法人の決算では、未決済のデリバティブ取引の損益も所得の計算に入ります。個人は、一定の先物取引の損益を、他の所得と分けて確定申告で計算します。

法人と個人で違う計算の仕組み

デリバティブ取引の損益は、取引した人が法人か個人かで、所得の計算の仕組みが違います。法人には法人税法の規定があり、個人には一定の取引についての租税特別措置法の特例があります。

会計上の損益と評価の考え方は会計処理の業務で扱います。法人税法には別段の定めがあるため、課税の所得は会計の損益と一致するとは限りません1。

法人のデリバティブ取引の課税

法人の所得は、益金の額から損金の額を引いて求めます。法人の収益と費用は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算します1。デリバティブ取引には、この「別段の定め」に当たる規定があり、決算の時点の扱いを定めています。

期末のみなし決済

法人が行ったデリバティブ取引のうち、事業年度の終了の時に決済されていないもの(未決済デリバティブ取引)は、その時に決済したものとみなします。そのときの利益の額か損失の額(みなし決済損益額)を、その事業年度の所得の計算で、益金の額か損金の額に入れます2。決済していない取引でも、決算の日の損益が所得に入ります。

外貨建取引の換算に関する第 61 条の 8 第 2 項の適用を受ける、先物外国為替契約等に基づく為替予約取引と、財務省令で定める取引は、この扱いから除かれます2。翌事業年度でのみなし決済損益額の処理は、政令が定めます2。

デリバティブ取引に基づいて金銭以外の資産を取得したときは、その時の資産の価額と、取得の対価として支払った金額との差額を、取得した日の属する事業年度の益金の額か損金の額に入れます。ただし、次の節の繰延ヘッジ処理の適用を受けるデリバティブ取引に基づいて取得した場合は、この扱いになりません2。

ヘッジ処理

資産や負債の価額の変動などで生じるおそれのある損失を減らすためにデリバティブ取引を行った法人は、一定の要件を満たすと、繰延ヘッジ処理を使えます。この処理では、期末のみなし決済などによる損益のうち有効な部分を、その事業年度の所得に入れません。要件は次のとおりです3。

  • そのデリバティブ取引が、損失を減らすために行ったものであることなどを、財務省令で定めるところにより、帳簿書類に記載していること。
  • デリバティブ取引を行った時から事業年度の終わりまでの間に、損失を減らそうとする資産、負債や、受け取り、支払う予定の金銭について、譲渡や消滅、受け取りや支払いがないこと。
  • デリバティブ取引が損失を減らすために有効だと、政令の定める場合に当たること。

売買目的外有価証券の価額の変動による損失を減らすためのデリバティブ取引には、別に、評価の損益を所得に入れる時価ヘッジ処理の規定があります4。

期末に未決済のデリバティブ取引があり、みなし決済損益額が 100 万円の利益か損失になる架空の例で考えます。表の「全額が有効」は、損益のうち有効な部分(政令に従って計算した金額)が、損益の全額に当たる場合です3。

場合 期末のみなし決済損益額 ヘッジ処理 所得の計算での扱い
利益が出ている 100 万円の利益 なし 益金の額に 100 万円を入れる
損失が出ている 100 万円の損失 なし 損金の額に 100 万円を入れる
利益が出ていて、全額が有効なヘッジ 100 万円の利益 あり 100 万円を、その事業年度の所得に入れない
損失が出ていて、全額が有効なヘッジ 100 万円の損失 あり 100 万円を、その事業年度の所得に入れない

3 行目と 4 行目は、要件を満たすヘッジ処理を使うと、デリバティブ取引の損益の有効な部分は、1 行目と 2 行目のようには、その事業年度の所得に入らない例です。ヘッジは、対象の資産や負債に逆向きの損益が生じる可能性を打ち消す目的で行います。たとえばデリバティブ取引で 100 万円の損失が出るとき、ヘッジ対象に同額の含み益があれば、経済的な損益は合わせて 0 円です。ヘッジ対象側の税務上の扱いは、この表には入れていません。

A 社が、期末に未決済のデリバティブ取引を持ち、みなし決済損益額が 100 万円の利益になる場合と、100 万円の損失になる場合の架空の例で考えます。要件を満たすときの有効な部分は、どちらも全額とします。最初の表と同じく、ヘッジ対象側の扱いは入れていません。

