バミューダン型の商品を評価するクオンツと、その評価を検証するリスク管理の担当者は、行使の判断を経路ごとにどうつけているかを確かめる場面があります。経路から評価するモンテカルロ法では、満期前に行使できる権利のために、その判断を作る仕組みが要ります。

なぜ経路だけでは行使を決められないか

アメリカン・オプションやバミューダン・オプションの買い手は、行使できる各時点で、今行使して得る額(行使価値)と、行使せずに持ち続けたときの価値を比べます。後者を継続価値といい、その時点の情報のもとでの、将来のキャッシュフローを割り引いた値の期待値です1。

行使日を t1<t2<⋯<tn=Tt_1 < t_2 < \dots < t_n = T、kk 番目の行使日の原資産の価格を SS、金利を一定の rr とすると、継続価値 Ck(S)C_k(S) は次の式です。CFjCF_j は、tkt_k より後に最適に行使する方針のもとで、tjt_j に受け取るキャッシュフローで、EQE^Q はリスク中立の確率での期待値です2。

Ck(S)=EQ[∑j>ke−r(tj−tk) CFj∣Stk=S]C_k(S) = E^Q\left[\sum_{j>k} e^{-r(t_j - t_k)}\, CF_j \mid S_{t_k} = S\right]

行使価値が正で、継続価値以上になった最初の日に行使する方針が、オプションの価値を最大にします2。ところが、継続価値は経路を作っただけでは分かりません。1 本の経路だけを見ても、行使するかどうかは決められません。そこで、最小二乗モンテカルロ法(LSM)は、経路どうしの情報を使います。同じ日に近い価格にいる多数の経路の将来のキャッシュフローから、継続価値を原資産の価格の関数として最小二乗法で推定します3。

行使日は有限の nn 個で、バミューダン型です。nn を十分に大きくすると、連続に行使できるアメリカン型の近似になります4。

後ろ向きの回帰で行使を決める手順

LSM は、満期から現在に向けて、行使日を 1 つずつさかのぼります5。満期 tnt_n のキャッシュフローは、プット・オプションなら max⁡(K−S,0)\max(K - S, 0) から始めます。KK は行使価格、SS は原資産の価格です。行使日 tkt_k での手順は次のとおりです。

  1. 各経路で、tkt_k より後に受け取るキャッシュフローを tkt_k に割り引き、YY とする。
  2. 行使価値 K−SK - S が正の(イン・ザ・マネーの)経路だけを選び、YY を価格 SS の関数の組(基底関数)に回帰して、継続価値の推定 C^k(S)\hat{C}_k(S) を得る。
  3. 選んだ経路ごとに、K−S>C^k(S)K - S > \hat{C}_k(S) なら行使する。その経路の tkt_k より後のキャッシュフローを消し、tkt_k のキャッシュフローを K−SK - S にする。
  4. 1 つ前の行使日に進み、手順 1 から繰り返す。

最初の行使日まで終えたら、各経路の行使する時点を τi\tau_i として、キャッシュフローを現在に割り引いて平均した値が価格です5。行使しない経路は 0 とします。

V0=1N∑i=1Ne−rτi (K−Si(τi))V_0 = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} e^{-r\tau_i}\,\bigl(K - S_i(\tau_i)\bigr)

手順 2 の回帰は、基底関数 ϕ0,…,ϕd\phi_0, \dots, \phi_d の線形結合で継続価値を表し、イン・ザ・マネーの経路の二乗誤差が最小になる係数 aja_j を求めます。dd が次数です。

C^k(S)=∑j=0daj ϕj(S/K),min⁡a∑i: K−Si>0(Yi−∑j=0daj ϕj(Si/K))2\hat{C}_k(S) = \sum_{j=0}^{d} a_j\,\phi_j(S/K), \qquad \min_{a}\sum_{i:\,K - S_i > 0}\Bigl(Y_i - \sum_{j=0}^{d} a_j\,\phi_j(S_i/K)\Bigr)^2

