手は、1 年後に債券価格が 0.98 を上回ったときだけ差額を受け取り、下回れば何も受け取らずにプレミアム 0.003570 を支払ったままになります。プットの買い手は、逆に 0.98 を下回ったときだけ差額を受け取ります。丸める前のコールとプットの差 0.000195 は、P(0,2)−0.98×P(0,1)P(0,2) - 0.98 \times P(0,1) に等しくなります。

キャップは、利払い期間ごとのコールの集まりです。1 期間分(キャップレット)は、債券のプットに書き換えられます。期間 τ\tau の後払いで、行使金利 KcK_c のキャップレットの受け取りは、期間の頭の時点では (1+τKc)max⁡{1/(1+τKc)−P(TE,TM), 0}(1 + \tau K_c)\max\{1/(1 + \tau K_c) - P(T_E,T_M),\,0\} に等しくなります12。つまり、行使価格 1/(1+τKc)1/(1 + \tau K_c) のプットの (1+τKc)(1 + \tau K_c) 倍です。

上の例と同じモデルで、1 年後に始まる 1 年間(TE=1T_E = 1、TM=2T_M = 2)の、τ=1\tau = 1、Kc=2%K_c = 2\%(1 年の単利)のキャップレットを評価します。

項目 値(想定元本 1)
プットの行使価格 1/(1+τKc)1/(1 + \tau K_c) 0.980392
プットの価格 0.003569
掛ける (1+τKc)(1 + \tau K_c) 1.02
キャップレットの価格 0.003640
金利がフォワードのままなら受け取る額の現在価値 τ(Fs−Kc)P(0,TM)\tau(F_s - K_c)P(0,T_M)(Fs=2.0201%F_s = 2.0201\%) 0.000193

FsF_s は、今のカーブから求めた 1 年後から 2 年後の単利のフォワードレートです。キャップレットの価格は、最終行の値より大きくなります。その分が、金利が動く可能性の価値です。

スワップションは、利息と元本を持つクーポン債のオプションに書き換えられ、割引債のオプションの和で価格が求まります13。Jamshidian が 1989 年に、利付債のヨーロピアン・オプションの解析解を示し、スワップションも同様の方法で求まります14。

深掘りクーポン債オプションを割引債オプションの和にする方法

クーポン債のオプションの満期の受け取りは、max⁡{∑iCi P(TE,Ti)−K, 0}\max\{\sum_i C_i\,P(T_E,T_i) - K,\,0\} です。CiC_i は支払日 TiT_i のキャッシュフローです。ハル・ホワイト・モデルでは、各 P(TE,Ti)P(T_E,T_i) が、満期 TET_E の状態変数 xx(rTE−f(0,TE)r_{T_E} - f(0,T_E))の減少関数になります。Ci≥0C_i \ge 0 なら、和も減少関数です13。

そのため、和がちょうど KK になる状態 x∗x^* が 1 つ決まります。Ki=P(x∗;TE,Ti)K_i = P(x^*;T_E,T_i) とすると、x≤x∗x \le x^* のときは、すべての ii で P(TE,Ti)≥KiP(T_E,T_i) \ge K_i になります。x>x∗x > x^* のときは、すべての ii で逆になります。したがって、満期の受け取りは ∑iCimax⁡{P(TE,Ti)−Ki, 0}\sum_i C_i \max\{P(T_E,T_i) - K_i,\,0\} に等しく、価格は割引債のオプションの和 ∑iCi ViZBO\sum_i C_i\,V^{ZBO}_i です(行使価格は KiK_i)13。

資料は、ハル・ホワイト・モデルのパラメータを、キャップ、フロア、ヨーロピアンのスワップションの価格か、そのボラティリティに合わせられると書いています15。

シミュレーター平均回帰の速さとボラティリティによる、短期金利の広がりと債券オプション、キャップレットの価格
入力
%
/年
%
年
年
年
%
%
0123456051015202530短期金利の標準偏差(%)経過年数(年)3.162.08
  • 平均回帰あり
  • 平均回帰なし(σ√t)

