スノーボールは、仕組債の利息の仕組みを調べるときや、金利エキゾチックの評価とリスクの管理を学ぶときに出てくる商品です。利息が前の期の利息に左右される点が、変動利付債との違いです。

利息の決まり方

スノーボールは、各期の利息を、前の期の利息と変動金利から決める商品です1。最初の期の利息は前の期がないため、あらかじめ決めた固定の利率です。2 期目以降は、前の期の利息に加算分を足し、その期の変動金利を引いて決めます2。

nn 期目の利率を CnC_n(C1C_1 は 1 期目の固定の利率)、nn 期目の加算分を AnA_n、nn 期目の変動金利を rnr_n とすると、2 期目以降(n≥2n \ge 2)は次の式です。

Cn=max⁡(Cn−1+An−rn, 0)C_n = \max(C_{n-1} + A_n - r_n,\ 0)

max⁡(⋅, 0)\max(\cdot,\ 0) は、かっこの中が負のときに 0 にする演算で、これが利息の 0% の下限になります。式の形は、Bender ほかの 2005 年の論文の例にならっています。この例は、変動金利に Libor を使い、利息を (前の期の利息+A−Libor)+(\text{前の期の利息} + A - \text{Libor})^+ の形で、正の部分だけ取ります2。例が使う Libor は、2024 年 9 月に公表を終えた指標です。

Bender ほかの例の加算分 AnA_n は契約で決めた値で、年ごとに一定の幅ずつ増えます。最初の 1 年は固定の利率で、半年ごとに利息を払います2。

変動金利は、期の初めに観測した金利を使い、利息はその期の終わりに受け払いします2。式の右辺は前の期の利息を含むので、どの期の利息も、最初の期までさかのぼる連なりで決まります。

受け払いの例

J 社が額面 100 億円、期間 5 年、年 1 回の利払いのスノーボール債を持つ架空の例で考えます。1 期目の利率は 3.0% の固定、加算分は毎期 2.0% です。2 期目以降の利率は、上の式のとおりに決めます。変動金利が下がっていく場合と、上がっていく場合を、次のように仮定します。

下がる場合(変動金利が 1.0%、0.8%、0.5%、0.5% と下がる)の表です。

期 変動金利(%、仮定) 利率(%) 利息(億円)
1 年目 − 3.0 3.0
2 年目 1.0 4.0 4.0
3 年目 0.8 5.2 5.2
4 年目 0.5 6.7 6.7
5 年目 0.5 8.2 8.2
5 年間の合計 27.1

上がる場合(変動金利が 2.0%、3.0%、3.5%、4.0% と上がる)の表です。

期 変動金利(%、仮定) 利率(%) 利息(億円)
1 年目 − 3.0 3.0
2 年目 2.0 3.0 3.0
3 年目 3.0 2.0 2.0
4 年目 3.5 0.5 0.5
5 年目 4.0 0(下限) 0
5 年間の合計 8.5

下がる場合の 5 年目は、前の期の利率 6.7% に 2.0% を足し、変動金利 0.5% を引いた 8.2% です。上がる場合の 5 年目は、前の期の利率 0.5% に 2.0% を足し、変動金利 4.0% を引くと −1.5% になり、下限で 0% になります。

比べるために、1 年目を同じ 3.0% の固定とし、2 年目以降は各期の変動金利をそのまま払う債券を考えます。この債券の 5 年間の利息は、下がる場合が 3.0 + 1.0 + 0.8 + 0.5 + 0.5 = 5.8 億円、上がる場合が 3.0 + 2.0 + 3.0 + 3.5 + 4.0 = 15.5 億円です。この例では、下がる場合は変動利付債より利息の合計が 21.3 億円多く、上がる場合は 7.0 億円少なくなります。比べているのは利息の合計だけで、額面の償還や現在価値、発行体の信用は含めていません。

↑ 受取 ↓ 支払スノーボール債を持つ J 社から見た受け取り1 年目2 年目3 年目4 年目5 年目+3 億円+4 億円+5.2 億円+6.7 億円+8.2 億円
図 1J 社のスノーボール債(変動金利が下がる場合)の利息
図の説明

変動金利が下がる場合に、J 社が受け取る利息の図です。利息は 1 年目から順に 3.0、4.0、5.2、6.7、8.2 億円と毎期増えます。額面の償還は含めていません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。

↑ 受取 ↓ 支払スノーボール債を持つ J 社から見た受け取り1 年目2 年目3 年目4 年目5 年目+3 億円+3 億円+2 億円+0.5 億円
図 2J 社のスノーボール債(変動金利が上がる場合)の利息
図の説明

