スイスの銀行や事業会社が店頭デリバティブを結ぶ業務では、相手が小さなカウンターパーティに当たるか、清算の対象か、取引をどこへ報告するかを確かめる場面があります。清算されない取引では、担保の交換が要るかも確かめます。
位置づけと所管
スイスのデリバティブ規制の中心は、金融市場インフラ法(FinMIA。ドイツ語の略称は FinfraG)のデリバティブ取引の章です1。この法律は、金融市場インフラの組織と運営、証券とデリバティブの取引での参加者の行為を定めます。目的は、市場の機能と透明性、金融システムの安定、参加者の保護、投資家の平等な扱いです2。
デリバティブ取引の章が求めるのは、清算、取引情報の報告、清算されない取引のリスク軽減、取引施設での取引の 4 つです。閾値などの数値と対象の細目は、連邦参事会(政府)の金融市場インフラ令(FinMIO)と、FINMA の金融市場インフラ令(FinMIO-FINMA)が定めます3。国際的な改革の背景はG20 の店頭デリバティブ改革で扱います。
FINMA は、金融市場監督法が定める公法上の機関で、独自の法人格をもち、金融市場に関する法律にもとづいて金融市場を監督します4。金融市場インフラ法では、スイスの金融市場インフラを認可し、外国の金融市場インフラを承認し、監督します5。
スイス国立銀行(SNB)は、スイスの中央銀行です。金融システムの安定を保つため、システム上重要な清算機関、証券集中保管機関、資金決済システムなどを監督し、特別の要件を定めます6。システム上重要な金融市場インフラは、FINMA の監督と SNB の監督の両方を受けます。2 者は、監督を共同で行い、情報を定期的に交換して、仕事の重なりを避けます7。
| 項目 | 文書 | 条 |
|---|---|---|
| 義務の枠組み | 金融市場インフラ法(FinMIA) | 第 93〜117 条 |
| 閾値、リスク軽減、義務の開始 | 金融市場インフラ令(FinMIO) | 第 76〜114 条 |
| 清算義務の対象の一覧 | FINMA の金融市場インフラ令(FinMIO-FINMA) | 第 6 条、第 7 条、附属書 1 |
| FINMA の地位と任務 | 金融市場監督法(FINMASA) | 第 5 条、第 6 条 |
| SNB の監督 | スイス国立銀行法(NBA) | 第 19〜21 条 |
条文は、2026 年 10 月 23 日時点で公開されている版を確かめました。版は、金融市場インフラ法が 2024 年 2 月 1 日、施行令が 2025 年 1 月 1 日です。FINMA の令は 2023 年 2 月 1 日、金融市場監督法は 2025 年 4 月 1 日、スイス国立銀行法は 2023 年 9 月 1 日です8。
対象になる取引と者
金融市場インフラ法は、デリバティブを、価値が 1 つ以上の原資産に依存し、現物取引ではない金融契約と定めます9。次のものは、デリバティブ取引の章のデリバティブに含まれません10。
- 元本確保型や利回り上限型の商品、証書などの仕組商品
- 証券の貸借
- 現物の受渡しが必要で、当事者の選択で現金決済にできず、取引施設で取引されない商品デリバティブ
- 証券の形で発行されたデリバティブと、預金の形で受け入れたデリバティブ
この章が適用されるのは、スイスに本店を置く金融カウンターパーティと非金融カウンターパーティです11。
| 区分 | 含まれる者 |
|---|---|
| 金融カウンターパーティ | 銀行、証券会社、保険会社と再保険会社、金融・保険グループの親会社、資産運用者と投資信託の運用会社、投資信託、年金基金と投資財団 |
| 非金融カウンターパーティ | 金融カウンターパーティでない会社 |
| 報告義務だけが残る者と相手 | 多国間開発銀行、連邦・州・市町村の組織(金融カウンターパーティでないもの)、外国の中央銀行、ECB、EFSF、ESM など |
| 適用されない者 | 連邦、州、市町村、SNB、国際決済銀行(BIS) |
外国の金融市場参加者のスイスの支店は、その支店の規制がスイスの規制に大きく届かないとき、FINMA が章の適用の対象にできます12。
小さなカウンターパーティは、未決済の店頭デリバティブの平均総ポジションが、30 営業日の移動平均で閾値を下回る者です。非金融カウンターパーティの閾値は種類ごとに、金融カウンターパーティの閾値は全種類の合計に 1 つ適用されます13。
| 者 | 対象のポジション | 閾値 |
|---|---|---|
| 非金融カウンターパーティ | 信用デリバティブ、株式デリバティブ | 11 億スイス・フラン |
| 非金融カウンターパーティ | 金利、通貨、商品、その他のデリバティブ | 33 億スイス・フラン |
