店頭デリバティブの取引情報を当局へ報告する業務や、取引システムの間で受け渡す業務で、データの形式の名前として FpML が出てきます。
FpML とは何か、何のためにあるか
FpML(Financial products Markup Language)は、店頭デリバティブの電子商取引で使うために作られた、オープンソースの XML 標準です。開発は国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)が後援しました。ストラクチャード・プロダクトを含むデリバティブの情報を、電子的に共有して処理するための取り決めを確立しています1。
XML は、データに項目の名前(タグ)を付けて書く形式です2。
ほかの標準との関係
FpML は、金融のメッセージの標準の 1 つで、ISO 20022 と統合でき、CDM の対応づけの対象にもなっています。ISO 20022 は金融の通信メッセージの国際規格で、FpML や、証券取引の通信メッセージのプロトコルである FIX とも結びつけられる設計です。FpML と共通の XML スキーマ(メッセージの形の定義)を ISO 20022 の側で採用すれば、従来の FpML より短いメッセージで書けます3。
ISO 20022 のデータは充実しているため、FpML のような XML ベースのプロトコルへの対応づけ(マッピング)も容易です4。
ISDA CDM(Common Domain Model)は、FpML と役割が異なります。CDM はメッセージや保存の形式ではなく、データどうしの関係を表す論理的なモデルです。CDM の内容は、XML や JSON のほか、FpML、FIX、ISO 20022 のような標準の形でも表して、受け渡しや保存ができます。FpML はライフサイクル・イベントや処理の流れの標準を定めておらず、CDM はそれを表す検証の規則を定めています。
CDM のリポジトリを提供する FINOS は、両者は併存すると説明しています5。CDM の中身はISDA CDMで扱います。
CDM は、標準に基づくメッセージも固有の形式のメッセージも、CDM に翻訳しやすいように対応づけています6。
報告と照合、清算での現れ方
日本の店頭デリバティブの取引情報の報告では、報告する事項ごとに値の決め方が決まっています。事項の 1 つの日数計算の慣行(Day count convention)では、ISO 20022 の名称、FIX のシンボル名、FpML のコードを対応させた表が使われます。たとえば、ブラジルレアルのスワップでは、実際の営業日数を 252 で割る方法を使います。この方法の表記は、標準ごとに次のとおりです7。
| 標準 | 表記(日数を 252 で割る方法) |
|---|---|
| ISO 20022 | Business252(名称) |
| FIX | BusTwoFiftyTwo(シンボル名) |
| FpML | BUS/252(コード) |
照合や清算に使うスキーマ(メッセージの形の定義)にも、FpML のスキーマを取り込んだものがあります。CDM 6.0.0 の文書の時点では、たとえば次の 2 つです8。
| スキーマ(用途) | 取り込んでいる FpML の版 |
|---|---|
| DTCC(取引照合の確認) | 4.9 |
| CME(清算の確認) | 5.0 |
同じ文書の時点では、清算への提出に使うブルームバーグ向けの FIXML のスキーマも、FpML 4.6 を取り込んでいます。また、同じ文書の時点で、CDM 自身は FpML の標準の 5.10 版に対応づけられています。FIX や ISO 20022 など、FpML 以外の標準にも CDM は対応づけられており、取引のメッセージの形は FpML だけではありません。
電子確認のサービスの MarkitWire は、取引を FpML で表現しています(2022 年 7 月時点)。OSTTRA の同月の発表が、その FpML の表現を triResolve のデータに結びつける接続を説明しています9。サービスの全体は約定後の電子確認と照合のサービスで扱います。
版の考え方
CDM 6.0.0 の文書では、FpML の 4.6、4.9、5.0、5.10 の版が並んでいます。取り込む版は機関ごとに違います。
版が上がるときに、同じ意味のコードの名前が変わることがあります。FpML が 2.0 版のレコメンデーション(勧告)から 3.0 版のトライアル・レコメンデーションへ進んだ際には、日数計算のコード「ACT/365.ISDA」が「ACT/ACT.ISDA」へ改められました。金融庁のガイドラインは、この改名を日数計算の慣行の表の注で示しています10。
この記事が書いていないこと
仕様の細部(項目や要素の名前、各版の違い)と、金融機関ごとの FpML の使い方は、この記事では扱いません。
注
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TC68 国内委員会事務局「ISO 20022 の概要」(2015 年 3 月)の 6 ページ、脚注 13。FpML の開発を ISDA が後援したこと、店頭デリバティブの電子商取引向けにオープンソースで作られた XML の標準であること、取引情報の電子的な共有と処理のための取り決めを確立していることが書かれています。 ↩
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TC68 国内委員会事務局「ISO 20022 の概要」(2015 年 3 月)の 1 ページ、脚注 2。XML を、タグを使ってデータを記述する言語と説明しています。 ↩
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TC68 国内委員会事務局「ISO 20022 の概要」(2015 年 3 月)の 1 ページ(ISO 20022 を国際規格と位置づける説明)、6 ページ本文と脚注 14(FpML や FIX との統合、より短いメッセージを作れること、FIX の説明)。 ↩
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TC68 国内委員会事務局「ISO 20022 の概要」(2015 年 3 月)の 8 ページ。データの充実と、XML ベースのほかのプロトコル(FpML など)へのマッピングが容易になることを説明しています。 ↩
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FINOS「Common Domain Model- An Overview」(2023 年 10 月)の 4 ページ、"CDM vs. FpML"(3 ページの "Mapping" の行も、FIX、FpML、ISO 20022 への対応づけに触れています)。8 ページに、FINOS が CDM のリポジトリを提供する旨の記述があります。 ↩
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FINOS「Mapping (Synonym)」(CDM 6.0.0 の文書)の冒頭。オープンな標準に基づくものも固有のものも、既存のメッセージを CDM に翻訳しやすくするために対応づけを使うと書いています。 ↩
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金融庁企画市場局市場課「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第4条第1項で定める作成・保存・報告事項 ガイドライン」(2022 年 12 月)の報告事項 27 と別表 1(PDF の 42 ページ)。以下、金融庁のガイドラインと表記します。 ↩
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FINOS「Mapping (Synonym)」(CDM 6.0.0 の文書の時点)の、CDM の対応づけに使う標準の一覧。DTCC の OTC_Matching_11-0 は FpML 4.9、CME の cme-conf-ext-1-17 は 5.0、ブルームバーグ向けの FIXML のスキーマは 4.6 を取り込み、FpML の標準は 5.10 に対応づけています。 ↩
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OSTTRA「OSTTRA Streamlines Trade Reconciliation with Connectivity Between MarkitWire and triResolve」(2022 年 7 月 6 日付)の、MarkitWire の取引 ID で FpML の取引表現と triResolve のデータを結びつける段落。 ↩
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金融庁のガイドライン(2022 年 12 月)の別表 1(PDF の 41 ページ)、「ACT/ACT.ISDA」の行の注。 ↩