システム部門、リスク管理、決済や会計の担当者は、自社の取引管理システムが市販の製品か、機能ごとに別々のシステムか、自社で作ったものかを知っておく必要があります。データのつなぎ目や変更の影響が、これで変わるためです。システムを分けるか、まとめるかの考え方は、フロントからバックまでのシステム構成で扱います。
3 つの類型
取引管理システムの入手の仕方は、次の 3 つに分けて見られます。
- 市販の統合型は、1 つの製品が、約定の入力、リスク、取引後の処理など、複数の機能を受け持つとベンダーが説明するものです。
- 専門型は、評価とリスク分析、市場データ、会計とヘッジ会計のように、特定の機能を受け持つ製品です。ほかのシステムとつないで使うことがあります。
- 自社開発は、金融機関が自分で作るものです。
3 つは択一ではありません。米国連邦準備制度の検査の手引き(以下「手引き」)の Section 2040.1(1998 年)によると、店頭と上場のすべての商品について、データの入力から処理と管理までを 1 つの自動化されたシステムが受け持つことはまれです。ベンダーから買ったシステムと、自社の担当者が作ったアプリケーションを組み合わせることがあります1。
具体例は各社の公式の資料に書かれた範囲で、2026 年 10 月 8 日時点のものです。
市販の統合型
市販の統合型の例として、Calypso、Murex、Summit を挙げます。
| 製品 | 運営会社 |
|---|---|
| Nasdaq Calypso(Calypso) | Nasdaq, Inc.。2023 年 11 月 1 日に Adenza の取得を完了2 |
| Murex の MX.3 | Murex |
| Finastra の Summit(現在の表記は Summit by Teciem) | Teciem。Finastra から事業を引き継いだ会社3 |
各社の資料が挙げる機能は、次のとおりです。いずれも各社の自己紹介で、同じ機能を受け持つかどうかや、受け持つ範囲の深さを比べるものではありません。
- Calypso は、フロント、ミドル、バックの業務を共通の基盤で結ぶと説明します。区分は、トレーディングとポートフォリオ管理、リスクとエクスポージャー管理、担保、資金と流動性、清算、取引後の処理です4。Adenza は、Calypso と AxiomSL を合わせた会社です2。
- MX.3 の区分は、営業とトレーディング、財務(トレジャリー)管理、全社のリスク管理、オペレーションと財務、投資管理、証券金融と担保管理です。提供の形は、オンプレミス、クラウド、Murex が運用する SaaS です5。
- Summit は、店頭デリバティブとストラクチャード商品を対象に、フロントからバックまでを受け持つと説明します。リアルタイムの取引とポジションの表示から、確認書の作成、決済のメッセージ、支払い、会計までの流れを自動化します6。
特定の機能を受け持つ専門型
専門型は、市場データ、評価、ヘッジ会計のように、特定の機能を受け持ちます。次の表の製品には、2 つの機能を挙げるものもあります。
| 製品 | 運営会社 | 受け持つ機能 |
|---|---|---|
| ICE Data Derivatives | Intercontinental Exchange(ICE) | 市場データ、評価 |
| ION の Hedge Accounting | ION | ヘッジ会計 |
| Numerix の CrossAsset | Numerix | 評価、リスク分析 |
資料が挙げる内容は、次のとおりです。
- ICE は、店頭デリバティブの市場データ(スポット、カーブ、ボラティリティ、相関)と、評価の計算サービスを挙げます。評価の対象は、金利、インフレ、株式、為替、商品、クレジット、ハイブリッドです7。
- ION は、ヘッジの指定と文書化のテンプレートと、有効性テストの自動化を挙げ、国際会計基準と米国会計基準に対応すると説明します。資料は商品取引向けのページで、商品の取引・リスク管理システムと連携すると書きます8。
- Numerix は、店頭デリバティブの価格付けとリスク分析の分析ライブラリを挙げます。Excel、Python、Java、C#、C++ で使え、ソフトウェア開発キット(SDK)で自社や他社のソフトウェアに組み込めます9。
機能ごとの地図
次の表は、機能ごとに、統合型の 3 製品について資料が挙げる内容と、専門型の例を並べます。
| 機能 | Calypso | Murex | Summit | 専門型と外部のサービス |
|---|---|---|---|---|
| 約定の入力とポジション10 | トレーディングとポートフォリオ管理 | リスクに基づく価格付けとストラクチャリング、リアルタイムのポートフォリオと損益の分析 | リアルタイムの取引とポジションの表示 | 取り上げていない |
| 評価11 | フロントの価格付けとリスクの尺度をそろえる分析 | 価格付け | 標準と高度なモデルを含むクロスアセットの価格付け(フロントの機能) | Numerix の CrossAsset(分析ライブラリ)、ICE の評価の計算サービス |