A 社の状況 利益 100 万円の場合、その事業年度の所得の計算で 損失 100 万円の場合、その事業年度の所得の計算で
3 つの要件をすべて満たす 益金の額に入れない 損金の額に入れない
3 つの要件のどれかを満たさない(たとえば、帳簿書類への記載がない、損失を減らそうとした資産を期中に譲渡した、政令の定める有効な場合に当たらない) 益金の額に 100 万円を入れる 損金の額に 100 万円を入れる

繰延ヘッジ処理で所得に入れないのは、その事業年度の計算だけです。条文の見出しにあるとおり損益の計上は繰り延べられ、翌事業年度以後の処理は政令が定めます3。ヘッジ処理がない場合と比べて、その事業年度の所得は、利益の場合は小さく、損失の場合は損金の額にも入らないため大きくなります。いずれも繰延べです。要件を 1 つでも満たさなければ、最初の表の「ヘッジ処理」が「なし」の行と同じ扱いです。

会計上のヘッジ会計の要件と処理は、ヘッジ会計の基本で扱います。税法のヘッジ処理の要件は、ここに書いた法人税法の規定で定まります。

個人のデリバティブ取引の課税

個人が一定の先物取引の差金等決済(決済、行使、放棄、譲渡の総称)をしたときは、その損益を、他の所得と分けて課税します。対象は、居住者と、国内に恒久的施設を持つ非居住者です5。

先物取引に係る雑所得等と税率

税率などの数値は、2026 年 4 月 1 日現在の法令等に基づく国税庁の資料の時点のものです。

対象になる先物取引の事業所得、譲渡所得、雑所得を、政令に従って計算した合計額を「先物取引に係る雑所得等の金額」といい、他の所得と区分して、所得税 15%、地方税 5% の税率で申告分離課税になります6。税率は所得の大きさによらず一定です。

所得税には、復興特別所得税が上乗せされます。所得税と復興特別所得税は併せて申告し、納めます。復興特別所得税の額は、基準所得税額の 2.1% です。2027 年分以後は、基準所得税額の 1.1% になり、基準所得税額の 1% の防衛特別所得税を併せて申告し、納めることになっています6。

対象になる取引

特例の対象になる取引の範囲は次のとおりです6。いずれも、決済によって現物の受け渡しが行われることになるものは除きます。

区分 取引の例
商品先物取引等 商品先物取引法上の市場取引(現物先物、現金決済型先物、商品指数先物、オプション)と、同法上の商品先物取引業者を相手方とする店頭商品デリバティブ取引
金融商品先物取引等(市場) 金融商品取引法上の市場デリバティブ取引(上場デリバティブ)のうち、先物、指数先物、オプション
金融商品先物取引等(店頭) 同法上の店頭デリバティブ取引のうち、先渡、指標先渡、オプション、指標オプション(相手方は第一種金融商品取引業者か登録金融機関に限る)
カバードワラント カバードワラントに表示される権利の行使や放棄、その譲渡(金融商品取引業者への売委託などによる譲渡に限る)

店頭デリバティブ取引の相手方の条件は、特例の対象になる要件に入っています5。一定の暗号資産や金融指標に係る取引は、対象から除かれています6。

外国為替証拠金取引(FX)には、市場デリバティブ取引にも店頭デリバティブ取引にも当たらないものがあります。その差金等決済の損益について、国税庁は、一般的には雑所得として総合課税の対象になり、超過累進税率で課税されるとしています。その場合の損失は、雑所得の範囲では通算できますが、他の所得とも、先物取引に係る雑所得等とも通算できません7。

はいいいえ個人の取引か個人の取引ではないので、この図では判定しないはいいいえ居住者か、国内に恒久的施設を持つ非居住者か原則としてこの特例の対象にならないはいいいえ対象の取引の区分に入り、現物の受渡にならない取引か原則として特例の対象外(FX の一部は総合課税)原則として先物取引に係る雑所得等(15% と 5%)
図 1個人のデリバティブ取引が先物取引に係る雑所得等に入るかの判定
図の説明

個人の取引が、先物取引に係る雑所得等として課税される取引に当たるかを、3 つの質問で順に確かめる判定フローです。最初の質問がいいえなら、個人の取引ではないため、この図では判定しません。3 つともはいなら、原則として申告分離課税になります。

図は大づかみの判定です。店頭デリバティブ取引は、相手方が第一種金融商品取引業者か登録金融機関である場合に限り対象になり、一定の暗号資産や金融指標に係る取引は対象から除かれます56。終点の 15% は所得税の税率で、所得税には復興特別所得税などが上乗せされます。

