FRA は、将来借りる予定の企業が、借入の金利を今のうちに決めておくための取引です。金利スワップを期間ごとに分けた部品とも見られます。
将来の期間の金利を今決める取引
FRA(Forward Rate Agreement)は、将来のある期間に使う金利を今決めておく取引で、日本語では金利先渡取引と呼びます1。金利スワップと同じく、金利を対象にした店頭デリバティブです2。将来の条件を今決める点は先渡取引と同じです3。先渡しの一般は先渡しと先物で扱います。今決めておく固定の金利は、約定金利と呼びます。
D 社と E 銀行が、想定元本 100 億円で、6 か月後に始まる 6 か月の期間の金利を年 1% に決める FRA を結ぶ架空の例で考えます。D 社が買い手、E 銀行が売り手です。6 か月後に決まる 6 か月物の指標金利が年 1% より高ければ E 銀行が D 社に、低ければ D 社が E 銀行に、その差にもとづく金額を 1 回だけ払います4。想定元本の 100 億円そのものは、どちらからも受け渡しません。
受け渡す金額は、想定元本、指標金利と約定金利の差、期間の長さを掛けて求めます5。計算は次の節で示します。欧州の銀行団体が作った基本契約の書式でも、例と同じ向きで差額を払うと定めています6。つまり買い手は、約定金利を払って指標金利を受け取る側と同じ立場になります。
FRA の期間は「3×6」のように、今から期間の始めまでの月数と、今から期間の終わりまでの月数を並べて表します。3×6 の FRA は、3 か月後に始まる 3 か月の金利を今決める取引です7。この表し方では、例の FRA は 6×12 です。
決済日に差額を割り引いて受け渡す
FRA の差額は、期間の始めに指標金利が決まった時点で金額が分かるため、期間の終わりまで待たずに期間の始めに受け渡します。このとき、期間の終わりの利息の差を、決まった指標金利で割り引いた額にします8。この期間の始めの日を決済日と呼びます。
100 億円の例で、6 か月後に決まった指標金利が年 2% だったとします。期間の長さを 0.5 年とすると、期間の終わりの利息の差は 100 億円 × (2% − 1%) × 0.5 = 5,000 万円です。これを 1 + 2% × 0.5 = 1.01 で割った約 4,950 万円を、決済日に E 銀行が D 社に払います9。指標金利が年 0.5% だった場合は、利息の差が −2,500 万円になり、D 社が E 銀行に約 2,494 万円を払います。
| 決済日に決まった指標金利(仮定) | 期間の終わりの利息の差(万円) | 割り引くときに割る数 | 決済日の受け払い(D 社の受け取りをプラス、万円) |
|---|---|---|---|
| 年 2% | 5,000 | 1.01 | 4,950 |
| 年 1% | 0 | 1.005 | 0 |
| 年 0.5% | −2,500 | 1.0025 | −2,494 |
一般には、決済額を次の式で求めます。
分子は、期間の終わりに受け渡すとした場合の利息の差です。分母で割るのは、その額を期間の始めの価値に直すためです。決済額がプラスなら売り手が買い手に払い、マイナスなら買い手が売り手にその絶対値を払います。
この例は計算を簡単にするため、期間の長さを 0.5 年にしています。実際の取引では、期間の日数を当事者が選んだ日数計算の慣行で年に換算します10。
FRA の約定金利とフォワードレート
取引を結ぶときの約定金利は、FRA の時価が 0 になる金利にします。その金利は、今の期間ごとの金利から計算した、将来の期間の金利であるフォワードレートに等しくなります11。
期間の始めに割り引いて受け渡しても、期間の終わりに受け渡しても、FRA の価値は変わりません8。期間の始めに受け取った額を、決まった指標金利で期間の終わりまで運用すると、期間の終わりの利息の差と同じ額になるためです。100 億円の例では、4,950 万円を年 2% で 0.5 年運用すると、4,950 万円 × 1.01 で約 5,000 万円になります。
金利スワップは、期間の違う FRA を並べたものとみなせます12。利払いが半年ごとの 2 年の金利スワップなら、固定金利の払いと変動金利の受け取りを、0×6、6×12、12×18、18×24 の 4 つの FRA に分けて考えられます。ただし、FRA を並べると期間ごとの約定金利はその期間のフォワードレートになり11、金利スワップでは全期間で同じ固定金利になります13。
取引の後に金利が動いたときの時価
FRA を結んだ後に、市場の金利が動いてその期間のフォワードレートが上がると、買い手の時価が上がり、売り手の時価は同じだけ下がります。フォワードレートが下がると逆になります。取引を結んだ時点では約定金利とフォワードレートが等しく、時価は 0 です。その後の時価は、約定金利と今のフォワードレートの差で決まります11。
次のシミュレーターでは、市場の金利(翌日物金利と、期間ごとの OIS の固定金利)から、期間ごとの金利の並びであるイールドカーブを作り、FRA のフォワードレートと時価を求めます。OIS は、固定金利と、翌日物金利を複利で計算した変動金利を交換する金利スワップです14。
初期値は、想定元本 100 億円、約定金利 年 1% の 6×12 の FRA の買い手です。初期値の市場の金利では、6 か月後から 6 か月のフォワードレートは 0.60% で、約定金利がこれより高いため、買い手の時価は −19,911,863 円です。1 年の OIS の金利を 0.60% から 1.20% に上げると、フォワードレートは 1.20% になり、買い手の時価は 9,799,224 円になります。
- ゼロレート(連続複利)
- 1 年ごとのフォワードレート
支払日ごとの差し引きの受け払いの現在価値(円)
キャッシュフロー(円。受け取りは正、支払いは負)
| 支払日 | 固定 | 変動(予想) | 割引係数 | 現在価値 |