| リスク12 | VaR、期待ショートフォール、ストレス、感応度、XVA | 市場、信用、XVA、流動性のリスク | 市場リスクの VaR、バックテスト、ストレステスト。信用リスクの与信限度額、将来の潜在エクスポージャー、CVA/DVA、FVA | Numerix のリスクシナリオの枠組み(グリークスの計算とストレステスト) |
| 確認と決済13 | 確認、突き合わせ、決済の処理 | 相対と清算の取引の処理サイクル | 確認書の作成、決済のメッセージ、支払い | 取り上げていない |
| 担保14 | 担保の区分 | 担保の区分 | 変動証拠金と当初証拠金、証拠金の請求、SIMM、担保の最適化、紛争と照合 | 取り上げていない |
| 会計15 | 取り上げていない | 投資管理の区分で投資会計とヘッジ会計 | 会計とヘッジ会計(バック・オフィスの機能) | ION の Hedge Accounting |
| 市場データ16 | 取り上げていない | 取り上げていない | 取り上げていない | ICE の市場データ |
資料の自己紹介は、製品ごとに粒度が違います。機能を区分の名前だけで書く資料もあれば、指標や項目まで書く資料もあります。表の「取り上げていない」は、この記事の例に挙げていないという意味で、機能がないことを示すものではありません。
図の説明
統合型のシステムで約定を入力し、ポジションを持ちます。同じ段で、専門型のシステムが市場データを渡します。次の段で、統合型のシステムが市場データを使って評価とリスクを計算し、外部のサービスで取引相手と確認します(確認は約定の入力だけを受け取り、市場データは使いません)。その次の段で、統合型のシステムが決済の指図と支払いを処理します。最後に、専門型のシステムがヘッジ会計の処理をします。この図は、1 つの組み合わせの一例で、資料に書かれた標準の順ではありません。担当するシステムの数や分け方は、金融機関によって違います。
自社開発と混在した構成の例
統合型、専門型、自社開発の組み合わせ方を、3 つの金融機関の架空の例で考えます。
- M 社は、統合型の 1 つの製品で、約定の入力から会計までを処理します。顧客と取引のファイルを 1 つのデータベースで持つため、複数のデータ源を使う場合より、データの正しさの統制が強い場合があります1。
- N 社は、取引とリスクの計算を自社で作り、担保管理とヘッジ会計は市販の専門型を使います。手引きは、独立したデータベースを使うときは、複数のデータファイルが集まる各点で、突き合わせの統制が見えるようにするよう求めます1。N 社のシステムが独立したデータベースを使うなら、これが当てはまります。
- P 社は、統合型を中心に、評価の分析ライブラリだけを専門型に替えて SDK で組み込みます。手引きの Section 2100.1 は、ベンダーのモデルも自社のモデルに加えて検証するよう求めます。組み込んだライブラリのモデルも、その検証の対象になります18。
運営会社の変更
運営会社は、買収や事業の売却で変わることがあります。次の表は、日付が公式の資料に書かれた出来事です。
| 日付 | 出来事 | 資料 |
|---|---|---|
| 2023 年 6 月 12 日 | Nasdaq が、Thoma Bravo から Adenza を取得する契約を結んだと発表した | Nasdaq の発表19 |
| 2023 年 11 月 1 日 | Nasdaq が、Adenza の取得を完了したと発表した | Nasdaq の発表20 |
| 2025 年 5 月 19 日 | Finastra と Apax が助言するファンドが、事業の売却の合意を発表した | Finastra の発表21 |
2025 年の合意は、Finastra が Treasury and Capital Markets 事業を Apax の関係会社に売るものでした。完了は 2026 年前半の予定とされました21。2026 年 10 月 8 日の時点で、Finastra のページには、この事業の売却が完了し、Teciem が独立した会社になったと書かれています22。
この記事が書いていないこと
- 評価モデルの中身とリスク指標の計算は、この記事では扱いません。
- 製品の優劣、利用者の数、導入数、シェア、費用、日本の金融機関での利用状況は、この記事では扱いません。
- ここに挙げていない統合型と専門型の製品は、この記事では扱いません。
- 担保の交換や照合、電子確認と照合のサービスなど、取引管理システムの外の事業者が受け持つ機能は、この記事では扱いません。
- 具体的な移行の手順は、この記事では扱いません。
注
-
