顧客と取引する法人と、その取引の市場リスクを持つ法人が別のグループ会社になっている金融機関で、取引の記帳、グループ内の与信、規制対応を担当する人が、2 つの法人の間の取引を確かめるときに使う内容です。
顧客との取引をグループ内で移す
同じ金融機関のグループの中で、顧客と取引する営業法人と、その取引の市場リスクを持つブッキング法人が別になるとき、2 つの法人の間をつなぐ取引がグループ内のバック・トゥ・バック取引です。ここでのブッキングは、取引システムに約定を入力する作業(約定の入力)とは別の意味です。ブッキング法人の選び方は、どの法人で取引を記帳するかで扱います。
営業法人が顧客と結んだ取引と、同じ条件で向きが逆の取引をブッキング法人と結ぶと、営業法人の持つ取引は打ち消し合い、受け払いの変動(市場リスクにあたる部分)はブッキング法人に移ります。
ある取引のリスクを、反対の取引を別の相手と結んで減らした持ち高を、バック・トゥ・バックの持ち高(back-to-back position)といいます。この語は、連邦準備制度理事会の検査の手引き(2003 年 4 月の版)が信用デリバティブの売り手について使う語です1。グループ内のバック・トゥ・バック取引は、その反対の取引の相手が、グループ内の別の法人である場合にあたります。
架空の例で考えます。顧客の事業会社が営業法人と、想定元本 100 億円、期間 3 年の金利スワップを結びます。顧客の事業会社は固定金利 1% を払い、変動金利を受け取ります。営業法人は、同じ想定元本、期間、固定金利で、固定金利を払う側と受け取る側が逆の取引をブッキング法人と結びます。営業法人はブッキング法人に固定金利 1% を払い、変動金利を受け取ります。1 年の固定金利の受け払いは、100 億円 × 1% = 1 億円です。
図の説明
顧客の事業会社が払う固定金利の支払い年 1 億円は、営業法人を通ってそのままブッキング法人に渡り、変動金利は逆の向きに流れます。営業法人には、固定金利も変動金利も残りません。
受け払いと損益の流れ
営業法人の受け払いは、変動金利がどう動いても打ち消されます。例で、1 年の間の変動金利の平均が 1.5% だったときと 0.5% だったときの、1 年の受け払いを比べます。変動金利の受け払いは、100 億円 × 1.5% = 1.5 億円と、100 億円 × 0.5% = 0.5 億円です。次の表は、固定金利と変動金利の受け払いを差し引いた額です。手数料、日数計算、取引相手の破綻の可能性は考えません。
| 法人 | 変動金利 1.5% のとき | 変動金利 0.5% のとき |
|---|---|---|
| 顧客の事業会社 | +0.5 億円(変動 1.5 億円を受け、固定 1 億円を払う) | −0.5 億円(変動 0.5 億円を受け、固定 1 億円を払う) |
| 営業法人 | 0 円 | 0 円 |
| ブッキング法人 | −0.5 億円(固定 1 億円を受け、変動 1.5 億円を払う) | +0.5 億円(固定 1 億円を受け、変動 0.5 億円を払う) |
変動金利が 1.5% のときは、顧客の事業会社が得をし、ブッキング法人が損をします。0.5% のときは逆に、顧客の事業会社が損をし、ブッキング法人が得をします。営業法人の差し引きは、どちらのときも 0 円です。3 つの法人の差し引きを足すと 0 になり、顧客の事業会社の得と損は、ブッキング法人の損と得として、そのまま向きを変えて現れます。
営業法人の差し引きが 0 になるのは、2 つの取引の想定元本、期間、固定金利、受け払いの日などの条件が同じときです。どれかが違うと、その差は営業法人に残ります。たとえば営業法人がブッキング法人に払う固定金利が 1.1% なら、1 年に 0.1 億円が営業法人の負担になります。
グループ内の取引の条件を決める考え方
グループ内の取引の条件を、グループ外の取引の条件と照らして決めるよう求める規制があります。
日本の銀行には、銀行法第 13 条の 2 があります。銀行は、子会社や銀行持株会社などの特定関係者との間で、条件がその銀行の取引の通常の条件に照らして銀行に不利益を与える取引をしてはなりません。やむを得ない理由があり、内閣総理大臣の承認を受けたときなどは例外です2。不利益かどうかは、銀行にとって、特定関係者以外の同様の者と同じ種類と量の取引を同様の状況の下で行ったとして成立する条件と比べて、不利な条件かどうかで決まります。同様の者かどうかは、業務の種類、規模、信用度などで見ます3。この規定は、いわゆるアームズ・レングス・ルールと呼ばれます4。
主要行等向けの総合的な監督指針は、アームズ・レングス・ルールを、銀行と銀行グループ内会社などの利益相反取引で銀行経営の健全性が損なわれることなどを防ぐための規定と位置づけています。銀行がグループ内で取引するときに、規定に違反していないかを銀行が適切に検証しているかは、監督指針の着眼点です4。この規制は、連結ベースで適用されます5。
証券会社などの金融商品取引業者には、金融商品取引法第 44 条の 3 があります。金融商品取引業者は、親法人等または子法人等と、通常の取引の条件と異なる条件で、取引の公正を害するおそれのあるときに、有価証券の売買その他の取引や店頭デリバティブ取引を行ってはなりません。公益または投資者保護のために支障を生じないと認められるものとして内閣総理大臣の承認を受けたときなどは除かれます。登録金融機関にも、第 2 項に同じ趣旨の規定があります6。銀行法第 13 条の 2 が銀行に不利益を与える条件を問題にするのに対し、第 44 条の 3 は取引の公正を害するおそれのある条件を問題にします。
米国の加盟銀行には、連邦準備法 23A 条と 23B 条を定める Regulation W があります。預金取扱金融機関ではない関連会社との間のデリバティブ取引は、23B 条の市場条件の要件の対象です7。取引は、その時点の関連会社以外との同等の取引と実質的に同じか、銀行にとってそれより有利な条件で行います。同等の取引がなければ、関連会社以外に誠実に提示される条件で行います8。
グループ内の取引の担保の扱い
グループ内の取引で担保を受け渡すかどうかは、規制ごとに扱いが違います。
金融商品取引業等に関する内閣府令は、日本の金融商品取引業者等に、非清算店頭デリバティブ取引の変動証拠金と当初証拠金の措置を求めています。この規定は、業者の親会社等、子会社等、親会社等の子会社等が相手方になる取引には適用されません10。グループ内の取引は、この規定の下では証拠金の措置の対象から外れます。
