金利オプションのボラティリティや価格を扱うトレーダー、評価とリスク管理の担当者、ボラティリティのデータを取り込むシステム担当者は、ブラック・モデルとバシュリエ・モデルのどちらの値かを区別して使います。2 つのモデルは、フォワードの動きの仮定がどう違うのでしょうか。

2 つのモデルが仮定するフォワードの動き

ブラック・モデルとバシュリエ・モデル(正規モデル)は、どちらも、将来の時点の値を今の市場で決めた値を原資産にするオプションの評価モデルです。原資産の例は、先物取引の価格や、将来の期間の金利であるフォワードレートです1。このページでは、先渡価格、先物価格、フォワードレートをまとめてフォワードと呼び、FF と書きます。2 つのモデルの違いは、フォワードの動き方の仮定にあります。

ブラック・モデルは、フォワードの変化率が正規分布に従うと仮定します。そのためフォワードは対数正規分布に従い、0 以下の値をとりません1。値が 2 倍になる確率と 2 分の 1 になる確率が同じで、上がる向きの動きの方が大きくなります。バシュリエ・モデルは、フォワードの変化幅そのものが正規分布に従うと仮定します。上がる向きと下がる向きに同じように動き、フォワードは 0 以下の値もとります2。バシュリエ・モデルは 1900 年にルイ・バシュリエが示したモデルで、実務ではノーマル・モデルとも呼びます3。

2 つの仮定は、短い期間 dtdt のフォワードの変化 dFdF を使って次のように書けます1。dWdW は、平均 0、分散 dtdt の正規分布に従う動き(ウィーナー過程の増分)です4。

dF=σBF dWdF = \sigma_B F \, dW dF=σN dWdF = \sigma_N \, dW

上がブラック・モデル、下がバシュリエ・モデルです。σB\sigma_B はブラック・モデルのボラティリティで、フォワードの変化率の標準偏差を年率で表し、% で示します。σN\sigma_N は正規ボラティリティで、フォワードの変化幅の標準偏差を年率で表し、金利では bp で示します1。ブラック・モデルでは変化幅の大きさが σBF\sigma_B F になり、フォワードの水準に比例します。ブラック・モデルのボラティリティを 30%、正規ボラティリティを 30bp として、フォワードの水準ごとに変化幅の標準偏差(年率)を比べると、次の表になります。

フォワード ブラック・モデル(30%) バシュリエ・モデル(30bp)
0.50% 15bp 30bp
1.00% 30bp 30bp
3.00% 90bp 30bp

ブラック・モデルでは、金利が低いほど動きが小さくなり、金利が高いほど大きくなります。バシュリエ・モデルでは、金利の水準によらず同じ幅で動きます。

この違いは、満期のフォワードの分布の形にも出ます。フォワード 1.00%、満期 2 年、ブラック・モデルのボラティリティ 30%、正規ボラティリティ 30bp の条件で、2 つの分布を重ねると、図 1 のとおりです。

バシュリエブラックバシュリエ 0% 以下 0.9%−0.500.511.522.530%フォワード 1.00%満期のフォワード(%)
図 1満期のフォワードの分布(ブラック・モデルとバシュリエ・モデル)
図の説明

図は、満期(2 年後)のフォワードの分布を、横軸を金利(%)として描いたものです。バシュリエ・モデルは、1.00% を中心に左右対称の正規分布で、標準偏差は 0.30% × √2 ≈ 0.42% です。0% 以下にも裾が伸び、その部分の面積(確率)は約 0.9% です。ブラック・モデルは、平均が同じ 1.00% で、対数の標準偏差が 0.30 × √2 ≈ 0.42 の対数正規分布です。0% 以下の値をとりません。山の頂点は 1.00% より左の 0.76% ほどにあり、右の裾が長くなります。ブラック・モデルでは、上がる向きの動きの方が大きいことが読み取れます。

価格の式

どちらのモデルも、満期の受け取りの期待値をモデルの分布で求め、支払日までの割引係数を掛けて今の価格にします5。記号は、フォワードを FF、行使価格(金利のオプションでは行使金利)を KK、満期までの年数を TT、支払日までの割引係数を PP とします。Φ\Phi は標準正規分布の累積分布関数、φ\varphi は確率密度関数です。