| 金融カウンターパーティ | すべての店頭デリバティブ(金融・保険グループ単位) | 80 億スイス・フラン |
グループを連結している者は、グループ内の取引も数えます。非金融カウンターパーティの計算からは、事業、資金繰り、資産運用に直接関わるリスク削減の取引を除きます14。閾値を超えると、超えた日から 4 か月後に小さな者でなくなります15。申告を受ける側は、疑う事情がなければ、相手の区分の申告を正しいと考えてよく、申告は章のすべての義務に通じます16。
求められること
小さなカウンターパーティが関わる取引は清算義務の対象外で、担保の交換も、小さな非金融カウンターパーティとの取引では働きません。
清算義務
清算義務は、取引施設を通さない店頭デリバティブ取引のうち、FINMA が対象に定めた種類のものに及びます。取引は、FINMA が認可か承認した清算機関で清算します。小さなカウンターパーティとの取引と、小さなカウンターパーティどうしの取引は対象外です17。FINMA は、契約の標準化の程度、流動性、取引量、価格情報の入手のしやすさ、カウンターパーティ・リスクを見て対象を決め、どの清算機関も清算していないデリバティブは対象にできません18。
FinMIO-FINMA の 2023 年 2 月 1 日施行の版は、清算の対象として次の種類を挙げます19。
| 種類 | 参照金利・指数 | 通貨 | 期間 |
|---|---|---|---|
| ベーシス・スワップ、固定・変動の金利スワップ | EURIBOR | ユーロ | 28 日〜50 年 |
| FRA(金利の先渡し契約) | EURIBOR | ユーロ | 3 日〜3 年 |
| OIS | FedFunds、SOFR | 米ドル | 7 日〜3 年 |
| OIS | €STR | ユーロ | 7 日〜3 年 |
| OIS | SONIA | 英ポンド | 7 日〜50 年 |
| OIS | TONA | 円 | 7 日〜30 年 |
| 指数のクレジット・デフォルト・スワップ | iTraxx Europe Main、Crossover | ユーロ | シリーズ 17 以降、5 年 |
次の取引は、清算しなくてかまいません20。
- 小さな者でなくなる前に結んだ取引
- 同じ連結の範囲にある 2 者の、中央のリスク管理に服するグループ内取引で、義務の回避が目的でないもの
- 決済の履行が保証される(PvP)通貨スワップと為替予約
- カバード・ボンドの発行体が、金利や為替のリスクのヘッジに使う取引で、担保率が 102% 以上など一定の条件を満たすもの
- 相手が、FINMA が同等と認めた法域に本店を置き、その法域の法令で清算義務を負わない場合の、国をまたぐ取引
義務を負うスイスの者の外国の相手が、スイスに本店があれば清算義務を負う者に当たるとき、義務は、その外国の相手との取引にも及びます21。義務は、FINMA が対象の種類を公表してから、6 か月後(同じ清算機関の参加者どうしの新規取引)、12 か月後(参加者と小さくない金融カウンターパーティの取引など)、18 か月後(そのほかの新規取引)の順に始まります22。
取引情報の報告
デリバティブ取引は、取引所で取引されるものも含めて、FINMA が認可か承認した取引情報蓄積機関に報告します23。報告する者は、取引の当事者の区分で決まります24。
| 取引 | 報告する者 |
|---|---|
| 金融と非金融のカウンターパーティの間 | 金融カウンターパーティ |
| 金融カウンターパーティどうし | 小さくない側。2 者とも小さい、または 2 者とも小さくないときは売り手 |
| 非金融カウンターパーティどうし | 金融どうしの規則を準用。小さな者どうしは報告しない |
| 外国の相手が報告しない取引 | スイスに本店を置く側 |
| 清算された取引 | 清算機関。承認された外国の清算機関が報告しないときは当事者 |
報告は、取引の成立、変更、終了の翌営業日までに行います。最低限、当事者の名称と所在地、取引の種類、満期、想定元本、価格、決済日、通貨を報告します。報告の項目の一覧は、施行令の附属書 2 が定めます25。報告には第三者を使えます。取引の裏付けの書類は、債務法の保存の規定に従って保存します26。
このほか、証券会社と取引施設の参加者は、証券とデリバティブの取引を取引施設に報告します。原資産が取引施設で取引が認められた証券のデリバティブは、その取引施設に報告します。この報告は取引の監視に使われ、取引情報蓄積機関への報告とは別の義務です27。
取引施設での取引義務
