LIBOR を参照する契約では、受け払いの額が LIBOR の値で決まっていました。契約と受け払いを扱う人、呈示の統制や運営を見る人は、その値がどう決まり、どこで不正が入ったかをここで確かめられます。

何が起きたか

2012 年 6 月 27 日、英国の金融サービス機構(FSA)と米国の商品先物取引委員会(CFTC)は、バークレイズ(Barclays)への処分を発表しました。処分の理由は、LIBOR と EURIBOR の算出に使う金利の呈示での不正操作です。EURIBOR は、ユーロ建ての同種の指標金利です1。FSA はバークレイズ銀行(Barclays Bank PLC)に 5,950 万ポンドの制裁金を課しました2。CFTC はバークレイズ PLC、バークレイズ銀行、バークレイズ・キャピタル(Barclays Capital Inc.)に 2 億ドルの民事制裁金を命じました3。

LIBOR は、デリバティブ取引の受け払いの額を決めるために世界で使われ、貸出などの支払いにも影響していた指標金利です。FSA は、LIBOR のような指標金利の信頼は英国と国際の金融市場にとって根本的に大切だと述べ、バークレイズの行為がその信頼を損なうおそれを指摘しました4。

当局は 2009 年から、複数の金融機関の LIBOR などに関する不正の疑いを調べていました5。バークレイズの後には UBS と RBS が当局と和解し、英国政府は LIBOR の見直しを進めました。

当時の LIBOR の決まり方

LIBOR は、英国銀行協会(BBA)が定義を定めて運営する指標金利でした。定義は、パネル銀行(金利を呈示する銀行)が、ロンドン時間の午前 11 時の直前に、銀行間市場で適度な規模の資金を借りるとしたら、いくらの金利が示されるかを問うものでした6。呈示は、銀行が実際に成立させた取引の平均ではなく、市場で資金が調達できる金利についての銀行自身の判断でした6。

算出は次の流れでした7。

  1. パネル銀行が、通貨と期間ごとに、毎日の金利を呈示しました。
  2. 集計を担う会社が、呈示を高い順に並べ、両端を除いて、残りの平均を取りました。2011 年 2 月までの米ドルのパネルは 16 行で、高い 4 行と低い 4 行を除き、残りの 8 行の平均が公表される LIBOR でした。
  3. LIBOR と各行の呈示は、毎日公表されました。
パネル銀行呈示する集計会社平均を出す参照する取引金利を確定金利を呈示公表
図 1LIBOR の呈示から公表までの流れ(2012 年当時)
図の説明

パネル銀行が通貨と期間ごとの金利を毎日呈示し、集計を担う会社が呈示を並べて両端を除いた平均を計算し、公表された LIBOR が、LIBOR を参照する取引の金利の確定に使われました。FSA と CFTC がバークレイズについて認定した、トレーダーの依頼による呈示や、評判を気にして低くした呈示は、この流れのうち、パネル銀行が金利を呈示する段階にあたります。

LIBOR の使われ方の例が、FSA の最終通知にあります。銀行が 3 か月の米ドルを借りるとき、3 か月物の米ドルの LIBOR に 0.20%(20bp)を足した変動金利を払う、と約束することがありました8。この約束では、利息の期間ごとに LIBOR の値で金利が決まりました(金利の確定)。呈示が動いて LIBOR が動けば、このような取引の受け払いも動きました。FSA は、バークレイズが自社の呈示を通じて、ほかの市場参加者の不利益のうえに利益を得るおそれがあったと述べています9。

想定元本 1 億ドルで、3 か月物の米ドルの LIBOR を 3 か月ごとに受け払いする変動金利の取引を、架空の例で考えます。ある利息の期間の確定時に、LIBOR が 0.50% のときと 0.52% のときを比べます。計算を簡単にするため、3 か月は 1 年の 4 分の 1 とします。

LIBOR 3 か月の利息 変動金利を受け取る側 変動金利を払う側
0.50% 1 億ドル × 0.50% × 1/4 = 125,000 ドル 125,000 ドルを受け取る 125,000 ドルを払う
0.52% 1 億ドル × 0.52% × 1/4 = 130,000 ドル 130,000 ドルを受け取る 130,000 ドルを払う