ブラック・モデルでは、満期にフォワードが行使価格を上回った分を受け取るコール・オプション(コール)の価格 CC は次の式になります6。

C=P[FΦ(d1)−KΦ(d2)]C = P \left[ F \Phi(d_1) - K \Phi(d_2) \right] d1=ln⁡(F/K)+σB2T/2σBTd_1 = \frac{\ln(F/K) + \sigma_B^2 T/2}{\sigma_B \sqrt{T}} d2=d1−σBTd_2 = d_1 - \sigma_B \sqrt{T}

バシュリエ・モデルでは、コールの価格は次の式になります6。

C=P[(F−K)Φ(d)+σNTφ(d)]C = P \left[ (F - K) \Phi(d) + \sigma_N \sqrt{T} \varphi(d) \right] d=F−KσNTd = \frac{F - K}{\sigma_N \sqrt{T}}

行使価格をフォワードが下回った分を受け取るプット・オプション(プット)の価格は、コールとプットの価格の差が P(F−K)P(F - K) になる関係(プット・コール・パリティ)から求められます。割引係数 PP を掛けた形で、ブラック・モデルでは P[KΦ(−d2)−FΦ(−d1)]P[K\Phi(-d_2) - F\Phi(-d_1)]、バシュリエ・モデルでは P[(K−F)Φ(−d)+σNTφ(d)]P[(K - F)\Phi(-d) + \sigma_N\sqrt{T}\varphi(d)] です。

ブラック・モデルの式は、ブラック・ショールズ・モデルのコールの式を、原資産の先渡価格 FF で書き直したものです5。今の原資産の価格、金利、配当は、先渡価格 FF と割引係数 PP を通してだけ価格に入ります。そのため、金利や配当の仮定を別に置かずに、市場で見えるフォワードと割引係数から価格を求められます。

商品ごとに、FF と PP に入れるものが変わります。国債先物オプションでは、国債先物の価格を FF にし、満期までの割引係数 e−rTe^{-rT} を PP にします7。rr は満期までの金利です。キャップレットでは、想定元本と期間の長さを掛け、利払いの支払日までの割引係数を使います8。スワップションでは、PP の代わりに、対象のスワップの支払日ごとの割引係数の和(アニュイティ)を掛けます6。

計算例:2 年後に決まる金利のオプション

想定元本 100 億円で、2 年後に決まる 1 年物の金利が行使金利を上回った分を、3 年後に受け取るコールの架空の例で考えます。キャップレット 1 つにあたる取引です8。フォワードレートは 1.00%、3 年後までの割引係数は 0.97、満期は 2 年とします。ブラック・モデルのボラティリティは 30%、正規ボラティリティは 30bp(1.00% × 30%)とします。受け取る金額は 100 億円 × 1 年 × (決まった金利 − 行使金利)で、価格は式の PP に 100 億円 × 0.97 を入れて求めます。

ブラック・モデルでは、次のとおりです9。

手順 計算 行使金利 1.00% 行使金利 1.50%
1 ln⁡(F/K)\ln(F/K) 0.000000 −0.405465
2 σBT\sigma_B\sqrt{T} = 0.30 × √2 0.424264 0.424264
3 d1d_1 = (手順 1 + 手順 2 × 手順 2 ÷ 2)÷ 手順 2 0.212132 −0.743558
4 d2d_2 = 手順 3 − 手順 2 −0.212132 −1.167822
5 Φ(d1)\Phi(d_1) 0.583998 0.228572
6 Φ(d2)\Phi(d_2) 0.416002 0.121439
7 FΦ(d1)−KΦ(d2)F\Phi(d_1) - K\Phi(d_2) 0.16799597% 0.04641305%
8 価格(円)= 100 億円 × 0.97 × 手順 7 16,295,609 4,502,066

バシュリエ・モデルでは、次のとおりです9。

手順 計算 行使金利 1.00% 行使金利 1.50%
1 σNT\sigma_N\sqrt{T} = 0.30% × √2 0.424264% 0.424264%
2 dd = (F−KF - K)÷ 手順 1 0.000000 −1.178511
3 Φ(d)\Phi(d) 0.500000 0.119296
4 φ(d)\varphi(d) 0.398942 0.199213
5 (F−K)Φ(d)+σNTφ(d)(F - K)\Phi(d) + \sigma_N\sqrt{T}\varphi(d) 0.16925688% 0.02487052%
6 価格(円)= 100 億円 × 0.97 × 手順 5 16,417,917 2,412,440

