暗号資産のデリバティブは、法務・規制対応の担当者が日本の規制の当てはめを整理するときや、リスク管理の担当者がレバレッジと証拠金の仕組みを確かめるときに出てきます。

暗号資産のデリバティブは何を対象にするか

暗号資産のデリバティブは、暗号資産を原資産にしたデリバティブです。暗号資産は、資金決済に関する法律(資金決済法)が定めています。1 つ目は、代価の弁済に不特定の者へ使え、不特定の者を相手に売買できる電子的な財産的価値で、電子情報処理組織で移転できるもの(通貨などを除く)です。2 つ目は、1 つ目と相互に交換できるものです1。

扱う商品は、先物、オプション、無期限スワップです。日本の法令は、暗号資産を対象にするデリバティブ取引を規制しています2。海外の取引所が提供する先物、オプション、無期限スワップも、この記事で取り上げます。

先物、オプション、無期限スワップ

暗号資産のデリバティブには、先物とオプションのほかに、期限のない無期限スワップがあります。

種類 仕組み 期限 暗号資産での例
先物 将来の決めた日に、決めた価格で売買する約束 あり 2017 年 12 月 1 日に、CME と CFE がビットコイン先物を CFTC に自己認証した3
オプション 対価を払って、決めた価格で売買する権利を持つ あり CFTC の 2017 年 12 月 1 日の声明は、Cantor Exchange がビットコインのバイナリー・オプションを自己認証したと述べた3
無期限スワップ 期限なしで持ち続けられ、資金調達率を受け払いする なし 2016 年に BitMEX が導入した4

CME は Chicago Mercantile Exchange Inc.、CFE は CBOE Futures Exchange の略です。CFTC は米国商品先物取引委員会です。

先物の基本は、先渡しと先物で扱います。

無期限スワップは、期限がなく、いつでも決済できる契約です5。期限がないと、先物のように満期に現物の価格へ収束しません。そこで、無期限スワップの価格と現物の価格の差に比例する金額(資金調達率)を、買い持ち(ロング)と売り持ち(ショート)の間で定期的に受け払いします。無期限スワップの価格が現物より高いとき、買い持ちの側が売り持ちの側へ払います。低いときは、売り持ちの側が買い持ちの側へ払います6。払う間隔は、典型的には 8 時間ごとです7。

取引額 100 万円の買い持ちで、資金調達率が 1 回あたり +0.01% の架空の例で考えます。買い持ちの側は、売り持ちの側へ 100 円(100 万円の 0.01%)を払います。8 時間ごとに払うなら、1 日に 3 回で 300 円です。資金調達率が −0.01% のときは、売り持ちの側が買い持ちの側へ同じ 100 円を払います。どちらの側も、価格の差の向きによって、払う側にも受け取る側にもなります。

取引所と店頭の違い

取引所で売買するデリバティブと、当事者どうしが相対で結ぶデリバティブの一般的な違いは、上場デリバティブと店頭デリバティブにまとめています。暗号資産でも区別は同じです。

日本の金融商品取引法は、デリバティブ取引を 2 つに分けます。金融商品市場で、その市場を開設する者の定める基準と方法に従って行う取引が市場デリバティブ取引です。市場によらないで行う取引が店頭デリバティブ取引です8。取引の条件を決める主体で見ると、市場デリバティブ取引では市場を開設する者が基準と方法を定め、店頭デリバティブ取引ではその基準と方法によりません。暗号資産を対象にする取引は、どちらも規制の対象です。金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、内閣府令)は、暗号資産を対象にする取引を、次の 3 つに分けて規制します。市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引、外国市場デリバティブ取引です9。

証拠金を預ける先について、内閣府令は、個人の顧客の取引の預託先の種類を、金融商品取引業者等、金融商品取引所、金融商品取引清算機関(外国のこれらに当たるものを含む)と定めます10。暗号資産の取引所の無期限スワップでは、買い持ちと売り持ちの両方が、取引所に証拠金を預け、損益に応じて証拠金を調整します11。

日本の規制の位置づけ

日本では、2019 年の改正で、暗号資産を用いたデリバティブ取引が金融商品取引法の規制の対象になりました。改正法(令和元年法律第 28 号)は 2019 年 6 月 7 日に公布され、金融商品取引法の改正は 2020 年 5 月 1 日に施行されました。このとき、金融商品の定義に暗号資産が加わり、資金決済法の呼称も「仮想通貨」から「暗号資産」に改まりました12。

