取引相手の与信や証拠金の管理に関わる人は、アルケゴスの出来事で、相手の持ち高の情報の集め方と当初証拠金の積み方を確かめられます。
何が起きたか
アルケゴス・キャピタル・マネジメントは、米国と中国の少数のテクノロジー企業とメディア企業に集中して投資していた投資会社です。2021 年 3 月 26 日に債務不履行になり、複数の大手銀行に 100 億ドルを超える損失を出しました。損失を出した銀行の多くは、米国の外の銀行でした1。
金融安定理事会(FSB)の報告書は、この出来事の特徴を、トータル・リターン・スワップ(TRS)を通じた大きなレバレッジと、適切に値付けされていなかった取引相手の信用リスクだとしています2。TRS は、対象の資産の値上がりと値下がりに、配当や利息などの収益を加えたリターンの全体と、変動金利をもとにした金利を交換する取引です。仕組みはエクイティ・スワップとトータル・リターン・スワップで説明しています。
この出来事は、年表のアルケゴス・キャピタル・マネジメントが債務不履行になる(2021 年 3 月 26 日)にもあります。
日付の順に見る
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2021 年 3 月 26 日 | アルケゴスが債務不履行になる |
| 2021 年 10 月 | 米国の当局が、証券ベースのスワップの規制の実施をほぼ終える |
| 2021 年 12 月 10 日 | 連邦準備制度理事会(FRB)が通達 SR 21-19 を出す |
| 2025 年 7 月 9 日 | FSB が報告書を出す |
原因として資料が示したこと
FSB の報告書は、アルケゴスの取引相手の銀行が、アルケゴスの集中した持ち高の全体像を十分に把握していなかったと述べています。このため、当初証拠金が足りず、集中度への上乗せや、全体のレバレッジの限度も不十分でした3。
アルケゴスのようなファミリー・オフィスは、おおむね規制の枠の外にあり、会社単位の報告の義務がありませんでした4。合成的なレバレッジ(synthetic leverage)を得るための取引にも、いくつかの法域では報告の義務がありませんでした。ただし、取引相手の銀行には、EU、英国、香港のように報告の義務を負う法域がありました。
アルケゴスの主要な関係者は、取引相手へのうその説明を含む詐欺と相場操縦で有罪になりました5。
FRB は 2021 年 12 月に、通達 SR 21-19 を出しました。通達は、次の 3 点を問題にしています6。
- ファンドとの取引の開始時と定期の信用の見直しで、ファンドの戦略、集中、他の取引相手との関係について、不完全で確かめていない情報を受け入れる慣行。
- リスク管理の部署と事業の部署の連携や統治が弱いこと。
- 証拠金の水準やリスクへの感応度が足りないこと。ファンドが証拠金の請求(マージンコール)に応じないときに、証拠金を増やしたり取引を早く解消したりできない契約の条件。
その後に変わったこと
アルケゴスの債務不履行のあと、各国の当局は、リスク管理の弱さに対する監督の対応で協力し、取引相手の信用リスク管理の国際的な指針の策定にも取り組みました。米国の当局は、レバレッジを提供する側に向けた監督の指針を出し、2021 年 10 月には、証券ベースのスワップの規制の実施をほぼ終えました7。
証拠金の受け払いと資金繰りの関係は、変動証拠金と当初証拠金の資金負担で説明しています。
注
-
FRB の通達 SR 21-19(2021 年 12 月 10 日。2026 年 1 月 9 日に改訂)の冒頭の段落。 ↩
-
FSB「Leverage in Nonbank Financial Intermediation: Final report」(2025 年 7 月 9 日)の 6 ページ(PDF の 10 ページ)。 ↩
-
FSB の報告書の 7 ページ(PDF の 11 ページ)。 ↩
-
FSB の報告書の 7 ページ(PDF の 11 ページ)と脚注 11。報告の義務の有無は、法域ごとの記述です。 ↩
-
FSB の報告書の脚注 10。 ↩
-
SR 21-19 の本文(ファンドの情報、リスク管理と統治、証拠金の条件についての 3 つの懸念)。 ↩
-
FSB の報告書の 7 ページ(PDF の 11 ページ)。 ↩