行使金利がフォワードレートと同じ 1.00% では、2 つのモデルの価格の差は 12 万円ほどで、ブラック・モデルの価格の 0.8% ほどです。行使金利を 1.50% に上げると、ブラック・モデルの 4,502,066 円はバシュリエ・モデルの 2,412,440 円の 2 倍近くになります。ブラック・モデルでは金利が上がるほど動きが大きくなるため、フォワードレートより高い金利に届く確率を、バシュリエ・モデルより大きく見るからです。どちらのモデルでも、買い手は 2 年後に決まった金利が行使金利を上回れば差額を受け取り、上回らなければ何も受け取らず、払った価格の分だけ損をします。売り手の損益はその反対です。

ボラティリティの単位と換算

2 つのボラティリティは、実務では次の近似で対応づけられています10。

σN≈FσB\sigma_N \approx F \sigma_B

フォワードが 1.00% でブラック・モデルのボラティリティが 30% なら、正規ボラティリティはおよそ 30bp です。この式は近似で、行使価格とフォワードが同じ(アット・ザ・マネー)でも、満期が長くボラティリティが大きいほどずれます。アット・ザ・マネーでは、FσB(1−σB2T/24)F\sigma_B(1 - \sigma_B^2 T/24) の方がよい近似です11。計算例の条件では 30bp × (1 − 0.09 × 2 ÷ 24)= 29.78bp で、2 つのモデルの価格を等しくする正規ボラティリティ 29.78bp と一致します12。

深掘りアット・ザ・マネーの近似の導き方

F=KF = K のとき、ブラック・モデルでは d1=σBT/2d_1 = \sigma_B\sqrt{T}/2、d2=−d1d_2 = -d_1 になり、コールの価格は PF[2Φ(σBT/2)−1]PF[2\Phi(\sigma_B\sqrt{T}/2) - 1] です。バシュリエ・モデルでは d=0d = 0 で、価格は PσNTφ(0)=PσNT/2πP\sigma_N\sqrt{T}\varphi(0) = P\sigma_N\sqrt{T}/\sqrt{2\pi} です。

Φ(x)\Phi(x) を x=0x = 0 のまわりで Φ(x)≈1/2+(x−x3/6)/2π\Phi(x) \approx 1/2 + (x - x^3/6)/\sqrt{2\pi} と展開し、x=σBT/2x = \sigma_B\sqrt{T}/2 を入れると、ブラック・モデルの価格は次の値に近くなります。

PFσBT2π(1−σB2T24)\frac{PF\sigma_B\sqrt{T}}{\sqrt{2\pi}} \left( 1 - \frac{\sigma_B^2 T}{24} \right)

これをバシュリエ・モデルの価格と等しいとおくと、σN≈FσB(1−σB2T/24)\sigma_N \approx F\sigma_B(1 - \sigma_B^2 T/24) になります。σB2T\sigma_B^2 T が小さければ、かっこの中は 1 に近く、σN≈FσB\sigma_N \approx F\sigma_B です。

行使価格がフォワードから離れると、ずれはさらに大きくなります。計算例の条件(フォワード 1.00%、2 年、ブラック・モデルのボラティリティ 30%)で、行使金利ごとにブラック・モデルと同じ価格になる正規ボラティリティを求めると、次の表になります12。

行使金利 同じ価格になる正規ボラティリティ(bp)
0.50% 21.48
0.75% 25.88
1.00% 29.78
1.25% 33.36
1.50% 36.72
2.00% 42.96

ブラック・モデルのボラティリティがどの行使金利でも 30% なら、正規ボラティリティで表すと、行使金利が高いほど大きくなります。そのため、片方のモデルでボラティリティを行使金利によらず一定にすると、もう片方のモデルではボラティリティが行使金利によって変わります。

換算にはフォワードの水準も入ります。ブラック・モデルのボラティリティが変わらなくても、金利が下がれば正規ボラティリティは下がります。2 つのボラティリティの動きは全体として似ていますが、連動しない時期も少なくありません13。フォワードが 0 に近づくと、同じ正規ボラティリティに対応するブラック・モデルのボラティリティは σN/F\sigma_N / F のように大きくなります。

