シンガポールで、デリバティブ契約の報告、清算、取引の規制が証券先物法のどこに置かれているかを調べるときの入口になる記事です。
報告・清算・取引は別の部
シンガポールは、デリバティブ契約の報告、清算、取引を、証券先物法 2001(Securities and Futures Act 2001)の中で、それぞれ別の部に置いています。報告は第 6A 部、清算は第 6B 部、取引は第 6C 部です1。この法律で「Authority」と呼ばれる当局は、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore。MAS)です2。
金融安定理事会の 2022 年 11 月 7 日の報告の表は、シンガポールを 2022 年 9 月時点で「実施」としていました。対象は、取引情報の報告、中央清算、取引基盤での取引のすべてです3。5 法域の表はアジア・オセアニアのデリバティブ規制の全体像で扱います。
条の並びと中心の条
3 つの部は、条の並びが同じです。各部の最初の条が用語の定義で、次に、報告、清算、取引を題にする中心の条があります。そのあとに、MAS が情報を求める権限、代替の取り決めの指示、関係する法域の法令と慣行の遵守、規則を作る権限、義務の免除の条が並びます1。
| 部 | 主題 | 条の範囲 | 中心の条 | MAS の規則の制定権 | 免除 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第 6A 部 | デリバティブ契約の報告 | 第 124 条〜第 129A 条 | 第 125 条 | 第 129 条 | 第 129A 条 |
| 第 6B 部 | デリバティブ契約の清算 | 第 129B 条〜第 129H 条 | 第 129C 条 | 第 129G 条 | 第 129H 条 |
| 第 6C 部 | デリバティブ契約の取引 | 第 129I 条〜第 129O 条 | 第 129J 条 | 第 129N 条 | 第 129O 条 |
中心の条の題は、報告が "Reporting of specified derivatives contracts" です。清算と取引の題も同じ形です1。3 つの部とも、"Power of Authority to make regulations"(規則を作る当局の権限)という題の条があります。中心の条が義務を置いていると読めるのは、この題と、FSB の報告が実施としていることによります。
法律の用語としての「デリバティブ契約(derivatives contract)」は、将来のある時点で義務を果たす必要がある(かもしれない)契約で、価値が 1 つ以上の原資産の価値や変動から決まるものです。有価証券、集団投資スキームの持分、スポット取引、銀行などが受け入れる預金、保険契約は含まれません。規則で、デリバティブ契約に当たるか当たらないかを指定する契約もあります4。
対象になる契約の読み方
3 つの中心の条の題は、いずれも "specified derivatives contracts"(指定デリバティブ契約)を対象にしています。「specified」が規則での指定を指すのかなど、どの契約を指すかは、各部の定義の条と規則の本文が手がかりです5。
B 銀行がシンガポールの取引相手と店頭デリバティブを結ぶ架空の例で考えます。題から言えるのは、中心の条が指定デリバティブ契約を対象にしていることまでです。報告、清算、取引のどの義務が及ぶかは、題だけでは決まりません。各部に免除の条もあるためです。
機関の規制は別の部
取引情報蓄積機関と清算機関の規制は、報告、清算、取引の 3 つの部とは別の部にあります。
取引情報蓄積機関は第 2A 部(Trade Repositories)です。免許の申請と付与、免許の取消し、免許を受けた機関の義務(リスクの管理、MAS への届出、記録の保存、定期報告、MAS への協力、秘密の保持)の条があります。外国の取引情報蓄積機関の免許も、同じ部に定めがあります6。
清算機関は第 3 部(Clearing Facilities)です。清算機関は、MAS の承認か認定が要ります。承認を受けた機関は "approved clearing house"、認定を受けた機関は "recognised clearing house" と、法律が定義しています7。
FSB の 2022 年の報告は、2022 年 9 月末時点の機関の一覧に、シンガポールにある 2 つの機関を載せています。取引情報蓄積機関は DTCC Data Repository – Singapore、清算機関は SGX Derivatives Clearing Ltd です。前者は、オーストラリアとシンガポールの 2 法域で営業の権限がある機関として載っています。後者は、EU、シンガポール、スイス、英国の 4 法域で清算サービスの権限がある機関として載っています8。清算機関の仕組みは、清算機関(JSCC、LCH、CME など)で扱います。
扱わない範囲
この記事が扱うのは、法律の部の構成までです。条文の目次は、2026 年 10 月 3 日時点で公開されている版を確かめました9。この版は 2020 年改訂版(2021 年 12 月 31 日施行)を基にしています。この日付は法律全体の改訂版のもので、第 6A 部から第 6C 部の施行日ではありません10。
次の点は、この記事では扱いません。
- 各条の本文の中身
- 報告、清算、取引の義務を細かく定める規則の名前と中身
- 義務の対象になる契約と者の範囲、基準の数値、免除の条件
- 第 6A 部から第 6C 部の施行の日付と、その後の改正
- 違反したときの罰則
- 非清算取引の証拠金と資本に関する MAS の規則
- 取引情報蓄積機関と清算機関が、第 6A 部と第 6B 部の義務とどう結び付くか
- 清算機関の承認と認定の違い
注
-
Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の目次(Part 6A〜6C)。各部は、定義、義務、情報を求める権限、代替の取り決めの指示、関係する法域の法令と慣行の遵守、規則の制定権、免除の順です。 ↩ ↩2 ↩3
-
Financial Stability Board, "OTC Derivatives Market Reforms: Implementation progress in 2022"(2022 年 11 月 7 日)2 ページ、Table 1 の Singapore の行。表の「Blue」を「実施」と書いています。 ↩
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Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の第 2 条の "derivatives contract" の定義。(a) が一般の定義、(b) が規則で指定される契約、(c)〜(i) が除外で、本文はその言い換えです。 ↩
-
Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の目次。各部の定義の条は、第 124 条、第 129B 条、第 129I 条("Interpretation of this Part")です。 ↩
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Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の目次の Part 2A。免許は第 46D 条、第 46E 条、取消しは第 46G 条、第 46H 条、機関の義務は第 46J 条〜第 46O 条、外国の機関は Division 3 です。 ↩
-
Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の目次の Part 3 の第 49 条と第 51 条、第 2 条の定義。"approved clearing house" は第 51 条第 1 項 (a)、"recognised clearing house" は第 51 条第 1 項 (b) か第 2 項です。 ↩
-
FSB の 2022 年の報告の Table D(11 ページ)の "DTCC Data Repository – Singapore"(AU、SG)と、Table G(14 ページ)の "SGX Derivatives Clearing Ltd"(EU、SG、CH、UK)。表は 2022 年 9 月末の状況です。 ↩
-
Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の表示 "Current version as at 03 Oct 2026"。 ↩
-
Singapore Statutes Online, "Securities and Futures Act 2001" の "2020 REVISED EDITION" の注記。2021 年 12 月 1 日までの改正を含み、2021 年 12 月 31 日に施行されたと書かれています。 ↩