VIX 先物や日経平均VI先物は、株式の急落に備えるヘッジの費用を見積もるときや、先物の乗り換え(ロール)の損益を説明するときに出てきます。決済日の計算や受け払う金額の確認では、最終決済の値の決め方を使います。
VIX は 30 日の予想変動率
VIX は、S&P 500 指数のオプションの価格から、米国の株式市場が今後 30 日にどれだけ動くと市場が見ているかを求めた指数です1。オプションの価格には、ボラティリティ(価格の変動の大きさ)についての市場の見方が織り込まれています。1 つのオプションの価格から逆算したボラティリティをインプライド・ボラティリティといい、VIX は、多くのオプションの価格に織り込まれた見方を 1 つの数値にまとめたものです。Cboe は 1993 年に VIX の算出を始め、2003 年に S&P 500 指数のオプションを使う今の方式に改めました2。
計算には、行使価格が境目(下の式の )より低いプット・オプションと、高いコール・オプションを、行使価格ごとに 1 つずつ使います。境目の行使価格では、プットとコールの両方を使います。境目以外は、どれも行使すると今すぐ得になることはないオプション(アウト・オブ・ザ・マネー)です。値段は買い気配と売り気配の仲値を使い、行使価格の幅が広い範囲のオプションを集計します3。満期の近い限月(期近)と次の限月(翌限月)それぞれで次の分散を求めます。
式の記号は次のとおりです4。
- は満期までの年数で、分の単位で数え、365 日で割ります。
- は 番目の行使価格です。
- は両隣の行使価格の差の半分で、いちばん端の行使価格では隣の行使価格との差です。
- はそのオプションの仲値です。
- は満期までの無リスク金利です。
- はコールとプットの価格から求めた先物の水準です。
- は 以下でいちばん近い行使価格です。
各オプションの寄与は、価格と に比例し、行使価格の 2 乗に反比例します。この重みは、オプションの組み合わせでバリアンス・スワップの受け取りを再現するときの重みと同じです5。
期近と翌限月の分散を、満期までの日数で按分して 30 日の分散に直し、その平方根に 100 を掛けた値が VIX です6。 を年で数えるため、VIX は年率の変動率を % で表した数値になります。たとえば VIX が 20 なら、今後 30 日の S&P 500 指数の変動の大きさを、市場が年率 20% 程度と見ていることを表します。Cboe は、通常の取引時間には 15 秒ごとに VIX を算出して配信します7。
深掘り期近と翌限月の分散から 30 日の VIX を求める式
期近の満期までの年数と分散を 、、翌限月を 、 とし、今から期近、翌限月の満期までの分数を 、、30 日の分数を 、365 日の分数を とします。VIX は次の式で求めます6。
中かっこの中は、2 つの限月の分散に年数を掛けた量(満期までに積み上がる分散)を、30 日の位置で直線で結んだものです。これに 365 日と 30 日の比を掛けて年率に戻します。
VIX 先物の最終決済
VIX 先物は、最終決済日に決まる VIX の値と約定した値段との差額を受け払いする先物取引です。Cboe は 2004 年 3 月 24 日に、Cboe Futures Exchange(CFE)で VIX 先物の取引を始めました2。主な条件は次のとおりです8。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取引単位 | VIX 1 ポイントあたり 1,000 ドル |
| 呼値の単位 | 0.05 ポイント(1 枚あたり 50 ドル) |
| 最終決済日 | 限月の翌月の第 3 金曜日の 30 日前の水曜日(月ごとの限月) |
| 最終決済の値 | 最終決済日の朝に、S&P 500 指数のオプション(SPX)の寄付きの値段から求める VIX の値(特別な寄付きの値、SOQ) |
| 決済の方法 | 最終決済日の翌営業日に、差額を現金で受け払い(差金決済) |
最終決済の値は、ふだん配信する VIX とは求め方が違います。ふだんの VIX は 2 つの限月を按分しますが、最終決済の値は、最終決済日からちょうど 30 日後(月ごとの限月では翌月の第 3 金曜日)に満期を迎える 1 つの限月のオプションだけを使います。値段も気配の仲値ではなく、その朝に Cboe が開く特別な寄付きの競売で決まった値段を使います9。
VIX 先物を 20.00 で 1 枚買った架空の例で考えます。最終決済の値が 25.00 なら、買い手は(25.00 − 20.00)× 1,000 ドルで 5,000 ドルを受け取り、売り手が払います。最終決済の値が 16.00 なら、買い手は(16.00 − 20.00)× 1,000 ドルで 4,000 ドルを払い、売り手が受け取ります。
図の説明
VIX 先物を 20.00 で 1 枚買った側の、最終決済での損益をポイントで表した図です。横軸は最終決済の値、縦軸は損益で、損益は最終決済の値が上がるほど同じ幅で増える直線です。最終決済の値が 20.00 のときに 0 になり、それより高いと利益、低いと損失になります。25.00 なら 5 ポイント(5,000 ドル)の利益、16.00 なら 4 ポイント(4,000 ドル)の損失です。売り手の損益は、この図の上下を逆にしたものになります。