損益通算と繰越控除

先物取引に係る雑所得等の金額の計算で損失が出たときは、他の先物取引に係る雑所得等の金額とは通算できますが、それ以外の所得の金額とは損益通算できません6。所得税法などの適用では、その損失の金額は生じなかったものとみなされます5。

通算しても引ききれない損失は、一定の要件のもとで、翌年以後 3 年間にわたって繰り越し、その年の先物取引に係る雑所得等の金額を限度として差し引けます8。複数の年の損失があるときは、最も古い年の損失から順に差し引きます8。要件は次の 3 点です89。

  • 損失が生じた年の確定申告で、先物取引に係る繰越損失用の申告書付表と、先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書を添付した確定申告書を出すこと。
  • その後も、毎年連続して、この申告書付表を添付した確定申告書を出すこと。
  • 繰越控除を受ける年の確定申告でも、申告書付表と計算明細書を添付すること。

個人の先物取引に係る雑所得等の金額が年ごとに変わる架空の例で考えます。各年の金額は、他の先物取引との通算後の金額で、前の年から連続して要件を満たしているものとします。税額は所得税を 15%、地方税を 5% として、復興特別所得税などは入れていません。

年 先物取引に係る雑所得等 繰越損失の控除 課税の対象 所得税(15%) 地方税(5%) 年末の繰越損失
1 年目 100 万円の損失 なし 0 円 0 円 0 円 100 万円
2 年目 300 万円の利益 100 万円 200 万円 30 万円 10 万円 0 円
3 年目 50 万円の損失 なし 0 円 0 円 0 円 50 万円
4 年目 20 万円の利益 20 万円 0 円 0 円 0 円 30 万円
5 年目 40 万円の利益 30 万円 10 万円 1.5 万円 0.5 万円 0 円

1 年目の損失は、同じ年のほかの種類の所得(たとえば給与の所得)と通算できず、2 年目の利益から差し引かれます。2 年目に繰越控除を使えなかった場合は、300 万円に課税されるため、所得税と地方税は 60 万円になります。繰越控除は、利益が出た年の税を軽くしますが、損失が生じた年の翌年以後 3 年間に利益が出なければ、差し引けないまま期間が終わります。

日本以外の国・地域の課税は、この記事では扱いません。

注

  1. 「法人税法」第 22 条第 1 項、第 2 項、第 3 項、第 4 項。第 4 項は、収益の額と損金の額に算入する額を、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すると定めます。e-Gov 法令検索で 2026 年 10 月 2 日に確認した条文。 ↩ ↩2

  2. 「法人税法」第 61 条の 5(デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)第 1 項、第 3 項、第 4 項。第 1 項の括弧書きは、第 61 条の 8 第 2 項の適用を受ける先物外国為替契約等に基づく取引などの為替予約取引等を、みなし決済から除きます。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  3. 「法人税法」第 61 条の 6(繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ)第 1 項。ヘッジ対象資産等損失額は同項第 1 号と第 2 号、デリバティブ取引等の範囲は同条第 4 項。有効な部分の金額の計算と、有効だと認められる場合は、政令に委ねられています。 ↩ ↩2 ↩3

  4. 「法人税法」第 61 条の 7(時価ヘッジ処理による売買目的外有価証券の評価益又は評価損の計上)第 1 項。 ↩

  5. 「租税特別措置法」第 41 条の 14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)第 1 項。損失の金額は生じなかったものとみなす旨は同項後段。店頭デリバティブ取引の相手方の条件は同項第 2 号。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  6. 国税庁「No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例」(令和 8 年 4 月 1 日現在法令等)の「概要」、「適用対象となる先物取引の差金等決済の範囲」、「先物取引に係る雑所得等の金額の計算上、損失が生じた場合」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6

  7. 国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」(令和 8 年 4 月 1 日現在法令等)の「課税関係」の「(2)差金等決済による差損が生じた場合」と、その後ろの、市場デリバティブ取引にも店頭デリバティブ取引にも該当しない取引の説明。 ↩

  8. 国税庁「No.1523 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」(令和 8 年 4 月 1 日現在法令等)の「概要」、「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の方法」、「手続き」。 ↩ ↩2 ↩3

  9. 「租税特別措置法」第 41 条の 15(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)第 1 項、第 3 項。 ↩