運航会社が来月以降の船の借り入れ費用を見通したいとき、船主が先の船の収入を見通したいときに、運賃を指数の上で固定する取引として FFA が出てきます。

バルチック取引所の運賃指数

運賃の指数は、海上の貨物輸送の運賃を、航路や船の種類ごとに数字にしたものです。運賃先物(FFA、forward freight agreement)の原資産は、この指数です。

バルチック取引所(Baltic Exchange)は 1985 年に、海運ブローカーの支えを受けて、運賃の独立した価格を作る役を担い始めました。取引所は、船主と用船者(船を借りる側)の間に立つブローカーの集まりを「パネル」とし、パネルから航路ごとの運賃の水準を集めて加重平均し、指数として毎日公表します。指数は、ドライバルク(タンカーやコンテナと並ぶ、運賃指数の部門の 1 つ)、タンカー、コンテナの部門ごとにあります。ドライバルクの指数には、バルチック・ドライ指数(BDI、1985 年)とパナマックス指数(BPI、1998 年)があります。ケープサイズ指数(BCI、1999 年に登場し 2014 年 5 月に改定)とスープラマックス指数(BSI、2005 年)もあります。個別の航路や、航路をまとめた指数が、運賃のデリバティブの原資産になります1。

指数の表し方は船の種類で違います。ドライバルクの先物は 1 日あたりのドル(ドル/日)、タンカーの先物は 1 トンあたりのドル(ドル/トン)で運賃を示します2。ドライバルクでは、船の大きさごとに、世界の運賃を加重平均した指数があります3。期間を決めて船を借りる定期用船(タイムチャーター)の運賃の平均で、ケープサイズ、パナマックスなどの船の区分ごとに出ます4。ケープサイズの指数は「5TC」の名で公表されます4。2018 年の論文の時点で、取引が集まっていたのは、この平均の指数で決済する四半期や暦年の長めの契約でした3。

契約の運賃と指数の平均の差額

FFA は、将来の決めた期間について、航路や船の種類を決め、その運賃を契約で固定する取引です。2 者の間で差金決済する契約で、船や貨物の受け渡しはありません5。

来月の 30 日間、ケープサイズの船を市場の運賃で借りる予定の運航会社 B 社の架空の例で考えます。運賃が上がると B 社の費用が増えるため、B 社は FFA を買い、運賃を 1 日 20,000 ドルに固定します。売り手は、運賃が下がると収入が減る船主です。CME の運賃先物も、バルチック取引所の指数で決済します4。

条件 値
指数 ケープサイズの運賃の指数(ドル/日)
契約の運賃 20,000 ドル/日
決済期間 来月の営業日(指数が公表される日)
日数 30 日(1 日を 1 枚とすると 30 枚)

決済期間のあいだ、指数は毎日公表されます。決済の金額は、決済期間に公表された指数の算術平均と契約の運賃との差に、日数を掛けて求めます。CME が取引所で扱っていた同種の契約は、決済の値段を、期間中に公表された各営業日の指数の算術平均と定めていました4。

B 社買い手清算機関売り手船主など受取(指数高)支払(指数低)支払(指数高)受取(指数低)
図 1B 社が FFA の買い手になる取引の流れ
図の説明

B 社と売り手は、清算機関をはさんで FFA を持ちます。決済期間の指数の平均が契約の運賃 20,000 ドル/日より高ければ、B 社は差額に日数を掛けた金額を受け取り、売り手は同じ金額を払います。指数の平均が 20,000 ドル/日より低ければ、向きは逆で、B 社が払い、売り手が受け取ります。船と貨物は動きません。

図は清算される場合です。FFA はもともと店頭デリバティブで、ブローカーが仲介して 2 者が結びます6。清算される FFA と定期用船の違いは、「ベーシス・信用リスク・取引の少なさ」の節で書きます。

指数の平均が動いたときの損益

FFA の買い手の損益は、決済期間の指数の平均が契約の運賃からどれだけ離れたかで決まります。1 日あたりで見ると、買い手の損益は、指数の平均から 20,000 ドルを引いた額で、売り手の損益は符号が逆です。

−10,000−5,0000+5,000+10,00020,000損益(ドル/日)決済期間の指数の平均(ドル/日)利益損失損益分岐点 20,000
図 2FFA の買い手の 1 日あたりの損益(契約の運賃 20,000 ドル/日)
図の説明

FFA を契約の運賃 20,000 ドル/日で買ったときの、1 日あたりの損益です。指数の平均が 20,000 ドル/日なら損益は 0 で、これが損益が 0 になる点です。指数の平均が 1 ドル上がるごとに買い手の損益は 1 ドル増え、26,000 ドル/日で 6,000 ドルの利益になります。1 ドル下がるごとに 1 ドル減り、14,000 ドル/日で 6,000 ドルの損失です。オプションと違い、利益には上限がありません。指数の平均が 0 まで下がった場合の損失は 20,000 ドル/日です。

