韓国の投資売買業者や投資仲介業者が店頭デリバティブを扱う業務では、一般投資家への制限や月次の報告などの遵守事項を確かめます。金融投資業者が、清算義務の対象になりうる金利スワップを結ぶ業務では、清算義務の対象かを確かめます。

韓国の店頭デリバティブ規制の位置づけ

韓国の店頭デリバティブ規制の中心は、「資本市場と金融投資業に関する法律」(英語名 Financial Investment Services and Capital Markets Act。以下「資本市場法」)と、その施行令です。法令名と条文は、韓国法制研究院(Korea Legislation Research Institute)の英訳によります1。

この規制が求めるのは、投資売買業者と投資仲介業者が店頭デリバティブを扱うときの遵守事項と、一定の店頭デリバティブの中央清算です。取引情報の報告と、清算されない店頭デリバティブの証拠金は、「取引情報の報告と証拠金」の節に書きます。

根拠の法律と所管の当局

根拠は、資本市場法の条と、施行令の条に分かれています。法律が大枠を定め、対象の取引や者の範囲は施行令に委ねています。

項目 条 中身
店頭デリバティブの定義 資本市場法 第 5 条 取引所で取引されないデリバティブ
投資売買業者と投資仲介業者の遵守事項 資本市場法 第 166 条の 2、施行令 第 186 条の 2 一般投資家への制限、リスク額の限度、月次の報告など
清算義務 資本市場法 第 166 条の 3、施行令 第 186 条の 3 中央清算機関による債務の引き受け
中央清算機関の認可と報告 資本市場法 第 323 条の 3、第 323 条の 16、施行令 第 318 条の 9 認可、取引情報の保存と報告

所管の当局は、金融委員会(Financial Services Commission。FSC)です。金融委員会は、金融政策と金融の監督などを担う、首相の所管下の機関です2。資本市場の管理、監督、監視に関する事務も、金融委員会の事務に含まれます3。

検査と監督の実務は、金融監督院(Financial Supervisory Service。FSS)が担います。金融監督院は、金融委員会などの指導と監督のもとで金融機関を検査し、監督する、資本金をもたない特殊法人です。検査の対象には、銀行と、資本市場法の金融投資業者が入っています4。店頭デリバティブの遵守事項の監督は、資本市場法が金融監督院の院長に委ねています5。

条文は 2026 年 10 月 6 日時点で公開されている英訳の版(資本市場法は 2025 年 9 月 16 日公布の改正まで、施行令は 2026 年 6 月 30 日の大統領令まで)を確かめました6。

店頭デリバティブの定義と遵守事項

資本市場法は、デリバティブを、原資産の価格、金利、指標、単位、それらにもとづく指数に応じて金銭などを受け払いする契約(先渡し、オプション、スワップに当たる契約など)と定めています。そのうち、取引所で取引されるデリバティブ以外のものが店頭デリバティブです。取引所で取引されるデリバティブには、次の 3 つが入ります7。

  • 国内のデリバティブ市場で取引されるもの
  • 海外の市場(国内のデリバティブ市場に類する外国の市場で、施行令が定める外国のデリバティブが取引されるもの)で取引されるもの
  • 金融投資商品の市場の運営者が定めた基準と方法で取引されるもの

金融投資業者には、投資売買業、投資仲介業、集合投資業、投資助言業、投資一任業、信託業を営む者が含まれます。そのうち、自己の勘定で売買する者が投資売買業者(investment trader)、他人の勘定で売買を媒介、取次ぎ、代理する者が投資仲介業者(investment broker)です8。資本市場法は、この 2 つの業者が店頭デリバティブを扱うときの遵守事項として、次の事項を定めています9。

遵守事項 中身
一般投資家への制限 一般投資家との取引は、施行令が定めるリスク回避の取引に限る
リスク額の限度 取引で生じるリスク額は、金融委員会が告示する限度内にする
自己資本の比率 比率が 150/100 を下回ると、新たな取引を止める
取引ごとの承認 取引のたびに、デリバティブ業務の責任者の承認を得る
月次の報告 取引や媒介などの内容を、翌月 10 日までに金融委員会へ報告する
金融投資協会の事前審議 一部の店頭デリバティブを新たに扱うときは、事前審議を受ける