基底関数には、1,S/K,(S/K)2,…1, S/K, (S/K)^2, \dots のようなべき乗の多項式が使えます。価格を行使価格で割るのは、尺度をそろえるためです。Longstaff と Schwartz(2001)の論文は重み付きのラゲールの多項式を例に挙げ、べき乗や三角関数の級数でも正確な結果が得られたとしています6。このページのシミュレーターも、(S/K)j(S/K)^j のべき乗を使います。

手順の中で、次の 3 点が結果を左右します。

  • 被説明変数 YY は、満期のペイオフではありません。後の行使日に行使する経路は満期の受け取りがなくなるため、方針のもとで実際に受け取るキャッシュフローの割引値を使います。
  • 回帰に使うのはイン・ザ・マネーの経路だけです。行使の判断が意味を持つのはこの経路だけで、全経路で回帰すると、同じ精度に必要な基底関数が増えます7。
  • 回帰の値 C^k\hat{C}_k は、行使するかどうかの判断にだけ使います。キャッシュフローには、行使する経路なら K−SK - S、続ける経路なら後の手順で決まった実現値を使います。回帰の値を割り引いて足すと、価格が上に偏ります8。

8 経路のアメリカン・プットの計算例

行使価格 1.10 のアメリカン・プットを、行使日が t=1,2,3t = 1, 2, 3(t=3t = 3 が満期)、金利が 6%(連続複利)、現在の価格が 1.00、配当がなく、経路が 8 本の架空の例で考えます9。1 期間の割引係数は e−0.06=0.941765e^{-0.06} = 0.941765 です。この例の基底関数は、尺度をそろえずに価格そのものの 1,S,S21, S, S^2 とします。

経路 t=1t = 1 の価格 t=2t = 2 の価格 t=3t = 3 の価格
1 1.09 1.08 1.34
2 1.16 1.26 1.54
3 1.22 1.07 1.03
4 0.93 0.97 0.92
5 1.11 1.56 1.52
6 0.76 0.77 0.90
7 0.92 0.84 1.01
8 0.88 1.22 1.34

満期の t=3t = 3 は、行使価値 1.10−S1.10 - S が正の経路 3、4、6、7 が、0.07、0.18、0.20、0.09 を受け取ります。他の経路は 0 です。

t=2t = 2 でイン・ザ・マネー(価格が 1.10 未満)なのは、経路 1、3、4、6、7 の 5 本です。YY は t=3t = 3 のキャッシュフローを 1 期間割り引いた値で、SS を t=2t = 2 の価格として、1,S,S21, S, S^2 に回帰すると、C^2(S)=−1.06999+2.98341S−1.81358S2\hat{C}_2(S) = -1.06999 + 2.98341S - 1.81358S^2 です10。

経路 価格 SS YY 行使価値 1.10−S1.10 - S 継続価値の推定 C^2\hat{C}_2 判断
1 1.08 0.0000 0.02 0.037 続ける
3 1.07 0.0659 0.03 0.046 続ける
4 0.97 0.1695 0.13 0.118 行使
6 0.77 0.1884 0.33 0.152 行使
7 0.84 0.0848 0.26 0.156 行使

経路 4、6、7 は t=2t = 2 に行使するので、t=3t = 3 の受け取りが消え、t=2t = 2 の受け取りが 0.13、0.33、0.26 になります。経路 3 は続けるので、t=3t = 3 の 0.07 が残ります。

t=1t = 1 でイン・ザ・マネーなのは、経路 1、4、6、7、8 の 5 本です。経路 2、3、5 は価格が 1.10 以上なので回帰に入りません。YY は、t=2t = 2 の判断の後に残っているキャッシュフローを t=1t = 1 に割り引いた値です。経路 4、6、7 は t=2t = 2 の受け取りを 1 期間、経路 1 と 8 は 0 を使います。回帰は C^1(S)=2.03751−3.33544S+1.35646S2\hat{C}_1(S) = 2.03751 - 3.33544S + 1.35646S^2 です10。

経路 価格 SS YY 行使価値 1.10−S1.10 - S 継続価値の推定 C^1\hat{C}_1 判断
1 1.09 0.0000 0.01 0.013 続ける
4 0.93 0.1224 0.17 0.109 行使
6 0.76 0.3108 0.34 0.286 行使
7 0.92 0.2449 0.18 0.117 行使
8 0.88 0.0000 0.22 0.153 行使