θ(t) の時点ごとの値(今のカーブに合わせたドリフトの関数)

時点(年)θ(t)θ(t)/a(%)
00.0020002.000
10.0020912.091
50.0023162.316
100.0024322.432
10 年後の短期金利の標準偏差(%)
2.08
同じ時点の標準偏差(平均回帰なし、%)
3.16
θ(10 年)
0.002432
θ/a = 2.432%
T_E の割引債の価格 P(T_E, T_M)(額面 1、短期金利 r のとき)
0.970875
債券オプションとキャップレットの価格は、この短期金利 r に依存しません。
フォワードの債券価格 F = P(0, T_M)/P(0, T_E)
0.980199
債券価格の対数の標準偏差 ν
0.009060
債券コールの価格(額面 1)
0.003570
債券プットの価格(額面 1)
0.003376
キャップレットの価格(想定元本 1)
0.003640
フォワードのままなら受け取る額の現在価値
0.000193

単純化している点

  • カーブは平ら(連続複利のゼロレートが全期間で同じ)で、割引と予想に同じカーブを使います。a と σ は定数です。θ(t) はカーブに合わせて決め、割引債の価格は θ(t) を使わず、今のカーブと a、σ だけで決まります。
  • 短期金利は正規分布に従い、マイナスの値もとります。標準偏差は σ√((1 − e^(−2at))/(2a)) で、a が 0 の極限は σ√t です(a の下限は 0.05)。
  • 債券オプションはヨーロピアンで、満期 T_E の割引債(満期 T_M = T_E + 残存期間)の行使価格 K のコールとプットを、ブラックの式の形の解析解で評価します。キャップレットは、行使価格 1/(1 + τK_c) のプットの (1 + τK_c) 倍です。
  • 債券オプションとキャップレットの価格は今のカーブから決まり、満期 T_E の短期金利 r には依存しません(r は将来の割引債の価格だけに使います)。
  • 実務では、a と σ をキャップやスワップションの市場の価格に合わせます。このシミュレーターは合わせません。入力した a と σ をそのまま使います。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

カーブの金利、平均回帰の速さ a、σ、債券オプションの満期と行使価格、キャップレットの行使金利を動かして、短期金利の広がりと価格を見ます。初期値は、債券オプションとキャップレットの例と同じです。a を上げると短期金利の広がりが小さくなり、σ を上げると債券オプションとキャップレットの価格が上がります。θ は、カーブが平らでも時点によって変わります。

ツリーとモンテカルロ法での使い方

ヨーロピアンのキャップやスワップションは式で求まります。一方、バリア・オプションのように式で書けないオプションには、数値計算を使います。2020 年の論文の時点で、バリア・オプションの価格は、閉じた式が知られていません16。

ツリーでは、三項ツリーを使います。短期金利は、時間刻み Δt\Delta t ごとに、r0+jΔrr_0 + j\Delta r の形の格子点を動きます。各点から上、中、下の 3 本の枝が出ます17。Δr\Delta r は、確率が 0 から 1 の間に収まるように、σ3Δt\sigma\sqrt{3\Delta t} などにします18。θ(ti)\theta(t_i) は、時間刻みごとに、前向きに(前の時点から順に)決めます。そうすると、ツリーの各時点で、今の割引債の価格が再現されます19。

モンテカルロ法では、x(t)=rt−f(0,t)x(t) = r_t - f(0,t) を乱数で動かします。x(t)x(t) は、前の時点の値が決まると、次の時点の値が正規分布に従います。分散は σ2(1−e−2a(t−s))/(2a)\sigma^2(1 - e^{-2a(t-s)})/(2a) で、平均も式で決まります20。分布が分かっているため、観測日から次の観測日へ、乱数 1 つで直接進められます。各経路の割引債の価格は、上の節の式に xx を入れて求めます。

前提が外れる場面とほかのモデルとの違い

短期金利が正規分布に従うため、モデルの中ではマイナス金利が起こりえます。金利がゼロで止まる仕組みはなく、この性質を、2020 年の論文は長いあいだ欠点とみなされてきたが今は利点になったと書いています3。

