金利スワップや債券の時価を評価する場面と、市場リスクを計測する場面では、将来の受け払いを割り引く前提となるカーブが要ります。ブートストラップは、そのカーブを市場の金利から短い年限から順に作る計算です。

ブートストラップは何をする計算か

イールドカーブは、金利と満期までの残りの期間の関係を表したものです1。将来のキャッシュフローを割り引くには、年限ごとの割引係数かスポットレートの形のカーブが要ります。ところが、途中に利息のない割引債の利回りは、多くの年限で市場から直接は観測できません2。そこで、市場で取引されている金利スワップの固定金利などから、割引係数を逆算して求めます。

逆算は、1 年、2 年、3 年と短い年限から順に進めます3。前の年限で求めた割引係数を次の年限の計算に使うのが特徴で、この方法をブートストラップといいます4。

1 年のスワップの固定金利が 1.00%、2 年が 1.50%(年 1 回の支払い)の架空の例で考えます。1 年のスワップは 1 回の受け払いだけなので、1 年の割引係数は 1 ÷ 1.01 で約 0.990099 です。2 年のスワップは、元本 100 に対して 1 年後に 1.5、2 年後に 101.5 を受け取る債券とみなせます。市場で約定できる固定金利では、この債券の現在価値が元本と等しくなるため、現在価値を 100 とします。1 年後の 1.5 の現在価値は 1.5 × 0.990099 で約 1.48515 なので、2 年後の 101.5 の現在価値は残りの約 98.51485 です。2 年の割引係数は 98.51485 ÷ 101.5 で約 0.970590 になります。

割引係数の求め方

スワップを、固定金利の利息と満期の元本を受け払いする債券とみなします。市場で約定できる固定金利(パーレート)では、この債券の現在価値が元本と等しくなります5。年 1 回の支払いで期間をどれも 1 年とみなし、nn 年のスワップの固定金利を SnS_n、tt 年の割引係数を DF(t)DF(t) とすると、想定元本 1 あたり次の式が成り立ちます。

Sn∑i=1nDF(i)+DF(n)=1S_n \sum_{i=1}^{n} DF(i) + DF(n) = 1

左辺の 1 項目は固定金利の利息の現在価値、2 項目は満期の元本の現在価値です。この式を DF(n)DF(n) について解くと、ブートストラップの式になります6。

DF(n)=1−Sn∑i=1n−1DF(i)1+SnDF(n) = \frac{1 - S_n \sum_{i=1}^{n-1} DF(i)}{1 + S_n}

右辺には、nn 年の固定金利と、n−1n - 1 年までの割引係数の和しか出てきません。そのため、1 年から順に計算すれば、どの年限も 1 つの式で求まります。求めた割引係数からは、年 1 回の複利のスポットレート rnr_n を次の式で求めます7。

rn=DF(n)−1/n−1r_n = DF(n)^{-1/n} - 1

割引にも変動金利の予想にも同じカーブを使うときは、同じ式を、変動金利の受け払いの現在価値が想定元本 1 あたり 1−DF(n)1 - DF(n) になることからも導けます。その求め方は金利スワップの時価評価で扱います。

深掘り日本銀行の資料のスポットレートでの書き方

同じ計算は、割引係数ではなくスポットレートでも書けます8。2 年のスワップの受け払いを、1 年後の利息と、2 年後の利息と元本の 2 つの割引債に分けて考えます。1 年のスポットレートを r1r_1、2 年のスポットレートを r2r_2、2 年のスワップの固定金利を R2R_2 とすると、次の関係になります。

1−R21+r1=1+R2(1+r2)21 - \frac{R_2}{1 + r_1} = \frac{1 + R_2}{(1 + r_2)^2}

左辺は、元本 1 から 1 年後の利息の現在価値を引いた値です。右辺は、2 年後に受け取る利息と元本の現在価値です。DF(1)=1/(1+r1)DF(1) = 1/(1 + r_1)、DF(2)=1/(1+r2)2DF(2) = 1/(1 + r_2)^2 を入れると、本文の式の n=2n = 2 の場合と同じになります。3 年目からも、利息の現在価値を 1 つずつ引いていく形で、r3r_3、r4r_4 と順に求めます。