2 つのモデルの違いは、次のシミュレーターで確かめられます。初期値は、満期 2 年、対象のスワップの期間 3 年(2 年 × 3 年)のペイヤーズ・スワップション(固定金利を払う側になる権利)です。カーブは、シミュレーターの既定のカーブ(市場の金利が翌日物 0.5% から 10 年 1.5% まで)の金利をすべて 0.5% 下げたもので、フォワード・スワップレートは 0.84% です。行使金利 0.85% のアット・ザ・マネーに近い点で、ブラック・モデルのボラティリティ 30% と正規ボラティリティ 25bp(0.84% × 30%)をそろえます。価格はブラック・モデルで 39,841,337 円、バシュリエ・モデルで 39,631,286 円とほぼ同じです14。行使金利を 1.25% に上げると、ブラック・モデルで 11,652,027 円、バシュリエ・モデルで 6,239,954 円と差が開きます。

ボラティリティを変えずにカーブを 1% 下げ、行使金利をフォワード・スワップレート(0.33%)に近い 0.35% にします。すると、ブラック・モデルは 15,041,083 円、バシュリエ・モデルは 40,003,497 円です。ブラック・モデルの 30% は正規ボラティリティのおよそ 10bp にしかあたらないため、ブラック・モデルの価格が大きく下がります。カーブを 1.5% 下げてフォワード・スワップレートを 0 以下にすると、ブラック・モデルの価格は計算できないと表示されます。

シミュレーターブラック・モデルとバシュリエ・モデルの価格の違い
入力
商品
%
年
年
%
%
bp
0100200300400500600−10123456価格(百万円)行使金利(%)39.8
  • ブラック・モデル
  • バシュリエ・モデル
フォワード・スワップ・レート
0.84%
アニュイティ(割引係数の和)
2.9357
ブラック・モデルの価格(円)
39,841,337
バシュリエ・モデルの価格(円)
39,631,286
ペイヤーズ − レシーバーズ / 同じ行使金利の固定払いのスワップ(円、バシュリエ・モデル)
−3,602,475 / −3,602,475

単純化している点

  • カーブは、カーブの構築のシミュレーター(swap-curve)の既定の市場の金利を平行に動かしてブートストラップしたもので、割引と将来の金利の予想に同じカーブを使います。
  • キャップ・フロアとスワップの支払いは年 1 回で、期間はどれも 1 年とみなします。キャップ・フロアの最初の 1 年は、金利が今決まっているため含めません。
  • ボラティリティはすべての満期と行使金利で同じとし、スマイルは考えません。ブラック・モデルをずらしたシフテッド・ブラックは扱いません。
  • 想定元本は 100 億円です。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

カーブの平行移動、行使金利、2 つのボラティリティを変えると、ブラック・モデルとバシュリエ・モデルの価格と、行使金利ごとの価格のグラフが変わります。行使金利を動かしたときと、カーブを下げたときの、2 つのモデルの価格の差の開き方を見比べられます。フォワード・スワップレートを 0 以下にしたときの表示も確かめられます。

マイナス金利とシフテッド・ブラック

ブラック・モデルの式には ln⁡(F/K)\ln(F/K) があり、フォワードか行使価格が 0 以下だと対数をとれず、価格を計算できません6。マイナス金利の下では、情報ベンダーがスワップションのブラック・モデルのボラティリティを提供しなくなり、バシュリエ・モデルが広まりました15。

もう 1 つの方法が、フォワードと行使価格の両方に一定の幅 ss(シフト)を足して正の値にしてから、ブラック・モデルを使うものです。フォワードの動きを次の式に置き換えたモデルで、シフテッド・ログノーマル・モデル(シフテッド・ブラック)と呼ばれます16。

dF=σB(F+s) dWdF = \sigma_B (F + s) \, dW

このモデルでは F+sF + s が対数正規分布に従うため、価格はブラック・モデルの式の FF を F+sF + s に、KK を K+sK + s に置き換えて求められます。フォワードがとれる値は −s-s より上に限られ、分布の形はブラック・モデルと同じく上がる向きに長くなります。たとえばフォワード −0.10%、行使金利 0.00%、シフト 1% で、計算例と同じ 100 億円、割引係数 0.97、満期 2 年、ボラティリティ 30% とします。0.90% と 1.00% を入れたブラック・モデルの式で、価格は 11,098,131 円です17。この価格は、上のシミュレーターでは出せません。