暗号資産を対象にするデリバティブ取引を業として行うには、金融商品取引業の登録が必要です。店頭デリバティブ取引を業として行う場合は、第一種金融商品取引業に当たります。金融商品取引業者には、暗号資産の性質の説明の義務があります。何人にも、不正行為、風説の流布、相場操縦が禁止されています13。

個人の顧客との取引には、内閣府令が証拠金の下限を定めています。契約を結ぶときと営業日ごとの一定の時刻に、預けた証拠金が必要な額(取引額の 50%)に足りないことがあります。不足分をすぐに預けさせず契約を続けることは、金融商品取引業者等の禁止行為です。比べる証拠金の額には、評価損益を加減します10。証拠金が取引額の 50% ということは、持てる取引が、証拠金の 2 倍の大きさまでという意味です。金融庁は、高いレバレッジの証拠金取引には、顧客の保護、業者のリスク管理、過当投機の点で問題があると説明しています。この理由で、取引額の 50% 以上の証拠金を受け取らずに行う取引は禁止されています14。

2026 年には、暗号資産の規制を資金決済法から金融商品取引法に移す法律が成立しました。法案は 2026 年 4 月 10 日に国会へ提出され、同年 7 月 15 日に成立し、7 月 23 日に公布されました。施行は、原則として公布の日から 1 年を超えない範囲で政令が定める日です16。

海外の規制の位置づけ

海外の規制は、法域ごとに違います。以下は、金融安定理事会(FSB)が 2025 年 10 月 16 日に公表した報告書(2025 年 8 月時点の情報)の整理です。EU は、デリバティブのサービスを提供する暗号資産サービス事業者に、EU の金融商品市場指令(MiFID II)などの枠組みの下での免許を求めます。日本、シンガポールなどは、既存のデリバティブ規制で扱います。香港とトルコは、レバレッジ取引とデリバティブ取引を明示的に禁止しています。アルゼンチン、インドネシア、タイは、扱いを明示していません17。借入、貸付、証拠金取引のような高リスクの活動を包括的に扱っていない法域が多いとも、同じ報告書は述べています18。

米国については、FSB の報告書が、大統領のデジタル資産市場に関する作業部会の報告書の内容を紹介しています。その報告書は、デジタル資産が法令上の商品の定義を満たすとき、それを参照するデリバティブは CFTC が免許を与えて規制する仕組みの下に入ると述べています19。

取引所に上場した先物でも、対象の現物市場が同じ規制の下にあるとは限りません。CFTC は 2017 年 12 月 1 日に、CME と CFE のビットコイン先物の新しい契約について声明を出しました。この声明で、ビットコインの現物市場と取引所は規制がほとんどなく、CFTC の権限は限られると述べています。同じ声明は、先物の手続きの完了が CFTC の承認や推奨ではないと断っています20。

暗号資産のデリバティブの主なリスク

価格の変動が大きいことが、まず挙げられます。金融庁に 2018 年 3 月に設置された研究会は、暗号資産は法定通貨より価格が大きく動くと見て、証拠金倍率には実態に即した上限を設けるのがふさわしいと整理しました21。

取引額 100 万円の買い持ちで、手数料と資金調達率は考えない架空の例で考えます。売り持ちは、損益の符号が逆になります。

証拠金 価格が 10% 上がる 価格が 10% 下がる 価格が 30% 下がる
取引額の 50%(50 万円) +10 万円(証拠金の +20%) −10 万円(証拠金の −20%) −30 万円(証拠金の −60%)
仮に取引額の 5%(5 万円) +10 万円(証拠金の +200%) −10 万円(証拠金の −200%) −30 万円(証拠金の −600%)

取引額の 50% の証拠金では、価格が 30% 下がっても損失は証拠金の範囲に収まります。ただし、価格が下がると、評価損益を加えた預託額が維持に必要な額を下回り、不足分をすぐに預ける必要が出ます。仮に 5% の証拠金なら、価格が 10% 下がっただけで、損失が証拠金 5 万円の 2 倍になります。得になる場合も、同じ倍率で大きくなります。金融庁は、相場が急に変わるとロスカットが適切に機能せず、顧客に証拠金を超える思わぬ損害が出かねないと説明しています22。

預けた資産の保管も、リスクの 1 つです。暗号資産の保管では、管理の誤りや不正、不十分なセキュリティによって、顧客の資産が失われたり、サービスが止まったりすることがあります23。暗号資産を対象にするデリバティブ取引の証拠金には、有価証券のほか暗号資産も充てられます24。この場合は、証拠金の価値も、暗号資産の価格とともに変わります。