|---|---|---|---|---|
| 1 年 | −50,000,000 | +29,968,665 | 0.994036 | −19,911,863 |
- フォワードレート(時価が 0 になる約定金利)
- 0.60%
- 時価(円)
- −19,911,863
- DV01(市場の金利が 1bp 上がったときの時価の変化、円)
- +497,505
- 入力した OIS をカーブで評価し直した時価
- すべて 0
単純化している点
- 割引にも将来の金利の予想にも、同じ 1 本のカーブ(OIS のカーブ)を使います(シングルカーブ)。
- OIS とスワップは年 1 回の支払いで、期間はどれも 1 年とみなします。日数計算の慣行、営業日の調整、支払いの遅れは考えません。
- 柱(翌日物、1 年、2 年、5 年、10 年)の間は、割引係数の対数を直線で補間します(柱の間でフォワードレートが一定)。
- 想定元本は 10,000,000,000 円(100 億円)です。
このシミュレーターは学習のために単純化した計算で、実際の取引の評価やリスク管理には使えません。(免責事項)
シミュレーターの説明
市場の金利(翌日物と、1 年、2 年、5 年、10 年の OIS)を動かすと、作ったイールドカーブと、FRA のフォワードレート(時価が 0 になる約定金利)、時価が変わります。約定金利をフォワードレートに合わせると時価が 0 に近づくこと、立場を売り手に変えると時価の符号が逆になることを確かめられます。画面では FRA の受け払いを期間の終わりの額で示しますが、期間の始めに割り引いて決済しても現在価値は同じです。
将来の借入の金利を固定する使い方
FRA を買うと、将来の借入の金利を今決めておけます。変動金利で借りる予定の企業が FRA を買うと、指標金利が上がったときは FRA で差額を受け取り、下がったときは差額を払うため、借入と合わせた金利はほぼ約定金利になります13。借入に上乗せの金利がなく、決済日に受け払う額を同じ指標金利で満期日まで運用または調達できるなら、ちょうど約定金利になります。
D 社が、6 か月後に F 銀行から 100 億円を 6 か月借りる予定で、借入の金利はそのときの 6 か月物の指標金利(上乗せの金利はないものとする)だとします。D 社は、先ほどの 6×12 の FRA を約定金利 年 1% で E 銀行から買っています。決済日に受け払う額は、同じ指標金利で満期日まで運用または調達できるものとします。
図の説明
指標金利が年 2% になったときの、D 社の FRA と借入の受け払いを時点の順に示した図です。取引日には受け払いがありません。決済日に D 社が E 銀行から FRA の差額を受け取り、満期日に F 銀行へ借入の利息を払います。金額は、下の本文の計算と同じです。
指標金利が年 2% に上がった場合、D 社は借入の利息を 1 億円払いますが、FRA で受け取った額が満期日には約 5,000 万円になり、差し引きの負担は約 5,000 万円で、年 1% の金利で借りたのと同じです。FRA がなければ 1 億円を払うところなので、約 5,000 万円得になります。
指標金利が年 0.5% に下がった場合、借入の利息は 2,500 万円で済みますが、D 社は決済日に FRA で約 2,494 万円を払います。この額を満期日の価値に直すと約 2,500 万円なので、差し引きの負担はやはり約 5,000 万円(年 1%)です。FRA がなければ 2,500 万円で済んだため、約 2,500 万円損になります。売り手の E 銀行の損益は、D 社の FRA の損益の逆です。事業会社がヘッジをどう使うかは、事業会社の利用で扱います。
リスクと今の取引
FRA は店頭で結ぶため、相手が決済日に差額を払えなくなるリスクがあります。差額は決済日に 1 回だけ受け渡すため、その日に相手が払えないと、受け取れません。
日本銀行の資料では、2020 年 6 月末の世界の店頭デリバティブの残高のうち、金利先渡取引が 15.3% を占めていました1。2026 年 6 月末に日本の主要なディーラーが持っていた FRA の残高(想定元本)は約 4.1 兆米ドルで、金利の店頭デリバティブの残高 約 81.9 兆米ドルの約 5.0% でした。内訳は次のとおりです15。
| FRA の残高の通貨別の内訳(2026 年 6 月末) | 残高 | FRA 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| ユーロ建て | 約 3.9 兆米ドル | 95.9% |
| 円建て | 約 64 億米ドル | 0.2% |
取引相手で見ると、FRA 全体の 96.9%(約 3.9 兆米ドル)は取引相手が清算機関でした。
2009 年の残高を示した大学の講義資料は、FRA の多くが LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)か EURIBOR にひもづいていると説明していました16。米国の商品先物取引委員会(CFTC)が清算を義務づける FRA は 4 つの種類です。2026 年 9 月 1 日時点の規則の表では、EURIBOR(ユーロ)、WIBOR(ポーランド・ズロチ)、NIBOR(ノルウェー・クローネ)、STIBOR(スウェーデン・クローナ)を指標金利にします17。
注
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日本銀行「店頭デリバティブ取引データからみた円金利スワップ市場」(日銀レビュー、2021 年 6 月)の図表 1「店頭デリバティブ取引の商品種類別構成比」(1 ページ)。2020 年 6 月末の取引残高の割合(グローバルベース)で、BIS の定例報告をもとにした図表です。 ↩ ↩2
