社債や貸出の信用リスクをまとめてヘッジしたい資産運用会社などが、多数の参照組織を束ねたインデックスを売り買いします。
複数の参照組織を束ねた取引
CDS インデックスは、複数の参照組織のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を決まった規則で束ねたもので、インデックスそのものを 1 つの取引として売り買いします1。1 社ずつの CDS を何十件も結ばなくても、束ねた参照組織全体の信用リスクをまとめて売り買いできます2。単一の参照組織の CDS の仕組みは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で扱います。
50 社を等しい重みで束ねたインデックスのプロテクションを、投資家の O 社が想定元本 100 億円、期間 5 年、クーポン 100bp(年 1%)で買う架空の例で考えます。1 社の重みは 50 分の 1(2%)です。
この取引は、50 社それぞれについて想定元本 2 億円の CDS を買うのに近い効果を持ちます。買い手の O 社は、インデックスの全体の想定元本 100 億円にクーポンを掛けた額を払います。どれか 1 社にクレジット・イベントが起きると、その 1 社の分の損失を売り手から受け取ります13。プロテクションを買う側は、債券の組み合わせのうち信用リスクの部分を売った(ショートした)のに近い立場になり、プロテクションを売る側はその反対の立場になります4。
主なインデックスと構成銘柄の選び方
CDS インデックスの代表は、欧州とアジア・オセアニアの iTraxx と、北米と新興国の CDX です5。どちらも 2004 年に、それまでの TRAC-X と iBoxx のインデックスがまとまってできました2。IHS Markit の資料(2021 年 11 月)にある主なインデックスは次のとおりです6。
| インデックス | 対象 | 構成銘柄の数 | クーポン(bp) | 通貨 | 建値 |
|---|---|---|---|---|---|
| iTraxx Europe | 欧州の投資適格の企業 | 125 | 100 | ユーロ | スプレッド |
| iTraxx Crossover | 欧州の投資適格でない企業 | 75 | 500 | ユーロ | スプレッド |
| iTraxx Japan | 日本の投資適格の企業 | 40 | 100 | 円 | スプレッド |
| CDX.NA.IG | 北米の投資適格の企業 | 125 | 100 | 米ドル | スプレッド |
| CDX.NA.HY | 北米の投資適格でない企業 | 100 | 500 | 米ドル | 価格 |
| CDX.EM | 新興国の国(ソブリン) | 18 | 100 | 米ドル | 価格 |
構成銘柄は、それぞれのインデックスの規則で、CDS の取引の多さ(流動性)、業種、地域をもとに選びます2。例えば iTraxx Japan の構成銘柄は、日本国内に本拠のある会社のうち、取引量の多い CDS の参照組織から選びます。取引量には、DTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)が公表する CDS の取引量の報告を使います1。クレジット・イベントの範囲も、インデックスによって違います。資料の時点(2021 年 11 月)では、iTraxx は倒産、支払不履行、リストラクチャリング(条件変更。資料では Modified Restructuring)を、CDX は倒産と支払不履行をクレジット・イベントにしています5。
債券や株式のインデックスは、構成銘柄の価格から計算した値です。一方、CDS インデックスはインデックスそのものが取引され、その取引でスプレッドが決まります。そのため、インデックスのスプレッドは、構成銘柄の CDS のスプレッドから計算した理論上の値と一致しません1。
インデックスごとのクーポンと建値
インデックスの取引では、クーポンの率がインデックスごとに 1 つに決まっています(上の表)4。支払日(3 月、6 月、9 月、12 月の 20 日)、経過分の受け払い、アップフロントの仕組みは、単一銘柄の CDS と同じ標準の決まりに従います78。冒頭の例(想定元本 100 億円、クーポン年 1%)で日数計算を省き、1 年の 4 分の 1 として計算すると、1 回のクーポンは 100 億円 × 1% ÷ 4 = 2,500 万円です9。
建値の示し方は、インデックスによって違います。上の表のとおり、CDX.NA.IG と iTraxx の各インデックスはスプレッドで、CDX.NA.HY と CDX.EM は価格で建値を示します。債券の市場に利回りで建てるものと価格で建てるものがあるのに合わせた慣行です10。ここでいう価格は 100 を基準にした値で、100 から価格を引くと、想定元本に対するアップフロントの百分率になります4。この百分率は、ポイント・アップフロント(PUF)に当たります。価格は、スプレッドが大きいほど低くなります10。
同じシリーズのプロテクションを持つ買い手は、約定日によらず、同じ利払日に、想定元本あたり同じ額のクーポンを払います。約定日までの経過分は約定のときに受け払いを済ませるため、多くの買い手の支払いを 1 つの日にそろえられ、事務が簡単になります11。
シリーズとロール
インデックスの管理会社は、6 か月ごとに構成銘柄を見直し、新しい構成銘柄で新しいシリーズを作ります12。iTraxx Japan では、3 月 20 日と 9 月 20 日に新しいシリーズが公表されます1。例えば、2026 年 9 月 25 日時点で日本証券クリアリング機構(JSCC)が掲載する iTraxx Japan のスプレッドは、シリーズ 46 の 5 年の取引の値です13。
最も新しいシリーズを「オン・ザ・ラン」、それより古いシリーズを「オフ・ザ・ラン」といいます1。新しいシリーズができた後も、古いシリーズは取引され続けます1。ただし、多くの投資家は新しいシリーズができると持ち高を移すため、取引は最新のシリーズに集まります。持ち高を新しいシリーズに移すことを、ロールといいます14。満期は 1 年から 10 年まで複数ありますが、取引は 5 年に最も集まります12。シリーズごとに満期日が決まっているため、同じシリーズを持ち続けると残りの期間は短くなっていきます。ロールで新しいシリーズに移ると、5 年のような持ち高の期間をおおむね保てます8。