表の遵守事項には、次の細目があります。

  • 一般投資家への制限では、業者は、投資家が回避しようとするリスクの種類と金額を確かめ、資料を保存します。
  • 自己資本の比率は、営業純資本から総リスクを引いた額を、必要な自己資本の合計で割った値です。150/100 を下回るときは、既存の取引の履行とリスクの回避に関する業務だけを行います。
  • 取引ごとの承認は、金融委員会が告示する基準に合う契約で、あらかじめ定めた条件にもとづく取引には要りません。
  • 月次の報告の対象には、デリバティブ連動証券が含まれます。
  • 事前審議を受けるのは、原資産が信用リスクか、自然・環境・経済上の現象に基づくその他のリスクである店頭デリバティブと、一般投資家向けの店頭デリバティブを新たに扱うときです10。審議するのは金融投資協会(Korea Financial Investment Association)で、施行令が定める場合は除きます11。

リスク管理の方法と投資家の保護に必要なその他の事項は、金融委員会が定めて告示するとされています12。

一般投資家への制限が求める「リスク回避」は、施行令が次の 2 つの条件で定めています13。

  • 回避の対象が、取引する者が保有しているか、保有する予定の資産、負債、契約などであること
  • 契約期間中に店頭デリバティブで生じうる損益が、回避の対象で生じうる損益の範囲を超えないこと

D 銀行が投資売買業者か投資仲介業者に当たり、一般投資家である顧客と店頭デリバティブを結ぶ架空の例で考えます。顧客が変動金利の借入金を持ち、その金利変動のリスクを減らすために金利スワップを結ぶとします。スワップで生じうる損益が、借入金の金利変動で生じうる損益の範囲に収まるなら、2 つの条件に当たります。借入金がないのに金利スワップを結ぶ取引や、借入金で生じうる損益を超える損益が生じる取引は、当たりません。

清算義務と中央清算機関

金融投資業者が、施行令が定める店頭デリバティブの取引か、そのほかの店頭取引を、ほかの金融投資業者か施行令が定める者と行うとき、資本市場法は、中央清算機関などに債務を引き受けさせることを求めています。「そのほかの店頭取引」は、債務不履行が国内の資本市場に重大な影響を与えるおそれがあるものに限られます。引き受けは、債務の引き受け、更改、またはそれに類する法的に拘束力のある取り決めによります14。

施行令は、対象を次のように絞っています15。

  • 相手は、金融投資業者のほか、外国の金融投資業者です。
  • 対象の取引は、ウォン建ての元本について、固定金利と変動金利の利息を、ウォンで定期的に交換する取引です。原資産や満期などの要件は、金融委員会が告示します。中央清算機関で清算できないと告示された取引は、対象から除かれます。
  • 債務を引き受ける者は、国内の中央清算機関のほか、金融委員会が承認した外国の中央清算機関です。外国の清算機関には、現地の当局の許認可と監督、相互主義にもとづく情報の入手、金融委員会と現地の当局の協力の合意などの要件があります。

図 1 は、上の条件のうち、当事者、取引の種類、清算できない取引の除外を、質問の順に並べたものです。

はいいいえ取引する自社は金融投資業者か対象外はいいいえ相手は、金融投資業者か外国の金融投資業者か対象外はいいいえウォン建ての元本で、固定金利と変動金利の利息をウォンで定期的に交換する取引か対象外いいえはい中央清算機関で清算できないと告示された取引か対象外4 問を通れば、原則として清算義務の対象
図 1金利スワップが清算義務の対象かの判定
図の説明

4 つの質問で、自社、相手、取引の内容、清算できないと告示された取引かどうかを上から順に確かめます。最初の 3 つは「いいえ」なら対象外で、最後の質問だけは「はい」で対象外です。すべてを通ると、原則として清算義務の対象です。告示の要件(原資産や満期など)、債務を引き受ける者の要件(図の前の箇条書き)、「そのほかの店頭取引」の条件は、図に含みません。

自社が金融投資業者で、結ぶ取引が告示で清算できないとされた取引ではない架空の例で考えます。

例 条件 図の条件に当てはめると
1 相手は国内の別の金融投資業者。ウォン建ての元本で、固定金利と変動金利の利息をウォンで定期的に交換する金利スワップ 質問 1 から 3 が「はい」、質問 4 が「いいえ」なので、原則として清算義務の対象
2 相手は外国の金融投資業者。元本が米ドル建ての金利スワップ 3 つ目の質問が「いいえ」(ウォン建てではない)なので、図の条件では対象外
3 相手は、金融投資業者に当たらない事業会社。ウォン建ての金利スワップ 2 つ目の質問が「いいえ」なので、図の条件では対象外