変動金利が上がる場合に、J 社が受け取る利息の図です。利息は 1 年目から順に 3.0、3.0、2.0、0.5、0 億円で、3 年目から減り、5 年目は下限の 0% のため受け取りがありません。額面の償還は含めていません。矢印の長さは金額の大きさの目安です。

経路依存の効き方

変動利付債の利息は、その期の変動金利だけで決まります。スノーボールの利息は、前の期の利息を含むため、それまでの金利の動きによって決まります。これを経路依存といいます。経路依存型の一般的な性質は、エキゾチック・オプションの全体像で扱います。

下限が効かない間の各期の利率は、1 期目の利率 C1C_1 に各期の差(加算分から変動金利を引いた値 Ak−rkA_k - r_k)を足したもので表せます。

深掘り各期の利率を差の合計で表す

下限を考えないと、Cn=Cn−1+An−rnC_n = C_{n-1} + A_n - r_n です。これを 2 期目から nn 期目まで順に代入すると、次の式になります。

Cn=C1+∑k=2n(Ak−rk)C_n = C_1 + \sum_{k=2}^{n} (A_k - r_k)

例の下がる場合の 5 年目は、C1=3.0%C_1 = 3.0\% に、差 1.0%、1.2%、1.5%、1.5% を足した 8.2% です。

以下は、下限が効かない間の話です。ある期の差は、その期だけでなく、それ以降のすべての期の利息に加わります。変動金利が加算分より低い期の差は、以降の利息を押し上げ、高い期の差は押し下げます。同じ契約で、ある 1 期の変動金利だけが 0.1% 高かった場合と比べると、以降の利率は 0.1% ずつ低いままで、広がりません。毎期の変動金利がそれぞれ 0.1% 高かった場合は、違いが重なり、利率の違いが後の期ほど大きくなります。

例の下がる場合では、2 年目の差 1.0% が 5 年目の利率 8.2% にも入っています。スノーボールの利率は 4.0% から 8.2% へ増える一方、変動利付債の利率は 1.0% から 0.5% へ下がります。

0% の下限は、この積み上げを途中で切ります。例の上がる場合の 5 年目は、式の計算結果が −1.5% ですが、利息は 0% で止まり、−1.5% は次の期に持ち越されません。次の期の利率は、0% から数え直します。

解約の権利が付く形

スノーボールには、満期の前に取引を終えられる権利が付くものがあります。Bender ほかの例は、最初の 1 年のあとに解約できる解約可能なスノーボール・スワップです3。解約すると、その後の受け払いがすべてなくなります。

この権利が付くと、解約するかどうかを決めるために、その後の受け払いの現在価値の見込み(条件付き期待値)が要ります4。スノーボールでは、その後の利息が過去の金利によって決まるため、見込みを求めるのに、金利の動きの経路ごとの計算が要ります。

評価とリスク

Libor マーケット・モデルの上では、Bender ほかの例(解約可能なスノーボール)の評価に必要な期待値は、閉じた式では得られません。Bender ほかは、モンテカルロ法を入れ子にして評価しています5。

解約可能なスノーボールの利息を近似した式の一部は、ブラックの式で閉じた形で評価できます。その近似から求めた解約の方針(どの時点で解約するかの決め方)が、評価の出発点に使われています6。評価がモデルの前提に左右されることの一般的な説明は、モデル・リスクにあります。

実際の市場での価格、ヘッジの実務、流動性、発行体の信用は、この記事では扱いません。

注

  1. 日本銀行金融研究所 太田晴康「マルコフ関数モデルによる金利オプションの価格付けの実用化」(「金融研究」2010 年 10 月)の 136 ページ、脚注 9。 ↩

  2. Bender, Kolodko, Schoenmakers「Iterating Snowballs and related path dependent callables in a multi-factor Libor model」(WIAS Preprint No. 1061、2005 年 10 月)の 6 ページ、3.1 節(PDF の 8 ページ目)。K_i の式の箇所です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. Bender ほか(2005 年)の 6 ページ、3.1 節(PDF の 8 ページ目)と、2 ページ、2.2 節(PDF の 4 ページ目)。 ↩

  4. Bender ほか(2005 年)の Abstract(PDF の 3 ページ目)と 2 ページ、2.2 節(PDF の 4 ページ目)。 ↩

  5. Bender ほか(2005 年)の 6 ページ、3.1 節(PDF の 8 ページ目)と、5 ページ、2.4 節(PDF の 7 ページ目)。 ↩

  6. Bender ほか(2005 年)の 7 ページ(PDF の 9 ページ目)、式 (14) と (15) の前後。 ↩