ハル・ホワイト・モデルでは、金利の動きは 1 つの要因で決まり、各金利が短期金利と同じ向きに動きます14。短期の金利が上がって長期の金利が下がるような動きは出せません。

オプションのスマイルは、平らな形しか出せません21。平均回帰の速さ aa を上げると、同じ σ\sigma でもモデルが出すスワップションのボラティリティは下がり、aa は満期と期間の違うスワップションのボラティリティの傾きにも効きます21。

ハル・ホワイト・モデルは、短期金利をモデル化します。ヒース・ジャロウ・モートン(HJM)モデルに適当な制約条件を課すと、ハル・ホワイト・モデルが得られます22。一方、BGM モデルは、フォワードレートをもとにしたモデルです22。

注

  1. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」(Humboldt-Universität zu Berlin、Sebastian Schlenkrich、2020/21 年冬学期)の Part IV、スライド p. 254。Hull and White(1990)による拡張、短期金利の式、aa と σ\sigma を時間の関数とする一般形が書かれています。 ↩ ↩2

  2. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 274(Lemma: 状態変数の分布)。HJM の記法でのハル・ホワイト・モデルは、スライド p. 270 の r(t)=f(0,t)+x(t)r(t) = f(0,t) + x(t)。 ↩

  3. Itkin、Muravey「Semi-closed form prices of barrier options in the Hull-White model」(arXiv:2004.09591v2、2020 年 9 月)の 1 ページ(Introduction)と 3 ページ(1.1 節)。負の値を許すことと、それが長く欠点とみなされたが今は利点になったことが書かれています。 ↩ ↩2

  4. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 269(y(t)=∫0tσ(u)2e−2a(t−u) duy(t) = \int_0^t \sigma(u)^2 e^{-2a(t-u)}\,du)、p. 275(分散 Var[x(t)∣Fs]\mathrm{Var}[x(t)\mid\mathcal{F}_s])、p. 297(区分定数の σ\sigma での式)。σ\sigma が定数のとき y(t)=σ2(1−e−2at)/(2a)y(t) = \sigma^2(1 - e^{-2at})/(2a) で、短期金利の標準偏差は y(t)\sqrt{y(t)} です。 ↩ ↩2

  5. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 255(Lemma: Hull-White drift calibration)と p. 256〜259(導出)。θ(t)=∂f(0,t)/∂t+af(0,t)+∫0t[e−a(t−u)σ(u)]2 du\theta(t) = \partial f(0,t)/\partial t + a f(0,t) + \int_0^t [e^{-a(t-u)}\sigma(u)]^2\,du です。 ↩ ↩2

  6. Yuh-Dauh Lyuu の講義資料(National Taiwan University、2023 年 6 月 2 日)の 1204 ページ(The Hull-White Model)。θ(t)=∂f(0,t)/∂t+af(0,t)+σ2(1−e−2at)/(2a)\theta(t) = \partial f(0,t)/\partial t + a f(0,t) + \sigma^2(1 - e^{-2at})/(2a)。σ\sigma が定数のとき、前の脚注の積分は、この式になります。 ↩

  7. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 260。微分の項が数値計算の障害になること、割引債の価格の式では θ(t)\theta(t) が要らないこと、HJM の表し方で避けられることが書かれています。 ↩

  8. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 257(Proof 2/4)。 ↩

  9. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 261(Theorem: Zero bonds in Hull-White model)、p. 265(結果と、θ(t)\theta(t) が要らないこと)、p. 272(x(t)x(t) での表し方)。資料の式の指数の積分は、σ\sigma が定数のとき y(t)y(t) になります。 ↩ ↩2

