銀行勘定の金利リスクの測り方と上限の決め方、金利のヘッジの方針を点検するときに参照される事例です。
何が起きたか
2023 年 3 月 10 日に、カリフォルニア州の金融当局(CDFPI)がシリコンバレー銀行(SVB)を閉鎖し、連邦預金保険公社(FDIC)を管財人に任命しました1。SVB は、持株会社シリコンバレー・バンク・フィナンシャル・グループ(SVBFG)の主な子会社で、連邦準備制度に加盟する州法の銀行でした。SVBFG の総資産は、2022 年 12 月末で約 2,120 億ドルでした2。以下、銀行を SVB、持株会社を含む全体を SVBFG と書きます。
SVB と SVBFG を監督していたのは、連邦準備制度理事会(FRB)と、その下のサンフランシスコ連邦準備銀行です。FRB は、2023 年 4 月 28 日に、自らの監督と規制を含めて破綻の要因を検証した報告書(以下、検証報告書)を公表しました3。
金利リスクの管理の面では、SVBFG が金利の上昇に備えるヘッジを外したことが、不備の一つとして挙げられています4。
背景
預金の急増と長期の証券
SVBFG の顧客は、ベンチャー・キャピタル(VC)の出資を受けたテクノロジーとライフサイエンスの企業に集中していました。2022 年 12 月末の預金の半分以上は、VC の出資を受けた企業の預金でした5。VC の投資が増えた 2021 年と 2022 年の初めに、顧客が受け取った資金が SVBFG に預けられ、預金が増えました。総資産は、2018 年末から 2021 年末までの間に 271% 増え、銀行業全体の増加(29%)を大きく上回りました6。
預金の多くは保険の対象外で、2022 年 12 月末の預金のうち約 94% が対象外でした7。SVBFG は、この預金の大きな部分を、満期までの期間が長く、政府や政府機関が発行または保証する住宅ローン担保証券(agency MBS)などの証券に投資しました。2022 年 12 月末の満期保有目的の証券の平均の期間(デュレーション)は 6.2 年で、大半は満期が 10 年以上の agency MBS でした8。
2022 年 12 月末の貸借対照表の構成は、資産 1,000 億ドルを超える米国の大手の銀行(大手銀行の平均)と大きく違いました。
| 項目(2022 年 12 月末) | SVBFG | 大手銀行の平均 |
|---|---|---|
| 貸出(総資産に対する割合) | 35% | 58% |
| 証券(総資産に対する割合) | 55% | 25% |
| 満期保有目的の証券(証券に対する割合) | 78% | 42% |
| 保険の対象外の預金(預金に対する割合) | 94% | 41% |
| 普通株式等 Tier1 資本比率 | 12% | 10% |
大手銀行の平均は、資産が 1,000 億ドルを超える銀行持株会社と貯蓄貸付組合持株会社の加重平均です(最大手の銀行は除きます)9。
満期保有目的の証券と含み損
満期保有目的の証券(HTM)は、取得時の費用をもとにした償却原価で帳簿に載せるため、市場での値段が変わっても帳簿の価額は変わりません。買った時点より値段が下がった差は含み損で、財務諸表で開示しますが、貸借対照表の資産の価額は変えません。一般に、HTM の一部を売ると、全体を売却可能な区分(AFS)に付け替え、時価で評価する必要があります10。
2022 年に金利が上がり始めると、SVBFG の証券の含み損は、HTM と AFS の両方で急に増えました。証券の多くが HTM にあったため、金利の環境が変わっても、売って持ち高を調整できる余地は限られていました11。
金利リスクを測る 2 つの指標
金利リスクを測る主な指標に、次の 2 つがあります。1 つは、向こう 1 年ほどの純金利収入(NII)がどれだけ変わるかを見る指標です。金利を 100bp、200bp などの幅で動かし、預金金利が市場金利にどれだけ追随するか(預金のベータ)の前提を置いて、NII の変化を見積もります。もう 1 つは、資産と負債のキャッシュフローの現在価値の差である EVE で、資産と負債の期間のずれを、より長い期間の指標として見ます12。
SVBFG の取締役会が定めたリスク選好の枠組みには、NII の指標だけがあり、EVE の指標はありませんでした。NII の指標も、金利が 100bp 下がる 12 か月の変化だけでした。計測は金利曲線の平行移動だけで、平行でない動きは、資産と負債を管理する委員会に報告されていませんでした13。
経緯
2022 年 3 月から 2023 年 4 月までの主な出来事は、図 1 の順に進みました。
図の説明
破綻の前後の主な出来事を古い順に並べた年表です。塗りの丸は閉鎖です。間隔は時間の長さに比例しません。2022 年 7 月と 11 月、2023 年 3 月 12 日の出来事は図に載せず、下の表に書いています。金利への備えの変更が先にあり、預金の流出と閉鎖が数日の間に続いたことを読み取れます。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2022 年 3 月 | 金利の上昇時に NII を守るヘッジの解消を始める14 |
| 2022 年 4 月 | 預金の期間を長くみる前提に変え、モデル上の期間のずれを小さくする15 |
| 2022 年 7 月 | 残りのヘッジを解消する16 |
| 2022 年 11 月 | 監督当局が、金利リスクのシミュレーションは信頼できず改善が要ると指摘する17 |
| 2023 年 3 月 8 日 | 約 210 億ドルの AFS の証券の売却を完了し(税引き後で約 18 億ドルの損失)、22.5 億ドルの増資の予定を発表する18 |
| 2023 年 3 月 9 日 | 預金が 1 日で 400 億ドルを超えて流出する。翌 10 日にさらに 1,000 億ドルを超える流出を見込む19 |