月ごとの限月のほかに、週ごとに最終決済日を迎える限月もあり、ティッカーに週の番号が付きます。週の限月の最終決済の値は、午後に決済する S&P 500 指数のオプション(SPXW)から求めます8。
VIX オプションの行使と決済
VIX オプションは、VIX を対象にしたオプションで、2006 年 2 月に Cboe Options Exchange で取引が始まりました2。行使できるのは満期の日だけのヨーロピアン・オプションで、満期の日はふつう水曜日です。満期の日の決め方と、行使の決済に使う値(特別な寄付きの値)は、VIX 先物と同じです109。
行使すると、行使の決済に使う値と行使価格との差に 100 ドルを掛けた額を、満期の翌営業日に現金で受け払いします10。行使価格 25 の VIX のコール・オプションを持つ架空の例で考えます。決済に使う値が 30 なら、買い手は(30 − 25)× 100 ドルで 500 ドルを受け取り、売り手が払います。買い手の損益は、この 500 ドルから約定のときに払ったプレミアムを引いた額です。値が 25 以下なら行使せず、受け取りはありません。この場合、買い手はプレミアムの分だけ損をし、売り手はそのプレミアムを得ます。
日経平均VIと日経平均VI先物
日経平均ボラティリティー・インデックス(日経平均VI)は、日本経済新聞社が算出する、日経平均株価の今後 30 日の変動の大きさを市場がどう見ているかを表す指数です。大阪取引所の日経225オプションと日経225先物の価格から、バリアンス・スワップの公正な受け払いの水準(フェア・バリアンス)を推定するときに広く使われる方式で計算します。対象は期近と翌限月のオプションで、両者を満期が 30 日になるように按分します11。日本経済新聞社は 2010 年 11 月に算出と公表を始め、2012 年 1 月から 15 秒ごとのリアルタイムの算出に切り替えました12。日経225オプションの仕組みは株価指数オプションで扱います。
指数は年率の変動率なので、年間の営業日数(約 245 日)の平方根に当たるおよそ 16 で割ると、1 日あたりの変動率の目安になります13。たとえば指数が 32 なら、1 日あたりの変動率はおよそ 2% です。
日経平均VI先物は、日経平均VIを対象にした先物で、2012 年 2 月 27 日に大阪取引所で取引が始まりました14。VIX 先物と比べると、次のとおりです814。
| 項目 | VIX 先物 | 日経平均VI先物 |
|---|---|---|
| 取引所 | Cboe Futures Exchange | 大阪取引所 |
| 対象の指数 | VIX(S&P 500 指数のオプションから算出) | 日経平均VI(日経225オプションから算出) |
| 取引単位 | 指数 × 1,000 ドル | 指数 × 1 万円 |
| 呼値の単位 | 0.05 ポイント(50 ドル) | 0.05 ポイント(500 円) |
| 最終日の決め方 | 限月の翌月の第 3 金曜日の 30 日前の水曜日(最終決済日。月ごとの限月) | 限月の翌月の第 2 金曜日の 30 日前の日の前日に終わる取引日(取引最終日。休業日は繰り上げ) |
| 最終決済の値 | 最終決済日の朝の SPX オプションの寄付きの値段から求めた値 | 取引最終日の翌営業日の午前 9 時から 30 分間の日経平均VIの平均値 |
日経平均VI先物の限月は直近の連続する 8 か月です。最終決済の値は最終清算数値(SQ 値)と呼びます14。
日経平均VI先物を 22.00 で 1 単位買った架空の例で考えます。SQ 値が 25.00 なら、(25.00 − 22.00)× 1 万円で 3 万円の利益です。SQ 値が 20.00 なら、(20.00 − 22.00)× 1 万円で 2 万円の損失です。
先物の期間構造とロールの損益
満期ごとの VIX 先物の値段を、満期までの期間の順に並べたものを、ボラティリティの期間構造といいます15。米国の金融取引業規制機構(FINRA)の 2017 年の通知によると、VIX 先物の値段はそれまで満期が遠いほど高いことが多く、この形をコンタンゴといいます16。日経平均VI先物も、平時は期間構造が右上がりになりやすく、先物の値段は指数より高めで、満期が近づくにつれて下がって指数に近づく傾向があります。反対に、相場が大きく動いているときは、満期が遠いほど低い右下がりの形(バックワーデーション)になりやすくなります1718。
ボラティリティの指数の先物は、最終決済の値を決める日から 30 日の変動率を対象にしています19。今の VIX は今日から 30 日を、2 か月後に最終決済を迎える先物は 2 か月後から 30 日をそれぞれ見ています。
次の期間構造の架空の例で考えます。
| 時点 | VIX | 1 か月先の満期の先物 | 2 か月先の満期の先物 |
|---|---|---|---|
| 今日 | 15.00 | 17.00 | 18.00 |