米国の CFTC の規則は、グループ内のスワップの清算義務を免除する場合を定めていて、免除を選べる条件に変動証拠金の受け渡しが関わります。免除を選べる条件には、取引の条件を書面にすること(スワップ・ディーラーなどは別に定める文書化の要件を満たすこと)と、取引が、リスクを管理する集中的な仕組みの対象になることが含まれます。このほか、グループの法人が清算義務の対象になる種類のスワップをグループ外の相手と結ぶときは、清算の義務か、その例外や免除に従う条件があります。この条件は、日本を含む一定の国や地域に所在する法人がグループにいて、グループ内のスワップの変動証拠金を毎日全額受け渡していれば、満たすものとされます11。
グループ内の取引に特有のリスク
グループ内の取引でも、営業法人とブッキング法人の間に取引相手のリスク(カウンターパーティ・クレジットリスク)が生まれます。例で、変動金利が上がって顧客の事業会社の側の時価がプラスになると、営業法人は顧客の事業会社に払う義務を負い、同じ額をブッキング法人から受け取る立場になります。ブッキング法人が履行できなければ、営業法人は自分で顧客の事業会社への支払いを賄います。時価がマイナスになると、向きが逆になり、営業法人は顧客の事業会社から受け取る立場で、ブッキング法人に払う義務を負います。グループ内の取引だからといって、取引相手のリスクがなくなるわけではありません。
複数の営業法人が同じブッキング法人と取引すると、取引がブッキング法人に集まります。金融庁の監督指針は、複数の業態を含む金融グループには、組織の複雑化、利益相反のほか、グループ内のリスクの波及とグループにおけるリスクの集中が生じるおそれがあるとしています12。この指摘は銀行グループ全般についてのもので、デリバティブの取引に限りません。
注
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連邦準備制度理事会の検査の手引き("Trading and Capital-Markets Activities Manual")、Section 4350.1 "Credit Derivatives"(2003 年 4 月)の 9 ページ(PDF の 640 ページ目)。 ↩
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「銀行法」第 13 条の 2 第 1 項。特定関係者は、銀行の子会社、銀行主要株主、銀行を子会社とする銀行持株会社、その銀行持株会社の子会社(当該銀行を除く)、当該銀行を所属銀行とする銀行代理業者、およびその他の当該銀行と政令で定める特殊の関係のある者。 ↩
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「銀行法施行規則」第 14 条の 10 第 1 項(法第 13 条の 2 第 1 号の取引)。 ↩
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金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」の V-2「アームズ・レングス・ルール」(印刷の 373 ページ、PDF の 389 ページ目)の冒頭と(1)。「いわゆるアームズ・レングス・ルール」の語は、同指針の III-6-3-2(PDF の 332 ページ目)にも見られる。 ↩ ↩2
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金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」の V-1(3)「連結ベースの監督の概要」(印刷の 372〜373 ページ、PDF の 388〜389 ページ目)。 ↩
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「金融商品取引法」第 44 条の 3 第 1 項第 1 号、第 2 項第 1 号。 ↩
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"12 CFR Part 223 (Regulation W)" § 223.33(a)、(b)。デリバティブ取引の定義は § 223.3(l)。 ↩ ↩2
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"12 CFR Part 223 (Regulation W)" § 223.51(a)、(b)。 ↩
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「銀行法施行規則」第 14 条の 8 第 1 項第 3 号、第 14 条の 9 第 1 項。 ↩
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「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 1 項第 21 号の 10(変動証拠金)、第 21 号の 11(当初証拠金)、第 12 項第 3 号、第 13 項第 3 号。 ↩
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"17 CFR 50.52" (b)(2)、(b)(3)、(b)(4)(i)、(b)(4)(ii)。スワップ・ディーラーなどの要件は、同条が引く 17 CFR 23.504 と 23.600。 ↩
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金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」の I-1(4)「複数の業態を含む金融グループのリスク管理」(印刷の 8 ページ、PDF の 24 ページ目)。 ↩
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連邦準備制度理事会の検査の手引き、Section 3000.1(2009 年 1 月)の 24 ページ(PDF の 251 ページ目)、"Derivative Transactions with Affiliates" の項。 ↩