| 2023 年 3 月 10 日 | CDFPI が閉鎖し、FDIC を管財人に任命する20 |
| 2023 年 3 月 12 日 | 預金者を全額保護する措置の承認と、追加の資金供給の発表21 |
| 2023 年 4 月 28 日 | FRB が検証報告書を公表する22 |
原因として報告書が示したこと
SVBFG の破綻は、取締役会と経営層が事業のリスクを管理しなかったことに直接つながります。要因は 1 つではなく、複数の要因が絡み合った結果です23。
金利リスクの管理
SVBFG は、長期の証券と短期の預金の期間のずれ(構造的なミスマッチ)のために、長期の金利リスクの上限を、2017 年から断続的に超えていました24。
2022 年 4 月には、コンサルタントの調査と社内の分析をもとに、預金の期間を長くみる前提に変えました。この変更で、社内のモデルの上では資産と負債の期間のずれが小さくなり、リスクが減ったように見えました。しかし、貸借対照表からリスクは取り除かれていません。報告書は、この前提の根拠が示されていなかったと指摘しています。理由は、直近の預金の急増、過去のデータの不足、金利の急上昇による預金の期間の短縮、顧客層の特殊さの 4 点です。貸借対照表でなく前提を変えて、報告上のリスクを変えたと報告書はみています15。
金利のヘッジの解消
2022 年の初め、金利が急に上がる中で、SVBFG は、金利が下がったときの NII の減少を心配するようになりました。金利曲線の逆転を、景気後退と、その後の金利の低下の兆しとみたためです。そこで、金利が下がる場合の NII を守る方向に貸借対照表を寄せ、上がる場合は守りませんでした25。
外したヘッジは、金利が上がるときの NII を守るためのものでした。同時に、金利が下がるときには NII の伸びを抑える働きもしました。SVBFG は、金利の上昇を、ヘッジの利益を確定する機会とみて、2022 年 3 月にヘッジの解消を始め、7 月に残りのヘッジを解消しました26。
ヘッジを外すと、金利が下がる場合は NII の伸びを妨げるものがなくなり、金利が上がる場合は守りがなくなります。ヘッジの解消は証券の期間を長くし、2022 年を通じて EVE の指標を悪化させました。預金の期間の前提の変更による改善は一時的でした。金利は実際に上がり、無利息の預金が利息の付く預金に移って、負債の期間が短くなり、期間のずれは再び広がりました27。
預金の流出と資金繰り
3 月 8 日に、SVBFG は貸借対照表の再編として、証券の売却の完了と増資の予定を発表しました。同じ日に、シルバーゲート・キャピタルが、傘下のシルバーゲート銀行の清算を発表しており、これも預金者の見方に影響しました。保険の対象外の預金者は、3 月 8 日の発表を、SVBFG が苦境にあるという合図と受け止め、3 月 9 日に預金を引き出し始めました。この預金の取り付けは、ソーシャルメディアと、VC やテクノロジー企業の集中したつながりに煽られ、前例のない速さで起きたとみられます。SVB には、翌 10 日に見込まれた流出に応じるだけの現金や担保がありませんでした28。
流動性の管理にも不備がありました。SVBFG は、強化された健全性基準の対象になった 2022 年 7 月以降、自社の流動性ストレステストに繰り返し不合格でした。経営層は、より保守的でない前提に切り替え、これによってリスクの一部が見えにくくなりました29。
監督と規制
監督当局は、2020 年、2021 年、2022 年の検査で金利リスク管理の不備を見つけましたが、監督上の指摘は 2022 年 11 月まで出していませんでした。評価の引き下げを計画していましたが、確定する前に SVB は破綻しました30。
規制の面では、2019 年に FRB が大手銀行への要件を銀行ごとに調整する見直し(テーラリング)をしたため、SVBFG に適用される資本と流動性の要件が軽くなっていました。報告書の試算では、2019 年より前の要件が適用されていれば、2022 年 12 月に流動性カバレッジ比率の要件に対して、高品質流動資産が約 9% 足りませんでした。また、AFS の含み損を規制上の資本に反映させる要件だったとすれば、規制上の資本は 19 億ドル少なくなっていました。より高い要件が破綻を防いだとは限りませんが、SVBFG の耐性を高めた可能性が高いとされています31。
その後に変わったこと
2023 年 3 月 12 日に、米国の財務長官は、FDIC が SVB とシグネチャー・バンクの破綻処理を、保険の対象内と対象外を問わず、すべての預金者を守る形で進める措置を承認しました。FRB は、国債や政府機関債などを担保に最長 1 年の貸出を行う銀行向けの資金供給プログラム(BTFP。Bank Term Funding Program)を設けました。担保は額面で評価します。財務省は、為替安定化基金から最大 250 億ドルを、このプログラムの裏づけとして用意するとしました32。
検証報告書は、教訓を 4 つの観点(リスクの把握を強める、耐性を高める、監督の行動を変える、プロセスを強める)で整理していますが、完成した提案ではなく、さらに検討に値する考えだと断っています。耐性の観点には、規制上の資本の評価で金利リスクをどう反映させるかを見直す考えが含まれています33。
銀行勘定の金利リスクは、バーゼル規制では、第 1 の柱の資本賦課の対象ではなく、第 2 の柱と第 3 の柱の下で扱われます34。バーゼル規制の中の位置づけは、バーゼル規制とデリバティブで扱います。
注
-