例 2 と例 3 でも、「そのほかの店頭取引」の条件に当たるかは、この図では判定していません。

国内の中央清算機関になるには、金融委員会から、事業ごとの認可を受けます16。

中央清算機関は、取引情報を保存し、金融委員会などに報告する義務を負います。ただし、清算義務の取引の情報は、施行令が定める保存の対象から除かれます。保存の対象は、中央清算業務の対象となる取引の情報から、清算義務の取引の情報を除いたものです。保存の期間は 10 年です。清算の対象の取引や、清算参加者の義務の履行の状況などは、毎月、金融委員会に報告します17。

取引情報の保存と報告の義務に違反したり、虚偽の報告をしたりすると、法律の罰則(1 年以下の懲役または 3,000 万ウォン以下の罰金)の対象になります18。

取引情報の報告と証拠金

資本市場法の英訳には、金融投資業者が取引情報を取引情報蓄積機関へ報告する義務と、清算されない店頭デリバティブの証拠金の義務を定める条がありません。英訳の改正の履歴は、2025 年 9 月 16 日公布の法律までを載せています。

金融委員会の英語の公表には、これらを法律にする計画が出てきます。

  • 2017 年 3 月に、清算されない店頭デリバティブの証拠金は、金融監督院の行政指導の形で導入されました。2019 年 7 月時点で、変動証拠金は 76 の金融機関に適用されていました19。
  • 2020 年 3 月 3 日に、金融委員会は、資本市場法の改正案が閣議で承認されたと公表しました。改正案は取引情報蓄積機関を法律に位置づけるもので、取引情報蓄積機関は、金融投資業に関する規則の改正で 2020 年 10 月に導入する予定とされていました。改正案の中身は、次の 3 点です20。
    • 金融投資業者の取引情報の報告義務(違反には 1 億ウォン以下の罰則)
    • 取引情報蓄積機関の認可と監督
    • 清算されない店頭デリバティブの残高が 3 兆ウォンを超える金融機関への、証拠金の義務
  • 2020 年 5 月に、金融委員会は、当初の初期証拠金の導入時期を 1 年延ばすと公表しました。清算されないデリバティブが 70 兆ウォン以上の機関は 2021 年 9 月 1 日から、10 兆ウォン以上 70 兆ウォン未満の機関は 2022 年 9 月 1 日からとされました21。
  • 2020 年 6 月 30 日に、金融委員会は、同じ趣旨の改正案が閣議で承認され、7 月に国会へ提出される予定だと公表しました22。

これらは、改正案と計画の公表です。2022 年 9 月時点の金融安定理事会(FSB)の報告での韓国の実施状況は、アジア・オセアニアのデリバティブ規制の全体像で扱います。

条文の追加と改正の日

英訳に載る条文の追加の日付は、次のとおりです。表の「追加」は、条文が追加された改正の公布の日で、施行の日ではありません。

条 追加の日
資本市場法 第 166 条の 2、施行令 第 186 条の 2 2009 年 2 月 3 日
資本市場法 第 166 条の 3、第 323 条の 3、第 323 条の 16 2013 年 4 月 5 日
施行令 第 186 条の 3 2013 年 7 月 5 日

遵守事項を定める条は、追加のあと、2010 年 3 月 12 日と 2017 年 4 月 18 日に改正されています23。2013 年に追加された条の施行は、法律が公布の 3 か月後、施行令が 2013 年 7 月 6 日です(いずれも附則)2324。

実務で確かめる点

投資売買業者と投資仲介業者の業務では、取引のたびにデリバティブ業務の責任者の承認を得ることと、取引の内容を翌月 10 日までに金融委員会へ報告することが必要です。承認は、金融委員会が告示する基準に合う契約で、あらかじめ定めた条件にもとづく取引には要りません。中央清算機関は、清算の対象の取引などを毎月、金融委員会に報告します。

これらの細目は、法律と施行令に加えて、金融委員会の告示で決まります。告示に委ねられている点は、次のとおりです25。

  • リスク額の限度
  • 取引ごとの承認の例外となる契約の基準
  • リスク管理の方法など
  • 清算の対象の要件と、清算できない取引
  • 中央清算機関の毎月の報告の様式と手続

この記事が書いていないこと

金融委員会の告示と金融監督院の指針の中身、取引情報蓄積機関と証拠金を定める法律の成立の有無と条文、清算義務が実際に働き始めた時期、遵守事項の条と施行令の対応する条の施行日は、この記事では扱いません。

「そのほかの店頭取引」の限定のかかり方、施行令が定める外国のデリバティブの中身、取引所以外の取引の運営者が定める基準、罰則や過料の細かい運用は、この記事では扱いません。

注

  1. 韓国法制研究院(Korea Law Translation Center)の英訳。資本市場法は「FINANCIAL INVESTMENT SERVICES AND CAPITAL MARKETS ACT」、施行令は「ENFORCEMENT DECREE OF THE FINANCIAL INVESTMENT SERVICES AND CAPITAL MARKETS ACT」。 ↩