Board of Governors of the Federal Reserve System「Trading and Capital-Markets Activities Manual」の Section 2040.1(1998 年 2 月)の 2 ページ。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Nasdaq「Nasdaq Completes Acquisition of Adenza」(2023 年 11 月 1 日付)の冒頭の段落。Calypso と AxiomSL の組み合わせは、2023 年 6 月 12 日付の発表の説明。 ↩ ↩2
-
Finastra「Summit」の "Summit by Teciem" の段落と、Finastra「TCM solutions are now Teciem」の売却完了の段落。 ↩
-
Nasdaq「Nasdaq Calypso」の冒頭の説明と、"Explore the Platform" の項の 6 つの区分。 ↩
-
Murex「Leading Capital Markets Software Solutions」の "MX.3 solutions" の項と、冒頭の段落(提供の形)。 ↩
-
Finastra「Summit」の冒頭の段落と、"Core functionality and connectivity" などの 3 つの項。 ↩
-
Intercontinental Exchange「Derivatives Data & Analytics」の冒頭の段落と、Coverage の Market data、Valuations の項。 ↩
-
ION「Hedge Accounting Solution」の "About Hedge Accounting"、"Hedge designation and documentation" の項と、ASC 815 と IAS 39(IFRS 9)の質問の回答。 ↩
-
Numerix「CrossAsset」の冒頭の段落と、"Flexible deployment"、"Advance risk capabilities" の項。 ↩
-
Calypso の "Trading & Decisioning"、Murex の "Sales and trading"、Summit の "real-time trade position views"。 ↩
-
Calypso の Middle Office の "Market Risk Analytics"、Murex の "Sales and trading"、Summit の "Front office"、Numerix の CrossAsset、ICE の Valuations。 ↩
-
Calypso の Middle Office の "Market Risk Analytics" と "XVA"、Murex の "Enterprise risk management"、Summit の "Risk management"、Numerix の "Advance risk capabilities"。 ↩
-
Calypso の "Post-Trade & Operations"、Murex の "Operations and finance"、Summit の "confirmation generation" の文。 ↩
-
Calypso の Collateral, Margin & Securities Finance の最初の項、Murex の "Securities finance and collateral management"、Summit の "Risk management" の Collateral。 ↩
-
Murex の投資管理のページの "Investment Accounting" と "Hedge accounting"、Summit の "Back office"、ION の Hedge Accounting Solution。 ↩
-
Intercontinental Exchange「Derivatives Data & Analytics」の Coverage の Market data。 ↩
-
Murex「MX.3: Leading Investment Management Software」の、REST API で第三者と接続するという文。 ↩
-
手引きの Section 2100.1「Financial Performance」(2003 年 4 月)の 6 ページ。 ↩
-
Nasdaq の 2023 年 6 月 12 日付の発表(Adenza の取得)の冒頭の段落。 ↩
-
Nasdaq「Nasdaq Completes Acquisition of Adenza」(2023 年 11 月 1 日付)の冒頭の段落。 ↩
-
Finastra「Finastra to sell Treasury and Capital Markets division to Apax Funds」(2025 年 5 月 19 日付)の冒頭の段落と、完了の予定の文。 ↩ ↩2
-
Finastra「TCM solutions are now Teciem」の、Treasury and Capital Markets 事業の売却の完了を書いた段落。 ↩