LIBOR が 0.02% 高いと、変動金利を受け取る側は 5,000 ドル多く受け取り、払う側は 5,000 ドル多く払います。低いときは、向きが逆になります。同じ金利の差が、受け取る側には得、払う側には損になるため、LIBOR を動かす呈示は、取引の当事者の一方に有利で、他方に不利になりえます。ただし、LIBOR は両端の呈示を除いた平均のため、1 行の呈示が両端として除かれたとき、その呈示の水準は平均に入りません。

経緯

LIBOR の不正操作事件は、次の順に進みました。

日付 出来事
2012 年 6 月 27 日 FSA がバークレイズ銀行に 5,950 万ポンド2、CFTC がバークレイズ 3 社に 2 億ドルの制裁金を課した3
2012 年 7 月 2 日 英国の財務大臣が、LIBOR の仕組みと運営の見直しと、刑事罰を含む制裁の見直しを Martin Wheatley(FSA の専務取締役)に委嘱した10
2012 年 9 月 28 日 Wheatley レビューが最終報告書を公表した10
2012 年 10 月 17 日 英国政府が、レビューの提言を全面的に受け入れた10
2012 年 12 月 19 日 UBS に、FSA が 1 億 6,000 万ポンド11、CFTC が 7 億ドルの制裁金を課した12
2013 年 2 月 6 日 RBS に、FSA が 8,750 万ポンド13、CFTC が 3 億 2,500 万ドルの制裁金を課した14
2014 年 2 月 LIBOR の運営が BBA から ICE Benchmark Administration に移った15

制裁金は国や機関ごとに通貨が違うため、合計していません。

当局の文書が示した不正の内容と原因

バークレイズについて、FSA の最終通知と CFTC の命令は、次の 3 つを認定しています。

1 つ目は、デリバティブ取引の損益を目当てにした呈示です。FSA は、バークレイズが 2005 年 1 月から 2008 年 7 月にかけて、金利デリバティブのトレーダーの依頼を考慮して、米ドルの LIBOR と EURIBOR を呈示したことが何度もあったと認定しました16。依頼には、ほかの銀行のトレーダーのためのものもありました。CFTC の命令も、少なくとも 2005 年から 2009 年にかけて、スワップのトレーダーが自分の取引の損益のために呈示の変更を依頼し、呈示する担当者が応じたと認定しています17。どちらの文書も、LIBOR の定義は銀行間の資金の借入れを基にした呈示を求めていて、デリバティブのポジションを考慮することは認めていないとしています18。

2 つ目は、評判を気にして低くした呈示です。金融危機が始まったころから、バークレイズの呈示は、ほかの銀行より高い水準が続きました。FSA は、メディアがバークレイズに資金繰りの問題があるのではないかと疑問を呈し、経営陣がこの報道を気にしたと述べています19。また、2007 年 9 月から 2009 年 5 月にかけて、メディアの否定的な評価を気にした呈示が何度もあったと認定しています。CFTC の命令は、同じ時期に、経営陣の一部の指示でバークレイズが実際より低い米ドルの LIBOR を呈示したと認定しています20。低い呈示の指示の出どころについて、FSA は「不明」としています19。

3 つ目は、管理の不備です。FSA は、バークレイズに LIBOR と EURIBOR の呈示のための固有の仕組みや統制が、2009 年 12 月まで備わっていなかったと認定しました21。投資銀行部門のコンプライアンスの部署には、2007 年から 2008 年に 3 回、LIBOR の問題が上がりましたが、いずれも十分に評価、対処されませんでした22。CFTC の命令も、呈示の過程の統制の不足と、トレーダーの監督の不備が不正を可能にしたと認定しています23。

UBS と RBS についても、FSA は不正の内容を認定しています。UBS については、2005 年 1 月から 2010 年 12 月にかけて、トレーダーが呈示の担当者に調整を繰り返し依頼したと認定しています。ほかのパネル銀行の担当者と共謀して、円の LIBOR の呈示を動かそうとした点も同様です。記録に残る依頼は少なくとも 2,000 件でした25。RBS については、2006 年 10 月から 2010 年 11 月にかけて、円とスイスフランの LIBOR の呈示で、デリバティブのトレーダーのポジションを考慮した、というのが FSA の認定です26。