法律は、FINMA が定めたデリバティブを、FINMA が認可か承認した取引施設か、組織的取引システムの運営者を通して取引するよう求めます。小さなカウンターパーティが関わる取引、決済が保証された為替の通貨スワップ・為替予約、取引施設が取引を認めていないデリバティブは対象外です。義務は、FINMA がデリバティブの種類を公表した時点から、6 か月後、9 か月後、12 か月後に、取引の当事者に応じて始まります28。FinMIO-FINMA の 2023 年 2 月 1 日の版には、清算の対象の一覧はありますが、取引義務の対象の一覧はありません29。
清算されない取引の運営上のリスク軽減
清算されない店頭デリバティブは、リスク軽減の義務を負います。次の取引は対象外です。報告義務だけが残る相手や適用されない者との取引、会社どうしの取引でないもの、決済が保証された為替の通貨スワップ・為替予約、自主的に清算した取引です30。
運営とカウンターパーティ・リスクについて、次のことが求められます31。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 取引の確認 | 成立から 2 営業日以内に相互に確認する(午後 4 時以降の成立は 3 営業日以内) |
| 確認の期限の延長 | 複雑な取引と小さな者は、1 営業日延びる |
| ポートフォリオの照合 | 未決済が 500 件以上は毎営業日、51〜499 件は週 1 回、50 件以下は四半期に 1 回 |
| 紛争の解決 | 管轄と準拠法を成立時までに合意し、5 営業日で解決できない紛争の手続を定める |
| ポートフォリオ・コンプレッション | 未決済が 500 件以上なら、リスクを減らせる場合に年 2 回以上行う |
| 値洗い | 毎営業日、時価で評価する。時価が出ないときはモデルで評価する |
照合は、小さな非金融カウンターパーティなら要りません。値洗いは、小さな者との取引なら要りません。
担保と証拠金
担保は、小さな非金融カウンターパーティを除いて交換します。担保を自社の資産から分けて管理できる態勢が要り、担保の直接の処分の合意は、強制執行や倒産の措置でも有効です32。変動証拠金は、毎営業日、評価にもとづいて計算し、支払います。当初証拠金を交換するのは、3 月、4 月、5 月の月末の平均総ポジション(清算されない店頭デリバティブ。決済が保証された為替を含む)が、グループ単位で 80 億スイス・フランを超える者です。その義務は翌年の 1 年間続きます33。
交換する担保の額が 50 万スイス・フラン未満なら、交換を省けます。当初証拠金を減らせる額の上限は、5,000 万スイス・フランです(グループ内の取引は 1,000 万スイス・フラン)。為替デリバティブの通貨の元本部分には、当初証拠金を省けます34。
当初証拠金の標準の率は、取引の種類と残存期間で決まります。金融カウンターパーティは、標準のモデルが業界に定着するまでは、FINMA が承認した市場リスクのモデルで計算できます35。
| 種類と残存期間 | 率 |
|---|---|
| 金利、2 年以内 | 1% |
| 金利、2 年超 5 年以内。信用、2 年以内 | 2% |
| 金利、5 年超 | 4% |
| 信用、2 年超 5 年以内 | 5% |
| 為替 | 6% |
| 信用、5 年超 | 10% |
| 株式、商品、そのほか | 15% |
当初証拠金は、取引の成立から 1 営業日以内に初めて計算し、少なくとも 10 営業日ごとに計算し直します。現金の当初証拠金は、中央銀行か、支払う側から独立した銀行に置き、相殺はできず、原則として別の目的に使えません36。担保にできるのは、現金預金、高品質の国債や社債、カバード・ボンド、主要な株価指数の構成株、金、マネー・マーケット・ファンドなどです。担保は、ヘアカットを引いて評価し、通貨が違う場合は 8% を追加で引きます37。
清算機関と取引情報蓄積機関
外国の清算機関の承認には、適切な規制と監督のほか、外国の当局が、国をまたぐ活動に異議がないこと、スイスの参加者に違反があれば FINMA に知らせること、FINMA に行政上の協力をすることが要ります。外国の取引情報蓄積機関でも、規制と監督、異議がないこと、違反の通知は同じです。最後の条件は行政上の協力ではありません。外国の当局が、スイスの監督当局に次の 2 点を確認することです。1 つ目は、データを別の外国当局へ転送できるのは、刑事当局への転送で司法共助が可能な場合に限られること、2 つ目は、スイスの当局が当該国の取引情報蓄積機関に即時にアクセスできることです38。
