取引をどの法人に載せるかで、取引相手への与信とネッティングがどう変わるかを確かめる場面や、外国銀行の日本の支店と子会社の違いを整理する場面の前提になります。

営業をする法人と、取引を帳簿に載せる法人

複数の法人を持つ金融機関のグループは、顧客と取引を結んだとき、その取引をグループのどの法人の帳簿に載せるかを決めます。これをブッキング(どの法人の帳簿に取引を載せるか)といいます。約定した取引をシステムに記録する約定の入力とは別の意味です。金融庁が 2016 年に公表した証拠金規制の意見募集の回答集には、グループの会社の間で取引を付け替える目的を指す「グループ内のブッキング戦略」の語があります1。

顧客と営業をする営業法人と、取引を帳簿に載せるブッキング法人は、同じ法人のこともあれば、別の法人になることもありえます。

米国の連邦準備制度理事会の検査の手引き(以下、検査の手引き。1998 年)によると、商品別や地域の市場別にリスクを管理しやすくするため、持ち高を法人の間で移す金融機関があります2。グループ内で同じ条件の取引を結び、リスクを別の法人に移す取引(バック・トゥ・バック)は、金融安定理事会の資料にも出てきます3。

法人を分ける理由と制約

法人によって、免許、規制、税などの扱いが変わります。次の表は、資料で確かめられる理由を並べます。

理由 法人との関係
業の免許と登録 日本では、銀行業は免許、金融商品取引業は登録が要ります4
規制資本 日本の自己資本比率の告示には、連結の比率とは別に、銀行単体の比率を定める章があります5
地域の規制 米国は原則として、一定規模以上の外国銀行組織の米国子会社を中間持株会社の下に置かせ、自己資本と流動性の規制を課します6
税 日本の法人税法は、内国法人と外国法人(日本の支店は恒久的施設)とで、納税義務と課税標準の決め方を分けています7
破綻や再建のときの扱い 再建・破綻処理では、グループ全体と法人ごとの両方の水準の情報を出せることが求められ、個々の法人をグループから切り離す場合も想定されています8

業の免許と登録は、取引を載せられる法人を商品ごとに絞ります。日本の銀行は、金融商品取引法で有価証券関連業を行ってはならないとされ、例外が置かれています9。

銀行法は、有価証券関連デリバティブ取引のうち、投資の目的で行うものと書面取次ぎ行為を、銀行の付随業務に挙げています。有価証券関連の店頭デリバティブ取引の一部とその媒介、取次ぎ、代理も、別の号で挙げています10。一方、銀行は、有価証券関連業を専ら営む証券専門会社を子会社にできます11。条文からは、原資産が有価証券の取引と、金利や通貨の取引とで、銀行が行える範囲が違い、載せられる法人が違う場合があると読めます。個別の取引がどの法人に載せられるかは、取引ごとに確かめる必要があります。

検査の手引きも同じ趣旨です。グループの中のある法人のリスクを、関連する別の法人の反対の持ち高で補えるのは、法令が認める場合に限られ、各法人に認められた権限に合う形でしなければなりません。法人によっては、規制当局の承認がなければ、特定の金融商品を保有、取引、ディーラー業務、引受けできません12。

外国銀行の日本支店と子会社

同じ外国銀行でも、日本に支店を置くのと、日本に子会社をつくるのとでは、法人の位置づけが違います。支店は外国銀行の一部で、子会社は別の法人です。

外国銀行の支店は、日本の銀行法などが及ばない外国の本店に直接従属するものと位置づけられています13。銀行法は、外国銀行が日本で銀行業を営むときに、日本の本拠となる主たる支店を定めて免許を受けるものとします。日本の支店はまとめて 1 つの銀行とみなされ、一部の規定を除いて銀行法の規定が適用されます14。

拠点の役割を見る例として、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」は、外国銀行の支店の監督で、与信の審査や約定をする拠点と、勘定店として取引を管理する拠点が異なる場合に、それぞれの機能と役割が明確かを見るとしています15。金融庁の外国銀行代理業務のQ&A(2019 年 6 月改訂)は、外国銀行の在日拠点が円資金を運用・調達する場合を扱っています。そのブッキングを、資金を一元管理する海外拠点にしているにすぎないときは、実質が在日拠点の業務と評価できる場合があるとしています16。

米国では、取引相手の法人は、支店を通した取引でも、外国銀行そのものになることがあります。米国の支店を持つ外国銀行と取引するとき、取引相手の法人は一般に外国銀行そのものです。2002 年 9 月の検査の手引きは、ニューヨーク州のように、無保険の外国銀行の支店を別に清算する法を設けた州を挙げています17。

税は、日本の法人税法が分けています。日本の本店を持つ内国法人は、法人税を納める義務があります。外国法人は、国内源泉所得を有するときなどに納める義務があります。恒久的施設を持つ外国法人は、恒久的施設に帰せられる国内源泉所得が課税の対象です。その所得は、恒久的施設が独立した事業者だとしたら果たす機能や使う資産、本店等との内部取引などを勘案して求めます7。