事件を受けて、Wheatley レビューは、呈示と運営の仕組み、統制、ガバナンスが、近年の市場の変化による圧力に照らして不十分だったと結論づけました24。運営の仕組みの弱点は 3 つです。ガバナンスが呈示する銀行と業界団体に頼りすぎていて、独立性が足りないこと。呈示する銀行の内部の統制を体系的に見る仕組みがないこと。透明性と説明責任が限られていることです24。

その後に変わったこと

2012 年 9 月の Wheatley レビューの最終報告書は、LIBOR を別の指標金利に置き換えるのではなく、全面的に改革するのがよいと結論づけました27。LIBOR は膨大な取引に使われ、置き換えると金融の不安定化や大規模な訴訟のおそれが高い、というのがレビューの判断でした27。

報告書の 10 項目の改革案には、次のものが含まれていました28。

  • 算出と呈示を法律に基づく規制の対象にする。
  • BBA が LIBOR の運営を、入札で選ぶ新しい運営者に移す。
  • 呈示の裏付けに実際の取引のデータを使い、裏付けが足りない通貨と期間の公表は段階的にやめる。
  • 各行の呈示は、3 か月後に公表する。

運営者の交代は、2014 年 2 月に実現しました。入札を経て選ばれた ICE Benchmark Administration が、BBA から LIBOR の運営を引き継ぎました15。

事件の影響について、日本銀行と金融庁の資料は、「2012 年夏」に海外の一部のパネル銀行による不正操作の問題が明らかになり、LIBOR の信頼性を大きく揺るがしたと整理しています。その後、指標金利はできるだけ実際の取引に基づくべきだとして、信頼性を回復する取り組みが進みました29。LIBOR の公表停止の発表は、年表で確かめられます。

取引を後継の金利に移す仕組みは、LIBOR からの移行で扱います。

この記事が書いていないこと

個人の刑事裁判の結果は、この記事では扱いません。

注

  1. FSA「Final Notice」(Barclays Bank Plc、2012 年 6 月 27 日。以下「FSA 最終通知(バークレイズ)」)のパラグラフ 3 と 31。EURIBOR は、ユーロ圏の優良銀行が別の銀行に預金を提示する金利と定義されています。 ↩

  2. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 1 と 2(1 ページ)。制裁金は 5,950 万ポンドで、早期の和解により 30% の割引を受けています(割引がなければ 8,500 万ポンド)。 ↩ ↩2

  3. CFTC の命令(Docket No. 12-25、2012 年 6 月 27 日。以下「CFTC 命令」)の 30 ページ。民事制裁金は 2 億ドルで、対象は 3 社です(1 ページ)。 ↩ ↩2

  4. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 6(2 ページ)と 19(4 ページ)。 ↩

  5. HM Treasury「The Wheatley Review of LIBOR: final report」(2012 年 9 月。以下「Wheatley 最終報告書」)のパラグラフ 1.2(印刷のページ 5、PDF の 9 ページ)。FSA は 2009 年から、複数の国・地域の当局とともに調べていました。 ↩

  6. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 30 と 31(5〜6 ページ)。BBA の定義は 1998 年以来のもので、呈示は各行の取引金利の平均ではなく、銀行間市場で資金が得られる金利についての主観的な判断とされています。 ↩ ↩2

  7. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 34〜37(6〜7 ページ)。集計と計算は BBA に代わって Thomson Reuters が行い、各行の呈示は毎日公表されました。 ↩

  8. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 5(2 ページ)と 29(5 ページ)。LIBOR がデリバティブの支払いを決めるために使われ、ローンや住宅ローンの支払いにも影響したことも、パラグラフ 5 にあります。 ↩

  9. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 11(3 ページ)。 ↩

  10. 英国金融行為監督機構(FCA)の UBS への制裁金の発表(2012 年 12 月 19 日公表。以下「FCA の UBS 発表」)の Notes for editors。7 月 2 日の委嘱、9 月 28 日の最終報告書、10 月 17 日の全面的な受け入れが書かれています。 ↩ ↩2 ↩3