FINMA の一覧(2026 年 10 月 22 日付)では、スイスで認可を受けた清算機関は SIX x-clear AG、取引情報蓄積機関は SIX Trade Repository AG です。取引施設には、SIX スイス取引所と BX Swiss の 2 つの取引所があります。外国では、LCH Limited、LCH SA、Eurex Clearing AG、CME、ICE Clear Credit、ICE Clear Europe、日本証券クリアリング機構など 16 の清算機関が、承認を受けています。取引情報蓄積機関で承認を受けているのは、DTCC Data Repository (Ireland) と REGIS-TR の 2 つです39。
SNB は、2026 年 10 月 23 日に確認した時点で、スイスのシステム上重要な清算機関として SIX x-clear を挙げます。SIX x-clear が清算するのは、SIX スイス取引所とロンドン証券取引所で取引される株式、ETF、債券です。外国では、LCH Ltd と Eurex Clearing を、スイスにとってシステム上重要なものとして挙げます。Eurex Clearing は、スイスの原資産のデリバティブが取引される Eurex 取引所の清算機関として重要だと説明しています40。
FINMA は 2017 年 4 月 1 日に SIX Trade Repository AG を認可し、REGIS-TR S.A. を承認しました41。取引情報蓄積機関のデータの保存や公表の義務は、取引情報蓄積機関で扱います。
外国法との同等性と EU
スイスの者は、FINMA が同等と認めた外国法の下で義務を果たしたとき、または FINMA が承認した外国の金融市場インフラで取引を行ったとき、スイス法の義務を果たしたものと扱われます42。FINMA が外国法を同等と認めるのは、デリバティブ取引の義務と監督の規定が、実質の効果で比べられるときです。清算義務では、標準化された店頭デリバティブのシステミック・リスクとカウンターパーティ・リスクが大きく減ること、報告義務では、報告が最低限の項目を含むことが条件です43。スイスの者どうしの取引で外国法を使えるのは、その取引か当事者の一方に外国法との客観的な関連があるときだけで、準拠法の選択だけでは関連になりません。
FINMA は、2016 年 7 月の通達で、EU の EMIR の清算、報告、リスク軽減の規定を、暫定的に同等と認めました。EMIR の規定を使うスイスの者は、リスク軽減を除いて、FINMA が承認した外国の金融市場インフラを通す必要があります。通達は、EU が規則を確定したあとの定期の審査で、暫定の承認を確定するかを判断するとしています44。
EU 側では、欧州委員会が 2015 年 11 月に、スイスの清算機関の監督を EU の規則と同等と認めました。スイスの清算機関が EU で国をまたいで清算するには ESMA の認可が要り、同等の監督制度はその前提です45。FINMA は、2022 年 12 月に金利デリバティブの清算の対象を更新したとき、EU の法令に近い形に合わせたと説明しています46。
施行と経過措置
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2015 年 6 月 19 日 | 金融市場インフラ法の制定(施行令は同年 11 月 25 日)47 |
| 2016 年 1 月 1 日 | 金融市場インフラ法と同施行令の施行48 |
| 2017 年 4 月 1 日 | SIX Trade Repository AG の認可と REGIS-TR S.A. の承認。報告義務の段階的な開始のきっかけ49 |
| 2023 年 2 月 1 日 | 金利デリバティブの清算の対象を更新した FinMIO-FINMA の施行50 |
| 2023 年 9 月 30 日 | 年金基金などのリスク削減の取引に対する清算義務の免除の期限51 |
| 2024 年 1 月 1 日 | 株式オプションなどの株式デリバティブの担保の交換が適用52 |
| 2028 年 1 月 1 日 | 報告義務の経過期限(「そのほかの場合」の未決済の取引。取引施設などを通した取引は 2028 年 7 月 1 日)53 |
年金基金と投資財団が、リスク削減のために結ぶ取引の清算義務は、2023 年 9 月 30 日まで免除されました。株式の個別銘柄や株価指数のオプションなど、株式のデリバティブの担保の交換は、2024 年 1 月 1 日から適用されます。