クレジット・イベントと新バージョン
構成銘柄にクレジット・イベントが起きると、プロテクションの売り手は、その銘柄の重みの分の損失を買い手に払います3。支払いの額は、単一の参照組織の CDS で、想定元本をその銘柄の重みで縮めた取引を結んでいた場合と同じ手順で決まります116。回収率は、その参照組織の CDS のオークションで決まった値を使います16。クレジット・イベントの判定とオークションの手順は、クレジット・イベントと決済で扱います。
クレジット・イベントが起きると、インデックスの管理会社は、その銘柄の重みを 0 にした新しいバージョンを公表します。以後の取引はこの新しいバージョンで行い、取引の想定元本はその銘柄の重みの分だけ減ります31。
最初の節の例で考えます。話を簡単にするため、構成銘柄の 1 社のクレジット・イベントの判定日が 2 回目の利払日と同じ日で、3 回目の利払日より前にオークションが終わり、オークションで決まった回収率が 30% だったとします17。売り手が払う額は、100 億円 × 2% ×(1 − 30%)= 1 億 4,000 万円です。想定元本は 100 億円から 98 億円に減り、次の利払日からのクーポンは 98 億円 × 1% ÷ 4 = 2,450 万円になります。
図の説明
想定元本 100 億円、クーポン年 1% で、50 社を等しい重みで束ねたインデックスのプロテクションの買い手から見た、受け払いの図です。買い手は 1 回目と 2 回目の利払日にクーポン 2,500 万円ずつを払います。構成銘柄の 1 社にクレジット・イベントが起き、オークションで回収率が 30% と決まると、その後に買い手は売り手から 1 億 4,000 万円を受け取ります。想定元本が 98 億円に減るため、3 回目と 4 回目の利払日に買い手が払うクーポンは 2,450 万円ずつになります。矢印の長さは金額の大きさの目安です。
新しいバージョンの取引が始まるのは、その銘柄のオークションの翌日からです。クレジット・イベントの判定日からオークションまでの間は、その銘柄を含んだままの元のバージョンで取引します3。リストラクチャリングのクレジット・イベントでは扱いが違い、判定日の翌日から新しいバージョンの取引が始まります。このとき、その銘柄はインデックスから切り離され、投資家は新しいバージョンのインデックスと、その銘柄の単一の CDS を持つことになります3。
スプレッドの動きと使われ方
プロテクションの買い手から見た取引の時価は、インデックスのスプレッドが広がると上がり、狭まると下がります4。売り手はその反対で、スプレッドが狭まると得をし、広がると損をします。クレジット・イベントが起きなくても、構成銘柄の信用力の見方が変わってスプレッドが動けば、時価の損益が出ます。
使われ方の 1 つは、債券や貸出の信用リスクをヘッジすることです18。例えば、社債を多く持つ投資家がインデックスのプロテクションを買うと、企業全体の信用力が落ちてスプレッドが広がったとき、プロテクションの時価の利益が社債の信用リスクの部分の損失を埋めます。反対に、信用力が上がってスプレッドが狭まると、社債の信用リスクの部分では得をしますが、プロテクションでは時価の損が出て、クーポンを払い続けます。
ヘッジのほかにも、信用市場全体の見方を 1 つの取引で持つ取引、投資適格と投資適格でないインデックスを組み合わせて売り買いする取引、インデックスと構成銘柄の CDS の差を使う取引に使われます。インデックスの損失を区切って売り買いするトランシェと、インデックスを対象にしたオプションも取引されています19。
インデックスはディーラー、資産運用会社、ヘッジファンド、保険会社、年金基金などが売り買いし、プロテクションの買い手にも売り手にもなります5。
リスク:取引相手、流動性、ヘッジのずれ
スプレッドの動きによる時価の損益のほかに、取引相手が約束どおりに払えなくなるリスクがあります。清算する取引では、清算機関がすべての取引の相手になり、担保をまとめて受け払いする仕組みで、このリスクを減らします20。清算しない相対の取引では、このリスクを取引相手ごとに負います。
取引は最新のシリーズに集まるため、ロールをせずにオフ・ザ・ランのシリーズを持ち続けると、取引の少ない(流動性の低い)持ち高を抱えることになります8。
インデックスでヘッジするときは、ヘッジしたい債券や貸出とのずれが残ります。持っている社債の発行体が構成銘柄に入っていなければ、その発行体にクレジット・イベントが起きても、インデックスからは支払いを受けられません31。構成銘柄に入っていても、受け取るのはその銘柄の重みの分の損失だけです16。
清算と取引の実務
CDS インデックスの取引は、取引所を通さない店頭デリバティブの取引で、多くは清算機関で清算されます10。日本では JSCC が、iTraxx Japan を対象にしたインデックス CDS の取引を清算しています。2026 年 9 月時点で JSCC が清算の対象として示すのは、iTraxx Japan のシリーズ 36 からシリーズ 46 までの、それぞれのバージョン 1 です21。
米国では、商品先物取引委員会(CFTC)が 2012 年 11 月に、5 つのインデックスの CDS を、清算を義務づける取引に定めました(2013 年 2 月に発効)。対象は CDX.NA.IG、CDX.NA.HY、iTraxx Europe、iTraxx Europe Crossover、iTraxx Europe HiVol です22。トランシェに分けないインデックスの取引が対象で、インデックスごとに満期の年数とシリーズの範囲を決めています22。
注
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日本証券クリアリング機構「Markit iTraxx Japanについて」(掲載ページの日付 2017 年 10 月 31 日)の「Markit iTraxx Japanについて」と「通常のインデックスと異なる点」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 15 ページ、"What is a CDS index?"、"Benefits" と "Brief history"。 ↩ ↩2 ↩3