経路 4、6、7、8 は t=1t = 1 に行使するので、t=2t = 2 以降の受け取りが消えます。経路 4 の受け取りは 0.13 から 0.17 に、経路 6 は 0.33 から 0.34 に、経路 7 は 0.26 から 0.18 に置き換わります。

t=1t = 1 の判断は、経路ごとに見ると外れることがあります。経路 7 は、続けると YY が 0.2449 で行使価値の 0.18 を上回りますが、回帰の値 0.117 が低いため行使します。経路 1 は、行使価値 0.01 があるのに、回帰の値 0.013 が上回るため続けますが、続けても 0 でした。回帰の値は経路をまたいだ平均の見積もりなので、判断は平均として得になるように決まります。経路 8 は、続けても 0 なので、行使して 0.22 を得た判断が当たった例です。

最後に、各経路の最初のキャッシュフローを現在に割り引きます。

経路 行使する時点 キャッシュフロー 現在価値
1 なし 0 0.00000
2 なし 0 0.00000
3 3 0.07 0.05847
4 1 0.17 0.16010
5 なし 0 0.00000
6 1 0.34 0.32020
7 1 0.18 0.16952
8 1 0.22 0.20719

現在価値の合計は 0.91547 で、8 経路の平均が価格 0.1144 です。同じ 8 経路で、満期だけに行使できるヨーロピアン・オプションの価格は、経路 3、4、6、7 の満期の受け取りの合計 0.54 に 3 期間の割引係数 0.835270 を掛けて 8 で割った 0.0564 です。アメリカンはその約 2 倍になります10。

既定の条件での価格と行使境界

現在の価格 100、行使価格 110、期間 1 年、金利 6%、ボラティリティ 20%、配当なしのアメリカン・プットを、行使日 50 回、経路 5,000 本、2 次の基底関数で評価する架空の例で考えます。行使価格が現在の価格の 1.10 倍で、金利が 6% なのは、8 経路の例と同じです。経路は幾何ブラウン運動でリスク中立に作り、比べる相手は、約 1,000 段の二項モデルのツリーと、ブラック・ショールズ・モデルの式です11。

評価の方法 価格
LSM(標準誤差 0.1206) 11.6384
バミューダン型の二項ツリー(行使日 50 回) 11.6353
連続に行使できるアメリカンの二項ツリー 11.6578
ヨーロピアン(ブラック・ショールズの式) 10.0314

LSM とバミューダン型のツリーの差は 0.0031 で、標準誤差のおよそ 3% です。連続に行使できるアメリカンの価格は、行使日が 50 回のバミューダン型より 0.0225 高くなります。LSM からヨーロピアンを引いた 1.6070 が、満期前に行使できることの価値(早期行使プレミアム)で、ヨーロピアンの価格のおよそ 16% です。

各行使日の回帰で得た継続価値の曲線が、行使価値 K−SK - S の線と交わる価格を、その行使日の行使境界といいます。イン・ザ・マネーの経路のうち、価格が境界より低い経路が行使されます。既定の条件では、行使日 10(0.2 年)の境界は約 93.6、行使日 25(0.5 年)は約 92.0 です。最終的にその日に行使される経路は、全経路のそれぞれ約 4.0%、約 0.6% です。

シミュレーターLSM による価格と、回帰した継続価値の散布図
入力
年
%
%
%
回
本
次
回帰と評価に使う経路
回目

25 回目の回帰(in-the-money の経路)

010203040506060708090100110価値その日の価格 S行使境界 92.00
  • in-the-money の経路(S と、これ以降のキャッシュフローを割り引いた値 Y)
  • 回帰した継続価値
  • 行使価値 K − S

各行使日に行使した経路の割合

02468100.20.40.60.81.0割合(%)時点(年)