計算例:1〜5 年のカーブ作成

1 年から 5 年までのスワップの固定金利が、1.00% から 0.50% ずつ上がって 3.00% になる架空の例で考えます。3 年の 2.00% と 4 年の 2.50% は、2 年の 1.50% と 5 年の 3.00% を直線で結んだ値と同じです。年 1 回の支払いで、期間はどれも 1 年とみなします。上の式で 1 年から順に求めた割引係数と、そこから計算したスポットレートとフォワードレートは、次の表になります9。

年限(年) 固定金利(%) 前の年限までの割引係数の和 割引係数 スポットレート(%) フォワードレート(%)
1 1.00 0.000000 0.990099 1.00 1.00
2 1.50 0.990099 0.970590 1.50 2.01
3 2.00 1.960689 0.941947 2.01 3.04
4 2.50 2.902636 0.904814 2.53 4.10
5 3.00 3.807450 0.859977 3.06 5.21
金利(%)固定金利スポットレートフォワードレート012345612345年限(年)
図 1固定金利、スポットレート、フォワードレートの比較
図の説明

計算例の表の 3 つの金利を、1 年から 5 年の年限ごとに結んだ折れ線です。フォワードレートの点は、各年の期間(たとえば 2 年の点は 1 年後から 2 年後まで)の金利を、期間の終わりの年に置いています。スポットレートは固定金利とほぼ重なり、フォワードレートは年限が長いほど固定金利から上に離れます。

3 年の割引係数は、(1 − 0.02 × 1.960689) ÷ 1.02 = 0.960786 ÷ 1.02 で約 0.941947 です。4 年は (1 − 0.025 × 2.902636) ÷ 1.025 で約 0.904814、5 年は (1 − 0.03 × 3.807450) ÷ 1.03 で約 0.859977 になります。スポットレートは、たとえば 5 年なら 0.859977 を −1/5 乗して 1 を引き、約 3.06% です。

フォワードレートの列は、1 年前の割引係数との比から求めた、t−1t - 1 年後から tt 年後までの金利です。5 年目なら 0.904814 ÷ 0.859977 − 1 で約 5.21% になります。この例のように固定金利が年限とともに上がるカーブでは、スポットレートは 3 年以降で固定金利をわずかに上回り、フォワードレートはさらに上回ります。

作ったカーブが市場の金利と合っているかは、入力した固定金利でスワップを評価し直して確かめます。5 年のスワップなら、1〜5 年の割引係数の和は 4.667427 で、0.03 × 4.667427 + 0.859977 = 1.000000 になり、時価は 0 です。1 年から 4 年のスワップも同じく時価が 0 になります。

市場の金利がない年限の割引係数

実際の市場では、すべての年限に金利があるとは限りません。市場金利のない年限の値は、両隣の年限の市場金利から補って求めます10。補うための仮定(補間の方法)を変えると、市場の金利がない年限の割引係数と、そこから求めるフォワードレートの値が変わります。

計算例と同じ 1 年 1.00%、2 年 1.50%、5 年 3.00% だけを使い、3 年と 4 年の固定金利がないとします。2 年と 5 年の間の割引係数を、割引係数の対数を直線で結ぶ方法で補間すると、その間の 1 年ごとのフォワードレートはどれも同じ値になります。このとき、5 年の固定金利 3.00% で時価が 0 になる条件は、5 年の割引係数だけを未知数とする 1 つの方程式になります。その解を数値計算で探して求めます。

結果は、3 年の割引係数が 0.932418、5 年の割引係数が 0.860519、2 年後から 5 年後までのフォワードレートが 4.09% です。3 年のスワップの時価が 0 になる固定金利(パーレート)は 2.34% で、計算例の 2.00% より約 34bp 高くなります。計算例の 3 年と 4 年の値は固定金利を直線で結んだ値でした。同じ 1 年、2 年、5 年の入力でも、固定金利を直線で補間するか割引係数の対数を直線で補間するかで、3 年のパーレートは 2.00% と 2.34% に分かれます。5 年のスワップは、どちらのカーブで評価しても 3.00% で時価が 0 です。