FRB「Review of the Federal Reserve's Supervision and Regulation of Silicon Valley Bank」(外部サイト)(2023 年 4 月)の 24 ページ(PDF の 38 ページ)の「SVB's Failure」。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 2 ページ(PDF の 16 ページ)と 17 ページ(PDF の 31 ページ)の脚注 27。州法の銀行で連邦準備制度の加盟銀行である点も 17 ページ。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の冒頭の書簡(2023 年 4 月 28 日。PDF の 3〜4 ページ)と 5 ページ(PDF の 19 ページ。FRB と地区連邦準備銀行の役割)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)は、このヘッジを金利のヘッジ(interest rate hedges)と書くだけで、金融商品の種類は示していません(PDF の 17、38、77 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 19 ページ(PDF の 33 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 19 ページ(PDF の 33 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 21 ページ(PDF の 35 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 21 ページ(PDF の 35 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 23 ページ(PDF の 37 ページ)の表 1。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 21〜22 ページ(PDF の 35〜36 ページ)と脚注 40。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 22 ページ(PDF の 36 ページ)と図 9。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 61 ページ(PDF の 75 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 62 ページ(PDF の 76 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 63 ページ(PDF の 77 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 3 ページ(PDF の 17 ページ)と 63 ページ(PDF の 77 ページ)。 ↩ ↩2
-
検証報告書(外部サイト)の 64 ページ(PDF の 78 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 6 ページ(PDF の 20 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 23〜24 ページ(PDF の 37〜38 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 24 ページ(PDF の 38 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 24 ページ(PDF の 38 ページ)。 ↩
-
FRB のプレスリリース(外部サイト)(2023 年 3 月 12 日)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の表紙の日付と冒頭の書簡。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 2〜3 ページ(PDF の 16〜17 ページ)と 5 ページ(PDF の 19 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 3 ページ(PDF の 17 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 63 ページ(PDF の 77 ページ)の「Balance Sheet Mismanagement」。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 63〜64 ページ(PDF の 77〜78 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 63〜64 ページ(PDF の 77〜78 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 24 ページ(PDF の 38 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 3 ページ(PDF の 17 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の ii ページ(PDF の 8 ページ)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の iii ページ(PDF の 9 ページ)と 13 ページ(PDF の 27 ページ)。 ↩
-
FRB のプレスリリース(外部サイト)(2023 年 3 月 12 日)。 ↩
-
検証報告書(外部サイト)の 95〜96 ページ(PDF の 109〜110 ページ)。 ↩
-
金融庁「バーゼル規制の概要」(外部サイト)(2026 年 8 月)の 19 ページ「銀行勘定の金利リスク(IRRBB)」。 ↩