未決済の取引の報告の期限は、取引情報蓄積機関の最初の認可か承認から数えて決まりました。報告する者が小さな金融カウンターパーティまたは清算機関でない場合は 6 か月後です。小さな金融カウンターパーティか小さくない非金融カウンターパーティの場合は 9 か月後です。それ以外の場合は、2028 年 1 月 1 日までです。取引施設か組織的取引システムの運営者を通して取引した取引は、これらの期限がいずれも 6 か月延びます。当初証拠金の導入は、グループの平均総ポジションの閾値を段階的に下げる形で、2016 年 9 月 1 日に始まり、2021 年 9 月 1 日に 80 億スイス・フランに達しました54。
判定の例
次の例は架空の取引で、実際の判定は取引の条件と当局の運用で変わります。
図の説明
質問は 5 つで、2 問目と 5 問目は「はい」、ほかの 3 つは「いいえ」で対象外に出ます。出口は上から、スイス法の対象外、小さな者、取引施設を通した取引、FINMA が定めない種類、例外に当たる取引の順です。5 つを通ると、原則として清算義務の対象です。FINMA が対象にしたスイスの支店は、本店が外国でも最初の質問の「はい」に当たります55。問 5 の例外のほかの種類と、外国の相手との取引の扱い、義務の開始の時期は、本文の「清算義務」で扱います。
スイスの A 銀行が、スイスの製造会社 B 社と、残存期間 5 年のユーロの EURIBOR の固定・変動金利スワップを結ぶ架空の例で考えます。A 銀行は小さくない金融カウンターパーティです。B 社は、未決済の店頭デリバティブの平均総ポジションが、どの種類も閾値を下回り、小さな非金融カウンターパーティです。
B 社が小さなカウンターパーティなので、この取引は清算義務の対象外です。金融カウンターパーティの A 銀行と非金融カウンターパーティの B 社の取引なので、報告は A 銀行が翌営業日までに取引情報蓄積機関へ行います。B 社は小さな非金融カウンターパーティなので、A 銀行は B 社と担保を交換しません。
B 社の金利デリバティブの平均総ポジション(ヘッジ目的の取引を除く)が 40 億スイス・フランになり、閾値の 33 億スイス・フランを超えて 4 か月が過ぎたとします。B 社は小さな者でなくなり、同じ種類の金利スワップを A 銀行と結ぶ取引は、清算義務の対象になります。取引の期間はユーロの EURIBOR の固定・変動スワップの 28 日〜50 年に入り、A 銀行と B 社は、FINMA が認可か承認した清算機関で清算します。清算された取引は、清算機関が取引情報蓄積機関へ報告します。
同じ A 銀行と B 社が、6 か月後に米ドルとスイス・フランの元本を交換する為替予約を結ぶ場合、決済が保証されていれば、清算義務、リスク軽減、取引施設での取引義務の対象外です。報告義務は残るため、金融カウンターパーティの A 銀行が、取引情報蓄積機関へ報告します。
実務で確かめる点
清算、閾値の判定、報告、リスク軽減、取引施設での取引の各義務を果たす手順は、書面かテキストで証明できる形で定めます。デリバティブ取引をしない非金融カウンターパーティは、その決定を書面などで残せば、手順を定める義務を免れます。他社から義務の履行を任された金融カウンターパーティも、その手順を定めます56。
義務の遵守は監査の対象で、非金融カウンターパーティには、会計監査人が対策を確かめます。違反が直されないときや繰り返されたときは、会計監査人が連邦財務省に報告します57。義務の履行をグループの会社や支店に任せるときは、顧客のデータを含む必要な情報を、顧客の承認なしに交換できます。相手の承認がなくても、取引情報蓄積機関にデータを送れます58。
この記事が書いていないこと
罰則、FINMA の通達の運用、金融市場インフラ法の取引所の上場、開示、公開買付け、インサイダー取引と相場操縦の規定は、この記事では扱いません。商品デリバティブのポジション制限は、この記事では扱いません。
2023 年 2 月 1 日より後の版の FinMIO-FINMA で、取引施設での取引義務の対象が定められたかは、この記事では扱いません。EMIR の暫定的な同等性を FINMA が確定したかは、この記事では扱いません。EU が EMIR の第三国の規定でスイスのデリバティブ規制を同等と認めたかと、英国との同等性は、この記事では扱いません。Fedlex に載る、2027 年と 2029 年に施行される予定の施行令と法律の版は、この記事では扱いません。
注
-