下のシミュレーターは、市場の金利として翌日物金利と OIS の固定金利を使い、上の補間と同じ方法で 1 本のカーブを作ります。OIS は、固定金利と、一定期間の翌日物金利を複利で計算した変動金利を交換する金利スワップです11。計算例の固定金利は、シミュレーターでは OIS の固定金利として入れます。初期値は、計算例の 1 年 1.00%、2 年 1.50%、5 年 3.00% に 10 年 3.50% を加えたものです。想定元本 100 億円、固定金利 2.00% の 3 年の固定払いの時価は 97,200,433 円で、5 年の OIS を 3.10% にすると 3 年のパーレートは 2.39% になります。

シミュレーター市場の金利から作るカーブと、柱の間の補間
入力
%
%
%
%
%
商品
立場
年
%
0.51.01.52.02.53.03.54.04.5246810金利(%)年数
  • ゼロレート(連続複利)
  • 1 年ごとのフォワードレート

支払日ごとの差し引きの受け払いの現在価値(円)

1 年−99,009,9012 年+975,4673 年+195,234,867

キャッシュフロー(円。受け取りは正、支払いは負)

支払日固定変動(予想)割引係数現在価値
1 年−200,000,000+100,000,0000.990099−99,009,901
2 年−200,000,000+201,005,0250.970590+975,467
3 年−200,000,000+409,385,6010.932418+195,234,867
パーレート(時価が 0 になる固定金利)
2.34%
時価(円)
+97,200,433
DV01(市場の金利が 1bp 上がったときの時価の変化、円)
+2,874,698
入力した OIS をカーブで評価し直した時価
すべて 0

単純化している点

  • 割引にも将来の金利の予想にも、同じ 1 本のカーブ(OIS のカーブ)を使います(シングルカーブ)。
  • OIS とスワップは年 1 回の支払いで、期間はどれも 1 年とみなします。日数計算の慣行、営業日の調整、支払いの遅れは考えません。
  • 柱(翌日物、1 年、2 年、5 年、10 年)の間は、割引係数の対数を直線で補間します(柱の間でフォワードレートが一定)。
  • 想定元本は 10,000,000,000 円(100 億円)です。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

市場の金利(翌日物と、1 年、2 年、5 年、10 年の OIS)を動かすと、構築したカーブ(画面ではゼロレートとフォワードレートの線)と、選んだスワップの時価が変わります。5 年の OIS を動かすと 3 年のパーレートも動き、10 年の OIS を動かしても 5 年までのカーブと 3 年のスワップの時価は変わりません。フォワードレートの線は、1 年ごとの値を各期間の終わりの年に点を置いて結んだものなので、2 年後から 5 年後までの一定の値は 3 年、4 年、5 年の点に出ます。結果の欄の最後の項目(入力した OIS をカーブで評価し直した時価)で、時価がすべて 0 になることを確かめられます。

シミュレーターのゼロレート(スポットレートと同じもの)は連続複利で表しているため、同じ割引係数を年 1 回の複利で表したスポットレートより少し低い値になります。シミュレーターの翌日物金利は 1 日分の割引係数を決めるだけで、1 年以上の割引係数には影響しません。

実務での使われ方

スポットレートは金融商品の現在価値(理論価値)を求める基礎で、そこから割引係数やフォワードレートを求めて市場リスクの計測に使います12。

1 年までと 1 年を超える年限では、金利の表し方が変わります。2012 年の米国の教材では、1 年までの OIS の割引係数は途中の受け払いのない短期金利の形で求め、1 年を超える年限は途中に受け払いのあるスワップとして上の式で求めます13。

割引に使うカーブを何の金利から作るかは、取引の条件によって変わります。2018 年の日本では、担保付きのデリバティブ取引は、OIS の固定金利から作ったカーブで割り引くことがありました。その場合、割引のカーブが動くリスクを OIS でヘッジできます14。2012 年ごろの米国では、担保付きの取引が広がったため、スワップのディーラーが OIS の固定金利からブートストラップした割引係数を使い始めました15。