  2. 「ACT ON THE ESTABLISHMENT OF FINANCIAL SERVICES COMMISSION」(金融委員会設置法)第 3 条第 1 項(金融委員会の設置と地位)。 ↩

  3. 金融委員会設置法 第 17 条第 4 号(資本市場の管理、監督、監視に関する事項)。 ↩

  4. 金融委員会設置法 第 24 条第 1 項と第 2 項(金融監督院の設置と地位)、第 37 条第 1 号と第 2 号(検査と制裁)、第 38 条第 1 号と第 2 号(検査の対象の銀行、金融投資業者)。 ↩

  5. 資本市場法 第 166 条の 2 第 3 項。 ↩

  6. 英訳ページの冒頭の表示。資本市場法は法律第 21061 号(2025 年 9 月 16 日公布)まで、施行令は大統領令第 36484 号(2026 年 6 月 30 日)までの履歴。 ↩

  7. 資本市場法 第 5 条第 1 項から第 3 項。 ↩

  8. 資本市場法 第 8 条第 1 項(金融投資業者)、第 6 条第 1 項から第 3 項(6 つの業、投資売買業、投資仲介業)、第 8 条第 2 項と第 3 項(投資売買業者、投資仲介業者)、第 9 条第 6 項(一般投資家は専門投資家以外の投資家)。 ↩

  9. 資本市場法 第 166 条の 2 第 1 項第 1 号から第 6 号。デリバティブ業務の責任者の選任は第 28 条の 2。 ↩

  10. 資本市場法 第 166 条の 2 第 1 項第 6 号。原資産は第 4 条第 10 項第 4 号(信用リスク)と第 5 号(その他の自然、環境、経済上のリスク)。 ↩

  11. 金融投資協会は資本市場法 第 9 条第 17 項第 1 号。例外は施行令 第 177 条の 2 第 1 号(原資産などの情報が市場で十分に提供される場合。一般投資家向けは除く)。 ↩

  12. 資本市場法 第 166 条の 2 第 2 項。 ↩

  13. 施行令 第 186 条の 2(リスク回避の取引)の第 1 号と第 2 号。 ↩

  14. 資本市場法 第 166 条の 3。 ↩

  15. 施行令 第 186 条の 3 第 1 項から第 3 項。 ↩

  16. 資本市場法 第 323 条の 3 第 1 項。中央清算業務の定義は第 9 条第 25 項。 ↩

  17. 資本市場法 第 323 条の 16 第 1 項から第 3 項。施行令 第 318 条の 9 第 1 項(第 166 条の 3 の取引を保存の対象から除く)、第 2 項(10 年)、第 3 項(毎月の報告)、第 5 項(方法と手続は告示)。 ↩

  18. 資本市場法 第 446 条の本文(1 年以下の懲役または 3,000 万ウォン以下の罰金)と、同条第 53 号の 2 と第 53 号の 3(取引情報の保存と管理、報告の違反)。 ↩

  19. Financial Services Commission, "Implementation Plan for Margin Requirements for Non-centrally Cleared OTC Derivatives"(2019 年 8 月 8 日)の "Domestic progress"。 ↩

  20. Financial Services Commission, "Revision to FSCMA to Enhance Transparency and Reduce Systemic Risks in OTC Derivatives Markets"(2020 年 3 月 3 日)の "Key provisions" の 1 と 2。 ↩

  21. Financial Services Commission, "Margin Requirements for Non-centrally Cleared OTC Derivatives to be Postponed for One Year"(2020 年 5 月 6 日)。 ↩

  22. Financial Services Commission, "Government Seeks to Lower Risks in OTC Derivatives Market"(2020 年 6 月 30 日)の "Key revisions" の I。 ↩

  23. 資本市場法 第 166 条の 2 の末尾("Added on Feb. 3, 2009"、"Amended on Mar. 12, 2010; Apr. 18, 2017")、第 166 条の 3 の末尾("Added on Apr. 5, 2013")、附則 法律第 11758 号(2013 年 4 月 5 日)第 1 条。 ↩ ↩2

  24. 施行令 第 186 条の 3 の末尾("Added on Jul. 5, 2013")、附則 大統領令第 24655 号(2013 年 7 月 5 日)第 1 条。 ↩

  25. 資本市場法 第 166 条の 2 第 1 項第 2 号、第 4 号と同条第 2 項。施行令 第 186 条の 3 第 2 項、第 318 条の 9 第 3 項と第 5 項。 ↩