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 22 ページ、"Credit events"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 20 ページ、"How do I trade?"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 16 ページ、"Participants" と "Differences between iTraxx and CDX"。 ↩ ↩2 ↩3
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 16〜17 ページと 33 ページ。CFTC「Clearing Requirement Determination Under Section 2(h) of the CEA」の 74290 ページ。JSCC「Markit iTraxx Japan 本日のスプレッド」。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 9 ページ、"Fixed coupons, upfront amounts and quoted spreads" と "Standard maturities, coupon dates and rolls - taking a cue from the CDS indices"。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 17 ページ、"Coupon Payments" と "Index documentation"。 ↩ ↩2 ↩3
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実際のクーポンは、日数を 360 で割って計算します(Actual/360)。この例では説明のために日数計算を省いています。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 19 ページ、"Trading Conventions" と "Where can I trade?"。 ↩ ↩2 ↩3
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 21 ページ、"Accrued Interest received by investor A"。 ↩
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Commodity Futures Trading Commission「Clearing Requirement Determination Under Section 2(h) of the CEA」(Federal Register Vol. 77, No. 240、2012 年 12 月 13 日)の 74290 ページ、脚注 58。 ↩ ↩2 ↩3
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日本証券クリアリング機構「Markit iTraxx Japan 本日のスプレッド」(2026 年 9 月 25 日更新)の表と「Markit REDコード」「期間」。 ↩ ↩2 ↩3
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Commodity Futures Trading Commission「Clearing Requirement Determination Under Section 2(h) of the CEA」(Federal Register Vol. 77, No. 240、2012 年 12 月 13 日)の 74294 ページ、脚注 72 と 73。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 11 ページ、"RED codes"。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 23 ページ、"Index reversion example" の "Mechanics" と "Payout to protection buyer"。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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判定日が利払日と同じなので、下の補足欄「クレジット・イベントのときのクーポンの調整」にあるクーポンの返金は 0 になります。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 12〜13 ページ、"Use cases" の "Isolating & Hedging Credit Risk"。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 13 ページ、"Use cases"。 ↩
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IHS Markit「CDS Indices Primer」(2021 年 11 月)の 10〜11 ページ、"Market Structure" の "Clearing"。 ↩
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日本証券クリアリング機構「清算対象取引」の「インデックスCDS取引」と、債務負担の対象とする CDS 取引の条件。2026 年 9 月 25 日に確認。 ↩ ↩2
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CFTC「Clearing Requirement Determination Under Section 2(h) of the CEA」の 74291 ページの Table 1、74284 ページの "DATES"(2013 年 2 月 11 日発効)、74338 ページ(2012 年 11 月 29 日)。 ↩ ↩2