ここまでの違いを、日本の支店と、日本に本店を置く子会社で並べると、次のようになります18。

見るところ 日本の支店 日本に本店を置く子会社
法人としての位置づけ 外国銀行の一部(外国の本店に直接従属) 別の法人
銀行法 日本の支店をまとめて 1 つの銀行とみなして、一部の規定を除いて規定を適用 この記事では扱いません
法人税法 外国法人の恒久的施設として扱い、恒久的施設に帰せられる国内源泉所得が課税の対象 日本に本店を置く内国法人として、法人税を納める義務

与信、ネッティング、担保への影響

この節は、顧客と契約する法人と、帳簿に載せる法人が同じ場合を前提にします。この場合、どの法人に載せるかは、顧客との基本契約書の当事者をどの法人にするかと重なります。別の場合、つまり営業法人が顧客と契約し、グループ内の取引でブッキング法人に載せるときは、顧客との契約は営業法人のままです。その仕組みはグループ内のバック・トゥ・バック取引で扱います。

同じ顧客の事業会社との取引でも、どの法人と結ぶかによって、基本契約書の当事者が変わります。一括清算法は、一括清算を次のように定めています。基本契約書に基づく取引について、当事者の一方に破産手続などの開始の申立てがあったとき、評価額を合算して、当事者の間の 1 つの債権か債務にします19。基本契約書は、対象にする商品と、金融機関と取引相手の特定の法人や支店を示します20。一括清算の契約が有効かを評価するときは、まず取引相手の法人を確かめる必要があり、複数の法人との取引を差し引けるように作った基本契約書もあります17。

顧客の事業会社と、グループの法人が 2 つの取引を結ぶ架空の例で考えます。時価は金融機関のグループから見たもので、プラスは受け取る側、マイナスは払う側です。担保は考えません。別々の法人と結ぶ場合は、次の図のように、取引 1 を法人 A、取引 2 を法人 B と結びます。

法人 A基本契約書 1顧客事業会社法人 B基本契約書 2取引 1 +10 億円取引 2 −8 億円
図 1顧客の事業会社と、別々の法人と結んだ 2 つの取引
図の説明

グループの法人 A は、基本契約書 1 の下で顧客と取引 1 を結んでいます。時価はグループから見て +10 億円で、顧客から受け取る側です。グループの法人 B は、基本契約書 2 の下で顧客と取引 2 を結んでいます。時価は −8 億円で、顧客に払う側です。矢印は、時価の符号から見た受け取りと支払いの向きで、実際の決済の日付や金額ではありません。基本契約書が別なので、取引 1 と取引 2 は差し引かれません。

顧客が破綻したとき、グループが失いうる額は、次のようになります(時価が逆に動いた場合も並べます)21。

2 つの取引の時価 同じ法人と結んで載せる(基本契約書は 1 つ) 別々の法人と結んで載せる(基本契約書は法人ごとに別)
取引 1 が +10 億円、取引 2 が −8 億円 2 億円(差し引いた +2 億円) 10 億円(+10 億円と −8 億円は差し引けない)
取引 1 が −10 億円、取引 2 が +8 億円 0 円(差し引くと −2 億円で、グループは払う側) 8 億円(−10 億円と +8 億円は差し引けない)

この例では、どちらの向きでも、別々の法人と結んだほうが、失いうる額が大きくなります。複数の法人を 1 つの基本契約書で差し引けるようにした契約もあるため、実際の額は契約と法的な確認で決まります。

担保も、取引の当事者の間で結んだ契約に基づいて動きます。担保の受け渡しの条件を定めるクレジット・サポート・アネックス(CSA)は、基本契約に付ける条項です。別々の法人と結ぶと、担保の受け渡しも別の契約に基づくことになります。一括清算法は、更生手続の場合に、担保の契約に一定の条項があるときは、担保の目的の財産を相手方に帰属させ、一括清算でできた 1 つの債権の額から差し引くと定めています22。

ネッティングと担保の効果の計算は、ネッティングと担保による削減効果で扱います。

後からの付け替え

当局は、拠点の役割と方針を見ます。同じ指針は、拠点ごとの機能と役割が、グループ全体のリスク管理態勢として合理的かも見ます15。検査の手引きは、バックの業務の方針に含めるものとして、内部の取引と関連会社との取引の記帳の方針を挙げています25。ブッキング法人の決め方の中身と、取引を入力するときに法人を指定する項目は、この記事では扱いません。

取引を後から別の法人に付け替える方法の 1 つに、ノベーションがあります。元の法人が取引から抜け、別の法人が入り、元の取引は終わって新しい取引ができます26。当事者が変わるので、一括清算と担保の相手も変わります。

法人の構成は、金融機関ごとに違います。組織の形は、金融機関の規模と高度さ、扱う市場と地域、経営の方針によって大きく違います。子会社が関連する法人から独立して事業をするところや、支店が自律的に動くところもあります12。ここでの法人の分け方は 1 つの見取り図で、標準の形ではありません。

