リスク管理や内部監査の担当者にとって、オレンジ郡の事例は、運用の原則と借入の大きさが損失にどう関わったかを、監査官の報告書でたどれる題材です。
何が起きたか
米国カリフォルニア州のオレンジ郡の財務官は、郡の資金と、市、特別区、学校区など約 190 の公的機関の資金を、共同の投資プールにまとめて運用していました。1994 年 11 月 30 日の時点で、財務官の運用資産は合計 206 億ドルでした1。
1994 年 12 月 1 日に、郡は運用資産に約 15 億ドルの評価損が出たと発表しました。評価損は、投資の取得価格と時価の差で、売却するまでは確定しません。12 月 6 日に、郡の理事会は、郡とプールの参加者のために連邦破産法第 9 章(地方公共団体の再建手続き)の保護を申請しました。投資銀行が、買戻し条件付きの借入(証券を担保に資金を借りる取引)の更新や条件の見直しに応じなかったことも、申請の理由の 1 つでした2。損失は、当初 20 億 2,000 万ドルと見積もられ、1995 年 1 月に 16 億 9,000 万ドルに見直されました3。
運用の中身と経緯
州の監査官が雇った投資の専門家は、プールが 2 つの手法で利回りを高めていたと分析しました。1 つ目は、持っている証券を担保に資金を借り(報告書では reverse repurchase agreement)、その資金でさらに証券を買う方法です。
借りた資金で買った証券の利率が借入の利率より高ければ、その差が収入になります。ただし、1994 年に金利が上がると、借入の費用が増え、買った証券の価値は下がり、この手法は成り立たなくなりました。2 つ目は、満期までの期間が長く、金利が上がらないかぎり得になる証券で、リスクの高いものを持つことでした4。
1994 年 11 月 30 日に、参加者の元の投資額(基本のポートフォリオ)は 76 億ドルで、運用資産は 206 億ドルでした。うち 130 億ドルは、買戻し条件付きの借入で借りた資金で買ったものでした。206 億ドルを 76 億ドルで割ると約 2.7 倍で、金利の変化の影響も 2.7 倍に増幅されます5。
運用資産のうち少なくとも 66 億ドル(32%)は、逆フローターという仕組債でした。逆フローターの利率は、指標金利が上がると下がります。報告書の例では、利率は「9% から 6 か月物 LIBOR(指標金利の 1 つ)を引いた率」です。同じ例で、LIBOR が 3% なら利率は 6%、5% に上がると 4% になります。金利が上がると利率が下がり、価値も下がるため、金利が低いままか下がることに賭けた持ち高でした。ほかの仕組債を合わせると、運用資産の 40% を超えていました6。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1991 年 1 月 31 日 | 郡の財務官の運用資産が 51 億ドル7 |
| 1994 年 1 月 31 日 | 運用資産が 209 億ドルに増えた7 |
| 1994 年の初め | 金利が急に上がり始めた2 |
| 1994 年 12 月 1 日 | 郡が約 15 億ドルの評価損を発表した2 |
| 1994 年 12 月 6 日 | 郡とプールの参加者のために、連邦破産法第 9 章の保護を申請した2 |
| 1995 年 1 月 | 損失の見積もりを 20 億 2,000 万ドルから 16 億 9,000 万ドルに見直した3 |
| 1995 年 3 月 28 日 | 州の監査官が報告書を出した8 |
原因として報告書が示したこと
州の監査官の報告書は、公的資金の運用の原則は、安全、流動性、利回りの順であるべきだとしたうえで、郡のプールの運用はこの順序が逆で、利回りを優先したと結論づけました9。逆フローターは金利が上がると価値が下がるため、1994 年に金利が急に上がると、運用資産の価値が大きく下がりました。監査官の専門家は、逆フローターの持ち高を相殺する取引(ヘッジ)を、大きなものとしては見いださなかったと述べました10。
専門家は、1991 年 6 月から 1994 年 6 月の間に、満期までの期間の長さ、借入、仕組債の 3 つを合わせると、基本のポートフォリオの金利の上昇への弱さが 3 倍以上になったと分析しました。弱さとは、金利が上がったときの価値の下がりやすさです。1994 年 11 月 30 日の基本のポートフォリオは、金利が 1% 上がるだけで 5 億 6,000 万ドルの損失になる状態でした11。
監査官の勧告
監査官は、郡に対して、包括的な投資の方針をつくることなどを勧告しました。方針に入れるよう求めたものの一部は、次のとおりです12。
- 買戻し条件付きの借入の制限
- デリバティブや仕組債の購入の制限
- 財務官から独立した投資の諮問委員会
- 四半期ごとの報告
州の議会に対しては、次のことなどを勧告しました12。
- 地方政府に投資の方針を文書にさせること
- 買戻し条件付きの借入を運用資産の 20% までにすること
- デリバティブや仕組債の購入を制限すること
- 投機やリスク裁定のための債券の発行を禁じること
郡は、報告書の指摘と勧告に概ね同意すると答えました12。
勧告が実施されたかどうかと、州の法律が実際にどう改正されたかは、この記事では扱いません。
注
-
カリフォルニア州の監査官の報告書「Orange County: Treasurer's Investment Strategy Was Excessively Risky and Violated the Public Trust」(1995 年 3 月。以下、監査官の報告書)の PDF の 7、8 ページ。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 9〜10 ページ("Filing for Bankruptcy Protection" の節)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
監査官の報告書の PDF の 16 ページと 19 ページ(借入で買った証券の利率と借入の利率の差は "spread" と呼ばれる)。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 19 ページ("The Overall Portfolio Was Highly Leveraged" の節)。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 27、28、31 ページ。逆フローターの利率の例は 27 ページ。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 70 ページ(監査官の署名の日付)。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 15〜16 ページ("Basic Principles of Prudent Investment Practices" の節)。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 28 ページ。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 31〜32 ページ。 ↩
-
監査官の報告書の PDF の 4〜5 ページ("Recommendations" と "Agency Comments")。 ↩ ↩2 ↩3