清算機関も、市場の気配値からカーブを作っています。日本証券クリアリング機構(JSCC)は、金利スワップの証拠金の計算に使う市場のデータとして、自ら定めた年限(グリッド・ポイント)ごとに 15:02 時点の気配値を、情報ベンダーとブローカー・ディーラーから集めています。そのうえで、原則として値の高い側と低い側の 4 分の 1 ずつの社のデータを除いて平均し、その平均値からイールドカーブを作ります16。

前提と限界

ここまでの計算は、割引にも変動金利の予想にも同じ 1 本のカーブを使う前提です。TIBOR のように銀行の信用リスクを含む金利と、翌日物金利では性質が違うため19、それぞれの金利を参照するスワップから別々のカーブを作ることがあります。予想と割引に別のカーブを使う方法はマルチカーブで扱います。

計算例は、年 1 回の支払いで期間をどれも 1 年とみなし、日付の調整を考えていません。実際のカーブでは、評価の日から支払日までの年数を日数計算の慣行で数えます。支払日の営業日の調整も要ります。

注

  1. European Central Bank "Euro area yield curves" の冒頭の説明。 ↩

  2. 同じページ。ゼロクーポンのカーブは、多くの年限で市場から直接観測できない仮想の割引債の利回りを表すとしています。 ↩

  3. 日本銀行金融機構局 金融高度化センター「スポットレートとその応用」の「スポットレートの計算式」(8 ページ)。資料は、割引率(スポットレート)を市場金利から逆算し、1 年、2 年、3 年の順に求めていくとしています。 ↩

  4. Donald J. Smith "A Teaching Note on Pricing and Valuing Interest Rate Swaps Using LIBOR and OIS Discounting"(2012 年 6 月)の 9 ページ。 ↩

  5. 同じ資料の 4 ページ。スワップを債券の組み合わせとみなし、その固定金利の債券を元本の 100 で評価して、スポットレートを順に求めています。 ↩

  6. 同じ資料の 26 ページの割引係数の式。資料の AjA_j(期間ごとの日数計算の年数)を、このページでは期間をどれも 1 年として 1 にしています。資料の SFRnSFR_n がこのページの SnS_n にあたります。 ↩

  7. 「スポットレートとその応用」の「3.ディスカウント・ファクター」(11 ページ)の式 DFt=1/(1+rt)tDF_t = 1/(1 + r_t)^t を、rtr_t について解いた式です。 ↩

  8. 同じ資料の「キャッシュフロー分解」(7 ページ)と「スポットレートの計算式」(8 ページ)。資料の Rt(市場金利)と rt(割引率)を、本文では R2R_2、r1r_1、r2r_2 と書いています。 ↩

  9. 割引係数は丸める前の値で次の年限の計算に使い、表示の桁で四捨五入しています。スポットレートとフォワードレートも丸める前の割引係数から計算しています。 ↩

  10. 「スポットレートとその応用」の「スポットレートの計算式」(8 ページ)の注。 ↩

  11. リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 4 月)の「2.OIS とは何か」(3 ページ)。日本では、変動金利として一定期間の無担保コール O/N 物レートを複利で計算したものを使うとしています。 ↩

  12. 「スポットレートとその応用」の「スポットレートの重要性」(10 ページ)。 ↩

  13. Smith の教材(2012 年 6 月)の 27 ページ。1 年までは短期金利の表し方(money market quotation convention)を使うとしています。 ↩

  14. 同勉強会の資料(2018 年 4 月)の「(デリバティブのディスカウント・リスクのヘッジ)」(10 ページ)。 ↩

  15. Smith の教材(2012 年 6 月)の 1 ページと 14〜16 ページ。資料は 2012 年時点の米国の市場を例にしています。 ↩

  16. 日本証券クリアリング機構「金利スワップ証拠金」の「計算に使用するマーケットデータ」。 ↩

  17. Smith の教材(2012 年 6 月)の 25〜26 ページ。期間ごとの日数計算の年数 AnA_n を式に入れ、actual/360 や actual/365 がよく使われるとしています。 ↩

  18. 同じ資料の 5〜6 ページ。 ↩

  19. 同勉強会の資料(2018 年 4 月)の「(1)IBOR と OIS レートの性質の違い」(7〜8 ページ)。 ↩