各行使日の行使境界

90951001051100.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0価格時点(年)
  • 行使境界
  • 行使価格 K
LSM の価格(アメリカン・プット)
11.6384
LSM の標準誤差
0.1206
ヨーロピアン・プット(ブラック・ショールズ)
10.0314
バミューダン型の二項ツリー(50 回の行使日)
11.6353
アメリカン・プットの二項ツリー(連続に行使、1,000 段)
11.6578
早期行使プレミアム(LSM − ヨーロピアン)
1.6070
LSM とバミューダン型ツリーの差(標準誤差の何倍か)
0.03
回帰を見る行使日
25 回目(0.50 年後)
in-the-money の経路 3,484 本(図は 388 本に間引いて表示)
回帰に使った次数
2 次
行使境界(回帰した継続価値 = K − S の S)
92.00
この日に行使した経路の割合
0.6%

単純化している点

  • 原資産の価格は幾何ブラウン運動に従い、ボラティリティ、金利、配当利回りは満期まで一定とします(リスク中立)。商品はアメリカン・プットだけです。配当のないアメリカン・コールは早期に行使する理由がなく、ヨーロピアンと同じ価格になるため、作っていません。
  • 行使日は満期までを等分したバミューダン型です。行使日を増やすと連続に行使できるアメリカンに近づくため、二項ツリーの比べる相手は、行使日の数に合わせたものと、連続に行使できるものの 2 つを出します。
  • 継続価値の回帰の基底は 1, x, x², …(x = S/K)です。論文のラゲールの多項式は重み付きで基底が違うため、回帰した曲線は少し違うことがあります。
  • 乱数はシードを固定した疑似乱数(xoshiro128**)で、同じ入力なら毎回同じ結果になります。回帰に使う経路と別の経路は、別のシードで作ります。
  • 標本内の価格は、回帰に使った経路の揺れまで拾って行使を決めるため、高めに出る傾向があります。別の経路で評価した価格は、方針が最適でない分だけ低めに出る傾向があります。

このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)

シミュレーターの説明

「回帰を見る行使日」を動かすと、その日のイン・ザ・マネーの経路の価格と YY の散布図、回帰した継続価値の曲線、行使価値の線が変わります。「基底関数の次数」「行使日の数」「経路の数」を変え、結果の表のツリーとの差を見ます。既定は行使日 25 で、曲線と行使価値の線の交点が境界です。「回帰と評価に使う経路」を「別の経路」にすると、別の経路で評価した価格が出ます。

次数、行使日の数、経路の数の影響

基底関数の次数を上げると、回帰の曲線が継続価値の形を表せる範囲が広がり、行使の方針が最適な方針に近づきます。画面の既定と同じ市場の条件で、行使日 50 回、経路 12,000 本にして、乱数を変えた 20 通りの平均を取ると、次のようになります12。回帰に使った経路(標本内)と別の経路(標本外)の価格を並べています。別の経路で評価した価格は、次数 1 でバミューダン型のツリー(11.6353)より 0.147 低く、次数 3 以上ではツリーとの差が 0.004 以内です。

次数 別の経路で評価した価格 ツリーとの差 回帰に使った経路での価格
1 11.4879 −0.1474 11.4848
2 11.6161 −0.0192 11.6249
3 11.6353 0.0000 11.6533
4 11.6388 0.0035 11.6607

行使日の数 nn は、商品の行使日に合わせます。同じ 5,000 本・2 次で nn を変えると、LSM とバミューダン型のツリーは次のようになります11。n=1n = 1 はヨーロピアンです。

行使日の数 LSM(標準誤差) バミューダン型のツリー
1(ヨーロピアン) なし 10.0328
2 10.9667(0.1439) 10.9350
4 11.2667(0.1293) 11.3430
10 11.4845(0.1248) 11.5442
50 11.6384(0.1206) 11.6353

行使日が増えるほど価格が上がり、連続に行使できるアメリカンの 11.6578 に近づきます。行使日が 2 回以上のどの行でも、LSM とツリーの差は、標準誤差の範囲に収まっています。

経路の数は、標準誤差に効きます。経路を 1,000 本、5,000 本、12,000 本にすると、標準誤差は 0.2496、0.1206、0.0749 になります11。経路が 12 倍で標準誤差は約 3.3 倍小さくなり、標準誤差が経路の数の平方根に反比例するという、約 3.5 倍の関係に近い値です。標準誤差の求め方はモンテカルロ法で扱います。