注

  1. 金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(非清算店頭デリバティブ取引に係る証拠金規制)」(2016 年 3 月 31 日、掲載ページの日付)の項番 13 と 14(2〜3 ページ)。「グループ内のブッキング戦略」の語は金融庁の回答にあります。 ↩ ↩2

  2. Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 1010.1(1998 年 2 月)の 1 ページ。 ↩

  3. Financial Stability Board「Key Attributes of Effective Resolution Regimes for Financial Institutions」(改訂版、2024 年 4 月 25 日)の 12.2(iv)(19 ページ)。 ↩

  4. 「銀行法」第 4 条第 1 項(銀行業の免許)と「金融商品取引法」第 29 条(金融商品取引業の登録)。 ↩

  5. 金融庁「銀行法第十四条の二の規定に基づき、…自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(2026 年 8 月 24 日更新)の目次。第 2 章と第 4 章が連結、第 3 章と第 5 章が単体の自己資本比率です。 ↩

  6. 12 CFR 252.153(2026 年 9 月 30 日の eCFR)の見出しと (a)(1)(米国の資産の合計が 1,000 億ドル以上、非支店の資産が平均 500 億ドル以上)、(b)(1)(中間持株会社の下に置く)、(c)(別の組織形態を認める場合)、(e)(1) と (e)(4)(自己資本規制と流動性の規制)。 ↩

  7. 「法人税法」第 2 条第 3 号と第 4 号(内国法人と外国法人)、第 12 号の 19(恒久的施設)、第 4 条第 1 項と第 3 項(納税義務)、第 141 条第 1 号と第 138 条第 1 項第 1 号(恒久的施設に帰せられる所得の課税)。 ↩ ↩2

  8. Financial Stability Board「Key Attributes of Effective Resolution Regimes for Financial Institutions」(2024 年 4 月 25 日改訂)の 12.2(19 ページ)と I-Annex 3 の 4.2(36 ページ)。 ↩

  9. 「金融商品取引法」第 33 条第 1 項。 ↩

  10. 「銀行法」第 10 条第 2 項第 2 号(有価証券関連デリバティブ取引)、第 16 号(有価証券関連店頭デリバティブ取引)、第 17 号(その媒介、取次ぎ、代理)。有価証券関連以外のデリバティブ取引は同項第 12 号と第 14 号。 ↩

  11. 「銀行法」第 16 条の 2 第 1 項第 3 号。 ↩

  12. 検査の手引き Section 1000.1「Preparation for Examination」(1998 年 2 月)の 1 ページ(法人ごとの権限)と 3 ページ(組織の形の違い、エクスポージャーのヘッジ)。 ↩ ↩2 ↩3

  13. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」の VI−1(外国銀行支店の監督、意義)。 ↩

  14. 「銀行法」第 47 条第 1 項と第 2 項(第 2 項のただし書が、適用しない規定を列挙しています)。 ↩

  15. 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」の VI−2(3)(外国銀行支店の監督)の 4 つ目の着眼点。 ↩ ↩2

  16. 金融庁「外国銀行代理業務に関するQ&A(改訂版)」(2019 年 6 月改訂)の問 18(12 ページ)。 ↩

  17. 検査の手引き Section 2070.1「Legal Risk」(2002 年 9 月)の 3 ページ。 ↩ ↩2

  18. 表の各行は、同じ節の前の段落と脚注(銀行法第 47 条、法人税法の各条、金融庁の監督指針 VI−1)の内容を並べたものです。 ↩

  19. 「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」第 2 条第 5 項と第 6 項(基本契約書、一括清算)、第 3 条(破産手続などとの関係)。 ↩

  20. 検査の手引き Section 2070.1「Legal Risk」(2002 年 9 月)の 1 ページ。 ↩

  21. 計算の例です。同じ基本契約書の下の取引は評価額を合算した純額のプラスの部分、別々の基本契約書の下の取引は、それぞれのプラスの部分の和を、失いうる額としています。 ↩

  22. 「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」第 4 条第 1 項から第 4 項(更生手続開始の決定がされた者の場合で、担保権者に目的の財産を帰属させる、または処分させる約定があるもの)。 ↩

  23. 検査の手引き Section 2021.1「Counterparty Credit Risk and Settlement Risk」(1999 年 3 月)の 5 ページ。 ↩

  24. 検査の手引き Section 2040.1「Operations and Systems Risk (Management Information Systems)」(2003 年 4 月)の 4 ページ。 ↩

  25. 検査の手引き Section 2060.3「Operations and Systems Risk (Back-Office Operations) Examination Procedures」(1998 年 2 月)の 1 ページ。 ↩

  26. 付け替えの方法はノベーションに限りません。金融庁の意見募集の回答集(項番 13)に寄せられた意見に、ノベーションで「ブッキングエンティティ」を別のグループ会社に変える例があります。 ↩