日本の 2019 年の改正は、暗号資産交換業者(資金決済法の登録を受けた者)に、利用者の暗号資産を分別管理させる規定を置きました。分別管理とは、原則として、利用者の保護に欠けるおそれの少ない方法で、自己の暗号資産と分けて管理することです25。

取引所の破綻も、取引に影響します。2022 年 11 月に暗号資産の取引所 FTX が破綻したとき、FTX 上のビットコイン先物の価格は現物より大きく高くなり、他の取引所では逆の動きになりました。無期限スワップの論文(He ほか)は、この動きを 2 通りの動きと整合的だと分析しています。1 つは、FTX の投資家が売り持ちを急いで手仕舞った動きです。もう 1 つは、取引所が証拠金の足りない建玉を強制的に決済した動きです26。

経緯

時期 出来事
2016 年 BitMEX が暗号資産の無期限スワップを導入した4
2017 年 12 月 1 日 CME と CFE がビットコインの先物を CFTC に自己認証した3
2019 年 6 月 7 日 資金決済法等の改正法が公布された。金融商品取引法に、暗号資産を用いたデリバティブ取引の規制が入った12
2020 年 5 月 1 日 金融商品取引法の改正が施行された12
2022 年 11 月 暗号資産の取引所 FTX が破綻した26
2025 年 10 月 16 日 FSB が、暗号資産の規制の実施状況の報告書を公表した17
2026 年 7 月 15 日 暗号資産の規制を金融商品取引法に移す改正法が成立した16

この記事の範囲と時点

市況の価格や取引高、2026 年の改正後の規定の中身、取引所が破綻したときの預けた証拠金の扱い(分別管理の規定がデリバティブ取引の証拠金に及ぶかを含みます)は、この記事では扱いません。内容は、2026 年 10 月時点の資料にもとづきます。

注

  1. 「資金決済に関する法律」第 2 条第 14 項(e-Gov 法令検索の 2026 年 8 月 12 日施行の版)。ただし書は、金融商品取引法第 29 条の 2 第 1 項第 8 号の権利を表示するものを除いています。 ↩

  2. 金融商品取引法の条文は「暗号資産デリバティブ取引」の語を使わず、「暗号等資産」(暗号資産のほか、資金決済法第 2 条第 5 項第 4 号に掲げるもののうち内閣府令で定めるもの)に関するデリバティブ取引と書きます。定義は第 2 条第 24 項第 3 号の 2 です。内閣府令は「暗号資産等関連デリバティブ取引」と書きます。 ↩

  3. CFTC, "CFTC Statement on Self-Certification of Bitcoin Products by CME, CFE and Cantor Exchange" (Release 7654-17, 2017 年 12 月 1 日)。先物とバイナリー・オプションの自己認証を述べる箇所です。 ↩ ↩2 ↩3

  4. Songrun He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures"(arXiv:2212.06888v5、2024 年 6 月)の 8 ページ。"Crypto perpetual futures were first introduced by BitMEX in 2016" と書きます。 ↩ ↩2

  5. He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures" の要旨と 1 ページ。要旨は無期限先物を "swap contracts that never expire" と書きます。1 ページは、両者がいつでも建てたり手仕舞ったりでき、損益は継続的に計算され、それぞれの証拠金口座に配分されると書きます。 ↩

  6. He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures" の 1 ページと 10 ページ。資金調達率が正のとき買い持ちが売り持ちに払い、負のときは逆です。10 ページの式では、資金調達率は無期限スワップの価格と現物の価格の差に比例します。 ↩

  7. He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures" の 2 ページ。"Typically, the funding rate is paid every eight hours" と書きます。 ↩

  8. 「金融商品取引法」第 2 条第 21 項(市場デリバティブ取引)、第 22 項(店頭デリバティブ取引)。暗号等資産は第 2 条第 24 項第 3 号の 2 で金融商品に入ります。条と項の番号は 2026 年 8 月施行の日本語の条文に従い、英訳と違うことがあります。 ↩

  9. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 123 条第 14 項(暗号資産等関連市場デリバティブ取引)、第 15 項(暗号資産等関連店頭デリバティブ取引)、第 16 項(暗号資産等関連外国市場デリバティブ取引)。e-Gov 法令検索の 2026 年 8 月 3 日施行の版です。 ↩

  10. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 117 条第 1 項第 47 号(約定時の証拠金の不足)、同項第 48 号(営業日ごとの維持に必要な額の不足)、第 41 項(約定時必要預託額は取引額に 100 分の 50 を乗じた額)、第 42 項(維持に必要な預託額も同じ)。顧客は個人に限ります。証拠金等預託先の定義は第 1 項第 47 号です。 ↩ ↩2