  11. FCA の UBS 発表の冒頭。制裁金は 1 億 6,000 万ポンドです。 ↩

  12. CFTC「Release Number 6472-12」(2012 年 12 月 19 日)。UBS AG と UBS Securities Japan Co., Ltd. に 7 億ドルの民事制裁金を課した命令を伝えています。 ↩

  13. FSA「Final Notice」(The Royal Bank of Scotland plc、2013 年 2 月 6 日。以下「FSA 最終通知(RBS)」)のパラグラフ 1 と 2(1 ページ)。制裁金は 8,750 万ポンドで、30% の割引を受けています(割引がなければ 1 億 2,500 万ポンド)。 ↩

  14. CFTC「Release Number 6510-13」(2013 年 2 月 6 日)。The Royal Bank of Scotland plc と RBS Securities Japan Limited に 3 億 2,500 万ドルの民事制裁金を課した命令を伝えています。 ↩

  15. HM Treasury「First day of business for new LIBOR administrator」(2014 年 2 月)。入札の委員会は 2013 年 7 月 9 日に推薦し、移管は Wheatley レビューの提言の実施とされています。 ↩ ↩2

  16. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 8(2 ページ)。期間は 2005 年 1 月から 2008 年 7 月です。 ↩

  17. CFTC 命令の 2〜3 ページ(少なくとも 2005 年から 2009 年の行為)。スワップのトレーダーの依頼と担当者の対応は 3 ページにあります。 ↩

  18. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 9(2 ページ)。CFTC 命令の 4 ページ。 ↩

  19. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 12〜14(3 ページ)。期間は 2007 年 9 月から 2009 年 5 月で、パラグラフ 14 は低い呈示の指示の出どころを「不明」としています。 ↩ ↩2

  20. CFTC 命令の 3〜4 ページ。期間は 2007 年 8 月下旬から 2009 年初めで、経営陣の一部の指示によるとされています。 ↩

  21. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 15(3 ページ)。2005 年 1 月から 2010 年 6 月に適切なリスク管理の仕組みと統制を欠き、LIBOR と EURIBOR の呈示のための固有の仕組みは 2009 年 12 月まで備わっていませんでした。 ↩

  22. FSA 最終通知(バークレイズ)のパラグラフ 17 と 18(3〜4 ページ)。 ↩

  23. CFTC 命令の 3 ページ。呈示の統制の不足とトレーダーの監督の不備が、不正を可能にしたとされています。 ↩

  24. Wheatley 最終報告書のパラグラフ 2.1 と 3.1。パラグラフ 2.1 は呈示と運営の仕組み、統制、ガバナンスが不十分だったとし、パラグラフ 3.1 は 3 つの弱点(ガバナンスの独立性の不足、呈示する銀行の内部の統制への監督の不足、透明性と説明責任の限定)を挙げています。 ↩ ↩2 ↩3

  25. FCA の UBS 発表。認定の期間は 2005 年 1 月 1 日から 2010 年 12 月 31 日で、トレーダーの依頼、他行や仲介業者との共謀、評判を守るための呈示の指示が挙げられています。記録された不適切な依頼は少なくとも 2,000 件です。 ↩

  26. FSA 最終通知(RBS)のパラグラフ 5 と 6(1〜2 ページ)。2006 年 10 月から 2010 年 11 月の Principle 5 違反で、円とスイスフランの LIBOR の呈示が対象です。 ↩

  27. Wheatley 最終報告書のパラグラフ 1.11 と 1.12(印刷のページ 7、PDF の 11 ページ)。 ↩ ↩2

  28. Wheatley 最終報告書の Box 1.B「A ten-point plan for comprehensive reform of LIBOR」(印刷のページ 8〜9、PDF の 12〜13 ページ)の項目 1、2、6、7。 ↩

  29. 日本銀行金融市場局・金融機構局、金融庁総合政策局・監督局「円LIBOR 移行対応の振り返りと今後の取り組み」(日銀レビュー 2022-J-8、2022 年 5 月)の 1 ページ末尾から 2 ページ冒頭「LIBOR 公表停止の経緯」。「2012 年夏」は資料の表現です。 ↩