アセットスワップは、固定利付債を持つ銀行が、資産と負債の金利をそろえる場面で出てくる取引です。国債の割安や割高を、金利スワップとの金利差で見るときにも使います。
債券と金利スワップの組み合わせ
アセットスワップは、債券の購入と、同じ満期の金利スワップを組み合わせた取引です1。債券を買い、固定金利を払う金利スワップを結ぶ側を「アセットスワップを買う」といいます。債券を売り、固定金利を受け取る金利スワップを結ぶ側は「アセットスワップを売る」といいます1。固定金利と変動金利を交換する金利スワップの仕組みは金利スワップで扱います。
買い手は、債券から固定金利の利札(クーポン)を受け取り、金利スワップで固定金利を払います。その結果、受け取る金利は変動金利に換わります。債券の発行体の信用リスクは、そのまま残ります2。
債券を額面(パー)で買う型を、パー・アセットスワップといいます。債券の買い手は、債券の売り手から額面で債券を買い、同時にその売り手と金利スワップを結びます。金利スワップでは、債券の利札と同じ額の固定金利を払い、変動金利にアセットスワップ・スプレッドを加えた金利で計算した利息を受け取ります。金利スワップの満期は債券と同じです3。
売り手から見ると、債券を額面で売り、金利スワップで固定金利を受け取って、変動金利にスプレッドを加えた利息を払う取引です4。
スプレッドの決まり方と呼び方
パー・アセットスワップのスプレッドは、取引の始めに、債券の売買と金利スワップを合わせた価値が 0 になる値に決めます3。N 銀行が O 証券から、額面 100 億円、残存 3 年、利札が年 2%(年 1 回払い)の社債を額面で買うパー・アセットスワップの架空の例で考えます。この社債の時価は 98 億円です。3 年の金利スワップのパーレートは年 1% で、割引の金利は全期間で年 1%(年 1 回複利)とします。
N 銀行は、時価 98 億円の社債に額面の 100 億円を払うため、2 億円を多く払います。O 証券は、この 2 億円を変動金利への上乗せで返します。毎年同じ額を 3 年払って現在価値が 2 億円になる額は、割引係数(1/1.01、1/1.01²、1/1.01³)の合計が約 2.941 なので、2 ÷ 2.941 で年 0.68 億円、100 億円に対して年 0.68% です。
もう 1 つの上乗せがあります。N 銀行が払う固定金利は利札と同じ年 2% で、パーレートの年 1% を 1 ポイント上回るため、この差を年 1.00% の上乗せで埋め合わせます。2 つを足したスプレッドは、年 1.00% + 0.68% = 年 1.68% です5。時価が 102 億円の社債では、額面で買うと 2 億円分を得するため、上乗せは 1.00% から 0.68% を引いた年 0.32% になります。
債券の利回りからスワップレートを引いて求める方法もあります。財務総合政策研究所の 2020 年の資料は、債券の利回りと同じ満期のスワップレートの差を使う方法をマッチド・マチュリティと呼び、日本ではこれが通常だと説明しています。債券が額面になるように始めに資金を受け払いして求める方法はパー・パーと呼び、2 つの値は異なるとも説明しています6。上の例の社債の利回りは、年 1 回複利で計算すると年約 2.70% です。スワップレートの年 1% を引いた約 1.70% は、上で求めた上乗せ幅の年 1.68% と少し違い、求め方で値が変わります。
財務総合政策研究所の資料は、国債の利回りからスワップレートを引いた差を α と呼んでいます。スワップレートから国債の利回りを引いた差は、スワップ・スプレッドとも呼ばれ、α とは符号が逆です7。
3 年間の受け払い
上の例で、変動金利が 1 年目 0.5%、2 年目 1%、3 年目 1.5% になったと仮定します。N 銀行のキャッシュフロー(お金の受け払い)は、次の図のとおりです。
図の説明
N 銀行は取引開始に額面の 100 億円を支払います(−100)。利札と固定金利は同額で打ち消し合うため、受け取るのは変動金利にスプレッドを加えた利息と、最後の年の償還です。3 年後の 103.18 には額面の償還 100 が含まれます。
年ごとの受け払いを表にすると、次のとおりです。差し引きのプラスは N 銀行の受取、マイナスは支払です。
| 時点 | 変動金利(仮定) | 利札の受取(億円) | 固定金利の支払(億円) | 変動金利+スプレッドの受取(億円) | 差し引き(償還金を除く、億円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 年後 | 0.5% | 2 | −2 | 2.18 | 2.18 |
| 2 年後 | 1% | 2 | −2 | 2.68 | 2.68 |
| 3 年後 | 1.5% | 2 | −2 | 3.18 | 3.18 |
N 銀行が購入代金の 100 億円を、上乗せのない変動金利で調達していると仮定します。調達費用と変動金利の受取が打ち消し合うので、スプレッドの分である毎年 1.68 億円(100 億円 × 1.68%)が残ります。
デフォルトと残るリスク
債券と金利スワップは、別々の 2 つの取引です3。債券がデフォルトすると、N 銀行は債券の利札と償還金の一部を失います。金利スワップは、債券の満期まで続くか、時価で清算します8。続ける間、N 銀行は利札が入らないまま、毎年 2 億円の固定金利を払います。
取引の直後に社債がデフォルトし、回収率が 40%(回収額 40 億円)になった場合を考えます。金利は取引の直後から変わらないと仮定します。
| 社債の時価 | 社債の損益(億円) | 金利スワップの時価(億円) | 合計(億円) |
|---|---|---|---|
| 98 億円 | −60 | +2 | −58 |
| 102 億円 | −60 | −2 | −62 |
