中国で証券会社などの金融機関がデリバティブ取引を営むとき、業務に承認が要るか、基本契約書の一括清算(クローズアウト・ネッティング)が法律でどう扱われるかを整理するときに、先物とデリバティブに関する法律を読みます。
中国が法律で定めたこと
中国は、先物とデリバティブに関する法律(中华人民共和国期货和衍生品法)を 2022 年 4 月 20 日に全国人民代表大会常務委員会が採択し、2022 年 8 月 1 日に施行しました1。法律の目的は、法的な不備に対処し、標準化された産業と市場の発展を促し、投資者の利益をよりよく守ることだと、中国は説明しています2。
法律は、単一の契約書と一括清算など、デリバティブ市場の基本の仕組みを、法律の水準で明確にしました2。
根拠の法律と所管の当局
根拠の法律と所管の当局は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠の法律 | 先物とデリバティブに関する法律。主席令第 111 号で公布1 |
| 先物市場の所管 | 条文では「国務院の先物監督管理機構」(国务院期货监督管理机构)が、全国の先物市場を集中して統一的に監督・管理する3 |
| デリバティブ市場の所管 | 条文では、国務院の先物監督管理機構か、国務院が授権した部門が、職責の分担に従って監督・管理する3 |
| 具体的な規則 | 国務院が、法律の原則に従い、デリバティブ取引と関連する活動の規範と監督の具体的な方法を定める4 |
| 自主規制 | 先物とデリバティブの業界団体が、法律に従って自主規制を行う5 |
条文は、所管の当局を「中国证监会」の名前では書いていません。新華社の報道は、2026 年 5 月の記事で、この法律がデリバティブ取引を法律の範囲に入れ、中国证监会に関連する具体的な定めを授権したと伝えています6。
法律の条文は、2026 年 10 月 12 日時点で人民日報の掲載と全国人民代表大会の英語サブサイトの英訳に公開されている版(2022 年 8 月 1 日施行)を確かめました。
対象になる取引と求められること
法律は、デリバティブ取引を、先物取引以外の、スワップ契約、先渡し契約、非標準化オプション契約と、その組み合わせを取引の対象とする活動と定めています。先物取引は、先物契約と標準化オプション契約を対象とする活動で、先物契約は、取引の場が統一して定めた標準化契約です7。法律は、店頭デリバティブの語ではなく、取引の対象の契約の種類で、デリバティブ取引の範囲を定めています。
取引の場と当事者について、法律は次のように定めています。
| 区分 | 求められること |
|---|---|
| 先物取引 | 法令で設立された先物取引所などの先物取引の場で行う。場の外での先物取引は禁止される8 |
| デリバティブ取引 | 協議による取引か、国務院が定めた別の方法で行える8 |
| デリバティブ取引を組織する場 | 法令で設立された場が、国務院が授権した部門か国務院の先物監督管理機構の審査・承認を受けて行える。取引規則も承認を受ける9 |
| 金融機関 | デリバティブ取引の業務に、法令による承認か認可を受ける。取引者の適合性の管理の義務を果たし、国の監督管理の規定を守る10 |
中国の領域の外での取引も、中国国内の市場秩序を乱し、国内の取引者の権利を害するときは、この法律に従って処理され、責任が問われます11。
次の図 1 は、取引の範囲と金融機関の承認の条件だけを順に並べたものです。
図 1 の質問に当てはめる、2 つの取引の架空の例で考えます。1 つ目は、金融機関が先渡し契約の取引を協議で結ぶ場合です。先渡し契約がデリバティブ取引の範囲に入り、金融機関が業務として行うので、承認か認可と適合性の管理が関わります710。2 つ目は、取引の場が統一して定めた標準化契約を、その場で取引する場合です。この契約が先物契約で、取引が先物取引にあたるため、1 つ目の質問で外れます。先物取引は、法令で設立された取引の場で行う定めが別にあります8。
違反したときの扱い
次に述べるのは、後の節の部門規章ではなく、2022 年の法律の罰則です。承認を受けずにデリバティブ取引を組織した場合と、金融機関が承認や認可を受けずにデリバティブ取引を行った場合に、違法所得の没収と罰金が科されます。罰金は、違法所得の 1 倍以上 10 倍以下です。違法所得がないか、100 万元に満たないときは、100 万元以上 1,000 万元以下の罰金になります12。
契約とネッティングの定め
法律は、基本契約書を使うデリバティブ取引について、次のことを定めています。
- 基本契約書、その下の補足契約、個別の取引についての当事者の約定は、全体で 1 つの完全な単一の契約となり、法的な拘束力をもちます13。
- 基本契約書などの契約の雛形は、国務院が授権した部門か国務院の先物監督管理機構の規定に従い、届け出ます14。
- 履行の担保は、質権などの方法で提供できます15。
- 基本契約書を使う取引で約定の事由が生じたときは、約定に従って取引を終了し、契約の下の全取引の損益を差引きして決済できます。この差引決済は、取引の一方が法令に従って破産手続に入っても、停止、無効、取消しになりません16。
これらは、一括清算の定めです。
中央清算にも、同じ趣旨の条があります。国務院が授権した部門か国務院の先物監督管理機構が承認した清算機関が、中央清算機関として集中清算するデリバティブ取引は、法令に従って終了時の差引決済ができます。清算の財産は、清算と受渡しに優先して使われ、差押え、凍結、強制執行の対象にならず、清算と受渡しの完了前は、だれも使えません。集中清算は、参加者が破産手続に入っても、停止、無効、取消しになりません17。
取引情報の集中管理
法律は、国務院が授権した部門と国務院の先物監督管理機構が、デリバティブ取引の報告のための機関(衍生品交易报告库。英訳は repository for derivatives trading)を設けることを定めています。機関は、取引の対象、規模、相手方などの情報を集めて保存し、分析し、管理し、規定に従って、関連する情報を速やかに市場へ公開します。具体的な方法は、この 2 つが定めます18。
中国の 2 つの機関(CFETS と NAFMII)は、以前は取引情報蓄積機関に類する機関(TR-like entity)でした。その後、取引情報蓄積機関として承認されています19。
施行と、その後の規則
主な日付は、次のとおりです。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2021 年 12 月 | Security Association of China(SAC)が、証券会社の店頭スワップの規則を出した20 |
| 2022 年 4 月 20 日 | 先物とデリバティブに関する法律を採択し、主席令第 111 号で公布した1 |