30 日分では、これに 30 を掛けます。B 社が船を借りる費用が指数の平均に等しいと仮定して、FFA と合わせた結果を示します(符号は B 社から見たもので、支払いをマイナスにしています)。

決済期間の指数の平均(ドル/日) 船を借りる費用(ドル) FFA の受け払い(ドル) 合計(ドル)
26,000 −780,000 180,000 −600,000
20,000 −600,000 0 −600,000
14,000 −420,000 −180,000 −600,000

運賃が 26,000 ドル/日に上がると、B 社の費用は 780,000 ドルに増えますが、FFA で 180,000 ドルを受け取るため、合計は 600,000 ドルです。運賃が 14,000 ドル/日に下がると、費用は 420,000 ドルに減りますが、FFA で 180,000 ドルを払うため、合計は同じ 600,000 ドルになります。運賃が下がったときの得もあきらめることになります。

この表は、借りる費用が指数と同じになる単純な場合です。実際の船の運賃は指数と一致しないことがあり、そのずれは「ベーシス・信用リスク・取引の少なさ」の節で扱います。

船の種類と契約の単位

運賃の指数は、船の種類と航路ごとにあるため、FFA も、どの指数で決済するかで契約が分かれます。取引所が上場した運賃先物の規格から、ドライバルクとタンカーの違いを見ます。

契約(CME) 指数 単位 1 枚の大きさ
ドライバルク(ケープサイズ 5TC。2017 年に上場廃止) バルチック取引所のケープサイズ 5TC(定期用船の運賃の平均) ドルとセント/日 1 日
タンカーの航路 TC7 シンガポールから豪州東海岸への貨物 35,000 メートルトン ドルとセント/メートルトン 1,000 メートルトン
タンカーの航路 TD19 地中海内のジェイハンからラヴェラへの貨物 80,000 メートルトン ドルとセント/メートルトン 1,000 メートルトン

ケープサイズの契約は、1 枚が 1 日分で、決済の値段は、期間中の各営業日に公表された指数の算術平均です。この契約を含むドライバルクの運賃先物 4 本は、CME が上場していましたが、2017 年 6 月に上場廃止が届け出られました。届け出は、これらの契約に建玉がなく、取引の混乱はないとしています。上場廃止の理由は、届け出には書かれていません4。

タンカーの航路の先物は、CME が 2020 年 1 月に届け出て、2 月に上場するとしたものです。決済の値段は、期間中に公表された各日の運賃の平均です。各日の運賃は、ワールドスケールの点数に、その日の基準の運賃を掛けて、ドルとセント/メートルトンに直した値です7。

使い方と定期用船との違い

運賃の変動は、船を借りる用船者にとっては費用の増減、船を貸す船主にとっては収入の増減になります。2025 年版の論文は、船主と用船者のどちらも運賃のリスクを抑える方法を探していて、その道具が運賃のデリバティブだとしています8。定期用船と FFA の両方が、船主と用船者の運賃リスクの管理に使われます9。

売り手の船主は、運賃が下がると、船の収入が減る分を FFA で受け取り、運賃が上がると、収入が増える分を FFA で払います。運賃が上がったときの収入の増加をあきらめる代わりに、下がったときの減収を抑えます。どちらの側も、指数の方向を当てる取引ではなく、運賃を固定して費用や収入を決める取引として使う場合の話です。例えば、費用や収入に運賃の動きがない当事者が持てば、損益は指数の動きだけになります。ヘッジの一般の考え方は、事業会社の利用で扱います。

運賃を一定の期間で固定する手段には、FFA のほかに定期用船があります。2018 年の論文が両者を比べた結果は、次のとおりです10。

項目 FFA 定期用船
契約の性質 指数と契約の運賃の差額だけを決済する金融契約 船を商業的に管理し、輸送を使える実物の契約
船や輸送の確保 できない できる
取引相手の債務不履行 清算されればほぼない 用船者ごとにある
指数との違い 標準の船の指数で決まる 船の仕様、航路、期間が実際のもの

ドライバルクで同じ期間を比べると、定期用船の運賃は FFA の価格より高いことが多くあります。論文は、この上乗せの説明として、債務不履行のリスクへの補償と、輸送を確保できる価値の 2 つを挙げ、実証では一般にどちらなのかを切り分けられないとしています10。

天候デリバティブも、受け渡せないものの指数を差金決済する点は同じです。運賃の指数は、取引所が海運のブローカーから集めた値で作る点が、観測値で作る天候の指数と違います1。