英訳の題は「Financial Market Infrastructure Act, FinMIA」(外部サイト)、ドイツ語版(外部サイト)の題は「Finanzmarktinfrastrukturgesetz, FinfraG」です。FINMA の 2016 年の通達は FMIA と略しています。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 1 条第 1 項と第 2 項。デリバティブ取引の章は第 3 編第 1 章(第 93〜117 条)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 100 条第 4 項(連邦参事会が閾値を定める)と第 101 条第 1 項(FINMA が清算の対象を定める)。施行令(外部サイト)の前文は、連邦参事会が金融市場インフラ法にもとづいて定めるとしています。 ↩
-
金融市場監督法(外部サイト)第 5 条第 1 項(公法上の機関、独自の法人格)、第 1 条第 1 項(h)(金融市場インフラ法を含む金融市場に関する法律)、第 6 条第 1 項。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 4 条第 1 項(認可)、第 60 条と第 80 条(外国の清算機関と取引情報蓄積機関の承認)、第 83 条第 1 項と第 2 項(監督)。FINMA のページ(外部サイト)の "FINMA's role"。 ↩
-
スイス国立銀行法(外部サイト)第 1 条第 1 項(中央銀行)、第 5 条第 2 項(e)(金融システムの安定)、第 19 条〜第 21 条(監督)。特別の要件は金融市場インフラ法(外部サイト)第 23 条。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 83 条第 1 項と第 3 項。システム上重要かどうかの判断基準は第 22 条第 1 項。 ↩
-
英訳は、英語がスイス連邦の公用語でなく、法的な効力がない参考の訳です。金融市場インフラ法のドイツ語版(外部サイト)も参照しています。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 2 条(c)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 94 条第 3 項(a)〜(c)。証券の形のデリバティブと預金の形のデリバティブは、施行令(外部サイト)第 80 条。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 93 条第 1 項〜第 4 項、第 94 条第 1 項。外国の中央銀行などは施行令(外部サイト)第 79 条第 1 項(報告義務だけ)。 ↩
-
施行令(外部サイト)第 78 条。金融市場インフラ法(外部サイト)第 93 条第 5 項は、連邦参事会が同等の規制のない外国の支店を対象にできるとしています。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 98 条第 1 項、第 99 条第 1 項、第 100 条第 1 項と第 2 項。閾値の額は施行令(外部サイト)第 88 条。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 98 条第 3 項、第 100 条第 3 項。リスク削減の取引の範囲は施行令(外部サイト)第 87 条、平均総ポジションの数え方は第 89 条。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 98 条第 2 項、第 99 条第 2 項。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 97 条第 3 項。施行令(外部サイト)第 83 条(申告は全義務に及び、変更を相手に知らせる)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 97 条第 1 項と第 2 項。店頭取引の定義は第 97 条第 1 項(取引施設を通さない取引)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 101 条第 1 項と第 3 項。FINMA は、清算機関の認可か承認のときに、その清算機関が清算するもののうち対象を決めます(FINMA の令(外部サイト)第 7 条第 1 項)。 ↩
-
FinMIO-FINMA(外部サイト)の附属書 1(2022 年 12 月 8 日の改正、2023 年 2 月 1 日施行)。選択権(オプション)付きの契約は含まれません。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 103 条、第 101 条第 3 項(b)、施行令(外部サイト)第 84 条、第 86 条第 1 項と第 3 項、第 90 条。グループ内取引の中央のリスク管理は第 91 条。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 102 条。 ↩