2 か月先の満期の先物を 18.00 で買い、1 か月後に期間構造がまったく同じ形のままだったとします。買った先物は 1 か月先の満期の先物になっているので、値段は 17.00 に下がり、1 ポイント(1,000 ドル)の損失です。VIX が 15.00 のまま動かなくても、先物を持っているだけで値段が下がります。反対に、1 か月の間に相場が急落し、この先物が 25.00 に上がれば、7 ポイント(7,000 ドル)の利益になります。
残り期間が一定の先物を持ち続けるには、満期の近い先物を売り、満期の遠い先物を買い直すことを繰り返します。これをロールといいます。コンタンゴの市場では、前の例のような値下がりが乗り換えるたびに繰り返されるため、ロールを続けると損益(ロール・イールド)がマイナスになります1816。バックワーデーションの市場では逆にプラスになります16。
株式の急落への備えとその費用
VIX は、株価指数が大きく下がるときに大きく上がることが多い指数です21。そのため、VIX 先物や日経平均VI先物の買いは、株式の急落へのヘッジになることがあります。一方で、急落が起きなければ、先物の値段が少しずつ下がりやすく、それがヘッジの費用になります17。
100 万ドルの米国株を持つ投資家が、2 か月先の満期の VIX 先物を 18.00 で 10 枚買った架空の例で考えます。1 か月後の結果は次のとおりです。
| 1 か月後の状況 | 株式の損益(ドル) | 先物の値段(ポイント) | 先物の損益(ドル) | 合わせた損益(ドル) |
|---|---|---|---|---|
| 株式が 10% 下がり、VIX 先物が上がる | −100,000 | 25.00 | 70,000 | −30,000 |
| 株式も期間構造も変わらない | 0 | 17.00 | −10,000 | −10,000 |
この例では、急落したときは、先物の利益が株式の損失の一部を埋めます。何も起きなかったときは、先物の値下がり 1 万ドルが、1 か月分の備えの費用になります。ただし、VIX は急落のときに必ず上がるわけではありません。VIX 先物の値動きは VIX と離れることがあり、一般に VIX の値動きより小さくなります21。そのため、先物の利益で株式の損失をどれだけ埋められるかは、そのときの相場によります。
リスク
日経平均VI先物などの先物取引は、取引の金額が差し入れる証拠金より大きいため、値動きによっては差し入れた証拠金を上回る損失が出ます24。証拠金の仕組みは先物の証拠金と値洗いで扱います。
売り手は、相場の急落のときに大きな損失を出すおそれがあります。ボラティリティの指数は、相場が下がると短い間に急に上がるためです。たとえば 2011 年 3 月 14 日には、日経平均株価が前営業日の 3 月 11 日から約 6% 下がった一方で、日経平均VIは 23.44 から 40.72 へ約 74% 上がりました25。大阪取引所は、資産や経験が十分でない投資家には、日経平均VI先物の売りを避けるよう注意しています25。
VIX に連動すると思われやすい ETP にも注意が要ります。米国のボラティリティの ETP の多くは、VIX そのものではなく、残り期間を一定に保つように VIX 先物をロールする先物の指数に連動します。FINRA は 2017 年 10 月の通知で、こうした ETP はロールのマイナスの損益のために長い期間では値下がりしやすく、上場からの値下がりが 90% を超えたものもあると指摘しています21。2016 年度の時点で、東京証券取引所にも VIX 短期先物指数に連動する ETF が上場していました。この指数は、毎日期近の先物を売って翌限月の先物を買い、残り期間の加重平均を 1 か月に保つ取引のリターンを表します。そのため、VIX とは違う動きをします26。
注
-
Cboe "Volatility Index Methodology: Cboe Volatility Index"(以下「手法」)の 1.1 "Index Objective"(3 ページ)。VIX は、米国の株式市場の 30 日先までの予想変動率についての市場の見方を測る指数と定義されています。 ↩
-
Cboe「手法」の 1 "Introduction"(3 ページ)。1993 年の導入、2003 年の S&P 500 指数のオプションを使う方式への変更、2004 年 3 月 24 日の VIX 先物の取引開始、2006 年 2 月の VIX オプションの取引開始が書かれています。 ↩ ↩2 ↩3
-
Cboe "Cboe Volatility Index Mathematics Methodology"(以下「数理」)の 3(a) (ii)(7 ページ)と (iii)(7〜8 ページ)。構成と仲値の使い方は「手法」の 3.1 の Step 3(6 ページ)。 ↩
-
Cboe「数理」の 3(a) "Single Term" の式 (1) と記号の表(6〜7 ページ)、3(a) (i) "Time to Expiration"(7 ページ)。資料は を行使価格 のプットとコールの価格の平均としています。 ↩
-