深掘りシフテッド・ブラックの価格の式の導き方

X=F+sX = F + s とおくと、ss は一定なので dX=dF=σBX dWdX = dF = \sigma_B X\,dW となり、XX はブラック・モデルのフォワードと同じ動きをします。満期の受け取りは max⁡(F−K,0)=max⁡(X−(K+s),0)\max(F - K, 0) = \max(X - (K + s), 0) で、フォワード XX、行使価格 K+sK + s のコールと同じです。そのため、ブラック・モデルの式に F+sF + s と K+sK + s を入れた値が価格になります。

シフテッド・ブラックの問題は、どれだけシフトさせるかです。シフトの幅は、フォワードと行使価格を正にできる大きさが要りますが、マイナス金利の深さは時期で変わります。2021 年時点では、シフトの幅は商慣行によるところが大きく、円金利では 1% や 2% のような切りのよい値が使われているという筆者の印象が示されています16。同じ価格でも、シフトの幅が違えばボラティリティの値が変わります。

一方で、バシュリエ・モデルは、金利がマイナスのときも上がる確率と下がる確率を同じとみます。この想定を現実的でないとみる場合は、シフテッド・ブラックが選択肢になります。長くブラック・モデルを使ってきたシステムで対応しやすいことも、シフテッド・ブラックが使われる理由の 1 つです16。

どの市場でどちらのモデルを使うか

この節の慣行は、国債先物オプションが 2022 年、スワップションが 2021 年の資料の時点のものです。

国債先物オプションでは、市場参加者がブラック・モデル(ブラック 76 モデル)を標準のモデルとしてインプライド・ボラティリティを求める商慣行があります。理由には、実務家になじみのあるブラック・ショールズ・モデルに近いことと、国債先物オプションの満期が短いことがあります18。ブラック・ショールズ・モデルの枠組みは、株価指数、株式、通貨の先物のオプションや一部のコモディティのオプションに当てはめられています。原資産が幾何ブラウン運動に従うとは言いにくいキャップレットやスワップションでも、価格をインプライド・ボラティリティで示すのに使われてきました19。ブラック・モデルは、「価格の式」で見たとおり、この枠組みを先渡価格や先物価格で書いた形です51。

スワップションでは、マイナス金利になる前は、ブラック・モデルでインプライド・ボラティリティを求めるのがほとんどでした。マイナス金利の後のスワップションは、バシュリエ・モデルとシフテッド・ブラックが併用されています15。シフテッド・ブラックのボラティリティはデータを取りにくいこともあり、資料の筆者は、学者や実務家がインプライド・ボラティリティで分析するときはバシュリエ・モデルを使うことが多いという印象を示しています20。

オプションの価格をインプライド・ボラティリティで表すと、モデルによって値が違い、各社が違うモデルを使うと値を比べにくくなります18。

前提と限界

ブラック・モデルもバシュリエ・モデルも、ボラティリティは行使価格によらず一定と仮定します。実際の市場では、アット・ザ・マネーから離れるほどインプライド・ボラティリティが高くなるボラティリティ・スマイルが見られます22。1 つのボラティリティでは、行使価格の違うオプションの価格をまとめて説明できません。行使価格ごとのボラティリティの形と、それを扱うモデルはボラティリティ・スマイルとサーフェスで扱います。

2 つのモデルは、どちらかが正しいから使われているのではありません。価格をボラティリティに置き換えて比べやすくするための換算の式として使われる面があり、得られるボラティリティがもっともらしいかは、モデルの仮定が現実に合っているかによります23。ブラック・モデルは金利が低いと動きを小さく見て、0 以下の金利を扱えません。バシュリエ・モデルは、金利の水準によらず同じ幅で動くとみなし、どこまでも低い金利に確率を置きます。

注

  1. 服部孝洋「スワップション入門(モデル編)―ノーマル(ブラック)・モデルおよびSABRモデルについて―」(財務省「ファイナンス」2021 年 10 月号。以下「服部(2021)」)の 2.1 節と 2.2 節(56〜58 ページ)、式 (1) と式 (2)。資料の説明はスワップションで、bp の単位は 59 ページの図 2 によります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  2. 服部(2021)の 2.1 節(57 ページ。2 倍と 2 分の 1 の確率)と 2.2 節(58 ページ。金利が上がる場合も下がる場合も等確率)。 ↩