-
施行令(外部サイト)第 85 条(a)〜(c)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 104 条第 1 項。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 104 条第 2 項〜第 4 項。施行令(外部サイト)第 92 条第 2 項は、取引施設で取引され清算された取引を、取引の連鎖で清算機関に最も近い者が報告するとしています。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 105 条第 1 項〜第 3 項。施行令(外部サイト)第 93 条(報告の項目は附属書 2)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 104 条第 5 項、第 106 条。 ↩
-
FinMIO-FINMA(外部サイト)第 2 条、第 5 条第 3 項。デリバティブの報告の内容は、FINMA の 2022 年 12 月 14 日の発表(外部サイト)。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 112 条、第 113 条、施行令(外部サイト)第 108 条(6、9、12 か月)。 ↩
-
FinMIO-FINMA(外部サイト)の章立てと附属書 1、2(附属書 1 は清算の対象、2 は他の法令の改廃)。FINMA の 2016 年の通達(外部サイト)は、取引義務を急ぐ必要がないとして扱っていません。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 107 条第 1 項と第 2 項、施行令(外部サイト)第 94 条第 1 項。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 108 条、第 109 条。施行令(外部サイト)第 95〜99 条。ポートフォリオの照合の件数には、決済が保証された為替の通貨スワップ・為替予約を数えません。 ↩
-
金融市場インフラ法(外部サイト)第 110 条第 1 項〜第 3 項。グループ内取引の免除は第 111 条。 ↩
-
施行令(外部サイト)第 100 条第 1 項〜第 3 項(変動証拠金と当初証拠金の定義、80 億スイス・フラン)。 ↩
-
施行令(外部サイト)第 100a 条第 1 項と第 2 項、第 100b 条第 1 項と第 3 項。カバード・ボンドの発行体の特例は第 100a 条第 3 項。 ↩
-
施行令(外部サイト)第 103 条第 1 項、第 2 項、第 5 項。ネッティング・セットの計算は同条第 4 項と附属書 3。 ↩
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施行令(外部サイト)第 101 条第 1 項、第 101a 条第 1 項、第 102 条第 1 項〜第 4 項。 ↩
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施行令(外部サイト)第 104 条第 1 項、第 105 条第 1 項と第 2 項。ヘアカットは附属書 4。 ↩
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金融市場インフラ法(外部サイト)第 4 条第 1 項、第 60 条第 1 項と第 2 項(b)(3)(清算機関の承認の条件)、第 80 条第 1 項と第 2 項(b)(3)(取引情報蓄積機関の承認の条件)、第 78 条第 1 項(b)(c)(取引情報蓄積機関の確認の内容)。清算機関の定義は第 48 条。 ↩
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FINMA の一覧(外部サイト)の "Authorised Swiss ..." と "Recognised foreign central counterparties"、"Recognised foreign trade repositories"(2026 年 10 月 22 日付)。 ↩
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SNB のページ(外部サイト)(2026 年 10 月 23 日に確認)の "Systemically important financial market infrastructures in Switzerland" と "Foreign systemically important financial market infrastructures"。 ↩