下限の価格と標本内の偏り

LSM は、各行使日の回帰で行使のルールを決めます。最適な方針は価値を最大にするので、LSM の方針で得られる価値は、真の価格を上回りません。基底関数の数と行使日の数を決め、各行使日の係数を固定して経路の数を限りなく増やしたとき、LSM の方針で得た値の平均は真の価格以下になると、Longstaff と Schwartz の論文は示しています13。これが、別の経路の価格が低めに出る理由です。基底関数を増やしても価格が増えなくなったところが、収束の目安です13。

一方、回帰に使った経路(標本内)で同じ価格を評価すると、方針が経路の揺れに合わせて決まるため、高めに出る傾向があります。この偏りは先読みの偏り(look-ahead bias)といい、方針が最適でないことによる低めの偏りと逆向きです。LSM の推定値には両方が入っています14。避ける標準的な方法は、評価に別の経路を使うことで、経路を作る計算が 2 倍になります14。

先読みの偏りは、経路が少ないほど、次数が高いほど大きくなるとされます14。次の表は、回帰に使う経路と評価する経路を別の乱数で作り、20 通りの乱数で平均した結果です12。差は、回帰に使った経路での価格から別の経路での価格を引いた値で、この平均では、どの組でも正になっています。個々の乱数では負になることもあります。

経路の数 次数 回帰に使った経路での価格 別の経路での価格 差(標準誤差)
1,000 2 11.8467 11.5163 0.3305(0.1008)
1,000 4 11.9352 11.4829 0.4523(0.0941)
5,000 2 11.6317 11.5913 0.0405(0.0304)
5,000 4 11.6809 11.6155 0.0654(0.0308)
12,000 2 11.6249 11.6161 0.0088(0.0242)
12,000 4 11.6607 11.6388 0.0219(0.0240)

バミューダン型のツリーは 11.6353 で、別の経路での価格は経路が少ないほどその下に離れます。1,000 本・次数 4 では 0.152 低く、12,000 本・次数 4 ではほぼ重なります。差は経路の数が増えるほど縮み、12,000 本では標準誤差の範囲に収まります。どの経路の数でも、次数 4 の差は次数 2 より大きい値ですが、その違いは差の標準誤差と同程度です。画面の既定の乱数で、5,000 本・次数 2 のまま「別の経路」にすると、価格は 11.6384 から 11.6287 に変わります。

標準誤差は、経路の価値のばらつきから出る統計誤差です。方針が最適でないことによる低めの偏りと、同じ経路を使うことによる高めの偏りのどちらも含みません。

前提と限界

配当がなく、金利が正のとき、株のアメリカン・コールは、満期前に行使すると時間的価値を手放すだけなので、ヨーロピアン・コールと価格が同じになります15。回帰で継続価値を推定する必要がなく、このページのシミュレーターもアメリカン・プットだけを扱います。プットは、株価が大きく下がったときに、待つより早く受け取るほうが有利になることがあります15。

このページのシミュレーターは、金利とボラティリティを一定とし、経路を幾何ブラウン運動で作り、配当は連続払いだけを扱います。前提の 1 つは、状態変数が原資産の価格 1 つだけであることです。状態変数が 2 つなら、基底関数に両方の変数と交差項を入れます5。基底関数を 2 次から 1 次にすると、既定の条件で LSM は 11.6384 から 11.5037 に下がり、継続価値の曲がり方を表せない分だけ方針が悪くなります。

実装では、基底関数どうしが似ていても、使うのは当てはめた値で個々の係数ではないため、アルゴリズムの結果は変わりません。ただし、基底関数の積和の行列が特異に近いと、数値の誤差が出ます。Longstaff と Schwartz の論文は、価格と受け取りを行使価格で割って尺度をそろえ、回帰を倍精度の方法で解いています16。

金利のバミューダン・スワップションでは、早期行使の判断に最小二乗モンテカルロ法のような工夫が要り、計算の負荷がさらに重くなります17。商品の仕組みはバミューダン・スワップションで扱います。経路はLIBOR マーケット・モデルなどの金利のモデルで作ります。