  3. 服部(2021)の 58 ページと、58 ページの注 5。 ↩

  4. Martin Haugh "Generating Random Variables and Stochastic Processes"(Columbia University、2017 年)の 7 節、Definition 1(17 ページ)。dWdW は標準ブラウン運動の期間 dtdt の増分です。 ↩

  5. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University、2013 年)の 7 節、式 (31)(16〜17 ページ)。このページの PP は資料の e−r(T−t)e^{-r(T-t)} にあたり、t=0t = 0 としています。 ↩ ↩2 ↩3

  6. 服部(2021)の 3.2 節(60〜61 ページ)、式 (4)、式 (5) と注 12。資料の式はペイヤーズ・スワップションのもので、アニュイティ AA がこのページの PP、累積分布関数 NN が Φ\Phi にあたります。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  7. 服部(2021)の 61 ページ、式 (5) の後の段落。国債先物オプションは A=e−rTA = e^{-rT} の場合にあたるとしています。 ↩

  8. Martin Haugh "Market Models"(Term Structure Models: IEOR E4710、2010 年)の 2 ページ、"Black's Formula for Caplets" の式 (3)。資料の式は想定元本 1 あたりで、期間の長さ δ\delta と支払日までの割引係数を掛けています。 ↩ ↩2

  9. 手順 7(バシュリエ・モデルは手順 5)と価格は、rate-options シミュレーターと同じ計算の部品(src/lib/simulators/rate-options.ts)で、途中の値を丸めずに求めた値です。Φ\Phi と φ\varphi の値は小数第 6 位に丸めて示しているため、表の値から計算し直すと、手順 7(手順 5)の最後の桁が少しずれます。価格は円未満を四捨五入しています。 ↩ ↩2

  10. 服部(2021)の 3.1 節、式 (3)(59〜60 ページ)。資料は、実務家がこの近似式で 2 つのボラティリティの違いをおおむね把握しており、あくまで近似式だとしています。 ↩

  11. 服部(2021)の 60 ページの注 10。Corb(2012)が紹介する、よりよい近似としています。資料の σLN\sigma_{LN} はこのページの σB\sigma_B にあたります。 ↩

  12. rate-options シミュレーターと同じ計算の部品(src/lib/simulators/rate-options.ts)のブラック・モデルの価格と等しくなる正規ボラティリティを、バシュリエ・モデルの式から二分法で求め、小数第 2 位に丸めた値です。 ↩ ↩2

  13. 服部(2021)の 3.1 節(59 ページ)。 ↩

  14. 金額は、rate-options シミュレーターの計算結果を円未満で四捨五入した値です。フォワード・スワップレートは 0.8377% で、25bp は 0.8377% × 30% ≈ 25.1bp を丸めた値です。 ↩

  15. 服部(2021)の 2.1 節(57 ページ)。併用については 2.4 節(59 ページ)。 ↩ ↩2

  16. 服部(2021)の 2.4 節(58〜59 ページ)。資料の shift がこのページの ss にあたります。 ↩ ↩2 ↩3

  17. rate-options シミュレーターと同じ計算の部品(src/lib/simulators/rate-options.ts)のブラック・モデルの関数に 0.90% と 1.00% を入れて計算し、円未満を四捨五入した値です。 ↩

  18. 服部孝洋「国債先物オプション入門」(日本取引所グループ、2022 年)の「BOX 1 ブラック76 モデル(ブラック・モデル)」、7 ページ(PDF の 8 ページ目)。 ↩ ↩2

  19. Martin Haugh "Black-Scholes and the Volatility Surface"(Columbia University、2013 年)の 8 節 "Extensions of Black-Scholes"(17 ページ)。 ↩

  20. 服部(2021)の 2.4 節(59 ページ)と注 7。 ↩ ↩2

  21. 服部(2021)の 1 節(56 ページ)。 ↩

  22. 服部孝洋「国債先物オプション入門」(日本取引所グループ、2022 年)の 15 ページ(PDF の 16 ページ目)、図表 7 の説明。 ↩

  23. 服部(2021)の 2.3 節(58 ページ)。 ↩