Cboe「数理」の 1 "Introduction"(4 ページ)と 3(a) (iv) "Calculating Volatility"(8 ページ)。 ↩
-
Cboe「数理」の 3(b)(8 ページ)と「手法」の 2.1 の表(4 ページ)。資料の を と書いています。 ↩ ↩2
-
Cboe「手法」の 4 "Calculation and Dissemination"(8 ページ)。通常の取引時間(RTH)は米国東部時間の午前 9 時 31 分から午後 4 時 15 分です。 ↩
-
Cboe "VIX Futures Contract Specifications" の取引単位、呼値、最終決済日、最終決済の値、決済、ティッカー、限月の各項目。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Cboe「手法」の 3.4 "Calculation of Final Settlement Value for VIX Derivatives"(7〜8 ページ)。 ↩ ↩2 ↩3
-
Cboe "VIX Options Product Specifications" の "Exercise Style"、"Expiration Date"、"Settlement of Option Exercise"。 ↩ ↩2
-
日本経済新聞社「「日経平均ボラティリティー・インデックス」リアルタイム算出要領」(2025 年 1 月 27 日版)の「1:考え方」と「2:指数の計算」の(1)基本事項、(3)算式(2〜4 ページ)。30 日は 2,592,000 秒として按分します。 ↩
-
日本経済新聞社「「日経平均ボラティリティー・インデックス」リアルタイム算出要領」の表紙(1 ページ)と「2:指数の計算」の(1)基本事項(2 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「日経平均ボラティリティー・インデックス先物取引の利用のコツ」(第 4 版、2024 年 11 月。以下「利用のコツ」)の第 3 条(4 ページ)の注 2。資料は年間の営業日数を約 245 日、その平方根を 15.65 としています。 ↩
-
大阪取引所「制度概要(日経平均VI先物)」の「取引開始日」「限月取引」「取引最終日」「SQ日」「取引単位」「呼値の単位」「最終清算数値(SQ値)」「証拠金」「決済方法」。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 7 条(8 ページ)。資料は日経平均VIと日経平均VI先物を例に、期間を横軸、ボラティリティを縦軸に取ったものを「ボラティリティーの期間構造」としています。 ↩
-
FINRA "Regulatory Notice 17-32"(2017 年 10 月 16 日)の "Background and Discussion" と注 4。VIX 先物の値段は満期が先になるほど高くなる傾向があったとし、ロール・イールドがマイナスの市場をコンタンゴ、その逆をバックワーデーションとしています。 ↩ ↩2 ↩3
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 8 条(9 ページ)。資料は右上がりをアップワードスローピング、右下がりをダウンワードスローピングと呼んでいます。 ↩ ↩2
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 4 条(5 ページ)。資料は日経平均VI先物を「先物の満期日から30日間の相場変動の大きさを予測する商品」としています。 ↩
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 10 条(11 ページ)。資料は 2016 年 4〜10 月の限月別の取引高と、2016 年 10 月 21 日の板の状況を示しています。 ↩
-
FINRA "Regulatory Notice 17-32" の "Summary" と "Background and Discussion"。 ↩ ↩2 ↩3
-
FINRA "Regulatory Notice 17-32" の注 7。資料は、同時に出した処分の例として、下落相場への長い期間のヘッジに使えると誤解して VIX 先物に連動する ETP を顧客に勧めていたブローカーの例を挙げています。 ↩
-
FINRA "Regulatory Notice 17-32" の "Summary" と "Sales Practice Obligations Relating to Volatility-Linked ETPs"。 ↩
-
大阪取引所「利用のコツ」の免責事項(16 ページ)。 ↩
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 13 条(15 ページ)。2011 年 3 月 11 日と 14 日の値は、資料が示す終値です。 ↩ ↩2
-
大阪取引所「利用のコツ」の第 11 条(12〜13 ページ)。資料は 2016 年度上半期の売買代金とあわせて、S&P500 VIX短期先物指数(トータル・リターン)に連動する ETF を挙げています。 ↩