  11. He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures" の 1 ページ("other than posting margin with the exchange")と 10 ページ(買い持ちと売り持ちの両方が値洗いの証拠金を預ける)。 ↩

  12. 金融庁「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」(第 198 回国会。以下、2019 年の要綱)の一 1(1)、二 1(1)(2)。公布日と施行日は、e-Gov 法令検索の金融商品取引法の改正履歴(令和元年法律第 28 号)です。 ↩ ↩2 ↩3

  13. 「金融商品取引法」第 28 条第 1 項第 2 号(店頭デリバティブ取引は第一種金融商品取引業)、第 29 条(登録)、第 43 条の 6(暗号等資産の性質の説明)、第 185 条の 22〜第 185 条の 24(不正行為、風説の流布、相場操縦の禁止)。条と項の番号は 2026 年 8 月施行の日本語の条文に従い、英訳と違うことがあります。 ↩

  14. 金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2020 年 4 月)の No. 92〜94 への考え方(29 ページ)。想定元本の 50% 以上の証拠金の預託を受けずに暗号資産を用いた証拠金取引を行うことを禁止した、と書きます。 ↩

  15. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 117 条第 1 項第 48 号、第 40 項(複数の取引の一括算出)、第 123 条第 1 項第 35 号、第 36 号(ロスカット取引と管理体制)。 ↩

  16. 金融庁「国会提出法案等(第 221 回国会)」(令和 8 年 4 月 10 日提出、7 月 15 日成立)と、「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案要綱」の第 1 の 1、第 3 の 1。公布日は、e-Gov 法令検索の改正履歴(令和 8 年法律第 64 号)です。 ↩ ↩2

  17. Financial Stability Board, "Thematic Review on FSB Global Regulatory Framework for Crypto-asset Activities" (October 16, 2025), 18〜19 ページと脚注 33、34(報告書の情報は 2025 年 8 月時点)。 ↩ ↩2

  18. Financial Stability Board の上記の報告書の 2 ページ(Executive summary)。"Comprehensive coverage of potentially higher risk activities, such as borrowing, lending, and margin trading, is often lacking" と書きます。 ↩

  19. Financial Stability Board の上記の報告書の 14 ページ。米国の President's Working Group on Digital Asset Markets の報告書を紹介する箇所で、資産が法令上の商品の定義を満たすとき、それを参照するデリバティブは CFTC の免許の仕組み("regulatory licensing regime")に入ると書きます。 ↩

  20. 前掲の CFTC の文書(2017 年 12 月 1 日)。ビットコインの現物市場と取引所がほとんど規制されず、CFTC の法令上の権限が限られると述べる箇所と、先物の手続きの完了が CFTC の承認や推奨ではないと述べる箇所です。 ↩

  21. 金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2020 年 4 月)の No. 91 への考え方(28 ページ)。2018 年 3 月に設置された「仮想通貨交換業等に関する研究会」の整理の引用です。 ↩

  22. 同資料の No. 89 への考え方(28 ページ)。相場急変時等にロスカットが必ずしも適切に機能せず、証拠金を上回る不測の損害が生じるおそれがある、と書きます。 ↩

  23. Financial Stability Board の上記の報告書の 20 ページ。管理の誤りや不正、不十分なセキュリティ("mismanagement, fraud, or inadequate security protocols")による顧客の資産の喪失やサービスの中断に触れる箇所です。 ↩

  24. 「金融商品取引業等に関する内閣府令」第 117 条第 37 項(有価証券又は暗号等資産をもって証拠金に充てられる)。 ↩

  25. 2019 年の要綱の一 1(6)、(7)(資金決済法第 63 条の 11、第 63 条の 11 の 2、第 63 条の 19 の 2、第 63 条の 19 の 3 関係)。(7) は、交換業者の管理する暗号資産について、他の債権者に先立つ弁済の権利も認めます。交換業者の定義は資金決済法第 2 条第 15、16 項、分別は第 63 条の 11 第 2 項です。 ↩

  26. He ほか "Fundamentals of Perpetual Futures" の 9 ページと 10 ページ。9 ページの図の説明は FTX の破綻を 2022 年 11 月と書きます。10 ページは、先物価格が FTX で現物より大きく高く他の取引所では逆だったことと、この動きが売り持ちの手仕舞いか強制決済と整合的であること("consistent with")を書きます。 ↩ ↩2