ベーシス・信用リスク・取引の少なさ

FFA が差金決済するのは指数との差額で、B 社が実際に払う運賃との差額ではありません。このずれがベーシスリスクのもとになるベーシスです。2018 年の論文は、実際の船の運賃と FFA の間で受け払いがずれる原因を、4 つ挙げています。1 つ目は、実際の船の仕様が指数の標準の船と違うことです。2 つ目は、実際の船の航路や運航の仕方が違うことです。3 つ目は、定期用船では用船者 1 社の債務不履行のリスクが、FFA を支える清算機関より高いことです。4 つ目は、契約の開始日と終了日がずれ、延長のオプションが付くこともあることです11。

取引相手の信用リスクは、清算される FFA と定期用船で違います。清算される FFA は債務不履行のリスクがほとんどなく12、相対の契約である定期用船には債務不履行のリスクがあります1012。清算の一般の仕組みと、相対取引の信用リスクは清算取引と相対取引で扱います。

運賃はものとして貯蔵できません。2018 年の論文が挙げる先行研究では、FFA のヘッジの効果がほかの商品や金融の市場より大きく劣ります。論文は、その理由は通常、運賃が貯蔵できず、現在の運賃と先の運賃の間に保管費用による関係がないためだとされる、としています13。

もう 1 つは取引の少なさです。2018 年の論文の時点では、個別の航路の契約は取引されなくなり、取引が集まるのは長めの契約になっていました3。使いたい航路や期間の契約が、すぐに売買できるとは限りません。

取引の場と運賃オプション

FFA は、1990 年代の初めに店頭の取引として始まりました。2 者の間の契約で、ブローカーが取引を仲介します6。

2020 年 1 月の CME の届け出は、タンカーの運賃先物を CME Globex での取引と、CME ClearPort を通じた清算への提出ができるものとして上場する、と説明しています。清算は CME の清算機関(CME Clearing House)が行うとしています。ブロック取引の最小の枚数は 5 枚(5,000 メートルトン)で、店頭の取引の慣行に合わせたとしています14。

運賃のオプションは、運賃の現在の水準と行使価格との差を対象にした、通常のオプションに近い契約です15。

注

  1. Papayiannis「Static hedging of freight rate risk in the shipping market under model uncertainty」(arXiv、2025 年 4 月の第 2 版)の 4 ページ(2.1。1985 年、パネル、加重平均、毎日の公表、部門、原資産、各指数の登場年)。 ↩ ↩2

  2. Papayiannis(同上)の 2 ページ(序論。"dry bulk futures are contracts quoted in USD per day while tanker freight futures are quoted on USD per ton")。 ↩

  3. Adland、Alizadeh「Explaining price differences between physical and derivative freight contracts」(Transportation Research Part E 118 巻、2018 年)の 3 ページ(序論。世界の運賃の加重平均の指数と、この平均の指数で決済する四半期や暦年の長めの契約)。 ↩ ↩2 ↩3

  4. New York Mercantile Exchange「NYMEX Submission No. 17-251」(2017 年 6 月)の Appendix A の Chapter 769(769101、769102.B・C・E)と本文(上場廃止の対象 4 本)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5

  5. Adland、Alizadeh(同上)の 2 ページの脚注 1(FFA の定義。"cash-settled contract between two counterparties")。 ↩

  6. Papayiannis(同上)の 2 ページ(序論の "over the counter (OTC) through broker agencies")と 4 ページ("introduced in early 90's as over-the-counter (OTC) derivatives contracts")。 ↩ ↩2

  7. New York Mercantile Exchange「NYMEX Submission No. 20-007 (1 of 2)」(2020 年 1 月)の本文の表(TC7、TD19 の規格)と Exhibit A の Chapter 673、674(101 の Floating Price)。 ↩

  8. Papayiannis(同上)の 2 ページ(序論。"shipowners and the charterers"、"freight derivatives")。 ↩

  9. Adland、Alizadeh(同上)の 2 ページ(序論。"both period and FFA contracts are used for managing spot freight rate exposure by shipowners and charterers")。 ↩

  10. Adland、Alizadeh(同上)の要旨("TC rates are generally priced higher than FFAs")と、3 ページ(序論。定期用船と FFA の違いの説明)。 ↩ ↩2 ↩3

  11. Adland、Alizadeh(同上)の 3 ページ(序論の "multiple potential sources of cash flow differences (basis risks)" の a から d)。 ↩

  12. Adland、Alizadeh(同上)の 2 ページ(序論。"virtually no default risk when they are cleared")。 ↩ ↩2

  13. Adland、Alizadeh(同上)の 2〜3 ページ(序論。ヘッジの効果が他の市場より劣る先行研究と、その理由の帰属)。 ↩

  14. NYMEX 20-007(上の cme-tc7 と同じ資料)の本文(取引の場、ブロック取引の最小の枚数)と、Core Principles の Financial Integrity of Contract。 ↩

  15. Papayiannis(同上)の 2 ページ(序論。"Freight options are contracts very similar to vanilla options and are written on the difference of the freight rate spot price from a specified strike price")。 ↩