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FINMA の通達 02/2017(外部サイト)(2017 年 4 月 3 日)の第 1 項と第 2 項。承認は、FMIA にもとづく報告の受領に限られています。 ↩
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金融市場インフラ法(外部サイト)第 95 条。 ↩
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施行令(外部サイト)第 81 条第 1 項〜第 3 項。リスク軽減の義務と取引施設での取引の義務の条件は同条第 2 項(c)(d)。 ↩
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FINMA の通達 01/2016(外部サイト)(2016 年 7 月 6 日)の第 2.1 項と第 2.2 項(EMIR の第 4 条、第 9 条、第 11 条)。 ↩
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FINMA の発表(外部サイト)(2015 年 11 月 13 日)。ESMA の認可も必要です。 ↩
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金融市場インフラ法(外部サイト)の冒頭の制定日(2015 年 6 月 19 日)。施行令(外部サイト)の冒頭の制定日(2015 年 11 月 25 日)。 ↩
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FINMA の通達 01/2016(外部サイト)の序論(2016 年 1 月 1 日の施行)。施行令(外部サイト)第 135 条。 ↩
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FINMA の通達 02/2017(外部サイト)の序論と第 1 項、第 2 項。報告義務の開始は施行令(外部サイト)第 130 条第 1 項。 ↩
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FINMA の 2022 年 12 月 14 日の発表(外部サイト)。FinMIO-FINMA(外部サイト)の附属書 1 の脚注(2023 年 2 月 1 日施行)。 ↩
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施行令(外部サイト)第 133 条第 1 項、第 1bis 項、第 1ter 項。 ↩
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施行令(外部サイト)第 131 条第 5bis 項。 ↩
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施行令(外部サイト)第 130 条第 1 項(a)〜(c)。最初の認可と承認は 2017 年 4 月 1 日(FINMA の通達 02/2017(外部サイト))。 ↩
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施行令(外部サイト)第 131 条第 5 項(a)〜(e)、第 5bis 項。年金基金などの免除は第 133 条。 ↩
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施行令(外部サイト)第 78 条(FINMA が外国の相手のスイスの支店の取引を、デリバティブ取引の章の対象にできる場合)。 ↩
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施行令(外部サイト)第 113 条第 1 項〜第 3 項。 ↩
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金融市場インフラ法(外部サイト)第 116 条、第 117 条、施行令(外部サイト)第 114 条。 ↩
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金融市場インフラ法(外部サイト)第 96 条、施行令(外部サイト)第 82 条、第 92 条第 4 項。 ↩