| 2022 年 8 月 1 日 | 先物とデリバティブに関する法律が施行された1 |
| 2026 年 5 月 15 日 | 中国证监会が、デリバティブ取引監督管理弁法(試行)を公表した21 |
| 2026 年 11 月 16 日 | 上の弁法の施行日として公表されている。2026 年 10 月時点では、まだ施行されていない21 |
2021 年 12 月の規則は、ディーラーの要件、投資者の資格、対象になる原資産と契約、証拠金、取引の報告を定めています。証拠金に関する規則は、店頭スワップを行うすべての証券会社に効力があります20。
2026 年 5 月に公表された弁法について、新華社の報道は次のように伝えています。
- 弁法は、中国证监会が監督するデリバティブの業界で、最初の部門規章です。
- 弁法は、デリバティブ取引と決済、取引者、デリバティブの経営機関、市場の基盤、監督管理と法的責任を定めます。
- 証券会社と先物会社がデリバティブ取引の業務を申請するには、直近 6 か月の純資本が継続して人民元 5 億元以上、などの行政許可の条件を満たす必要があります。中国证监会は、慎重な監督の原則に従い、純資本の最低額を調整できます。
- 施行の日から、関係する者は、弁法に合わない業務を新たに増やせず、既存の業務は満期に終了します。許可の具体的な実施の取り決めは、中国证监会が別に明らかにします21。
ほかの法域との比較
金融安定理事会(FSB)の 2022 年 11 月の報告の表では、中国は、取引情報の報告、中央清算、暫定的な資本規制が「実施」、最終的な資本規制、証拠金規制、取引基盤での取引が「段階 3」です。表はアジア・オセアニアのデリバティブ規制の全体像にあります。
日本の制度との比較は、一括清算では日本の一括清算法が扱います。中国は、基本契約書と一括清算の効力を、デリバティブを扱う 1 つの法律の中に置いています。
デリバティブ取引の報告義務の中身、集中清算の対象になる取引、弁法の本文、上記以外の違反の罰則は、この記事では扱いません。
注
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」(人民日報 2022 年 4 月 21 日掲載)の冒頭。2022 年 4 月 20 日に全国人民代表大会常務委員会が通過し、主席令第 111 号で公布、同年 8 月 1 日から施行。日本語名はこの記事の訳。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Financial Stability Board, "OTC Derivatives Market Reforms: Implementation progress in 2022"(2022 年 11 月 7 日。以下「FSB 報告」)の 6 ページ、China の項。 ↩ ↩2
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 8 条。第 1 項の後段は、金利と為替の先物の監督管理について国務院が別に定めるときは、その規定によるとする。 ↩ ↩2
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 38 条(Article 38)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 9 条(Article 9)。 ↩
-
新華網「中国证监会发布《衍生品交易监督管理办法(试行)》」(新華社、2026 年 5 月 15 日)。法律がデリバティブ取引を法律の調整範囲に入れ、中国证监会に具体的な定めを授権したと伝える部分。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 11 条。英訳は Article 11。第 1 項が先物取引の場と、場の外での禁止、第 3 項がデリバティブ取引の方法。 ↩ ↩2 ↩3
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 30 条(Article 30)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 2 条第 2 項(Article 2)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 136 条第 1 項と第 2 項(Article 136)。第 2 項が第 30 条と第 31 条の違反を第 1 項で処罰すると定める。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 32 条(Article 32)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 33 条(Article 33)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 34 条(Article 34)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 35 条(Article 35)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 37 条(Article 37)。 ↩
-
「中华人民共和国期货和衍生品法」第 36 条(Article 36)。英訳では "a repository for derivatives trading"。日本語の「報告のための機関」は、この記事の訳。 ↩
-
FSB 報告の 3 ページと脚注 3、5、"Trade reporting"。CFETS は China Foreign Exchange Trade System、NAFMII は National Association of Financial Market Institutional Investors。 ↩
-
FSB 報告の 5 ページと脚注 11、"Margin requirements for non-centrally cleared derivatives"。規則名は "Over-the-Counter Swap Regulation of Security Companies"、協会名は報告の表記。 ↩ ↩2
-
新華網「中国证监会发布《衍生品交易监督管理办法(试行)》」(新華社、2026 年 5 月 15 日。sources に挙げた記事の本文)。弁法の原題は「衍生品交易监督管理办法(试行)」で、日本語名はこの記事の訳。施行日、内容の項目、純資本の条件、施行後の既存業務の扱い。 ↩ ↩2 ↩3