  10. Andrey Itkin、Dmitry Muravey「Semi-closed form prices of barrier options in the Hull-White model」(arXiv、2020 年 9 月 17 日版)の 3 ページの式 (6)。この論文は、短期金利の式を dr=κ(t)[θ(t)−r] dt+σ(t) dWdr = \kappa(t)[\theta(t) - r]\,dt + \sigma(t)\,dW と書くため、κ\kappa と θ\theta の記号がこのページとは違います。割引債の価格を A(t,S) eB(t,S) rA(t,S)\,e^{B(t,S)\,r} の形で表しています。 ↩

  11. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 276〜278(Zero coupon bond options、Black's formula による価格と ν2\nu^2)、p. 295(t=0t = 0 の価格と ν2=G(TE,TM)2y(TE)\nu^2 = G(T_E,T_M)^2 y(T_E))。資料は Black(F, K, ν, φ) と書き、ν\nu を債券価格の対数正規分布の分散の平方根として使います。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  12. 「tf_quant_finance.models.hull_white.cap_floor_price」(Google、TF Quant Finance のドキュメント)の説明部分。キャップがコールの集まりであることと、キャップレットの受け取りを割引債のプットで書き換える式が書かれています。参考文献は Brigo、Mercurio の第 2 版(2007 年)です。 ↩

  13. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 279〜284(Coupon bond options、Jamshidian's trick)、p. 295(和の式)、p. 306(スワップションとクーポン債オプションの同値)。 ↩ ↩2 ↩3

  14. 森本祐司、吉羽要直「BGM金利モデルの実用化に向けて」(日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー No. 99-J-39)の付録 28 ページ。バシチェックやハル・ホワイトのように各金利が短期金利と同じ向きに動く 1 ファクター・モデルで、スワップションの解析解が得られること、脚注 37 に Jamshidian(1989)の利付債のオプションの解析解が書かれています。 ↩ ↩2

  15. Itkin、Muravey「Semi-closed form prices of barrier options in the Hull-White model」(arXiv、2020 年 9 月)の 1 ページ(Introduction)。今の期間構造と、キャップ、フロア、ヨーロピアンのスワップションの価格かインプライド・ボラティリティに合わせられること。 ↩

  16. 同じ 1 ページ(Introduction)。ハル・ホワイト・モデルでは、割引債とバニラのヨーロピアン・オプションの価格が閉じた式で書けること、バリア・オプションなどのエキゾチック・オプションは閉じた式が知られておらず、さまざまな数値計算が使われてきたこと。 ↩

  17. Yuh-Dauh Lyuu の講義資料(National Taiwan University、2023 年 6 月 2 日)の 1206〜1209 ページ(The Hull-White Model: Calibration)。三項ツリー、格子点 r0+jΔrr_0 + j\Delta r、各点から出る 3 本の枝。 ↩

  18. 同じ講義資料の 1215〜1216 ページ。確率を 0 から 1 の間にする条件 σ3Δt/2≤Δr≤2σΔt\sigma\sqrt{3\Delta t}/2 \le \Delta r \le 2\sigma\sqrt{\Delta t} と、Δr=σ3Δt\Delta r = \sigma\sqrt{3\Delta t} の例。 ↩

  19. 同じ講義資料の 1210〜1211 ページと 1217〜1220 ページ。θ(ti)\theta(t_i) を前向き帰納法で決め、ツリーがゼロレートの期間構造に合うようにします。 ↩

  20. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 274〜275(Lemma: 状態変数の分布)、p. 296。 ↩

  21. 「Interest Rate Modelling and Derivative Pricing」Part IV のスライド p. 314(モデルが出せるスマイルの形は平らだけで、モデルの大きな限界であること。平均回帰が上がるとモデルのボラティリティが下がること)、p. 315(平均回帰が満期と期間ごとのボラティリティの傾きに効くこと)。 ↩ ↩2

  22. 森本祐司、吉羽要直「BGM金利モデルの実用化に向けて」(日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー No. 99-J-39)の 3 ページ(2.1 節)。スポットレートを使った無裁定モデルとしてハル・ホワイト・モデルが有名なこと、HJM モデルに適当な制約を課すとハル・ホワイト・モデルが得られること、BGM モデルがフォワードレートをもとにしたモデルであること。 ↩ ↩2