注

  1. Lyuu "American Option Pricing by Simulation"(外部サイト)の Page 927。継続価値は、今オプションを持ち続けたときのペイオフの条件付き期待値で、保有者は行使価値と継続価値を比べるとしています。 ↩

  2. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 121 ページ(2.1 節)、式 (1) とその直後。行使価値が正で継続価値以上になったらすぐ行使する方針が、価値を最大にするとしています。 ↩ ↩2

  3. Lyuu の講義資料(外部サイト)の Page 927〜928。1 本の経路だけでは行使の判断に至らないため、経路どうしの情報から最小二乗で継続価値を推定します。論文は 115 ページ(1 節)と 120 ページで同じ考え方を示しています。 ↩

  4. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 121 ページ(2.1 節)。行使日を nn 個の離散的な時点とし、連続に行使できる場合は nn を十分に大きくして近似できるとしています。 ↩

  5. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 122〜123 ページ(2.2 節)。後ろ向きに各行使日で回帰し、最後に最初の行使の時点からキャッシュフローを割り引いて全経路で平均します。 ↩ ↩2 ↩3

  6. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 122〜123 ページ(式 (2)〜(6) とその後の文)。べき乗や三角関数でも正確な結果が出るとしています。 ↩

  7. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 123 ページ(2.2 節)とその脚注 8。全経路を使うと、同じ精度に 2〜3 倍以上の基底関数が要る場合があったとしています。 ↩

  8. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 118 ページ(1 節)と、125 ページの脚注 9。回帰の推定値を割り引くと上に偏りうるとし、最大値を取る演算が凸であることを理由に挙げています。 ↩

  9. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 116〜120 ページ(1 節)。経路、行使価格 1.10、金利 6%、行使日 1〜3 はこの例のとおりで、経路はリスク中立の測度で作ったとしています。 ↩

  10. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 117、119、120 ページ。論文は回帰を −1.070 + 2.983S − 1.813S² と 2.038 − 3.335S + 1.356S²、価格を 0.1144、ヨーロピアンを 0.0564 と示します。論文の継続価値の欄は、3 桁に丸めた係数で計算されているため、本文の表と最大 0.0005 違います。 ↩ ↩2 ↩3

  11. このサイトのシミュレーター lsm と同じ計算の結果です。乱数の経路は固定のシードで作り、二項ツリーは約 1,000 段です。 ↩ ↩2 ↩3

  12. 回帰に使う経路の乱数 20 通り(シード 1〜20)と、評価する経路の乱数 20 通りを組にした平均の計算です。行使日 50 回、バミューダン型のツリーは 11.6353 で、それ以外の条件は既定の条件です。 ↩ ↩2

  13. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 124〜125 ページ、Proposition 1(2.3 節)とその後の説明。係数を決めた LSM の方針の値が真の価格以下であること、基底関数を増やして価値が増えなくなるまでを目安にできることです。 ↩ ↩2

  14. Woo、Liu、Choi(外部サイト)の 2〜4 ページ(1.1 節)。偏りの向きが逆の 2 つの種類と、別の経路を使う標準的な方法(計算が 2 倍)、経路が少なく次数が高いと先読みの偏りが増えるとする先行研究の紹介です。 ↩ ↩2 ↩3

  15. Courant Institute の講義資料 "American Options"(外部サイト)(Lecture 8)。コールは節 1.1 の 3、4 と注 (a)、(b)(1〜2 ページ)、プットは同じ節の 3 とその注(3 ページ)です。 ↩ ↩2

  16. Longstaff、Schwartz(2001)(外部サイト)の 142〜143 ページ(8.3 節)。当てはめた値は基底関数の相関に影響されないこと、積和の行列が特異に近いときの数値誤差、行使価格で割る正規化です。 ↩

  17. 日本銀行金融研究所 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(外部サイト)の 132 ページ、「1. はじめに」。早期行使権付きのオプションでは、Longstaff と Schwartz の最小二乗モンテカルロ法のような工夫が要り、計算負荷がさらに重くなることです。 ↩