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Federal Reserve Bank of New York の Staff Report No. 557(2012 年)の商品の分類 "Forward rate agreements (FRA)"(PDF の 6 ページ目)。 ↩
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Jennifer Carpenter "Forward Rate Agreements"(ニューヨーク大学スターン・スクールの講義資料)の 2〜3 ページ。FRA では固定金利と想定元本を取引の始めに決め、受け渡しは将来の 1 つの日に行うとしています。先渡取引の定義は用語集の「先渡取引」にあります。 ↩
-
Jennifer Carpenter "Forward Rate Agreements"(ニューヨーク大学スターン・スクールの講義資料)の 2 ページ。FRA を、固定の利息と変動の利息を 1 つの日に交換する 2 者の間の契約としています。 ↩
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European Banking Federation の金利取引の補足書式「Interest Rate Transactions」(Edition 2020)の 2 条の FRA の定義、4 条 (2)、(5)(a)(1〜3 ページ)。FRA の変動の金額を、元本、金利の差、日数計算の割合の積としています。 ↩
-
同じ資料の 3 条 (2)「Forward Rate Agreement」(2 ページ)。 ↩
-
Donald J. Smith "A Teaching Note on Pricing and Valuing Interest Rate Swaps Using LIBOR and OIS Discounting"(2012 年 6 月)の 9 ページ。3 か月後に始まる 3 か月物の金利を固定する例として "a 3x 6 FRA" を挙げています。 ↩
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Jennifer Carpenter "Forward Rate Agreements" の 2 ページ。期間の終わりの利息の差を期間の始めに (1 + r/2) で割った額で決済しても、価値は変わらないとしています。 ↩ ↩2
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50,000,000 円 ÷ 1.01 = 49,504,950.4… 円、25,000,000 円 ÷ 1.0025 = 24,937,655.8… 円。表と本文では万円の単位に四捨五入しています。 ↩
-
European Banking Federation の金利取引の補足書式(Edition 2020)の 4 条 (2)(2 ページ)。変動の金額は、元本、金利、当事者が選んだ日数計算の割合の積としています。 ↩
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Jennifer Carpenter "Forward Rate Agreements" の 3 ページ。FRA の価値を割引債の組み合わせで表し、取引を結ぶときに価値が 0 になる固定金利がフォワードレートだとしています。 ↩ ↩2 ↩3
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同じ資料の 4 ページ。スワップの各期間のキャッシュフローは、固定金利がスワップレートの FRA のキャッシュフローだとしています。 ↩
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Donald J. Smith "A Teaching Note on Pricing and Valuing Interest Rate Swaps Using LIBOR and OIS Discounting"(2012 年 6 月)の 9 ページ。固定金利を払う FRA か金利スワップで変動金利の債務を固定にでき、金利は FRA では期間ごとに変わり、スワップでは全期間で同じとしています。 ↩ ↩2
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リスク・フリー・レートに関する勉強会「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」(2018 年 3 月時点の情報)の「2.OIS とは何か」の「(OIS の定義)」(3 ページ。PDF の 5 ページ目)。 ↩
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日本銀行金融市場局「「デリバティブ取引に関する定例市場報告」日本分集計結果(2026年6月末)」(2026 年 9 月 10 日)の表 2「金利関連取引」。単位は百万米ドルで、このページでは兆米ドルか億米ドルに直し、割合を小数第 1 位に四捨五入しています。 ↩
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Jennifer Carpenter "Forward Rate Agreements" の 2 ページ。資料の日付はなく、同じページで 2009 年の FRA の残高を示しています。 ↩
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17 CFR 50.4 の (a) の Table 3「Forward rate agreement class」。Electronic Code of Federal Regulations の 2026 年 9 月 1 日時点の条文で確かめました。 ↩