ヘッジの設計、限度の運用、証拠金の管理で起きた損失の経過を、リスク管理、内部監査、取引相手の与信の担当者が、自分の業務に引き寄せて読めます。

取り上げる 4 件と選び方

取り上げるのは、次の表の 4 件です。選んだ基準は、読める資料のある事件であることです。資料は、州の監査官や上院の小委員会の報告書、中央銀行の通達、学術論文です。

4 件は、損失の中心が分かれる事件です。メタルゲゼルシャフトはヘッジの設計と資金繰り、オレンジ郡は借入で膨らませた運用、JP モルガンは信用デリバティブの評価と限度、アルケゴスは取引相手との証拠金の管理です。古い順に読めば、損失の中心がどう移ったかをたどれ、気になる業務の事件から読んでもかまいません。

事件 年 損失を出した側 損失の額(資料の値) 中心の取引
メタルゲゼルシャフトの損失 1993 年 ドイツの企業グループの米国子会社 1993 年のデリバティブの損失が 12 億 5,000 万ドルと報告された 石油製品の長期の固定価格の売りと、短期の先物とスワップによるヘッジ
オレンジ郡の損失 1994 年 米国カリフォルニア州の郡の投資プール 16 億 9,000 万ドル 買戻し条件付きの借入と、仕組債の保有
JP モルガンのロンドンの信用デリバティブの損失 2012 年 米国の銀行の投資部門 少なくとも 62 億ドル 信用デリバティブの指数(CDS インデックス)の取引
アルケゴスの債務不履行による銀行の損失 2021 年 取引相手の複数の大手銀行 100 億ドル超(複数の銀行の合計) トータル・リターン・スワップ
1993 年12 月メタルゲゼルシャフトが事実上の破綻の状態になる1994 年12 月 6 日オレンジ郡が連邦破産法第 9 章の保護を申請2012 年5 月 10 日JP モルガンが信用デリバティブの損失 20億ドルを公表(年末に少なくとも 62 億ドル)2021 年3 月 26 日アルケゴスが債務不履行になる
図 14 件の主な日付
図の説明

4 件を発生の古い順に並べた年表です。塗りの丸は、破綻、破産の申請、債務不履行の 3 件で、信用デリバティブの損失の公表だけは強調していません。件の間は何年も空いていますが、図では等しい間隔で並べています。

4 件の要約と各ページへの案内

メタルゲゼルシャフト(1993 年)

メタルゲゼルシャフトは、1993 年 12 月に事実上の破綻の状態になりました。ケルン大学の論文は、1993 年のデリバティブの損失を 12 億 5,000 万ドルと報告しています1。損失の原因は、ヘッジの設計か資金繰りかで、研究者の見方が分かれています。取引の仕組みと見方の違いは、メタルゲゼルシャフトの損失(1993 年)で読めます。

オレンジ郡(1994 年)

米国カリフォルニア州のオレンジ郡の投資プールは、買戻し条件付きの借入で運用資産を基本のポートフォリオの約 2.7 倍の投資額に膨らませ、仕組債を持っていました。1994 年の金利の上昇で、損失は 1995 年 1 月の見直しで 16 億 9,000 万ドルとされ2、郡は 1994 年 12 月 6 日に連邦破産法第 9 章の保護を申請しました3。運用の中身と、州の監査官の報告書が示した原因は、オレンジ郡の損失(1994 年)で読めます。

JP モルガン(2012 年)

JP モルガン・チェースの最高投資責任者(CIO)の部門が運用していた信用デリバティブのポートフォリオは、2012 年に少なくとも 62 億ドルの損失を出しました4。同行は 5 月 10 日に、20 億ドルの損失を公表しています5。上院の調査小委員会は、時価評価、限度の超過、当局への情報の少なさを指摘しています。経過と、小委員会の報告書が取り上げた問題点は、JP モルガンのロンドンの信用デリバティブの損失(2012 年)で読めます。

アルケゴス(2021 年)

アルケゴス・キャピタル・マネジメントは、2021 年 3 月 26 日に債務不履行になり、複数の大手銀行に 100 億ドルを超える損失を出しました6。連邦準備制度理事会は、取引相手の情報、社内の体制、証拠金の条件を点検するよう通達しました。取引の仕組みと、資料が示した原因は、アルケゴスの債務不履行による銀行の損失(2021 年)で読めます。

この記事が書いていないこと

不正取引、販売の問題、ヘッジファンドの破綻、2008 年の危機、指標金利の操作は、この記事では扱いません。

注

  1. Mark Wahrenburg「Hedging Oil Price Risk: Lessons from Metallgesellschaft」(ケルン大学)の 2 ページ("1 Introduction")。12 億 5,000 万ドルは論文が報告した値で、論文は脚注 1 で出どころを MG の特別監査報告書(1995 年)としています。 ↩

  2. カリフォルニア州の監査官の報告書「Orange County: Treasurer's Investment Strategy Was Excessively Risky and Violated the Public Trust」(1995 年 3 月)の PDF の 10〜11 ページ(損失の見直し)と 19 ページ(基本のポートフォリオの 2.7 倍)。 ↩

  3. 同報告書の PDF の 9〜10 ページ。 ↩

  4. 上院の調査小委員会の報告書(S. Hrg. 113-96 の Volume 1 に収録)の 1 ページ(PDF の 170 ページ)。 ↩

  5. 同報告書の 14 ページ(PDF の 183 ページ)。 ↩

  6. 連邦準備制度理事会(FRB)の通達 SR 21-19(2021 年 12 月 10 日。2026 年 1 月 9 日に、評判リスクへの言及を削る改訂)の冒頭の段落。点検を求めた内容は、同通達の本文の 3 つの懸念(ファンドの情報、リスク管理と統治、証拠金の条件)です。 ↩