N 銀行は額面の 100 億円を払って、回収額が 40 億円の社債を持つので、社債で 60 億円を失います。金利スワップの時価は、取引の始めに時価 98 億円の社債なら +2 億円、102 億円の社債なら −2 億円です。合計の損失は、社債の時価と回収額の差(98 − 40 = 58、102 − 40 = 62)になります9。
額面より低い時価の社債を額面で買った N 銀行は、額面と時価の差 2 億円について、O 証券の信用リスクを取引の始めに持ちます。この額は、満期に向けて 0 になります10。ほかにも、債券側と金利スワップ側の金利の感応度は一致せず、小さな金利リスクが残ります。購入代金の調達費用が上がると、収益は減ります11。
債券投資での使い方
固定金利の債券を持つ銀行は、預金のように金利が変わる短期の資金で債券を持つとき、アセットスワップで債券の受取を変動金利に換えて、資産と負債の金利をそろえられます(ALM)2。上の例の N 銀行が変動金利の資金でまかなうなら、デフォルトがなければ毎年 1.68 億円が残ります。取引の直後にデフォルトして金利が変わらなければ、回収額が 40 億円の場合の損失は 58 億円です。
金利の影響を小さくして、債券の発行体の信用リスクを取りたいときにも使います。税や会計の理由で、額面でない資産を額面で売買するために使う場合もあります12。
円債市場では、国債の購入と金利スワップの支払の組み合わせで、国債とスワップの金利差を取引します。国債の金利がスワップレートに対して高すぎる状態が解消されると見るなら、国債を買い金利スワップを払うポジションで、金利差の縮小が収益になり、逆に広がれば損になることもあります13。
ほかの型と CDS との違い
パー・アセットスワップのほかに、債券を時価で買うマーケット・アセットスワップがあります14。
| 項目 | パー・アセットスワップ | マーケット・アセットスワップ |
|---|---|---|
| 債券を買う価格 | 額面 | 時価 |
| 変動金利側の元本 | 債券の額面 | 債券の時価 |
| 満期の元本の交換 | なし | 額面と、始めの時価を交換 |
| 取引相手への与信 | 取引の始めが最大で、満期に 0 | 取引の始めは 0 で、満期に最大 |
CDSは、債券がデフォルトしたときに、額面から回収額を引いた額を保護の買い手が受け取る取引で、仕組みはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。時価が額面と同じ債券を額面で買ったアセットスワップの買い手の損失も、額面から回収額を引いた額が上限です。O'Kane は、期待損失の点で両者のスプレッドは近くなるはずだと説明しています。一方で、流動性、資金調達費用、需給、取引相手のリスクのため、実際のスプレッドの差は大きいとも説明しています15。
注
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財務総合政策研究所の資料(外部サイト)の「2.1 アセット・スワップとは」(64〜65 ページ)。 ↩ ↩2
-
O'Kane の資料(外部サイト)の冒頭の要約と "Introduction"(2〜3 ページ)。2000 年 1 月の解説です。 ↩ ↩2
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Mechanics of a par asset swap"(3〜4 ページ)と図 1。 ↩ ↩2 ↩3
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Summary"(9 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の付録 "Computing the asset swap spread"(10 ページ)の式の当てはめ。 ↩
-
財務総合政策研究所の資料(外部サイト)の "BOX 1 アセット・スワップにおけるαの計算方法"(67 ページ)。 ↩
-
財務総合政策研究所の資料(外部サイト)の「2.2 アセット・スワップのキャッシュ・フロー」(65〜66 ページ)と BOX 1(67 ページ)。注 6(66 ページ)は、パー・パーなどでは「L-T」のスワップ・スプレッドとアセット・スワップ・スプレッドが異なることがあると断っています。 ↩ ↩2
-
O'Kane の資料(外部サイト)の図 1 の注と "Credit considerations"(3〜4 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の表 1 と表 2(5 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Counterparty risk"(7 ページ)と "Market asset swap"(7 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Interest rate risk of an asset swap"(5〜6 ページ)と "Funding risk"(7 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Uses of asset swaps"(8 ページ)。 ↩
-
財務総合政策研究所の資料(外部サイト)の「3.1 金利スワップとの裁定取引とは」(67〜68 ページ)。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Market asset swap"(7〜8 ページ)と図 3。 ↩
-
O'Kane の資料(外部サイト)の "Credit considerations" の後半(5 ページ)。 ↩